がん専門のアドバイザー、本村です。
この記事では「乳がんと告知され、右も左も分からないので基本的な情報、知識が得られる本を探している」という方に、私がおすすめしたい本を厳選して7冊紹介しています。
乳がんになったら最初に読むべき本、といえますし、「もう治療をはじめているが、きちんと体系立てた知識が必要かも」と考えている人にも読んでもらいたいと思います。
書店のがんコーナーにいくと、数十冊~大きな書店では100冊を超える本が並んでいますよね。amazonで「乳がん」で検索すると1,000冊以上がヒットします。
「しっかり基礎から学びたいけど、何から手に取って読めばいいかよく分からない・・・」と困ってしまう人がほとんどだと思います。
似たような内容の本をたくさん買ってもお金と時間の無駄になりますし、正直「何でこんな本が流通しているんだろう?」と思うような質の悪い宣伝本(民間療法を実施している医師が、宣伝のために書く本)もあります。
「選んだ本に書いてある知識をもとに、今後の判断をする」という形になる以上、どんな本を選ぶかはとても重要です。
できるだけ遠回りをしないで短期間で基本的な知識を身につけることがポイントです。
この記事を読んでいただくことで「何から順に知ればよいか」「それを知るうえで適切な本はどれか」ということが分かります。5分ほどで読める内容ですので、最後まで目を通していただければと思います。
1.乳がんの標準治療に関するおすすめ本
まず、医療に関しては「標準治療(保険内治療)」と「民間療法(保険外治療・自由診療)」に大別されます。
両者の中間にはグレーなものもありますが、分かりやすくいうと、がんセンターや大学病院、総合病院などで行われるものが標準治療。個人のクリニックなどで受ける保険の効かない自由診療のものが民間療法、となります。
最初に学ぶべき内容は標準治療についてです。
「私は病院には行かない」と決めている人を除けば、標準治療について何らかの決断をすることになるからです。
標準治療=スタンダードであり、どの病院に行っても基準となる治療法です。
乳がんの標準治療は厚生労働省が管轄し、日本乳癌学会が「乳癌診療ガイドライン」として数年に一回改定を加えて刊行しています。
現在の乳癌診療ガイドラインは2018年バージョンです。

乳癌診療ガイドライン2018
このガイドラインを元に、全国の病院では乳がんの検査、診療、治療を行います。
ガイドラインによって全国どこの病院に行っても均一した治療が受けられることになります。ですので東京で提案される治療も、沖縄や北海道で提案される治療も基本的には同じです。
つまり、この乳癌診療ガイドラインを読めば、「どんな検査がされ、どんな結果によって、どんな治療が提案されるのか?それによる効果や有害事象(後遺症や副作用など)は何か?」などが明確に分かります。
勉強(病院へ行く前の予習、復習)にはうってつけなのですが、ガイドラインは医療関係者向けに書かれているので、専門用語や難しい言い回しが多く、一般市民には非常に読みづらいものになっています。
そこでおすすめしたいのがこちらの本です。
国立がん研究センターの乳がんの本

国立がん研究センターの乳がんの本
東京にある国立がん研究センターは、日本のがん治療における基幹病院です。乳がんの治療実績も有数の病院になります。
ここの乳腺外科科長と、腫瘍内科科長が監修した本で治療全般、治療後の生活、再発、転移時の治療、心のケアなど全体的に網羅されています。
乳がんの【治療】する内容
・乳がんのステージのみかた
・治療のガイドライン
・温存手術と全摘手術について
・リンパ節郭清について
・薬物療法(ホルモン、抗がん剤、分子標的薬)について
・遺伝性乳がんについて
などについて解説されています。
図や写真などもバランスよく使われていて読みやすいですし、「コラム」や「Q&A」も豊富に掲載されています。
例えばコラムでは「テレビ情報だけで治療を決めたAさんの話」「患者会について」など。Q&Aには「夫や子供などの家族とはどのように向き合えばよいでしょうか?」など、現実の生活で関りの深い題材が扱われています。
病院で行う治療や、乳がんの基礎基本を学ぶならこの一冊があればじゅうぶんです。刊行が2018年6月と新しく出版された本なのもおすすめポイントになります。情報としては最新です。
2.乳がん再建手術に関するおすすめ本
乳がんの手術は、大きく分類して「乳房温存手術(部分切除)」と「乳房切除術(全摘出)」があります。
後者の切除術で全摘をした場合、乳房全体が失われることになります。心理的にも肉体的にもその欠損を少しでも補うために行われるのが、乳房の再建手術です。
これは主に形成外科で行われる手術で、いくつかの手段があります。手術のタイミングとして「切除と同時に再建を行う一次再建、手術後しばらくしてから再建する二次再建」があり、手術の手法としては人工物を用いるか、自分の組織を用いるか、などの選択肢があります。
初回の治療として医師から手術を提案されている、もしくは提案されるだろう早期がんであれば、再建のこともある程度頭に入れておく必要があります。
もちろん、医師から説明はありますが、時間が限られていますので全て網羅して説明してくれるとは限りません。医師と話すうえでの予備知識として再建とはどういったものか、把握しておくことが納得いく選択に繋がります。
そこでおすすめしたいのがこちらの本です。
これからの乳房再建BOOK

