がん専門のアドバイザー、本村です。
この記事は、乳がんと診断され「手術をしたくない」「手術以外の治療法はないの?」と調べている人向けのものです。(2017年執筆。2019年に更新しています)
非浸潤乳がん(ステージ0期のDCIS)や、ステージ1の初期・早期乳がんの人だけではなく、腫瘍が5cmを超えるような局所進行乳がんの患者さんのことも想定して書いています。
乳がんの疑いが強いと診断されると、どこの病院でも「手術」を提案されることになります。このとき「手術したくない。しない選択はあるのか」「手術以外の治療法は?」と考えるのは自然なことです。
ところが医師から手術以外の方法を提案されることはまずありません。
現在の乳がん治療は、標準治療(保険内治療)が、ガイドラインに基づいて行われるためです。
手術以外の方法は標準治療外となるため、治療の選択肢は各段に狭いものになりますが、それでもいくつかは存在します。
それらの治療手段、選択肢について解説します。
(民間療法や代替療法ではなく医療行為としての「手術以外の治療方法」が対象です)
一般の病院では、手術以外の選択肢は提案されない。
乳がんと診断されると、0期の非浸潤乳がん(DCIS)であれ、局所進行乳がんであれ「まず第一に手術」が標準治療となります。
標準治療とは、「乳がん学会が決め、厚生労働省が承認している保険治療」であり、がんセンターや大学病院、総合病院など一般に通う病院では標準治療以外の治療は(原則として)受けられません。
つまり、基本的には手術以外の選択肢は示されないのです。
なぜ手術が最優先なのか?
乳がんという病気が、乳房内に留まる病気であれば、命のリスクには繋がりません。乳がんの一番の問題は「再発したり、転移したりすること」です。
仮に手術で乳房の腫瘍をきれいに切除できたとしても、再発する可能性は消えず、乳房以外の部分(肺や骨や脳)に遠隔再発(転移)すると、命のリスクに繋がっていきます。
そのため乳がんの治療は「手術をして切り取れば終わり」ではなく、その後の再発・転移のリスク要因を見極め、なるべく早く対応していくことが重要になります。
手術をすることで、乳がんの詳しい情報が手に入ります。手術後に「切除した組織を調べる=病理検査」をすることで、がん細胞の特徴やタイプを調べ、「これならこのくらいのリスクがある」と予後を予測します。
(→乳がん病理検査の結果の見方はこちらの記事で)
つまり、手術は「治療だけのために行う」のではなく、重要な検査も兼ねています。
針生検による細胞診断で分かる情報はあくまで「仮」です。手術したあとの組織診を「本来のもの」と位置付けています。実際に生検と手術後では乳がんのタイプ診断が変わることもあります。
むしろ手術をしてからの組織診~再発予防に治療の軸を置いているのが現在の乳がん治療といえるのです。
「乳がんのステージ」も手術をして組織を調べ、組織診断をすることではじめて確定します。
ステージが確定したら、それに応じて将来の治療計画が考えられます。手術というステップ抜きにそれはできないので、どこの病院に行っても「乳がんと診断されたらまず手術」「手術以外の選択肢はない」という話になるのです。
それゆえに、「目に見える局所の腫瘍を殺して終わり」とする医療は主流ではありませんし保険適応ではないのです。
それでも手術をしたくない。乳がんの手術以外の治療法はあるのか?
民間療法(代替療法)まで手を拡げれば、免疫細胞療法や遺伝子治療、ビタミンCからビワ温灸など様々な手段が目に入りますが、ここでは、これらの民間療法は対象外とします。
対象とするのは、あくまで「標準治療の流れの中で、選択し得る手術以外の治療法」です。
まず、従来からある手段として、「乳がんのラジオ波焼灼療法(RFA)」と「乳がんの凍結療法」の2つがあります。
乳がんのラジオ波焼灼療法(RFA)
乳房内に小さな腫瘍が1つ、といった早期乳がんに対しては、乳房にメスを入れない「ラジオ波焼灼療法」が「先進医療」として行われています。
ラジオ波焼灼療法はすでに肝臓がんでは主要な治療法として実施されています。これは電気を通す針を乳房の腫瘍に刺し、数分間通電させることによりがん細胞(がん腫瘍)を死滅させる方法です。
適応となるのは乳がんの腫瘍径が1.5cm以下の早期がんであること。そして実施しているのは国立がんセンター中央病院など一部の病院に限られます。
重要な知識として理解しておくべきことは【先進医療で行われている、ということは厚生労働省が定める「評価療養」だ】ということです。
つまりこれは保険診療として認められていない先進的な医療技術に対して、将来的に保険診療の対象にすべきかどうか、検討される段階にある医療です。
現在、国立がんセンター中央病院で行われている「乳がんのラジオ波焼灼」の内容は「ラジオ波焼灼+数週間後に放射線治療を追加する」というものです。
「ラジオ波+放射線」が標準治療である手術に比べて治療成績が劣らないこと、整容性が優れているかどうかを評価することが目的ですので、ラジオ波だけ実施して終わり、ではありません。
乳がんの凍結療法
温度をコントロールできる金属製の針を使い、乳房内の腫瘍を凍結させて破壊する治療を乳がんの凍結療法といいます。
これは保険適応外(自由診療)の治療法ですが、千葉の亀田メディカルセンター、慈恵医大付属柏病院で行われています。
これが適応となるのはがん腫瘍の直径が1.5cm以下(亀田は1.0cm以下)の早期がんです。これも「凍結療法だけして終わり」ではなく、センチネルリンパ生検といって、乳房周辺のリンパ節を切除する手術を事前に受けなければなりません(リンパ節転移がないか確認するため)。
