がん治療中に、「なんだか体がだるい」「何もする気が起きない」「ちょっと動いただけなのにクタクタになる」といった経験はありませんか?
これは、「がん性倦怠感」と呼ばれる、がん患者さんが抱える最もつらい症状の一つです。
この倦怠感は、単なる疲れとは異なり、休んでもなかなか回復しないのが特徴です。日常生活に大きな影響を及ぼし、治療への意欲も低下させてしまうことがあります。しかし、諦める必要はありません。
この記事では、がん性倦怠感がなぜ起こるのか、そして、そのつらい「だるさ」を少しでも和らげ、日常生活をより快適に過ごすための「疲労軽減のコツ」について詳しくご紹介します。ご自身や大切な方のつらい倦怠感を乗り切るヒントとして、ぜひ参考にしてください。
なぜ起こる?がん性倦怠感の主な原因
がん性倦怠感は、一つの原因だけでなく、様々な要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。その主な原因を知ることで、ご自身の症状への理解が深まり、適切な対処法を見つける第一歩となります。
主な原因
- がん自体による影響: がん細胞が産生する物質が、体全体の炎症反応を引き起こしたり、筋肉や代謝に影響を与えたりすることで倦怠感が生じると考えられています。また、がんによる痛みや栄養不足も、倦怠感を悪化させる要因となります。
- がん治療の副作用:
- 化学療法(抗がん剤): 多くの抗がん剤は、正常な細胞にも影響を与えるため、造血機能の低下(貧血)、細胞の炎症、代謝の変化などを引き起こし、強い倦怠感の原因となります。
- 放射線療法: 特に広範囲への放射線治療や、骨髄に影響する部位への治療は、疲労感を強く引き起こすことがあります。
- 手術: 手術による身体への侵襲や、術後の回復期間は、大きな体力を消耗し、倦怠感につながります。
- 分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤: これらの新しい治療薬も、種類によっては倦怠感を副作用として伴うことがあります。
- 貧血: がん自体や治療の影響で赤血球が減少し、貧血になると、酸素が全身に行き渡りにくくなり、強いだるさや息切れを感じやすくなります。これは倦怠感の主要な原因の一つです。
- 栄養状態の悪化: 食欲不振や消化吸収能力の低下により、十分なカロリーやタンパク質、ビタミン、ミネラルが摂れないと、エネルギー不足になり、疲労感が強まります。
- 睡眠障害: 痛み、不安、ストレス、薬の副作用などにより、夜ぐっすり眠れないと、体が十分に休まらず、日中の倦怠感が悪化します。
- 精神的な要因: がんと診断されたことによるショック、治療への不安、将来への心配、うつ病などが、精神的な疲労として倦怠感を強めることがあります。心と体は密接につながっているため、精神的な負担は身体症状として現れやすいです。
- 他の病気や合併症: 感染症、甲状腺機能低下症、心臓病、腎臓病など、がんとは別の病気が隠れていて倦怠感を引き起こしている場合もあります。
これらの原因は一つだけでなく、複数重なって倦怠感を強めていることがほとんどです。ご自身の倦怠感がどのような要因で起こっているのか、医療者と相談しながら理解を深めることが大切です。
日常生活でできる!がん性倦怠感を和らげる「疲労軽減のコツ」
がん性倦怠感は、根治が難しい場合もありますが、日常生活の工夫によって症状を和らげ、より快適に過ごすことは可能です。ここでは、今日からでも実践できる疲労軽減のコツをご紹介します。
1. エネルギーマネジメント:無理なく活動するための計画術
あなたの体力を「バッテリー」だと考えてみましょう。バッテリー残量を確認し、効率的に使うことが重要です。
- 活動と休息のバランス:
- 無理のない活動計画を立てる: 疲れを感じる前に、必ず休憩を挟むようにしましょう。例えば、30分活動したら15分休む、など。家事や用事も、一度に全てこなそうとせず、数回に分けて行いましょう。
- 優先順位をつける: 本当にやりたいこと、やるべきことに絞り、それ以外は「やらない」と決める勇気を持ちましょう。今日の自分ができることを見極めることが大切です。
- 人に頼る勇気を持つ: 家族や友人、地域のサービスなど、頼れる人には遠慮なく助けを求めましょう。家事代行や配食サービスなども活用できます。「無理をしない」ことは、大切な治療の一環です。
- 体の声に耳を傾ける:
- 「疲れたら休む」を徹底する: 倦怠感が強くなる前に、横になったり、休憩したりする時間を意識的に作りましょう。少し横になるだけでも、体力の消耗を抑えられます。
