
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
大腸がんや消化管間質腫瘍、肝細胞がんの治療で、これまでの標準治療が効かなくなった患者さんにとって、新たな治療選択肢として注目されているのがレゴラフェニブ(商品名:スチバーガ)です。
この薬は、がん細胞の増殖に関わる複数の仕組みを同時に抑える「マルチキナーゼ阻害薬」と呼ばれる分子標的薬です。飲み薬として服用できるため、入院せずに治療を継続できる点も患者さんにとってメリットとなっています。
この記事では、レゴラフェニブの特徴、対象となるがんの種類、期待できる効果、副作用への対処法、そして治療にかかる費用について、できるだけ分かりやすく説明していきます。
レゴラフェニブ(スチバーガ)とはどのような薬か
レゴラフェニブは、バイエル薬品株式会社が製造販売する経口抗がん剤です。一般名は「レゴラフェニブ水和物」、商品名は「スチバーガ錠」として知られています。
この薬の最大の特徴は、がん細胞の増殖や進行に関わる複数の分子を同時に抑制できる点です。具体的には、血管新生(がんに栄養を送る血管ができること)、腫瘍微小環境の形成、そしてがん細胞そのものの増殖という3つの重要な仕組みに作用します。
40mg錠の剤型で提供され、通常は1日に160mg(4錠)を服用します。投与経路は経口のみで、注射剤はありません。
レゴラフェニブは、既存の治療法が効かなくなった進行がんに対して使用されることが多く、特に標準治療を尽くした患者さんにとって重要な選択肢となっています。
対象となるがんの種類
レゴラフェニブが保険適応として認められているがんは、以下の3種類です。
治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
フッ化ピリミジン系抗がん剤、オキサリプラチン、イリノテカン、ベバシズマブなどの標準的な治療を行った後に病状が進行した患者さんが対象となります。
また、腫瘍組織のKRAS遺伝子が野生型(変異がない)の場合は、セツキシマブやパニツムマブといった分子標的薬による治療後に進行した場合にも使用されます。
重要な点として、レゴラフェニブは一次治療や二次治療での使用ではなく、主に三次治療以降での使用が想定されています。
がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍
消化管間質腫瘍(GIST)は、胃や腸の筋肉層から発生する肉腫の一種です。
一次治療としてグリベック(イマチニブ)、二次治療としてスーテント(スニチニブ)を使用した後に病状が進行した患者さんが対象となります。これまで三次治療の選択肢が限られていたため、レゴラフェニブの登場は消化管間質腫瘍の患者さんにとって大きな意味を持っています。
がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞がん
ソラフェニブ(ネクサバール)による治療後に病状が進行した肝細胞がんの患者さんが対象です。
ただし、局所療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法など)の適応となる患者さんや、肝機能がChild-Pugh分類のB以上の患者さんには適応がありません。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
レゴラフェニブの特徴と作用機序
レゴラフェニブの作用機序は、複数のチロシンキナーゼを同時に阻害することです。チロシンキナーゼは、細胞の増殖や分化に関わる重要な酵素であり、がん細胞の増殖にも深く関与しています。
血管新生の抑制
がん細胞が大きくなるためには、酸素や栄養を運ぶ血管が必要です。レゴラフェニブは、VEGFR1、VEGFR2、VEGFR3、TIE2といった血管新生に関わる受容体を阻害することで、がん組織への血管供給を減らします。
腫瘍微小環境への作用
がんは、がん細胞だけで構成されているわけではありません。周囲には血管、線維組織、免疫細胞などが複雑に絡み合った「腫瘍微小環境」が存在します。
レゴラフェニブは、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)やFGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)を阻害することで、この腫瘍微小環境の形成を妨げます。
