
アガリクスとは何か?その歴史と背景
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
アガリクスは正式にはアガリクス・ブラゼイ・ムリル(Agaricus blazei Murill)と呼ばれるキノコで、ハラタケ属に分類されます。日本では「ヒメマツタケ」や「カワリハラタケ」という名称でも知られています。
原産地はブラジルのピエダーデ地方とされており、北米にも自生しています。日本には1965年、食用キノコの一種として持ち込まれました。しかし、生のアガリクスは腐敗が早く、食用キノコとしては普及しませんでした。
アガリクスが注目されるきっかけとなったのは、1980年に三重大学の伊藤氏らがアガリクスの抗腫瘍活性を報告したことです。この報告を皮切りに、アガリクスの抗がん効果への期待が高まり、研究が進められるようになりました。
アメリカでも2003年に、国立がん研究所が出資してアガリクスの抽出成分による抗がん効果を調査する臨床試験が開始されました。日本国内では1990年代以降、アガリクスの栽培方法が確立され、サプリメントとして乾燥キノコや抽出エキスが販売されるようになり、300億円以上とも言われる市場が形成されました。
アガリクスが免疫に働きかけるメカニズム
アガリクスの抗がん作用のメカニズムとして、これまでの研究で報告されているのは、主に免疫細胞を活性化する作用です。
有効成分とされる物質
アガリクスの有効成分としては、β(ベータ)グルカンや低分子分画ABMK-22などが知られています。βグルカンは、グルコース(ブドウ糖)を主成分とする多糖体で、免疫細胞を刺激する作用があるとされています。
培養細胞と動物実験での研究結果
培養細胞や実験動物を用いた研究では、以下のような免疫活性化作用が報告されています。
| 免疫細胞の種類 | 報告されている作用 |
|---|---|
| マクロファージ | 活性化が認められた |
| ナチュラルキラー(NK)細胞 | 活性化が認められた |
| 樹状細胞 | 活性化が認められた(リンパ球を教育する司令塔の役割) |
動物実験においては、マウスにがん細胞を移植した後、アガリクス抽出エキスを投与したところ、がん細胞の増殖が抑えられたという報告や、がんが増殖する際に必要な新しい血管の形成が抑制されたという報告があります。
ヒトに対する免疫機能への影響
人間を対象に行われた研究でも、アガリクスを摂取することでNK細胞が活性化されるなど、免疫機能への有効性を示唆した報告があります。
しかし、その一方で免疫機能への影響はなかったとする報告も存在しており、アガリクスによるヒトの免疫機能への影響については、現時点では明確な結論は得られていません。
がん患者さんへの効果を調べた臨床試験
アガリクスに関しては1990年代から宣伝本が多く発売され、「がんが消えた」「奇跡の生還」「驚異の治癒力」などといった言葉でPRされてきました。
では、実際のところ、人間に対する臨床試験という形で、アガリクスの効果はどこまで検証され証明されているのでしょうか。
信頼できる論文掲載機関とは
研究報告はどんな機関や会社でも自由に行うことができますし、学会での発表も、ある程度の基準はありますが「発表だけ」なら可能です。
重要となるのは論文での報告ですが、論文は「どこに掲載されているものか」が重要です。論文は掲載される前に必ず専門家による査読(チェック)が入りますし、信用できる機関で掲載された論文はそれなりに信頼性があるといえます。
世界的な論文掲載機関といえるのは、アメリカ国立衛生研究所のアメリカ国立医学図書館(NLM)によるPubMed(パブメド)です。ここに掲載される論文は医学的に信用できるものとされており、現役の医学生や医師なども利用しています。
PubMedに掲載されている臨床試験論文
PubMedでアガリクスの情報を検索すると300件程度の情報が出てきますが、実際にがん患者さんを対象に、アガリクスを摂取してもらって、その効果を臨床試験で確認している論文は限られています。
韓国での婦人科がんを対象とした臨床試験
2004年に提出された論文では、韓国ソウルのKangnam St.Marys Hospitalで、婦人科がんの患者さん100名(子宮頸がん61名、卵巣がん35名、子宮体がん4名)を対象に臨床試験が実施されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 化学療法を受けているがん患者さんに対して、アガリクス摂取が免疫学的状態および生活の質に及ぼす有益な効果を調べる |