これからの乳房再建BOOK
この本の著者は、乳房再建の専門病院「ブレストサージャリークリニック」の院長で、これまで3,000例以上の乳房再建を行ってきた岩平佳子医師です。
外科医向けの乳房再建の本なども執筆している再建の第一人者のひとりです。
この本では再建の手段や料金などに関する情報はもちろん、「他の病院で受けた自家組織再建の修正を、別の病院でどのように進めればいいか?」など、再建後に直面するかもしれない厄介な問題についても解説されています。
再建を受けられた方の乳房の写真も多数掲載されているので、手術をすればどのような傷ができ、どのような経過を辿るのか?などもよく分かります。
「1.国立がん研究センターの乳がんの本」にも手術や再建についても基礎は触れられていますが、「乳房再建についてもっと詳しく知っておきたい」という人にはこの本がおすすめです。
3.乳がんの治療を受ける病院を選ぶためのおすすめ本
次は病院選びの参考となる本です。
乳がんの告知を受けた病院でそのまま治療を開始するのもよいですが、やはり病院によって診療実績、治療実績は異なります。
手術や再建などは経験値と技術力はおよそ比例する傾向にあるので「実績豊富で信頼できる医師に任せたい」と願うのは当然のことです。
「評判のよい病院」にも「評判のよくない医師」はいますし、技術力が高くてもコミュニケーション力が低くて合わない、という医師もいますのでデータだけで病院や医師を選ぶことはできませんが、実績は客観的に把握することができます。
そこでおすすめしたいのがこちらの本です。
5大がん(乳がん含む)病院の実力2018総合編

2018総合編 病院の実力
私はサポート活動の中で必要なので、この手の本を何冊か、毎年購入します。他にも手術数などを掲載したムック本はいくつかありますが、乳がんに関してはこの本のデータが役に立ちます。
この本に記載されているデータは以下のとおりです。
【乳がん手術件数】
・うち同時再建手術件数
・温存率(%)
【センチネルリンパ節生検件数】
【術前化学療法件数】
【再発リスク遺伝子検査の実施可否】
【セカンドオピニオンの受診件数】
【体制】
・放射線治療が自施設で可能か。提携先で可能か
・形成外科の協力が得られるか
・乳腺専門医が常勤しているか
【遺伝性乳がんの診療体制】
・遺伝カウンセリング体制が院内にあるか
・BRCA1、2などの遺伝子検査が可能か
【遺伝子検査で陽性となった場合の体制】
・発症前の両側乳房の予防切除が可能か
・未発症のもう片側の乳房切除が可能か
上記のデータが、都道府県別、病院ごとに掲載されています。
ご自身が住まわれている地域において、どの病院が一番実績があるのか?あるいは受診を予定している病院でできることや体制はどの程度か?を知るうえで重要なデータになります。
4.薬物療法(ホルモン剤、抗がん剤、分子標的薬)に関するおすすめ本
続いては、薬に関する本です。
乳がんの治療においては、「手術をして終わり」となるケースのほうが稀です。初期治療の手術が成功に終わっても、予防のためのホルモン療法や抗がん剤治療を提案されることのほうが多いです。
また、手術が適応とならない進行した乳がんや、再発・転移のある乳がんに対しては薬物療法一択となります。
患者として気になるのは
・自分にはどんな薬が使われるのか
・医師から提案されている薬はどんな薬か
・具体的にどのくらいの効果があり、どんな副作用がどの程度起きるのか
という点だと思います。
ところが、多くの場合、医師から説明されるのは「この薬を使います。だいたいこんな副作用があります」という概要だけです。
「この薬は臨床試験でこのくらいの奏功があった」「副作用は脱毛が何パーセントの確率で起きて、食欲不振がこのくらいで・・・」など詳細には説明されません。
病院で渡される患者向けのハンドブックでも、概要だけに留まることが多いです。
もちろん、ネットで論文や臨床試験の結果報告などを見れば数字は分かるのですが、なかなか専門的で難易度が高いです。
「それでも、もっと具体的に知りたい」と思う人におすすめなのはこの本です。
がん化学療法レジメンハンドブック(乳がんで使われる薬も含んでいます)