がん細胞の直接的な増殖抑制
KIT、RET、RAF-1、BRAFといった腫瘍形成に関わるキナーゼを阻害することで、がん細胞自体の増殖シグナルを遮断します。
このように、レゴラフェニブは単一の標的ではなく、複数の経路を同時に抑えることで抗腫瘍効果を発揮します。
効果と奏効率について
レゴラフェニブの効果は、複数の大規模臨床試験で確認されています。
大腸がんでの効果(CORRECT試験)
標準治療後に進行した大腸がん患者さん760例を対象とした国際共同第III相試験では、全生存期間の有意な延長が確認されました。
| 評価項目 | レゴラフェニブ群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 全生存期間の中央値 | 6.4ヶ月(196日) | 5.0ヶ月(151日) |
| 無増悪生存期間の中央値 | 59日 | 52日 |
| ハザード比 | 0.774(統計学的に有意) | |
この結果は、レゴラフェニブが生存期間を約1.4ヶ月延長できることを示しています。進行がんの治療において、わずかでも生存期間を延ばすことは患者さんにとって重要な意味を持ちます。
消化管間質腫瘍での効果(GRID試験)
イマチニブとスニチニブによる治療後に進行した消化管間質腫瘍患者さん199例を対象とした試験では、無増悪生存期間の延長が確認されました。
| 評価項目 | レゴラフェニブ群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 無増悪生存期間の中央値 | 4.8ヶ月 | 0.9ヶ月 |
| ハザード比 | 0.27(統計学的に有意) | |
レゴラフェニブ群では、病状の進行を抑える期間が約5倍も延長されています。三次治療の選択肢として、消化管間質腫瘍の治療に大きく貢献することが示されました。
肝細胞がんでの効果(RESORCE試験)
ソラフェニブ治療後に進行した肝細胞がん患者さん573例を対象とした試験では、全生存期間の有意な延長が認められています。
レゴラフェニブは、KRAS遺伝子変異の有無にかかわらず効果が認められる点も特徴です。一部の分子標的薬はKRAS遺伝子が野生型の患者さんにしか使用できませんが、レゴラフェニブにはそのような制限がありません。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与方法
成人の場合、レゴラフェニブは1日1回160mg(40mg錠を4錠)を食後に経口投与します。
投与スケジュールは以下の通りです。
・3週間連日投与(21日間)
・その後1週間休薬(7日間)
・これを1サイクル(計28日間)として繰り返す
食事との関係
レゴラフェニブは必ず食後に服用する必要があります。空腹時に服用すると、薬の血中濃度が低下してしまい、十分な効果が得られないためです。
また、高脂肪食(脂身の多い肉、揚げ物、バター、生クリームなど)を摂取した直後の服用も避けることが推奨されています。高脂肪食後では活性代謝物の血中濃度が低下するためです。
理想的には、低脂肪から中程度の脂肪を含む食事の後に服用するのが望ましいとされています。
用量調整について
副作用の程度や患者さんの状態によって、用量を調整する必要が生じることがあります。
減量する場合は、40mg(1錠)ずつ段階的に減らしていき、1日80mgを下限とします。つまり、160mg→120mg→80mgという順序で減量されます。
副作用が重篤な場合や、患者さんの全身状態が悪化した場合には、一時的に休薬したり、治療を中止したりすることもあります。
主な副作用とその対策
レゴラフェニブの臨床試験では、90%以上の患者さんに何らかの副作用が認められています。副作用を早期に発見し、適切に対処することが治療を継続するために重要です。
手足症候群(最も頻度の高い副作用)
手足症候群は、レゴラフェニブで最も高頻度に現れる副作用で、日本人患者さんでは約80%に発現するとされています。
症状は以下のようなものです。
・手のひらや足の裏の皮膚がピリピリ、チクチクする
・赤く腫れる
・痛みが生じる
・皮膚が厚くなったり、ひび割れたりする
手足症候群の予防と対策:
1. 治療開始前から保湿剤を毎日使用して、皮膚の乾燥を防ぐ
2. 手足への過度な圧迫や摩擦を避ける(締め付けの強い靴を履かない)
3. 長時間の立ち仕事や運動を控える
4. 熱いお湯での入浴や熱刺激を避ける
