「前立腺がんかどうか」を診断するための検査の方法は、「PSA検査」「直腸診」「経直腸的超音波(エコー)検査」の3つが中心です。
PSA検査
通常の血液検査と同様に腕から血液を採って、PSAという前立腺かんの腫瘍マー力ーを調べる検査です。PSAは前立腺で作られるたんぱく酵素のひとつです。健康な人でも血液中に存在しているのですが、前立腺がんになると高い数値を示します。
50歳以上の男性のPSAの血中濃度は4.0ng/ml未満が正常、4.0~10がグレーゾーン、10.1以上は「がんが強く疑われる」ことになります。ただし、PSAが高い値を示さなくても前立腺がんということもありますし、高い値でもがんではないこともあります。あくまで疑いを検知するための検査であり、絶対的な指標ではありません。
直腸診
医師が受診者の肛門から指を挿入して直腸の壁越しに前立腺に触れて、肥大やシコリを調べる検査です。指の届かないところにがんがあると分かりませんし、早期の前立腺がんはシコリとして触れられるものが存在しないこともあるので、次の経直腸的超音波検査を追加して行います。
経直腸的超音波(エコー)検査
細長い超音波プローブを直腸に入れて前立腺を超音波画像でみて調べる検査です。がんの疑いが強いと、超音波で前立腺をみながら「生検」が行われます。この生検には「経直腸式」と「経会陰式」があります。これは直腸に入れた超音波プローブで前立腺をみながら会陰部、もしくは直腸壁越しに前立腺に針を刺し、組織を採って調べる方法です。
これら3つがスクリーニング検査として行われ、がんの疑いが強いとなるとがんの進行度や広がりを検査するために「CT(コンピューター断層撮影)検査」「MRI(磁気共鳴断層撮影)検査」「骨シンチグラフィ」などの画像検査が行われます。
ここで前立腺がんと確定診断がつくと、治療はがんの進行度、悪性度、患者の年齢、患者の健康度合い、患者の希望など、総合的に考えられて決定することになります。
進行度は他のがんと同様にTNM分類が行われています。Tは前立腺でのがんの広がり、Nはリンパ節転移の有無、Mは遠隔転移の有無ですが、あまりに複雑になるので、臨床的にはステージ(病期)A~Dの4段階が用いられています。患者サイドの理解もこの4段階が基礎知識だといえるでしょう。
ステージA
がんの疑いを持つことなく前立腺肥大症の手術をして、病理検査でがんが偶然に発見される場合が多く、肉眼では確認できないほど小さながんで、当然リンパ節転移も遠隔転移もない。初期がん。
ステージB
がんが前立腺内にとどまっている「限局がん」で、やはりリンパ節転移も遠隔転移もない早期がん。
ステージC
がんが前立腺の被膜外(表面)に顔を出したり、精のうまたは膀胱頸部などの近接の器官のいずれかに浸潤した「局所浸潤がん」。ただし、リンパ節転移や遠隔転移はない。「局所進行がん」といわれている。
ステージD
ステージDは、D1とD2に分けられる。D1は骨盤内リンパ節に転移はあるが、遠隔リンパ節や骨などの他臓器に転移がない。D2は、骨盤外リンパ節や骨などの他臓器に転移がある。
このステージを第1に考え、これにグリソン・スコアを加味して大きな意味での治療法は決定します。グリソン・スコアとはがん細胞自体の悪性度を示すものです。
まず、グリソン分類はグレード①から⑤までの5段階に分類されます。①が最も正常細胞の形態に近いおとなしいがん。逆に、⑤は正常細胞の形からほど遠い悪性度の高いがんです。
前立腺がんの場合、異なるグレードのがんが混じりあっているので、その悪性度をより正確に表す必要があります。そこで、顕微鏡で前立腺がんの組織を見て、最も多いグレードを第1グレードとし、次に多いのを第2グレードとします。この2つを足したものをグリソン・スコアと呼びます。
たとえば、最も多いのがグレード④で、次に多いのがグレード③とすると7となります。グリソン・スコアは2から10まで9段階に分類され、2~6までが悪性度の低い低リスクがんで、中間が7、悪性度の高い高リスクがんは8~10です。
なお、このグリソン・スコアに「PSA値」と「T分類(局所進展度)」を加え、3つの因子から転移のない前立腺がんを低・中・高リスク群に分類する「リスク分類」もよく使われます。
ちなみに低リスク群は「PSAが10ng/ml以下、グリーソン・スコア6以下、前立腺がんの広
がりはT1かT2aの3条件すべてを満たしたもの」。高リスク群は「PSAが20ng/ml以上、グリーソン・スコアが8~10、前立腺がんの広がりはT3(局所進行)、の3条件のうち少なくとも1つを有する場合」です。
ここまでは「自身のがんの状況」をしっかり把握するために必要な情報ですので、治療方針の説明を受ける際にはきちんと確認しておきましょう。
以上、前立腺がんの検査についての解説でした。