千葉県内で乳がんの遺伝子検査を検討されている患者さんとご家族の皆様に、最新の情報をお届けします。乳がん治療において遺伝子検査は、個別化医療を実現する重要な検査となっており、適切な治療選択に役立ちます。
この記事では、2025年8月現在の最新情報として、千葉県内で受けられる乳がん遺伝子検査の種類、対応医療機関、保険適用条件などを詳しく解説します。オンコタイプDX、BRCA1/2遺伝子検査、マンマプリントなどの検査について、一般の方にも分かりやすく説明します。
千葉県で受けられる乳がん遺伝子検査の種類
千葉県内の医療機関では、主に以下の乳がん遺伝子検査を受けることができます。これらの検査は、それぞれ異なる目的と対象患者に応じて実施されています。
オンコタイプDX(Oncotype DX)
オンコタイプDXは、2023年9月1日から保険適用となった乳がん再発リスク予測検査です。手術で摘出した乳がん組織を用いて21種類の遺伝子を解析し、10年以内の再発リスクを0から100の数値で表現します。
この検査の対象となるのは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、リンパ節転移がない、または1から3個以内の早期乳がん患者です。検査結果により、抗がん剤治療の必要性を判断する重要な指標となります。
費用は保険適用で、3割負担の場合約13万円となります。検査には約3から4週間の期間が必要です。
BRCA1/2遺伝子検査
BRCA1/2遺伝子検査は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の診断や、特定の治療薬の適応判定に用いられる検査です。血液検査により実施され、約7mlの採血で行うことができます。
この検査には2つの主要な目的があります。1つは遺伝性乳がん卵巣がんの診断目的、もう1つはPARP阻害薬(オラパリブ)などの治療薬選択のためのコンパニオン診断です。
保険適用の場合、3割負担で約6万円の費用がかかります。検査結果は約2から3週間で判明します。
マンマプリント(MammaPrint)
マンマプリントは、70種類の遺伝子パターンを調べて、手術後5年以内の遠隔転移リスクを予測する検査です。結果はハイリスクとローリスクの2つに分類されます。
この検査の特徴は、手術時に新鮮な組織を専用キットで採取し保存する必要があることです。そのため、手術前に検査を受けるかどうかを決定しておく必要があります。
対象は早期乳がんで、リンパ節転移が3個以内の患者です。ホルモン受容体の陰性・陽性や閉経の有無は問いません。
千葉県内の乳がん遺伝子検査対応医療機関
千葉大学医学部附属病院
千葉大学医学部附属病院は、千葉県内で最も充実した遺伝子診療体制を整えている医療機関の一つです。遺伝子診療部では、14名の専門医と1名の認定遺伝カウンセラーが遺伝カウンセリングを担当しています。
同院では、オンコタイプDXおよびBRCA1/2遺伝子検査の両方に対応しています。また、一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)の暫定基幹施設として認定されており、高度な遺伝医療を提供しています。
遺伝カウンセリングの費用は、院内患者の場合、初回(1時間まで)5,400円、再来5,400円です。他院からの紹介患者の場合は、初回10,800円、再来5,400円となります。
診療日:月曜日から金曜日の午前9時から午後5時(完全予約制)
予約電話:043-226-2325(直通)
所在地:千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1
千葉県がんセンター
千葉県がんセンターの遺伝子診療科は、がんゲノム医療拠点病院として指定されており、包括的な遺伝子診療を提供しています。臨床遺伝専門医・指導医である横井左奈部長を中心とした専門チームが診療にあたっています。
同センターでは、オンコタイプDX、BRCA1/2遺伝子検査の両方に対応しており、遺伝外来では完全予約制で1時間の枠で遺伝カウンセリングを実施しています。これまでのカウンセリング件数は2000件を超える豊富な実績があります。
また、がん遺伝子パネル検査も実施しており、保険診療として5種類の検査を提供しています。費用は56万円で、3割負担の場合約17万円となります。
遺伝外来診療日:月曜日午後、火曜日午前午後、水曜日午前、木曜日午前午後
予約電話:043-264-5431
所在地:千葉県千葉市中央区仁戸名町666-2
船橋市立医療センター