- 「だるさ」のパターンを知る: どのような時に倦怠感が強くなるのか(例: 治療後数日、午前中、特定の活動後など)を記録しておくと、事前に準備したり、無理のない計画を立てたりするのに役立ちます。
2. 食事と栄養の工夫:体の中からエネルギーを補給
十分な栄養を摂ることは、体力を維持し、倦怠感を軽減するための基本です。食欲がない時でも、工夫して栄養を摂りましょう。
- 少量頻回食: 一度にたくさん食べられない時は、食事の回数を増やし、少量ずつ頻繁に食べることで、胃腸への負担を減らしつつ、必要なエネルギーを補給できます。
- 高カロリー・高タンパク質を意識: 効率よく栄養を摂るために、少量でもエネルギーやタンパク質が摂れる食品を選びましょう。
- 例: プリン、ゼリー、アイスクリーム、ヨーグルト、牛乳、チーズ、卵、柔らかく調理した肉や魚。
- 栄養補助食品(経口栄養剤など)も、手軽に効率よく栄養を摂るための強い味方です。
- 水分補給の徹底: 脱水は倦怠感を悪化させます。水やお茶、経口補水液などでこまめに水分補給をしましょう。
- 食べやすい工夫: 味覚の変化や吐き気、口内炎などの他の副作用がある場合は、そちらの対策も並行して行いましょう。冷たいもの、匂いの少ないもの、口当たりの良いものが食べやすい場合があります。
3. 適度な運動と休息:質の良い休養で回復を促す
「だるいのに運動なんて…」と思うかもしれませんが、無理のない範囲での身体活動は、かえって倦怠感を軽減し、質の良い睡眠につながることがあります。
- 軽い運動を取り入れる: 主治医や理学療法士に相談の上、体調に合わせた軽い運動を試してみましょう。
- 例: 散歩(10~15分程度)、ストレッチ、椅子に座ってできる体操、深呼吸など。
- 体を動かすことで、気分転換にもなり、血行促進や筋肉の維持にもつながります。
- 質の良い睡眠:
- 規則正しい睡眠時間: 毎日同じ時間に寝起きする習慣をつけることで、体のリズムが整いやすくなります。
- 寝室環境を整える: 静かで暗く、快適な温度・湿度を保つことで、質の良い睡眠を促します。
- 就寝前のリラックス: 就寝前は、熱いお風呂やカフェイン、アルコールは避け、軽いストレッチや温かい飲み物で体をリラックスさせましょう。
- 昼寝は短めに: 長すぎる昼寝は夜の睡眠を妨げることがあります。昼寝をするなら20~30分程度にとどめましょう。
4. 心のケアとストレスマネジメント:精神的な負担を軽減する
精神的な負担は、身体的な倦怠感を増幅させます。心のケアも倦怠感対策の重要な一部です。
- 感情を表に出す: 自分の感情を抑え込まず、信頼できる家族、友人、医療者、カウンセラーなどに話を聞いてもらいましょう。感情を言葉にすることで、心が軽くなることがあります。
- 気分転換を見つける: 好きな音楽を聴く、映画を観る、読書をする、軽い趣味に没頭するなど、気分が明るくなる活動を見つけましょう。完璧を目指さず、少しの時間でも楽しむことが大切です。
- リラックス法を試す: 深呼吸、瞑想、アロマテラピーなど、自分に合ったリラックス法を見つけて実践しましょう。緊張が和らぎ、心身の回復を助けます。
- 情報過多に注意: がんに関する情報は多くありますが、全てを追いかけると疲れてしまいます。信頼できる情報源に絞り、必要以上の情報収集は控えることも大切です。
医療者への相談の重要性
倦怠感が日常生活に大きな影響を与えている場合は、我慢せずに必ず医療者に相談してください。
- 主治医・看護師への相談:
- 倦怠感の程度や、いつ、どのような時に強いかなどを具体的に伝えましょう。
- 貧血や感染症など、倦怠感の原因となる他の病気が隠れていないか調べてもらえることがあります。
- 症状を和らげる薬の処方や、点滴などによる栄養補給を検討してもらえる場合があります。
- 管理栄養士への相談: 食欲不振や体重減少が著しい場合は、栄養状態の改善について具体的なアドバイスをもらえます。
- 理学療法士・作業療法士への相談: 個別の身体状態に合わせた、無理のない運動や活動方法の指導を受けられます。
- がん相談支援センター・心理カウンセラー: 精神的な負担が大きい場合は、心のケアの専門家からサポートを受けることができます。
まとめ:自分に合った「だるさ」との付き合い方を見つけよう
がん治療中の「だるさ」である倦怠感は、多くの患者さんが経験するつらい症状です。しかし、諦める必要はありません。その原因を理解し、日常生活の中で小さな工夫を積み重ねることで、症状を和らげ、生活の質を向上させることができます。
「無理はしない」「完璧を目指さない」という気持ちで、エネルギーマネジメント、適切な栄養摂取、無理のない運動と休息、そして心のケアを意識してみましょう。そして、一人で抱え込まず、医療者や周囲のサポートを積極的に利用しましょう。