5. 必要に応じて厚くなった角質を優しく取り除く
6. 紫外線対策を行う
7. 症状が出た場合は早めに医師や薬剤師に相談する
グレード2以上の手足症候群が現れた場合は、用量を減量したり、一時的に休薬したりする必要があります。
下痢
下痢は約30~40%の患者さんに現れます。
対策としては:
・自分の排便パターンを把握しておく
・下痢が始まったら、医師が処方した止瀉薬をすぐに服用する
・十分な水分補給を心がける(脱水症状を防ぐため)
・刺激の強い食べ物、脂っこい食べ物、カフェインを避ける
・止瀉薬を服用しても改善しない場合は、すぐに受診する
高血圧・高血圧クリーゼ
レゴラフェニブは血管新生を抑制するため、高血圧が生じることがあります。約25~50%の患者さんに認められます。
予防と対策:
・家庭用血圧計を用意し、できるだけ同じ時間に血圧を測定する
・測定結果を記録して、医師に報告する
・頭痛、めまい、ふらつきが現れたら、すぐに受診する
・必要に応じて降圧薬が処方される
肝機能障害
肝機能検査値の上昇が高頻度で認められます。通常は軽度ですが、まれに重篤な肝機能障害が生じることもあります。
定期的な肝機能検査が必要であり、異常が認められた場合は用量調整や休薬が検討されます。
その他の重大な副作用
・出血:消化管出血、脳出血などが報告されています
・血栓塞栓症:心筋梗塞、脳梗塞などのリスクがあります
・消化管穿孔:腹痛や発熱が現れた場合は、すぐに受診が必要です
・可逆性後白質脳症:頭痛、痙攣、視覚障害などが現れることがあります
・間質性肺炎:咳、息切れ、発熱などの症状に注意が必要です
これらの重大な副作用は頻度が低いものの、生命に関わることもあるため、異常を感じたら速やかに医療機関を受診することが重要です。
その他の比較的多い副作用
| 副作用 | 発現頻度(目安) |
|---|---|
| 食欲減退 | 20~30% |
| 疲労・倦怠感 | 20~30% |
| 発声障害(声がれ) | 25~35% |
| 発疹 | 20~30% |
| 口内炎 | 20~25% |
| 脱毛 | 20~25% |
日常生活での注意点
身体活動の調整
手足症候群を予防するため、投与開始直後は激しい運動や長時間の立ち仕事を控えることが推奨されます。
ジョギングやマラソンなど、足裏に繰り返し圧力がかかる運動は特に避けるべきです。ウォーキングを行う場合も、クッション性の高い靴を選び、無理のない範囲で行います。
スキンケア
手足症候群の予防のため、治療開始前から保湿ケアを習慣化することが大切です。1日2回以上、尿素配合クリームなどの保湿剤を手足に塗布します。
併用注意の薬剤
レゴラフェニブは、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
血中濃度を上げる可能性のある薬剤:
・CYP3A4を阻害する薬(ケトコナゾールなど)
・グレープフルーツジュース
血中濃度を下げる可能性のある薬剤:
・CYP3A4を誘導する薬(カルバマゼピン、リファンピシン、フェニトインなど)
他に服用している薬やサプリメントがある場合は、必ず医師や薬剤師に伝えることが重要です。
歯科治療について
骨の壊死や創傷治癒の遅延が報告されているため、歯科治療が必要な場合は事前に医師に相談することが推奨されます。
保険適応と費用・自己負担額
保険適応の状況
レゴラフェニブ(スチバーガ)は、前述した3つの適応症に対して、日本で保険適応が認められています。
・治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん
・がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍
・がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞がん
これらの適応症に該当する患者さんであれば、健康保険を使用して治療を受けることができます。
薬価について
2026年1月現在、レゴラフェニブ(スチバーガ錠40mg)の薬価は1錠あたり5,682.6円です。
標準的な投与量は1日160mg(4錠)ですので、1日あたりの薬価は約22,730円となります。
1サイクル(28日間)では、実際の投与日数が21日間なので、薬剤費の総額は以下のようになります。
21日間 × 22,730円 = 約477,330円(1サイクルあたり)
これは薬剤費のみの金額であり、診察料、検査料、調剤料などは含まれていません。