船橋市立医療センターは、乳腺外科において乳がん遺伝子検査に対応している医療機関です。オンコタイプDXおよびキュアベストの再発リスク遺伝子検査を実施しています。
同院では、乳腺外科にて再発リスク遺伝子検査の相談と申し込みが可能です。BRCA1/2遺伝子検査については実施していないため、必要に応じて他の専門機関への紹介を行っています。
また、千葉県がんセンターのがんゲノム医療連携病院として指定されており、がん遺伝子パネル検査の窓口としても機能しています。
所在地:千葉県船橋市金杉1-21-1
東京女子医科大学八千代医療センター
東京女子医科大学八千代医療センターでは、乳腺・内分泌外科においてオンコタイプDXの検査に対応しています。BRCA1/2遺伝子検査についても実施可能ですが、専門的な遺伝カウンセリング体制は整っていません。
同院では、乳腺・内分泌外科にて再発リスク遺伝子検査の相談と申し込みが可能です。検査結果に基づいて、適切な術後治療の選択について説明を受けることができます。
所在地:千葉県八千代市大和田新田477-96
三和病院
三和病院は、松戸市に位置する医療機関で、乳腺外科においてオンコタイプDXの検査に対応しています。BRCA1/2遺伝子検査についても実施可能であり、陽性の場合の予防的手術にも対応しています。
同院では、遺伝子専門の外来は設置されていませんが、乳腺外科において遺伝子検査の相談が可能です。BRCA陽性患者に対しては、発症前の両乳房切除や未発症側の乳房切除といった予防的手術を実施しています。
所在地:千葉県松戸市日暮1-15-1
アクセス:JR常磐線・新京成線松戸駅から徒歩約7分
柏厚生総合病院
柏厚生総合病院では、2015年に設置された乳腺外科において、オンコタイプDXおよびマンマプリントの両方に対応しています。BRCA1/2遺伝子検査についても実施可能です。
同院の乳腺外科では、再発リスク検査や遺伝性乳がんの相談を受け付けており、患者一人ひとりの状況に応じた検査の提案を行っています。
所在地:千葉県柏市篠籠田617
JOHBOC認定施設について
一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)は、遺伝性乳がん卵巣がんの診療の質を保証するために施設認定を行っています。千葉県内では、以下の施設が認定されています。
基幹施設・暫定基幹施設
千葉大学医学部附属病院が暫定基幹施設として認定されており(施設コード0139)、市川智彦医師(遺伝子診療部)が診療責任者を務めています。認定期限は2027年3月31日までとなっています。
協力施設
千葉県内では、順天堂大学医学部附属浦安病院と聖隷佐倉市民病院が協力施設として認定されています。これらの施設では、遺伝性乳がん卵巣がんに関する基本的な診療と相談に対応しています。
乳がん遺伝子検査の保険適用条件
オンコタイプDXの保険適用条件
オンコタイプDXは、2023年9月1日から保険適用となりました。対象となる患者は以下の条件を満たす必要があります。
- ホルモン受容体陽性
- HER2陰性
- リンパ節転移がない、または1から3個以内
- 浸潤性乳管がんまたは浸潤性小葉がん
- 手術可能な早期乳がん
検査費用は保険適用により、3割負担で約13万円となります。高額療養費制度の対象にもなるため、所得に応じてさらに自己負担額を軽減することが可能です。
BRCA1/2遺伝子検査の保険適用条件
BRCA1/2遺伝子検査の保険適用には、以下の2つの目的があります。
コンパニオン診断目的
- 転移性、再発またはHER2陰性の術後薬物療法の適応となる乳がん患者
- 初発の進行卵巣がん患者
- 治癒切除不能な膵がん患者
- 転移性去勢抵抗性前立腺がん患者
遺伝性乳がん卵巣がん診断目的
- 若年発症(50歳以下)の乳がん患者
- 60歳以下のトリプルネガティブ乳がん患者
- 2個以上の原発乳がんを発症した患者
- 乳がんと卵巣がんを両方発症した患者
- 男性乳がん患者
- 家族歴に乳がんまたは卵巣がんの患者が複数いる場合
検査費用は保険適用により、3割負担で約6万円となります。
遺伝カウンセリングの重要性
乳がん遺伝子検査、特にBRCA1/2遺伝子検査を受ける際には、検査前後の遺伝カウンセリングが極めて重要です。遺伝カウンセリングでは、以下の内容について詳しく説明を受けることができます。
検査前カウンセリング
- 遺伝性乳がん卵巣がんという疾患概念の説明
- 検査の目的と限界についての説明
- 検査結果がもたらす可能性のある影響
- 家族への影響と家族内共有の考え方
- 検査を受けるかどうかの意思決定支援
検査後カウンセリング
- 検査結果の詳細な説明
- 陽性の場合の今後の医療的対策
