
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
アロマセラピー(アロマテラピー)は、植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を使用して、心身の不調を緩和する自然療法の一つです。
近年、がん治療の現場でも補完療法として注目されていますが、実際にがん患者さんにどのような効果があるのか、科学的根拠に基づいて客観的に見ていく必要があります。
この記事では、最新の臨床試験データや研究報告をもとに、アロマセラピーががん患者さんにもたらす効果や限界、使用上の注意点について詳しく解説します。
アロマセラピーとは何か
アロマセラピーとは、植物の花、葉、種子、果皮、樹脂などから抽出された芳香性のある精油を用いて、その香りを楽しんだり、リラクゼーションを得たり、症状の緩和を図る治療法です。
現在、約40種類のエッセンシャルオイルがアロマセラピーに使用されています。
代表的な精油としては、ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、カモミール、マジョラム、ジャスミン、ペパーミント、レモン、イランイラン、ゼラニウム、ティーツリー、ショウガ、シダーウッド、ベルガモットなどがあります。
アロマセラピーの具体的な方法
アロマセラピーには、いくつかの実施方法があります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 芳香浴(間接吸入) | ルームディフューザーや精油を垂らしたティッシュを使い、空気中に拡散した香りを吸入する方法 |
| 直接吸入 | お湯に精油を数滴垂らし、個人用吸入器を使用して精油を吸い込む方法 |
| アロマバス | 精油を入れたお湯に体を浸ける入浴法。足浴も含まれる |
| アロママッサージ | 精油を希釈したキャリアオイルを使用し、マッサージによって皮膚に塗り込む方法 |
| 湿布・塗布 | 精油を希釈して直接体に塗ったり、湿布を貼ったりする方法 |
このように、アロマセラピーは香りを嗅ぐだけではありません。
アロママッサージやアロマバスなど、皮膚や粘膜を通じて精油の成分を体内に取り込む方法もあります。
アロマセラピーの作用メカニズム
アロマセラピーの有効成分である精油は、次の3つの経路から体内に入り、その薬理作用を発揮します。
1. 嗅覚を通じた神経系への作用
精油の香り成分が鼻腔内の嗅覚受容体に到達すると、その信号が脳の大脳辺縁系に伝わります。
大脳辺縁系は感情や記憶、自律神経系の調節に関わる部位であり、ここで香りが情動や身体機能に影響を与えます。
例えば、ラベンダーの主成分であるリナロールには、ストレスを和らげる効果のあるGABA(ギャバ)の調節作用があることが報告されており、鎮静や抗不安、抗痙攣効果をもたらす可能性が示唆されています。
2. 皮膚からの吸収
精油の分子は非常に小さいため、アロママッサージやアロマバスを行うと、皮膚から毛細血管へ吸収されます。
吸収された成分は血流に乗って全身に運ばれ、神経系や内分泌系に作用します。
ラベンダーオイルの主成分リナロールは、皮膚に塗布すると数分以内に血中に溶け込み、約20分後には血漿中で最大濃度に達し、90分後には血漿中から消失することが確認されています。
3. 気道粘膜からの吸収
吸入によって精油の成分が気道などの粘膜から吸収され、局所に作用したり、吸収された成分が血流に乗って全身的に作用したりします。
がん治療におけるアロマセラピーの目的
アロマセラピーががん治療の現場で用いられる主な目的は、がんや治療に伴う症状の緩和です。
重要な点として、アロマセラピーは腫瘍を縮小させたり、がんを治癒させたりする効果はありません。
培養細胞を用いた実験で、一部の精油ががん細胞を殺傷したという報告はありますが、人間に使用した場合に腫瘍が縮小したり消失したりすることはないと考えるべきです。
アロマセラピーは、以下のような症状の緩和を目的として使用されます。
- 不安感、抑うつ、ストレスなどの精神的症状
- 痛み、倦怠感、むくみなどの身体的症状
- 抗がん剤や放射線治療による吐き気、嘔吐
- 睡眠障害
- 食欲不振
日本緩和医療学会が発行している「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)」では、アロマセラピーは「推奨グレードB(行うように勧められる)」という評価を得ています。
アロマセラピーに関する臨床試験の結果
世界的な医学論文データベースであるPubMed(パブメド)や、英国コクランライブラリーには、アロマセラピーとがんに関する多数の臨床試験が掲載されています。
これらの研究では、アロマセラピーががん患者さんのQOL(生活の質)や、化学療法・放射線治療・手術の副作用に与える影響が検討されています。
ここでは、主要な臨床試験の結果を症状別に整理して紹介します。
精神的症状(不安・抑うつ)への効果