| 実施方法 | アガリクスを摂取するグループ39名と、偽物を摂取するグループ61名に分けて比較 |
| 副作用への影響 | 食欲、脱毛、嘔吐・嘔気、不眠、体力、精神的安定性、不安の項目で症状の改善を認めた |
| 免疫機能への影響 | NK細胞の活性化が統計学的に有意に上昇。ただし、その他の免疫機能については差を認めず |
この結果を受けて、論文の著者らは「アガリクスは、婦人科がんの化学療法中の副作用を軽減する可能性がある」と報告しています。
その他の臨床試験結果
2013年には、寛解状態のがん患者さんに対してアガリクスが生活の質(QOL)の改善を示したというオープン試験の報告がPubMedに掲載されています。
一方、2010年に発表された前立腺がん患者さんを対象とした非盲検試験では、アガリクスを含むサプリメントの摂取による有意な抗がん効果は認められませんでした。ただし、深刻な副作用も認められませんでした。
2015年には、多発性骨髄腫患者さんを対象とした無作為化二重盲検臨床試験が実施されましたが、免疫抑制細胞が増えたため有意な効果は見られなかったという報告もあります。
日本語論文での報告
PubMedには収載されていない日本語の論文で、アガリクスを摂取することによって生活の質(QOL)を改善できるかどうかを検討した臨床試験が2つ報告されています。
1つ目は、乳がん、子宮体がん、卵巣がんの女性患者さん16名を対象にした試験で、アンケート調査によって以下の項目に関してQOLの改善を認めたと報告されています。
- 力仕事ができるか
- 睡眠に差し障りがあるか
- 体力が弱った感じがあるか
- イライラするか
- 怒りっぽいか
- 物覚えが悪いか
- 体の調子が悪くて経済的に支障があるか
2つ目は、高齢者消化器がん患者さん14名を対象にした症例観察研究で、6か月間アガリクスを摂取したところ、「身体を休ませる必要がなくなった」「吐き気が少なくなった」などの項目において改善が認められています。
これらの報告の評価について
1つ目の報告は質問事項が主観的であり統計的な問題があること、2つ目の報告は症例観察研究という方法での検討ですので、エビデンスレベルが低いことなどが指摘できます。
また、これら2つの報告では、試験の対象となった患者さんの人数がいずれも十数名と少ないことなどを考慮すると、試験の結果については控えめに解釈する必要があります。
アガリクスの安全性に関する問題点
発がんプロモーション作用の報告
2006年2月、厚生労働省は国内で流通していた製法の異なる代表的なアガリクス製品3つについて、ラット(ネズミの一種)を用いた発がんを促進する作用を確認する試験を実施しました。
その結果、「キリン細胞壁破砕アガリクス顆粒」について、製品の摂取目安量の約5倍から10倍程度の量を与えたところ、多臓器イニシエーション処置を行った試験系において発がんを促進する作用が認められました。
具体的には、腎臓、甲状腺などに腫瘍性の病変の増加が認められたのです。なお、「仙生露顆粒ゴールド」および「アガリクスK2 ABPC細粒」では、発がんプロモーション作用は認められませんでした。
この結果を受けて、厚生労働省はヒトへの健康被害を未然に防ぐため、製品名を公表して注意喚起を行い、キリンウェルフーズ社に対して製品の自主的な販売停止と回収を要請しました。
肝障害の報告
厚生労働省にアガリクスを含む製品による健康被害が明らかとなった事例が正式に報告されたことはありませんが、肝障害の疑いなどの事例が報道されたことや、肺炎や肝障害などの複数の疑い事例が学術雑誌に掲載されています。
2006年に発表された学術論文では、重度の肝障害を呈した進行がん患者さん3例が報告され、そのうち2例は劇症肝炎で死亡しています。患者さんはすべてアガリクス抽出物を服用していました。
この報告では、アガリクス抽出物と肝障害との間に強い因果関係のあることが示唆され、「予期せぬ肝臓障害が報告された場合、医師はアガリクス抽出物の使用を原因要素の一つとして考えるべきである」と考察されています。
製品による品質の差異
アガリクスは菌株、栽培条件、産地により、その特性や含有成分が異なり、原材料や製品でかなり品質に差異があります。