がん化学療法レジメンハンドブック
薬物療法に特化した一般向けの本はないので、これは医療関係者向けの専門書になります。
「レジメン」とは聞きなれない言葉ですが、薬の組み合わせや治療計画のことを指します。
これは2017年に刊行されたもので、この版が最新です。乳がんで使われる薬はほぼ網羅されています。
乳がんの項目では、かなり多くの療法が掲載されています。
・CMF療法
・AC療法
・EC療法
・FEC療法
・TC療法
・トラスツズマブ(ハーセプチン)療法
などなど。
提案されるであろうレジメンは全て掲載されているといってよいです。
それぞれの療法において「投与期間や投与量はどのくらいか」「奏効率や生存期間の中央値はどのくらいか」「副作用は何がどのくらいの確率で起きるか」などが表になって掲載されているので、専門書とはいえ、知りたいことは分かる内容になっています。
こういう本に目を通したい、という人はある程度の基本知識があると思いますし、じゅうぶん理解できるのではないかと思います。
この手の医療関係者向けの本はいくつかあり、以下の本も購入できますが、これは文字の羅列で読みにくいので一般市民は避けておいたほうがよいです。

エビデンスに基づいた癌化学療法ハンドブック2018
看護師さんならこれでもよいかもしれませんが、患者として目を通すなら「がん化学療法レジメンハンドブック」のほうがよいですね。
※こういう専門書まで目を通している患者、というのは医師に好かれない傾向があります。「黙って医師のいうことを聞いておけばよい」と考えている医師は多いので、治療効果の数字まで医師の前で挙げてしまうと面倒な患者だと思われるリスクがあります。あくまで自分の中の知識、に留めるほうがよいです。
5.乳がん治療の内情がリアルに感じられる本
標準治療を行う、病院の医師の診断を受ける、ということは、がん治療において「表の面」といえるでしょう。
おすすめ本として上記に挙げた「1~4」は、いわば教科書です。
教科書的な勉強は必要ですが、もう少し裏の事情・・・例えば「医者は何を考えて仕事をしているのか」「どういう立場で何を優先して仕事をしているのか」などについても知っておくと全体像が分かってきます。
こうした知識は、医師と話したり、治療の提案を受けたときにどう判断するかを決めたりするときに役に立ちます。
「抗がん剤で殺される」などの過激な医療否定本も多く、偏った考え=偏見を持つのは良くないですが、最初に読んでみる本としてはこちらがおすすめです。
女性のがんの本当の話

女性のがんの本当の話
医師が医療の内情に触れた本ですが、それほど過激な告発本、という感じではなく、マイルドに「こんなこともあるから気を付けてね」という感じの内容です。
とはいえ、例えば2章は「がんになっても選んではいけない病院、医者」という章立てになっていますし、「医師の診断は100パーセント正しいわけではない」「必要のない手術をされた患者さんの話」なども出てきます。
がん治療の内情が垣間見れますし、医者には医者の立場や独特な考え方がある、と知るうえではこの本は役に立つと思います。
6.がんの民間療法に関するおすすめ本
冒頭「1」のところで触れたとおり、がん治療と呼ばれるものには「民間療法(保険外治療・自由診療)」もあります。
このジャンルに関する情報は、ほぼ無法地帯となっていて、がん患者さんを混乱させる原因です。
免疫療法の本、遺伝子療法の本、ビタミンC投与、フコイダンやアガリクスなどなど。民間療法を実施しているクリニックや業者による薬事法ギリギリの宣伝本がとても多いです。
この分野の情報をどう処理すべきか、は私のメール講座(リンク)にも記載していますが、なかなか難易度が高いです。
もし読んでみるなら、1~2冊を読んでそれを信じ込むのではなく、幅広くたくさんの本を読んでみることをおすすめします。
もちろん、標準治療の本も併せて、です。そうすることで偏った情報じゃないか?信ぴょう性が薄いのではないか?と気づくことができるようになります。
さて、そんな中で民間療法、保険外の治療や取り組みに関する本でおすすめしたいのはこの本です。
がんが自然に治る生き方