複数の研究で、アロマセラピーが不安や抑うつなどの精神的症状を改善する可能性が示されています。
ある無作為化比較試験では、がん患者さん103人を対象に、マッサージのみのグループとローマカミツレ(カモミール)の精油を使用したアロママッサージのグループを比較しました。
2週間後、精油を用いたアロママッサージを受けたグループで不安の軽減と症状の改善が報告されました。
また、化学療法中の患者さん70人をラベンダー群、ティーツリー群、エッセンシャルオイル無し群に分けて不安をモニタリングした研究では、ラベンダー群で不安の軽減が認められました。
一方で、放射線療法を受けている313人の患者さんに対し、ラベンダー、ベルガモット、シダーウッドのエッセンシャルオイルを吸入してもらった二重盲検無作為化試験では、グループ間に違いが認められず、有益ではないと結論づけた報告もあります。
痛みへの効果
アロマセラピーが痛みを軽減する可能性を示唆する研究がありますが、結果は一貫していません。
緩和ケアを受けている進行がん患者さんに、マッサージのみとアロママッサージを比較した研究では、痛みに関してアロママッサージの効果を認めなかったとする報告があります。
コクランライブラリーのシステマティックレビュー(2015年)では、19件の研究(参加者1,274名)を分析した結果、一部の小規模研究でマッサージが短期間の痛みを軽減する可能性が示唆されましたが、エビデンスの質は「きわめて低い」と評価されています。
倦怠感への効果
倦怠感に対しては、比較的良好な結果を示す研究があります。
緩和ケアを受けている進行がん患者さんにアロマバス(足浴)とリフレクソロジーを併用したアロマセラピーを行った研究では、倦怠感の改善が認められました。
また、化学療法中の大腸がん患者さん66人を対象にタイ式アロママッサージと通常の支持療法を1週間実施して比較した無作為化比較試験では、アロママッサージ後に倦怠感の有意な改善が見られました。
睡眠への効果
緩和ケアを受けているがん患者さん42人を対象に、マッサージのみとラベンダーを用いたアロママッサージを比較した研究では、両群ともに睡眠の改善が見られましたが、アロマセラピーの上乗せ効果は示されませんでした。
吐き気・嘔吐への効果
化学療法による吐き気や嘔吐に対する効果については、使用する精油によって結果が異なります。
化学療法を受けている乳がん患者さん60人を対象にジンジャー(ショウガ)を使用した試験では、嘔吐や吐き気を軽減しませんでした。
一方、化学療法を受けた成人患者さん79人に対してペパーミントを使用するグループと使用しないグループに分けた試験では、化学療法由来の吐き気の強度を軽減させる効果が示されました。
システマティックレビューでは、短期的な悪心の緩和を示す研究がありましたが、研究の質が低いことが指摘されており、より大規模で長期的な効果を検証する試験が必要であると結論されています。
リンパ浮腫への効果
上肢のリンパ浮腫に対して、マッサージ(アロマオイルなし)とアロママッサージの効果を比較した研究では、ともに改善傾向は認められたものの、両者の間に効果の差は認められませんでした。
臨床試験結果の総括
これまでの臨床試験をまとめると、以下のことが言えます。
| 項目 | 現時点での評価 |
|---|---|
| QOL(生活の質)の改善 | 改善できる可能性がある。ただし、有効性を認めなかった報告もあり、確実な効果があるとは言えない |
| 精神的症状(不安・抑うつ) | 一部の研究で改善効果が認められているが、結果は一貫していない |
| 痛みの緩和 | 軽減させる可能性は示唆されるが、有用であるとは結論づけられない |
| 倦怠感の軽減 | 軽減に有用である可能性が示唆される |
| 睡眠の改善 | 一部の研究で改善が認められた |
| 吐き気・嘔吐の軽減 | 精油の種類によって効果が異なる。ペパーミントで効果を示す研究がある |
| 抗がん剤・放射線治療の副作用軽減 | 現段階では、臨床試験で証明されていない |
| 再発予防・生存期間の延長 | 現段階では、臨床試験で証明されていない |
コクランライブラリーのレビューでは、「エビデンスの質はきわめて低く、結果に一貫性が認められなかった。これらの治療法が利益をもたらすかどうかは不明である」と結論づけられています。
研究の多くが小規模で、使用されるエッセンシャルオイルの種類や吸引方法、対象者、試験の実施期間などが異なるため、各症状に対する効果を明確にするには、さらなる臨床試験結果の蓄積が必要です。
アロマセラピーを使用する際の注意点
アロマセラピーを利用する場合、安全性の観点からいくつか気をつけるべき点があります。
1. ホルモン様作用を持つ精油
精油の中には、女性ホルモンのエストロゲン様作用を持つものがあります。
乳がんや子宮体がんの患者さんは、女性ホルモンががんの増殖に影響する可能性があるため、以下の精油は避けたほうが良いでしょう。
- フェンネル(アネトール成分を含む)
- クラリセージ
- アニス
- シトラール成分を含む精油