栽培方法には、自然露地栽培、ハウス栽培、タンク培養栽培法などがあり、産地もブラジル、中国、日本、米国など様々です。アガリクスは成長する過程で、栽培されている土地の栄養分を吸収するため、重金属の多い大地で栽培されたものは、重金属を含んでいる可能性があります。
そのため、製品ごとに品質管理の状態や安全性、成分は異なり、すべてのアガリクス製品で同じ効果や副作用が起きるとは限りません。
厚生労働省の見解と注意事項
厚生労働省のサイトには、アガリクスに関する重要な記述があります。
有効性について
アガリクスは「抗がん効果がある」「免疫力を高める」などといわれ、一般に食品として販売されていますが、医薬品とは異なり効能効果を標榜することはできません。
また、一般に販売される食品については、国が事前に審査を行う仕組みではないことから、厚生労働省では、ヒトに対する有効性について確認していません。
安全性について
今回ラット(ネズミの一種)で発がんを促進する作用が認められた製品は、製品の摂取目安量の約5倍から10倍程度の量を与えたところ発がんプロモーション作用が認められたものであり、ヒトに対してただちにがんを引き起こすということではありません。
しかし、摂取量の何倍もの量を摂れば発がんにつながる可能性があるという注意喚起として理解する必要があります。
アガリクス摂取によるがん患者さんへの影響のまとめ
これまでの科学的知見を整理すると、以下のようにまとめられます。
生活の質(QOL)について
| 評価項目 | 現状 |
|---|---|
| QOL改善効果 | 改善を示唆する報告は数件あるが、科学的根拠としては十分な裏付けはとれていない |
アガリクスを摂取することによって、QOLを改善することを人間に対する臨床試験で証明した報告は数件ありますが、対象者数が少ないことや研究方法の問題などから、科学的根拠としては十分な裏付けはとれていません。
化学療法の副作用軽減について
| 対象 | 結果 |
|---|---|
| 婦人科がん患者さん | 化学療法中の副作用を軽減する可能性がある |
韓国で実施された婦人科がん患者さんを対象とした臨床試験では、アガリクスを摂取することによって化学療法中の副作用を軽減する可能性があることが示されています。
ただし、これは1つの臨床試験の結果であり、他のがん種においても同様の効果があるかどうかは不明です。
再発の予防や生存期間の延長について
| 評価項目 | 現状 |
|---|---|
| 再発予防 | 証明した報告はない |
| 生存期間延長 | 証明した報告はない |
アガリクスを摂取することによって、がんの再発を予防したり、生存期間を延長したりすることを人間に対する臨床試験で証明した報告はありません。
服用に関する注意事項
アガリクスを摂取することによる健康被害として、以下のような症状が報告されています。
- 肝炎、劇症肝炎
- 肺炎
- 皮膚炎
- 腹部膨満
- 下痢
ただし、製品ごとに品質管理の状態や安全性、成分は異なるため、すべてのアガリクス製品でこれらの症状が起きるとはいえません。
現時点でわかっていること、わかっていないこと
2026年2月現在、アガリクスに関して科学的に明らかになっている点と、まだ不明な点を整理します。
明らかになっている点
- 培養細胞や動物実験では、免疫細胞を活性化する作用が認められている
- 韓国での臨床試験では、婦人科がん患者さんの化学療法中の副作用軽減効果が示されている
- 一部の製品では、動物実験で発がんプロモーション作用が認められている
- 肝障害などの健康被害の報告がある
- 製品によって品質や成分に差異がある
まだ不明な点
- ヒトの免疫機能に対する確実な効果
- がんの再発予防効果
- 生存期間の延長効果
- 婦人科がん以外のがん種における副作用軽減効果
- どのような製品であれば安全性が高いか
摂取を検討する際の判断材料
これらの情報をもとに、アガリクスを摂取するのか、摂取する価値があるのか、という点を検討する際の判断材料として、以下の点を考慮することが推奨されます。
検討すべきポイント
| 項目 | 検討内容 |
|---|---|
| 目的の明確化 | 何を目的にアガリクスを摂取するのか(QOL改善、副作用軽減など) |
| 科学的根拠 | その目的に対して、どの程度の科学的根拠があるか |
| がん種の確認 | 自分のがん種で効果が報告されているか |
| 製品の品質 | 製品の品質管理、産地、栽培方法が明確か |
| 医師への相談 | 主治医や専門家に相談したか |
