がんに対してできることは増えていますが、現代医療で「こうすればがんを治せる」という治療法はまだありません。そのため進行したがん、末期のがんの場合は死を迎えなければならない事態になります。
がんが進行すると最後はどうなるのか?どんな症状が出てくるのか?という点は患者さんにとっても家族にとっても、知っておきたい情報の1つだといえます。
がんで命を落とす場合、いくつかの特有のパターンがあります。がん細胞やがん腫瘍そのものが直接、中枢神経機能を停止させたり、心臓機能を停止させたり、呼吸機能を停止させたりするわけではありません。
がんという病気においては、「悪液質(あくえきしつ)」といわれている極端な身体の消耗状態に陥るために死亡することが多いといえますが、がんの部位や体調、年齢などによって様々です。具体的には次のような症状により命を落とします。
1.慢性の栄養障害による死亡(これが悪液質)
2.がんの進行による血液、リンパ液の還流障害・排泄障害に伴う機能不全。
3.体力の消耗に伴う感染症による死亡。
4.がん腫瘍の自壊(自己融解)などによる出血制御不能。
5.がん以外に患者さんが元々持っている疾患(いわゆる「持病」) の悪化による死亡。
などの原因があります。ほとんどのがん患者さんには、これらの死亡原因が複雑に絡み合っています。
これらの複雑な症状、進行状況に対して、栄養改善や痛みの緩和、予防措置がたとえ死期が迫っていても積極的に行われます。
また、がんによる死は突然訪れるのではなく、現代のがん医療においては、予め死期をある程度予測することができます。脳転移や脳腫瘍の場合を除いて、がん患者さんの意識が消失することは稀ですが、がんに伴う特有の苦痛や不愉快な症状は色々なケアによって緩和されます。そのため、数十年前のようにひどく苦しむという事態に陥ることは少なくなっています。
心筋梗塞など突発的に症状がでて命を落とす病気と違い、がんは時間をかけて進行するため、最期を迎えるある程度の時間的な猶予があります。これががんによる死の大きな特徴だといえます。
そのような状況になると、医師と家族、ご本人が話し合い、どのような最後を迎えるか共有しておくことが大切です。医療者から積極的に選択肢を患者さんへ提示する場合もありますが、本来は患者サイドが希望を医療者へ申し出て、その希望の実現が可能かどうかを、医療者が具体的に検討するという手順が自然の流れであるといえます。
死に関してあらかじめ何かを決めるというのは日本人の倫理観としては難しいことではあります。しかし、死を迎えるに際して、いくつかのことをあらかじめ具体的に患者さん(家族)と医療機関との間で決めておくのが、患者さん(家族)にとっても、医療機関にとっても負担なく後から生じるトラブルやストレスを防止することになります。
具体的にはどこで死を迎えるのかが重要になります。通常は
1.一般病棟
2.緩和病棟(ホスピス)
3.自宅
4.介護施設、のうちのどこかで死を迎えることになります。
このうち特に、医療施設以外で死を迎えるには、定期的な医師の往診が必要となります。
また、死亡を確認する医師も予め決定しておく必要があります。医療機関に知られず、自宅でひっそりと亡くなった場合はスムーズに死亡診断書がとれません。病気によって亡くなったのか、それとも別の要因で亡くなったのかを確定することが難しいからです。
最後は家族に看取られて自然に逝きたいという「尊厳死」を希望する患者さんも少なくないのですが、その内容次第では、殺人罪あるいは自殺ほう助罪に抵触する問題を含んでいるのです。
がん治療担当医、かかりつけの家庭医、あるいは在宅医療専門医、患者さん(家族)が緊密な連携をとらなければ、医療機関外(特に自宅)で納得できる死を迎えるのは難しいといえます。
また、臨終に際してどんな措置を行うかも事前に具体的に決めておかなければなりません。呼吸が止まった時、心臓が止まった時、痙攣が発生した時、昏睡に陥った時など、通常に予測される臨死の諸事態に患者さん(家族)はどうしたいのか。
担当医に希望をあらかじめ伝えておく必要があります。特にこれらの点について医師としっかり話し合うことが大切です。
このように、末期になれば死に対する準備も必要ですが、どこで「治療を止める」と判断をするのも難しいことです。抗がん剤をしないのか続けるのか、などの判断はとても重要な要素です。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。