- サーベイランス(定期検査)の計画
- 予防的手術の選択肢についての説明
- 家族への検査結果の伝え方
- 心理的サポート
検査結果に基づく治療選択
オンコタイプDXの結果による治療選択
オンコタイプDXの検査結果は、再発スコアとして0から100の数値で表されます。この数値に基づいて、以下のような治療方針が決定されます。
- 低リスク(18未満):ホルモン療法のみ
- 中間リスク(18以上31未満):個別の判断により化学療法の追加を検討
- 高リスク(31以上):化学療法とホルモン療法の併用
現在、中間リスクの患者に対する化学療法の有効性について、海外で大規模な臨床試験が進行中です。
BRCA1/2陽性の場合の対策
BRCA1/2遺伝子に病的変異が見つかった場合、以下の医療的対策を検討することができます。
サーベイランス(強化検診)
- 年1回のマンモグラフィとMRI検査
- 乳房の自己検査(月1回)
- 医師による触診(6ヶ月ごと)
- 卵巣がんのスクリーニング検査
薬物による予防
- タモキシフェンなどの選択的エストロゲン受容体調節薬
- アロマターゼ阻害薬(閉経後女性)
予防的手術
- リスク低減乳房切除術(RRM)
- リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
これらの予防的手術は、2020年4月から保険適用となっており、一定の条件を満たす場合に実施することができます。
検査を受ける際の注意点
検査前の準備
遺伝子検査を受ける前には、以下の準備を行うことが推奨されます。
- 家族のがん罹患歴の詳細な聞き取り
- 過去の検査結果や病理報告書の収集
- 検査の目的と期待する結果の明確化
- 家族との事前相談
検査結果の取り扱い
遺伝子検査の結果は、個人情報保護の観点から慎重に取り扱われます。検査を受ける際は、以下の点について理解しておくことが重要です。
- 検査結果は患者本人のみに開示される
- 家族への情報共有は患者の判断に委ねられる
- 就職や保険加入などでの遺伝情報の悪用は法的に禁止されている
- 検査結果は適切に保管され、第三者に漏洩されることはない
費用と支援制度
検査費用の詳細
各遺伝子検査の費用(保険適用、3割負担の場合)は以下のとおりです。
- オンコタイプDX:約13万円
- BRCA1/2遺伝子検査:約6万円
- マンマプリント:自費診療(約30万円から40万円)
高額療養費制度の活用
遺伝子検査は高額療養費制度の対象となるため、所得に応じて自己負担額の上限が設定されます。事前に限度額適用認定証を取得しておくことで、窓口での支払い額を軽減することができます。
自治体による助成制度
一部の自治体では、遺伝子検査に対する助成制度を設けている場合があります。お住まいの市町村の健康福祉担当課にお問い合わせいただくことで、利用可能な支援制度について確認することができます。
最新の研究動向と将来展望
新しい遺伝子検査の開発
現在、オンコタイプDXやマンマプリント以外にも、新しい多遺伝子アッセイの開発が進んでいます。これらの検査により、より精密な再発リスク予測と治療選択が可能になることが期待されています。
がんゲノム医療の進歩
がん遺伝子パネル検査の技術向上により、100種類以上の遺伝子を同時に解析し、個々の患者に最適な治療薬を選択する個別化医療が急速に発展しています。
予防医療の充実
遺伝子検査の結果に基づく予防医療の体制も充実しており、リスクの高い方に対するサーベイランスや予防的治療の選択肢が拡大しています。
患者サポート体制
患者会とピアサポート
遺伝性乳がん卵巣がんの患者・家族向けの患者会やピアサポートグループが各地で活動しています。同じ体験を持つ方々との情報共有や心理的支援を受けることができます。
がん相談支援センター
千葉県内のがん診療連携拠点病院では、がん相談支援センターを設置しており、遺伝子検査に関する相談にも対応しています。検査を受けるかどうかの判断に迷われている方は、まずこちらにご相談することをお勧めします。
まとめ
千葉県内では、複数の医療機関で乳がん遺伝子検査を受けることができる体制が整っています。オンコタイプDXの保険適用により、多くの患者さんが個別化医療の恩恵を受けられるようになりました。
遺伝子検査は、適切な治療選択や予防対策を検討する上で非常に有用な情報を提供します。しかし、検査を受けるかどうかの判断は、十分な説明と理解に基づいて行うことが重要です。
検査をご検討の際は、まず主治医や専門医療機関にご相談いただき、遺伝カウンセリングを受けることをお勧めします。千葉県内の多くの医療機関で、専門的な相談とサポートを受けることができます。