| 費用対効果 | 費用に見合う効果が期待できるか |
| 副作用のリスク | 肝機能障害などのリスクを理解しているか |
医師への相談の重要性
アガリクスを含む健康食品を摂取する場合、必ず主治医や専門家に相談することが重要です。
特に、肝機能に問題がある方、他の薬を服用している方、化学療法や放射線療法を受けている方は、相互作用や副作用のリスクがあるため、専門家の意見を聞くことが必要です。
また、アガリクスはあくまで補完的な位置づけであり、標準的ながん治療の代替として使用すべきではありません。
補完代替医療としてのアガリクスの位置づけ
日本では、厚生労働省がん研究助成金による事業として「がんの補完代替医療ガイドブック」が2006年4月に第1版、2010年4月に第2版、2012年2月には第3版が発行されました。
このガイドブックでは、アガリクスを含む健康食品について、以下のように述べられています。
「治療期間中もしくは治療が終了し経過観察中のがん患者さんが、日常の一般的な食事について栄養士から指導を受ける場合を除いて、治療目的や再発予防目的に特定の健康食品を利用することは現段階では確固たる科学的な裏付けはない」
しかし、それでも利用したい場合は、臨床試験に参加したりするなど医師や専門家の管理のもとで利用すべきとしています。
最後に
アガリクスに関する科学的知見は、2026年2月現在も発展途上の段階にあります。
一部の臨床試験では、化学療法中の副作用軽減やQOL改善の可能性が示されていますが、がんの再発予防や生存期間の延長といった効果については証明されていません。
また、製品によって品質や成分に大きな差異があること、肝障害などの健康被害の報告があることも事実です。
アガリクスの摂取を検討される際は、これらの情報を十分に理解したうえで、自身の状況に応じて判断されることをお勧めします。
参考文献・出典情報
- 厚生労働省「アガリクス(カワリハラタケ)を含む製品に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/060213-1.html - 国立がん研究センター「がんの補完代替医療ガイドブック」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/can_guide/index.html - 日本乳癌学会「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/p2019/guidline/g8/q60/ - 四国がんセンター「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」
https://shikoku-cc.hosp.go.jp/cam/camwhat/kenko.html - 蕗書房「がんの先進医療 - アガリクスの有用性や副作用を検証」
https://gan-senshiniryo.jp/supplement/agaricus - 蕗書房「宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント 徹底リサーチ 第1回 アガリクス」
https://gan-senshiniryo.jp/research_supplement/post_3592 - PubMed「Effects of Agaricus blazei Murill mushroom extract on pain and health-related quality of life in cancer patients: An open-label study」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24050580 - PubMed「Severe hepatotoxicity associated with dietary supplement Agaricus blazei Murill」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17105737 - 国立健康・栄養研究所「健康食品の安全性・有効性情報」
https://hfnet.nibiohn.go.jp/ - Wikipedia「アガリクス」
https://ja.wikipedia.org/wiki/アガリクス

