
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
メシマコブ(学名:Phellinus linteus)は、桑の木に寄生するキノコの一種で、古くから漢方では「桑黄(そうおう)」として用いられてきました。
近年、がんへの効果を期待して摂取する方が増えていますが、実際のところどのような科学的根拠があるのでしょうか。
この記事では、2026年時点での最新の研究データを基に、メシマコブのがんに対する効果について客観的に検証します。
メシマコブとは何か
メシマコブは、長崎県の男女群島の女島(めしま)で多く見られたことから名付けられた、タバコウロコタケ科のキノコです。現在では天然のメシマコブを見つけることは困難で、「幻のキノコ」とも呼ばれています。
成長が遅く、直径30cmになるまでに20~30年かかるとされ、自然界での入手は極めて困難です。そのため、現在流通している製品の多くは、菌糸体を培養して製造されたものです。
中国では2000年以上前から薬用として珍重され、伝統医学では止汗・利尿作用があるとされてきました。
メシマコブに関する基礎研究の成果
1968年の国立がんセンターによる研究
メシマコブが注目されるきっかけとなったのは、1968年に国立がんセンター研究所のグループが発表した研究です。
この研究では、サルコーマ180を移植したマウスに対して10数種類のキノコの熱水抽出エキスを投与したところ、メシマコブは腫瘍阻止率96.7%と最も高い数値を示しました。
この結果を受けて、韓国では国家プロジェクトとしてメシマコブの菌糸体培養技術の開発が進められ、1993年には医薬品として認可されました。
メシマコブの主な成分
メシマコブに含まれる主な有効成分として以下のものが報告されています。
| 成分名 | 期待される作用 |
|---|---|
| β-グルカン | 免疫細胞の活性化 |
| α-グルカン | 免疫賦活作用 |
| ポリフェノール類 | 抗酸化作用 |
| ヘテロマンナン・タンパク複合体 | 免疫増強作用 |
これらの成分は、NK(ナチュラルキラー)細胞、マクロファージ、T細胞、B細胞などの免疫細胞を活性化する可能性が、動物実験や試験管内実験で示されています。
人間のがんに対するメシマコブ摂取の臨床報告
症例報告とは何か
人間に対する研究を見る前に、「症例報告」という医学論文の形式について理解しておくことが重要です。
症例報告とは、「ある患者さんに、こういうことが起きた」という個別の事例を報告するものです。貴重な情報源ではありますが、症例報告だけでは以下のような限界があります。
- どのくらいの確率で効果が現れるのか分からない
- その現象がメシマコブによるものなのか、偶然なのか判断できない
- 他の要因の影響を除外できない
報告されている症例
世界的に信頼性のある論文データベース「PubMed(パブメド)」でメシマコブに関する症例報告を調べると、以下のような事例が報告されています。
症例1:前立腺がん
ホルモン療法や放射線療法の効果がなくなり治療が中止された前立腺がんの患者さんが、自己判断でメシマコブを摂取したところ、数か月後の画像検査で腫瘍が消失し、腫瘍マーカーも正常になったと報告されています。
症例2:肝細胞がん(骨転移を伴う)
肝細胞がんから頭蓋骨への骨転移が生じた患者さんに対して放射線治療を行いましたが効果がなく、その後無治療で経過を観察していたところ、放射線治療の10か月後に頭蓋骨の病変と肝臓の病変が縮小したとの報告があります。
この患者さんは放射線治療開始前からメシマコブを摂取していたため、メシマコブの可能性について言及されています。
症例3:肝細胞がん(肺転移を伴う)
肝細胞がんから肺転移を生じた患者さんが、病期が進行していたため標準治療を受けることができず、未治療のまま自己判断でメシマコブを1か月間摂取していたところ、6か月後の画像検査で肝臓と肺の腫瘍が消失したと報告されています。
症例報告の解釈における注意点
これらの症例は興味深いものですが、慎重な解釈が必要です。
例えば、肝細胞がんは6万~10万例に1例の割合で自然にがんが消失することが過去の調査で分かっています。つまり、今回紹介した症例の治療経過は、メシマコブを摂取しなくても起こった可能性があります。
また、メシマコブ以外に何か別の取り組みをしていたのか、他の要因があったのかは報告からは分かりません。
2026年時点での最新の臨床研究
免疫機能に関する臨床試験
2022年に韓国で実施された臨床試験では、健康な成人を対象に二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験が行われました。
この試験では、メシマコブ投与群でNK細胞活性がプラセボ群と比較して有意に増加したことが報告されています。また、肝機能および腎機能における有害な事象は観察されず、経口摂取しても安全である可能性が示されました。
日本での臨床報告
2019年と2021年には、日本の医師によって膵臓がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、食道がん、乳がん、胆嚢がん、大腸がん、甲状腺がん、腎臓がん、卵巣がんに対する「メシマ」の有効性を示唆する臨床例が報告されました。
ただし、これらも症例の集積であり、大規模な臨床試験ではありません。
日本と韓国での位置づけの違い
| 項目 | 日本 | 韓国 |
|---|---|---|
| 法的位置づけ | 健康食品 | 医薬品 |
| 認可状況 | 特定の効能表示は不可 | 肝臓・消化器がんの抗がん免疫増強剤として認可(1993年) |
| 使用目的 | 補完代替療法、QOL改善、副作用軽減目的 | 標準治療との併用による免疫増強 |
日本では医薬品として認可されていないため、がんへの効果を謳うことはできません。現在は健康補助食品として、多くの医療機関で補完代替療法やQOL向上の目的で利用されています。
