大腸がんは、手術が可能と診断されれば手術が第一に選択されます。しかし手術した部分の付近にがん細胞が残っていて、それがしだいに大きくなり再び腫瘍化してしまうことを局所再発といいます。
このほかに、手術の前(あるいは後)にがん細胞が血管やリンパ管の中に入り込んで、全身の広い部分にがん細胞が達しある部分で定着してがん腫瘍化するのが遠隔転移です。とくに大腸がんは肝臓への転移が多く、ついで肺への転移が多いというデータがあります。
がんが大腸内の表面にある粘膜に留まっていれば、手術によってほぼ完全に切除ができ、再発や転移を起こすことは少ないといえますがゼロではありません。いっぽうで進行がんは再発・転移する可能性が高いのは事実ですが必ずしもそれらが起きるとは限りません。
再発や転移はどのくらいの確率で起きるのか
大腸がんは粘膜の上皮から発生します。そのまま増悪して深く粘膜下層に進めば、早期がんであってもリンパ節や肝臓、肺に転移が起きる確率が高くなります。さらに腸壁の筋層、奬膜へと進めば、その頻度はさらに高くなります。
具体的な再発率はデュークスAで5パーセント、デュークスBで10パーセント、デュークスCで25~35パーセントくらいです。
【デュークス分類】
・デュークスA=がんが大腸壁の固有筋層の中にとどまっている。
・デュークスB=がんが大腸壁を越えて外に出しているがリンパ節には転移していない。
・デュークスCは、がんが大腸壁を越えてリンパ節に転移している。
最近はがんが早期で発見されることも多くなり、手術も(体へのダメージはあるものの)広い範囲での切除手術が行われるようになって、局所へ再発することは少なくなりました。以前は直腸がんの30~40パーセントに見られましたが、現在は5パーセント程度になっています。
いっぽう、転移を防ぐことはとても難しく最も頻度の高いものは肝臓への転移であり、ついで肺転移、腹膜転移(腹膜播種)です。転移の予防は大腸がんの治療においてとても重要な問題だといえます。
再発する人の90パーセントは、術後およそ2~3年以内に見られ、逆にその間に再発しなければ再発する確率は低下します肺転移は術後5~10年目に見られることがあり「これで大丈夫」と安心することができません。
再発や転移があっても早期に発見できれば再手術によって根治を目指した治療は可能だといえます。そのため手術後の定期的な検査が重要です。はじめは3ヵ月ごと、1年たてば半年に1回ぐらいはなんの自覚症状がなくても手術を受けた病院に通い、再発・転移の有無について検査をすることには意味があります。
術後3~4年は定期的に病院に通い、血液検査(腫瘍マーカー測定)、超音波検査、胸部X線撮影などの診察を受けることが大切です。
大腸がんはどのようにして転移するのか
転移するメカニズムは大きく3つあります。
・がん細胞が静脈血流にのって他の臓器に転移する「血行性転移」。
・がん細胞がリンパ流にのってリンパ節または他の臓器に転移する「リンパ性転移」。
・がん細胞が消化管の壁から外側に浸潤(しんじゅん。深く進行すること)していって腹腔内に脱落し、周囲の臓器や組織に転移する「腹腔内転移」。
<血行性転移の場合>
血行性転移の場合、がん細胞は
1.がん原発巣から血管の壁に浸潤して血管内に入る
2.血流にのって転移先の臓器の血管壁に接着する
3.再度血管壁を通過し、転移臓器に浸潤する
4.転移先の臓器で増殖する
といった経過で転移します。大腸の静脈血流は上腸間膜静脈または下腸間膜静脈に集まり、いずれも門脈を経由して肝臓に向かいます。このような解剖学的な理由で大腸がんの血行性転移は肝臓がもっとも多く、ついで肺、脳が多いのです。
<リンパ性転移の場合>
リンパ性転移では、リンパ管内に浸潤したがん細胞がリンパ流にのってリンパ節に転移を生じます。リンパ流のほとんどは大腸がんの栄養血管となる動脈と並行する静脈の流れの逆方向に向かってすすんでおり、リンパ節転移も大腸がん原発巣から、この方向に従って生じます。
<腹腔内転移>
腹腔内転移では、大腸壁の最外層である奬膜にがん細胞が浸潤し、表面にあらわれて落ち、腹腔内に播種(ばらまき)を生じたり、骨盤腔、ダグラス窩に腫瘍化します。また膀胱、卵巣などの骨盤内臓器にも転移することがあります。
肝臓転移
直径が1センチ大になると超音波検査で発見されます。ほとんど自覚症状はありません。血液検査をすれば腫瘍マーカーであるCEAやCa19/9の上昇が見られます。肝臓の転移巣が大きくなり、肝臓全体の70~80パーセントを占める程度にならないと症状が出ないので、進行するまで感覚としては分かりません。
そのくらいまで進むと食欲不振、右上腹部圧迫感、鈍痛、さらに黄疸が出たり腹水がたまるようになります。これが肝不全です。大腸がんの術後3~4年たってから現れることがあります。
肺転移
肝臓と同じく大腸の手術時に転移が見られることがありますが、術後、数年から約10年後に突如現れて、胸部X線撮影で丸い影が映ることがあります。
その後、丸い影が大きくなり、数も増え、せきや血痰が現れ、さらに転移が大きくなると呼吸が困難となり、やがて呼吸不全で死に至ってしまいます。
再発・転移をしやすい高リスクの要素
大腸がん術後の再発や転移を予防するためには、再発・転移を起こす高いリスクをもった人を選び、予想される再発に対応した治療を行うのがもっとも効果的であり、これが5年生存率の向上にもつながる、とされています。
肝臓転移のリスクとしては、大腸がんの組織的検査で、がんの腸壁深達度が奬膜下以上であったり、がんの静脈への侵入が強く認められるケースでは肝臓への転移が多いことが明らかになっています。
組織的検査以外では、血清中の腫瘍マーカーCEA値が高いものでは、遠隔転移を生じるケースが多いとされています。
また、最近では生物学的・遺伝子学的研究が進み、再発・転移の高リスク群をある程度判定できるようになってきましたが、大腸がん全般で一つの因子で転移再発の決定的な指標となりうるものは、現在では認められていません。したがって、前記の因子を組みあわせて判断し適した予防的治療(抗がん剤治療など)が行われます。
※大腸がんの局所再発の種類
・吻合部再発
腫瘍の切除後、腸管と腸管をつないだところにがん細胞が残っていて再発したもので、大きくなって管腔が狭くなり、様々な症状が出ることになります。再切除する必要がありますが周辺に強く広がってしまうと、切除不能となります。
・骨盤内再発
通常、根治手術の場合、とくに直腸がんの場合に、元の肛門部に違和感や痛みがあると、しだいに痛みが強く長く続くようになり、足の先に電気が走るように発作的または一定の間隔で激痛が起こることがあります。これは神経が圧迫されたり侵されるために起こります。また、血管やリンパ管が圧迫されてリンパ液や血液の流れがさえぎられ、足がむくむようになります。
・がん性腹膜炎
がん細胞が腹腔内に広がり、腫瘍を作り、腸に癒着、圧迫して腸内容の通過をさまたげ、腸閉塞を起こします。またがん性の腹水がたまり、腹部が膨満したりします。
以上、大腸がんの再発と転移についての解説でした。
大腸がんは進行が遅いタイプのがんですが、そのぶん治療が長期化することもあります。
手術をして治療が終わるわけではないですし、抗がん剤治療は「がんを治す治療」ではありません。病院での治療だけではなく、日常生活においてどのようなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。