がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事では、乳がんの「悪性度(顔つき)」について解説します。
乳がんだけでなく、がんには進行度合いを判別する「ステージ分類」という考え方があります。原則として4段階に分類され、ステージ1が早期。ステージ4が最も進行した状況となります。
乳がんであれば乳房の中に小さい(1cmほどの腫瘍)があり、それが浸潤がんだった場合はステージ1(非浸潤乳がんの場合はステージ0。肺や骨など乳房から離れた臓器や器官に転移があればステージ4、という分類になります。
いっぽう、「悪性度」というのは上記の「ステージ分類」とは異なる評価基準です。
乳がんの進行度合い=拡がりの範囲を評価するのがステージだとすると、「悪性度」はがん細胞の危険度(今後、再発したり転移したりしやすい細胞なのか)を評価し、分類するものです。
よく「がん細胞の顔つきが悪い」などといいますが、この「顔つき」はすなわち「悪性度」と同じ意味で使われます。
乳がんの「悪性度」は病理検査(診断)の結果でわかる
乳がんの細胞を採取する機会は二度あります。
一度目は、針生検(治療前に乳がんがあると疑われる部分に針を刺し、細胞を採取して顕微鏡で調べること)です。
二度目は手術後の組織検査(手術して切除した組織を顕微鏡で調べること)においてです。
乳がんでは手術後の組織検査で得られた情報を「確定診断」としています。針生検で得られた情報は「仮」ですが、近年の検査は精度が高いので確定診断とそう変わりはありません。
針生検であれ組織検査であれ、いずれにしても病院からは検査結果を「病理診断結果」として患者サイドに通知されます。
病理診断結果とは以下のような内容が記述されているものです。
【病理診断結果の項目と内容(記載例)】
術式 | Bt+Ax |
組織型 | Invasive Ductal carcinoma |
組織グレード | 2 |
核グレード | 2 |
浸潤巣の径 | 2.1x1.4x1.5cm |
乳管内進展 | 2.2x2.4x1.8cm |
pT分類 | pT2相当(治療後) |
リンパ管侵襲 | ly(-) |
静脈侵襲 | v(-) |
切除断端 | 陰性 |
治療効果 | v(-) |
リンパ節転移 | Ax(0/5) |
ER | ALLRED SCORE PS0 +IS0=TS0 J-Score0 |
PgR | ALLRED SCORE PS0 +IS0=TS0 J-Score0 |
Her2 | 3+ |
Ki67標識率 | 3+ |
悪性度は主に「グレード分類」で確認する
乳がんの危険度(今後再発したり転移したりする確率が高いかどうか)は、複数の指標をみて総合的に判断しますが、一般的に「悪性度」というのは「病理学的悪性度(グレード)」の評価のことをいいます。
わかりやすくいうと、「正常な細胞と比べて、どのくらいの変化(形の崩れ)があるか」を評価するものです。
具体的にはまず「核異型スコア」と「核分裂像スコア」を評価し、その数値から最終的には「核グレード」の3段階に分類されます。
1.核異型スコア(3が最もよくない) | |
1点:核の大きさ、形態が一様でクロマチンは目立たない | |
2点:1と3の中間。 | |
3点:核の大小不同、形態不整が目立つ。クロマチンの増量、不均等分布が目立ち、大型の核小体を有することがある。 | |
2.核分裂像スコア(3が最もよくない)顕微鏡の視野数20の場合 | |
1点:0~4個 | |
2点:5~10個 | |
3点:11以上 | |
3.核グレード判定(核異型スコア+核分裂像スコア。3が最もよくない) | |
グレード1:2~3点 | |
グレード2:4点 | |
グレード3:5~6点 |
これらの判定が、実際にどのような結果にむすびつくのか?という点に関してはがんセンター中央病院の報告が参考になります。
当病院でリンパ節転移のない乳がん(270例)の「5年術後無再発生存率(手術後に再発なく生存している確率)」をみると、以下のような結果になったとのことです。
核グレード1=98%
核グレード2=97%
核グレード3=81%
グレード1と2ではほとんど差がないといえますが、グレード2以上の乳がんは術後5年以上経過してから再発することが多い、と報告されていますので一概に「グレード2だから安心」とはいえません。
このようにがん細胞自体の悪性度という意味では、上記の核グレード判定の数値が答えである、といえますが、実際に予後(初期治療のあとの経過)の良しあしに関連する項目は他にもあります。
現在、主に注目されている項目は以下のものがあります。
Ki67(キー67)
これはがん細胞の増殖能力を表す項目(核たんぱく質)です。抗ki67抗体をつかってがん細胞を染色するとki67が発現しているがん細胞の核に色がつきます。
乳がん細胞のうち、何割の細胞が染まるかによってパーセンテージで表します。40%であれば「ki67が40%」と報告されます。
ki67が20%未満であれば増殖の速度は遅いとされますが、高値になるにつれ増殖力が強くて速いとされています。なお、数値が低いほど抗がん剤は効きにくい、とされています。
乳がん学会では「ki67の評価方法が標準化されておらず、治療効果予測としてのki67の意義は科学的根拠が十分でない」としていますが、同時に「Ki67と予後との間に相関があるのはほぼ確実である」としています。
目安としておよそ増殖能力を示すが、具体的に何%かの値で区切りを設けて抗がん薬治療をする、しないなどの指標に用いるようなことは現時点では推奨されていない、という理解になります。
乳がんの「サブタイプ」
サブタイプというのは、がんの遺伝子発現のパターンによる分類になります。乳がんでは必ず「ホルモン受容体が陰性か陽性か」と「HER2たんぱくが陰性か陽性か」を検査します。
その結果に基づいて分類されるのがサブタイプであり、具体的には対木のように分類されます。
【乳がんのサブタイプとリスク】
サブタイプ | 定義 | リスク | 5年無再発生存率 | |
ルミナルA | ホルモン受容体陽性 HER2陰性 |
増殖力が遅い | 約88% | |
ルミナルB | HER2陰性 | ホルモン受容体陽性 HER2陰性 |
増殖力が速い | 約69% |
HER2陽性 | ホルモン受容体陽性 HER2陽性 |
増殖力が速い | ||
HER2エンリッチド | ホルモン受容体陰性 HER2陽性 |
増殖力が速い | 約67% | |
トリプルネガティブ | ホルモン受容体陰性 HER2陰性 |
増殖力が速い | 約74% |
その他、病理検査の項目の意味や解説はこちらの記事に掲載しています。