これらは強い作用ではありませんが、念のため使用を控えることが推奨されます。
2. 皮膚への刺激
精油によっては、まれに皮膚の障害が起きることがあります。
アロマセラピーを行った際、皮膚がヒリヒリしたり、赤くなったり、痒くなったりした場合は、使用を中止してください。
精油には刺激の強いもの、弱いものがあり、がんの種類や症状によっては向き不向きがあるため、それぞれの特徴を知っておくことが大切です。
3. アロママッサージ時の注意
アロママッサージでは、通常、体を強く押さえるようなことはありませんが、以下のような場合は慎重に行う必要があります。
- がんが骨に転移している部位へのマッサージ
- 抗がん剤の副作用やがんの進行によって血が止まりにくくなっている場合(内出血のリスク)
- 血小板減少症がある場合
4. アレルギー反応
精油や基材(キャリアオイル)にアレルギーがある方は注意が必要です。
初めて使用する精油は、少量でパッチテストを行うことが推奨されます。
5. 専門家への相談
治療目的でアロマセラピーを利用する場合は、専門知識や技術を持つアロマセラピストや、がん治療に精通した医療者に相談しながら行うことが望ましいです。
特に、化学療法や放射線治療を受けている期間中は、主治医にアロマセラピーの使用について相談することをお勧めします。
がん患者さんがアロマセラピーを取り入れる際の考え方
現時点でのアロマセラピーは、科学的根拠が完全に確立されているわけではありませんが、多くの患者さんがリラックスや気分転換の手段として活用しています。
アロマセラピーは、療養生活の中でストレスに対処する方法(コーピング)の一つとして、自分自身がリラックスできると感じる精油の種類や濃度を選んで楽しむことが良いと考えられます。
アロマセラピーの位置づけ
アロマセラピーは、標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療など)の代わりになるものではなく、あくまで補完療法として位置づけられます。
標準治療を中心としながら、QOLの向上や症状緩和のサポートとしてアロマセラピーを取り入れるという考え方が重要です。
個人差を考慮する
香りには好き嫌いがあり、同じ精油でも人によって感じ方が異なります。
自分にとって心地よい香りを見つけることが、アロマセラピーを効果的に活用するポイントです。
家族とのコミュニケーション
アロマセラピーは、患者さん自身でセルフケアができるだけでなく、ご家族が患者さんに対してケアできるというメリットもあります。
ご家族がスキンシップを通じてアロママッサージを行うことで、お互いに不安が和らぎ、気持ちが落ち着いて、安らぎや幸福感を得られることが報告されています。
日本におけるアロマセラピーの普及状況
日本では、1998年に日本アロマテラピー学会が発足し、医療現場でのアロマセラピーの研究と実践が進められています。
ホスピス・緩和ケア病棟の約半数でアロマセラピーが導入されていると言われており、近年では一般病棟や訪問看護、介護施設でも活用が広がっています。
特に、認知症ケアや緩和ケアなどで、全人的苦痛の緩和や不安軽減のための非薬物療法として期待が高まっています。
最後に
アロマセラピーは、がん患者さんのQOL向上や症状緩和に役立つ可能性がある補完療法です。
しかし、現時点では研究の質や規模に課題があり、すべての症状に対して確実な効果があるとは言えません。
がんを縮小させたり治癒させたりする効果はなく、標準治療の代替にはならないことを理解したうえで、リラクゼーションやストレス対処の手段として活用することが適切です。
アロマセラピーを取り入れる際は、使用する精油の特性や安全性を十分に理解し、必要に応じて専門家や主治医に相談しながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。
参考文献・出典情報
- 日本緩和医療学会「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)」アロマテラピーの項
- Cochrane「癌患者の症状緩和に対するアロマセラピーとマッサージ」システマティックレビュー(2015年)
- がん情報サイト「精油を使用するアロマセラピー(PDQ®)」米国国立がん研究所(2025年3月更新)
- がん療養.jp「がん治療の症状に対するアロマセラピーの効果」(2025年5月更新)
- 四国がんセンター「どんなものがあるの?【アロマセラピー】」
- 日本緩和医療学会誌「アロマセラピストの資格を持つ看護師の緩和ケアチームへの参加と一般病棟におけるがん患者へのアロマセラピーマッサージの提供」(2017年)
- がんサポート「香りで不快な症状を緩和し、心身を癒すアロマトリートメント」
- 日経メディカル「香りで不安を癒やし、トリートメントでむくみや冷えを緩和」(2013年)
- メディカル・タッチ協会「看護に活かすアロマテラピー講座」(2024年2月更新)
- PubMed(米国国立医学図書館の医学論文データベース)