日本のがん診療ガイドラインでの見解
日本乳癌学会が発行する「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」では、メシマコブについて以下のように記載されています。
「キノコの一種で、『免疫力を向上させる』『がんを予防する』などといわれていますが、ヒトでの有効性についてのデータはありません」
この見解は2026年時点でも変わっておらず、人間を対象とした大規模な臨床試験データが不足しているという認識が医療界で共有されています。
現時点で科学的に証明されていること、されていないこと
証明されていること
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 動物実験での抗腫瘍効果 | マウスを用いた実験では腫瘍阻止率96.7%を示した |
| 試験管内実験での効果 | 各種がん細胞に対する増殖抑制効果が確認されている |
| 免疫細胞の活性化 | NK細胞、マクロファージ、T細胞などを活性化する可能性 |
| 抗がん剤との併用効果 | 基礎研究でドキソルビシン、5-FU、イリノテカンなどとの併用効果が報告されている |
証明されていないこと
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人間のがんへの直接的な効果 | 大規模な臨床試験での効果は証明されていない |
| QOL(生活の質)の改善 | 人間に対する臨床試験で証明されていない |
| 抗がん剤の副作用軽減 | 人間に対する臨床試験で証明されていない |
| 再発予防効果 | 大規模な臨床試験で証明されていない |
| 生存期間の延長 | 大規模な臨床試験で証明されていない |
メシマコブ摂取時の注意点
副作用について
メシマコブの摂取に関して、以下のような副作用や注意点が報告されています。
- 大量に摂取した場合、下痢や嘔吐を引き起こす可能性がある
- 自己免疫疾患への影響:天疱瘡(てんぽうそう)という自己免疫性皮膚疾患が、メシマコブ摂取後に悪化した症例が報告されている
- 他の薬との相互作用については十分なデータがない
摂取を検討する際の考え方
メシマコブを摂取するかどうかを考える際、以下の点を理解しておくことが重要です。
- メシマコブ単独でがんが治るという科学的根拠はない
- 標準治療(手術、抗がん剤、放射線治療など)の代わりになるものではない
- 基礎研究での成果と人間での効果は別に考える必要がある
- 個別の症例報告は貴重な情報だが、全体的な効果を示すものではない
- 摂取する場合は、必ず主治医に相談する
科学的根拠に基づく判断のために
抗がん剤などの医薬品の効果は、数百人規模の患者さんを対象に「薬を摂取したグループ」と「摂取しないグループ」に分け、それぞれどのくらい差があるかを分析し、明らかに差があり効果があると認められたものだけが承認されます。
メシマコブに関しては、このような人間に対する大規模な臨床試験は行われていないため、どのくらいの確率で効果があるのか、何の成分がどのように作用してがんに影響するのかは、科学的には明らかになっていません。
韓国では国家プロジェクトとして研究が進められ、特定の菌株(PL2、PL5)から抽出した製剤が医薬品として認可されていますが、日本で流通している製品が同じ菌株を使用しているとは限りません。
今後の研究に期待されること
メシマコブに関しては、基礎研究レベルでは興味深い結果が多数報告されています。今後、以下のような研究が進むことで、より確かな情報が得られる可能性があります。
- 大規模な臨床試験による効果と安全性の検証
- 有効成分の特定と作用機序の解明
- どのような患者さんに効果が期待できるかの解明
- 標準治療との適切な組み合わせ方の研究
- 副作用や相互作用に関する詳細な調査
現時点では、メシマコブは「可能性が示唆されているが、人間での効果は科学的に十分証明されていない」という段階にあります。
がん治療における補完代替療法として検討する際は、主治医とよく相談し、標準治療を妨げることがないよう注意しながら、自分自身で情報を整理して判断することが大切です。
参考文献・出典情報
- 日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」Q60.免疫療法,高濃度ビタミンC療法,アガリクスやメシマコブなどの補完代替医療は乳がんに対して効果が期待できますか
- Wikipedia「メシマコブ」
- 小林製薬中央研究所「メシマコブ」
- PubMed「Medicinal mushroom Phellinus linteus as an alternative cancer therapy」
- PubMed「Phellinus linteus suppresses growth, angiogenesis and invasive behaviour of breast cancer cells through the inhibition of AKT signalling」
- PubMed「Immunostimulatory Effect of Postbiotics Prepared from Phellinus linteus Mycelial Submerged Culture」
- Memorial Sloan Kettering Cancer Center「Phellinus linteus」
- 国立健康・栄養研究所「健康食品の安全性・有効性情報」
- Molecules「A Review: The Bioactivities and Pharmacological Applications of Phellinus linteus」
- PMC「Medicinal mushroom Phellinus linteus as an alternative cancer therapy」

