人工肛門は、1度つけたら一生つけ続けなければならないのか?
人工肛門には一時的なものと永久的なものとがあります。本来の自然肛門を手術によって切除した場合は、残った結腸の断端を腹壁外に引きだし、新しい便の排泄孔(ストーマ)をつくることになります。これは永久的な人工肛門だといえ、元に戻せません。
肛門括約筋温存手術といって自然肛門を残す手術がありますが、その際は、直腸、肛門と上方(口側)の結腸を吻合します。そのとき縫合がうまくいかなかったり、吻合が破れる危険があるときは、その縫合部が完全に治るまで腸内容が吻合部に行かないように一時的に便の通過を回避するよう、その上方で腸を外に出す一時的な人工肛門を作ることがあります。
その後縫合部が完全に治癒したり便の通過に障害がなくなれば、人工肛門は閉じられ、本来の自然肛門から便が排泄することができるようになります。
人工肛門の自然排便法と洗腸法
人工肛門がどこに作られるかによって異なりますが、普通、直腸がんの手術で永久人工肛門になるときは、S状結腸を左下腹部に引きだして作られます。
人工肛門には自然肛門のように括約筋がないので、排便を人為的にコントロールできず、いつ、便が出るかわかりません。また便が出かけても自分の意志で排便を止めることができません。
自然のままで腸の動きに任せるのが自然排便法です。排便がいつあるかわからないので、1日中下着が汚れないように人工肛門に袋(便収納袋=パウチ)をつけておき、排便があればその袋で受けとめてためておきます。
3分の1ぐらいの人は、手術をして6ヵ月ぐらいたつと、便が24時間出るのではなく、1日に1~3回決まった時間、たとえば食後に出るようになります。
残りの3分の2の人やあるいは下痢をしているときは、いつ排便があるかまったく不規則です。あらかじめ人工肛門から微温湯で涜腸をしておくと、腸が空っぽになって急に便が出るという不安や心配がなくなります。
これを洗腸法といい、1回行うと24~36時間は人工肛門からの排便の心配がありません。外に出たり、長時間仕事をする人や場を離れられない人にとっては重要な要素になります。
洗腸には普通小1時間を要し、トイレを占拠しなければならない不便もあります。洗腸を長い間続けてもあまり問題がないようです。乱暴にやると腸に孔を開けてしまうので、慣れるまでは病院に指導を受けながら慎重にやることが大切です。
人工肛門をつけると、生活がどのように制約されるのか
近年、大腸がん・直腸がんの患者は増加傾向にあり、そのため工肛門につける装具も改良が続けられています。たとえば便収納袋(パウチ)を人工肛門の皮膚に貼りつけますが、外れることはまずないので、運動はほとんど妨げられません。
また、入浴するときでも人工肛門に布や特殊な紙を貼って入ると風呂が汚れたり、逆に風呂の水がおなかの中に入るような心配はありません。もちろんパウチをつけたままでお風呂に入れます。
温泉旅行に行くときなども、まったく普通の人と同様に温泉に入れます。タオルをちょっと当てていけば、人工肛門をつけていることなどはわかりません。よい脱臭剤も開発されており、においが漏れることもまずありません。
例えば女性でも人工肛門をつけながら妊娠し、正常に分娩された方もいます。服をきていると外観からではまったくわかりません。人工肛門の方でテレビや舞台で活躍している人も少なくありません。ただ、旅行に出かけるときは、洗腸のための器具セットを持参する必要があります。
人工肛門をつけた場合の生活や食事上の注意
下痢をすると処置が大変なので、下痢をしないように食事に気を配ることは大切です。下痢しやすい食品には、冷たい飲み物、アイスクリーム、天ぷら、から場げ、ラーメン、バター、牛乳、生卵、貝類、柿、梨、柑橘類などがあります。また、排ガスは少ないほうがいいので、これについても食事の内容を工夫することが必要だといえます。
人工肛門の作られた場所や手術の内容が人それぞれに違い、また腸内細菌もそれぞれ個人個人によって違うので、自分に応じた工夫を心がけておく必要があります。
人工肛門のまわりの皮膚がただれる場合
人工肛門(ス卜ーマ)の周囲の皮膚をなるべく清潔に保つことが大切です。また、周囲の皮膚を刺激しないことが大切です。刺激するものとしては便収納袋(パウチ)の接着剤、皮膚保護剤、排泄物等があります。
排泄物が皮膚につかないように、皮膚保護剤とパウチで完全なシーリング(防ぎ)が必要です。アレルギーなど個人差があるので、自分に適したパウチを選んで使うことが大切です。
いったん皮膚に発赤、ただれ、潰瘍、色素沈着などが起これば、医師に相談しその程度に応じて装着方法の改善、装着器具の変更が必要です。
処置の方法や器具の選択などは、病院のストーマ外来を訪ねてET(エンテロストミー・セラピスト)看護婦に相談するか、皮膚科の医師の診察を受けましょう。大きい病院にはストーマ外来か担当看護婦がいます。
人工肛門の取り扱いなどを専門的に指導するET看護士とは
2000年代くらいから、人工肛門などをつけている方に対していろいろ指導、アドバイスを専門的に行う看護士が養成されるようになりました。
アメリカでそのような看護士養成学校が作られ、日本からも毎年、何人かが勉強に行っていましたが、最近、日本にも同様の教育システムが作られるようになりました。それらを学んだ看護士がETと呼ばれます。
大きな病院ではストーマ外来を設けて、ET看護士が人工肛門などストーマの管理、手入れの仕方だけでなく、ストーマ患者のさまざまな悩みの相談に乗っています。
今、日本ではET資格をもつ看護士は200人あまりいます。悩みごとの相談は、医師でもいいですが、ET看護婦のほうが最近は経験も増え、丁寧に指導してくれる可能性は高いといえます。
人工肛門保持者が受けられる福祉サービス
国の「身体障害者福祉法」により、人工肛門保持者にも身体障害者手帳が交付されます。それによって福祉サービスを受けることができます。
程度によりますが、普通、住民税・所得税の控除、運賃の割引、ストーマ用装具の支給、障害厚生年金の支給(3級以上)、医療費の控除などが受けられます。
手続きとしては福祉事務所の身体障害者福祉課に行って相談し、申請書類をもらって病院に行きます。手術後すぐ申請できる人と、術後6ヵ月たってから申請できる人(4級該当者)があります。ただし、ストーマ用装具の支給はいつでも申請が受理されます。
普通、直腸がんの手術で人工肛門になった場合は4級ですが、同じ手術をしても人工肛門が変形または人工肛門の周囲がかなりただれ、また排尿障害が著しい場合は3級に相当します。3級だと障害厚生年金がもらえます。
また、6O歳以上で厚生年金の受給を65歳まで延期している間は、4級でも障害厚生年金がもらえる場合もあるようなので、福祉事務所に相談してみてましょう。
以上、人工肛門に関するお話でした。