がんが自然に治る生き方
著者はアメリカ人女医のケリーターナー氏で、ハーバード大学、カリフォルニア大学の博士号を持つ研究者で、標準治療以外の治療で寛解や治癒に至った例を1,000例以上取材されています。
その結果をまとめたのがこの「がんが自然に治る生き方」です。
本の内容については、冒頭の「はじめに」が全てを物語っているといえます。
「はじめに」の副題は【「逸脱した事例」がわたしたちの教えてくれること】です。
何から逸脱しているかといえば、一般常識としてのがん治療、標準治療からの逸脱、という意味ですね。
標準治療が全てではなく、これだけが正解ではない、ということを事例を交えて教えてくれる本でありつつ、何か特定の療法を宣伝する内容でないことに好感を持てます。
私がサポートをするうえでも参考になった書籍の1つですが、特徴としては「あくまで収集した事例を紹介しているもの」という点です。
何がどうなってそうなったか、までは解説していない(というかできない)ので、こういう事例があった、ということを知るだけですが、それでも「病院で受けることが、がん闘病の全てではない」ということが分かります。
最初に触れる民間療法に関する本、としてはこれがよいと思います。
7.乳がん患者さんのメンタルの支えになるおすすめ本
私はサポートを受けている人にもメンタル的な本をおすすめしています。
会員さんは進行した症例の人が多いので、あえて内容重い内容のものにしていますが、もう少しライトな読み物としてこちらの本がよいと思います。
くよくよしない力

くよくよしない力
フジコさんは聴覚を失ったピアニスト、として有名な方です。
「くよくよしない力」には難しいことは書かれていません。シンプルだけど大切なこと、足元を見つめさせてくれる本だと思います。
冒頭の一文だけ、紹介したいと思います。
人生の中で、先が見えない苦しみや悲しみを抱いているとき、「もう私はだめ。おしまい」「生きていてもしょうがない」と思うこともあるでしょう。「自分の苦しみなんか誰もわかってくれない」「私だけがなぜこんな目にあるのだろう」と、運命を呪う人もいるでしょう。
そんなとき・・・
とこの本ははじまります。
乳がんと診断され、不安と恐怖でいっぱいの人には心に響く本だと思います。ありきたりな自己啓発ではなく「私の心を癒し、救ってくれたのは音楽と猫だった」など、親しみやすく、リアリティのある話をしてくれる本です。
番外編 読まなくてもよい本
ここまで「おすすめの本」を7冊挙げました。番外編として「今読まなくてもよい本」について触れたいと思います。
1.闘病記や個人のエッセイ本
闘病記というのは、患者さん個人の出来事や心情を綴った本になります。もちろん、励みになることや参考になることも多いのですが、乳がんと闘うための基礎作りの段階では注意が必要です。
乳がんには様々な「タイプ」があります。そして遺伝性の乳がんや若年性の乳がんもあるなど、世代別や個々の特徴が多いがんです。
例えば、60歳で早期の乳がんと診断された人は、(若年性の乳がんで進行が早い)小林麻央さんの闘病記録は合わないのです。
もちろん、彼女と私の状況は違う、ということを分かったうえで読むのはよいですが、右も左も分からないうちに読んでしまうと「このくらいの早さで進行してしまうのか」「早く手術をしなければ」と判断を左右されてしまう情報を入れてしまうことになります。
ですので、闘病記録を書いた書籍やブログなどに目を通す場合は、自分自身のがんの特徴やタイプ、進行の状況などを把握できたあとに「自分と似たタイプ、状況の人」の経験を学ぶ、という方針のほうがよいでしょう。
2.その他民間療法や食事に関する本
民間療法に属するもので、最も刊行数の多いものが食事療法に関する本です。
数十年前は「ゲルソン療法」の本くらいしかなかったのですが、近年では玄米菜食を薦める本はもちろん「断食しましょう」「玄米菜食はダメです。肉を食べましょう」「糖質を極端に制限しましょう」という異なったアプローチの本が増えています。
あっちの本とこっちの本の内容が全然違う、ということが起きています。
どんな食事を摂るのか、を決めるなら、何冊か食事の本を読んだうえで、医学的な論文や研究、日本だけでなくアメリカなどで発表されている食事に関する情報なども踏まえて決めるのがよいですが、「最初に読んだ一冊」の内容をそのまま実践してしまいがち、です。
この類の本については、情報を整理するのに時間がかかりますし、治療を受けるうえでは判断を迷わせたり混乱に拍車をかけたりすることに繋がります。
なので基礎知識を得る段階では優先順位を下げましょう。色んな状況が見えてきてから入り込む領域、という認識のほうがよいです。
なお、食事についてどう考え、どう整理すべきかは、私の無料ガイドブックやメール講座でも詳しくお伝えしていますので、興味のある方は参考にしていただければと思います。