保険適応でないため、センチネルリンパ生検+凍結療法で慈恵医大なら110万円、亀田なら60万円ほどの費用になります。無事に実施できればほぼ傷跡が残らず、日帰りで治療を終わらせることが可能です。
ラジオ波、凍結療法が選択できるのは早期がんだけ
上記の2つの方法はいずれも早期がんが対象です。腫瘍径が1.5cmを越えていたり、腫瘍が複数あったり、石灰化が広がっていたり、リンパ節に転移の疑いがあるなどの場合は適応となりません。
放射線治療という選択肢
通常、放射線治療は「手術後の補完的な治療手段」として行われます。主な手段は「乳房の温存手術後、温存した乳房に対して、再発予防手段として照射する」ものです。
手術の代わりに放射線治療だけ実施する、というやり方は用いられません。
放射線治療は手術に比べて根治性(がんを体から取り除ける確率)が低いとされ、組織を採取できないためです。
早期がんだけでなく、局所進行乳がんに対しても実施できる「放射線治療の効果を高めるKORTUC(コータック)」
KORTUC(コータック)とは、簡単にいえば「放射線治療の効果を高める手段」です。
放射線の感受性を高める薬=放射線増感剤を腫瘍に注入し放射線治療の効果を高めるやり方で、高知大学の小川名誉教授が開発したものです。
乳がんに対して「手術の代わりに放射線をする」のは保険適応外であり、このコータックを使うやり方も当然保険適応外の自由診療ですが、「効果が高い」といくつかの病院で積極的に実施されるようになっています。
放射線治療の効果を高めるKORTUC(コータック)の仕組み
がん細胞の中に「酸素」が多く含まれているほど、放射線は効果を示しやすいのですが、腫瘍が大きくなるにつれて、細胞内の酸素が減っていきます。
酸素が減るだけでなく、酸化を防ぐ酵素「ペルオキシダーゼ」も増えるので、腫瘍の大きさが2cmを超えてくる段階では放射線の効果が半減するといわれています。
5cm以上のがんでは、酸素を失った細胞が大半を占め、放射線治療の効果が3分の1程度まで低下するとされています。
これが「放射線は根治性が低い」とされる理由です。非浸潤乳がん、早期の乳がんでも1.5cm~2cm近くになることがあり、従来の放射線では十分にがん細胞を破壊できない可能性が高くなります。
この問題に対処するのがコータックであり、「細胞内の酸素を増やすことで、放射線の効果を高めるやり方」です。
抗酸化物質である「ペルオキシダーゼ」の働きを弱め、活性酸素を発生するオキシドール(3%の過酸化水素水)を腫瘍に注射してから放射線を照射します。
乳がんに対するコータックを使用した放射線治療の効果
コータックは増感剤を注射して注入する必要があるため皮膚の表面に近い部分の腫瘍に適しています。
そのため、「乳がん」の患者さんを対象に多くの臨床試験、自由診療による治療が行われてきました。
小川名誉教授らが過去に高知大学で行った臨床試験(2006年~2013年)では、乳がんの患者さん69人が手術せずに放射線だけで腫瘍を消滅させることができ、その後の5年生存率は100%という結果が報告されています。
作家の藤原緋沙子さんは2007年に4cmの局所進行乳がんと診断され、当然「手術しかない」と提案されましたが、手術を避けてコータックによる放射線治療を実施。
2007年から10年以上経過した今も再発がないとしています。
その他、東京放射線クリニックで2013年に「7cmの局所進行乳がん」でコータック放射線治療を受けた患者さんは、16回の放射線治療の間に5回、増感剤の注射を行い、腫瘍は消失。
治療後1年3か月を経過したタイミングでも腫瘍は認められず、ホルモン療法を継続しているという報告もあります。
これらの「効果のあった実例」が広まっていき、すでに700例以上が行われています。
乳がんに対するコータックを使用した放射線治療のデメリット
手術を回避して、乳がんを消滅させる可能性がある、というメリットは大きいですが、デメリットは「治療費」です。
保険適応外となるため、(放射線の線量や増感剤を入れる回数にもよりますが)平均的な治療日は約160万円とされています。
また、コータックを受けられる病院もかなり限定的です。
東京放射線クリニック(江東区)、神戸低侵襲医療センター(神戸市)、大阪医科大学病院(高槻市)、名古屋市立大学病院(名古屋市)、長崎県島原病院(島原市)などで受けられますが、全国でも数施設、というのが現状です。
イギリスでの臨床試験が進み、コータックの開発会社がニッセイより投資を受けるなど、徐々に注目度は上がっていますが、その歩みが早いとはいえません。
増感剤は安価なものであり、その製剤化に、製薬会社の関心が薄いことや、外科主体の乳がん業界のなか、国内で臨床試験が進み、保険適応化に至るという道筋は今のところ見えていません。
日本は「主治医制」なので、コータックだけ他の病院で受け、その後の化学療法などを大学病院やがんセンターで受ける、ということも原則不可です。
初期治療を受けた病院に行ってください、という話になるので、遠方の人は「初期治療の後のこと」も考えると二の足を踏んでしまうでしょう。
まとめ
日本を含む先進国では「国際的なガイドラインに基づく標準治療」が絶対的な軸となっています。
そのため、標準治療を外れる選択肢を選ぼうとする(乳がんの場合だと、手術以外の治療法を選ぼうとする)と非常に苦労することになります。
この記事で挙げたとおり、いくつかの選択肢はありますが、市民権を得られている手段ではないために思わぬ苦労もあります。
私がサポートしている患者さんでも、治療をしない選択や、標準治療をしない選択をした方は多いので、どんな問題が起きてくるかはよく分かっています。
いずれにしても表面上の情報だけではなく、きちんと体系立てた知識を得て、情報をしっかり集めたうえで判断することが大切になります。