患者さんの自己負担額
日本の健康保険制度では、患者さんの窓口負担は年齢や所得によって異なります。
・現役世代(70歳未満):3割負担
・70~74歳:2割負担(現役並み所得者は3割)
・75歳以上:1割負担(一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割)
ただし、がん治療は高額になることが多いため、高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額を大幅に抑えることができます。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度は、1ヶ月間(同じ月内)の医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超えた金額が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、年齢と所得区分によって異なります。70歳未満の一般的な所得区分での例を示します。
| 年収の目安 | 自己負担限度額(月額) |
|---|---|
| 年収約370万円~約770万円 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% |
| 年収約770万円~約1,160万円 | 167,400円+(総医療費-558,000円)×1% |
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(総医療費-842,000円)×1% |
例えば、年収が約500万円の方がレゴラフェニブ治療を1ヶ月間受けた場合、医療費の総額が約50万円であったとすると、自己負担限度額は以下のようになります。
80,100円 + (500,000円 - 267,000円) × 1% = 約82,430円
つまり、1ヶ月あたりの実質的な自己負担額は約8万円程度に抑えられます(所得区分や総医療費によって変動します)。
高額療養費制度を利用するには、事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いが自己負担限度額までで済みます。
医療費控除について
確定申告時に医療費控除を申請することで、所得税の一部が還付される場合があります。1年間(1月1日~12月31日)の医療費の合計が10万円(総所得金額が200万円未満の場合は総所得金額の5%)を超えた場合、超えた分について所得控除を受けることができます。
投与時の慎重投与と併用注意
慎重投与が必要な患者さん
以下のような患者さんでは、レゴラフェニブの投与に特に注意が必要です。
・重度の肝機能障害がある方
・高血圧症の方
・脳転移がある方
・血栓塞栓症の既往がある方
・高齢者
・歯科治療などの処置が必要な方
これらに該当する場合は、医師と十分に相談のうえ、慎重に治療を進める必要があります。
併用注意の薬剤
前述したように、CYP3A4に関係する薬剤との併用には注意が必要です。また、抗凝固薬や抗血小板薬を服用している場合は、出血のリスクが高まる可能性があります。
他の抗がん剤との併用については、有効性と安全性が確立していないため、原則として単剤で使用されます。
まとめと展望
レゴラフェニブ(スチバーガ)は、標準治療後に進行した大腸がん、消化管間質腫瘍、肝細胞がんに対して、生存期間の延長や病状進行の抑制という効果が証明されている薬剤です。
複数の標的を同時に抑えるマルチキナーゼ阻害薬という特性により、がんの増殖を多角的に抑制することができます。また、経口薬であるため、通院しながら治療を継続できるという利点もあります。
一方で、手足症候群をはじめとする副作用の発現頻度は高く、適切な予防策と早期対応が治療継続のために重要です。保湿ケアや生活習慣の調整、定期的な血圧測定や肝機能検査など、日常的な自己管理と医療チームとの連携が求められます。
費用面では、高額療養費制度を活用することで、実質的な自己負担額を抑えることができます。治療開始前に、医療ソーシャルワーカーや医療費相談窓口で制度の利用方法を確認しておくことをお勧めします。
参考文献・出典情報
医療用医薬品:スチバーガ(KEGG MEDICUS医薬品情報)
スチバーガ(レゴラフェニブ)進行・再発大腸がんと消化管間質腫瘍の新たな治療選択肢(がんサポート)
スチバーガ(レゴラフェニブ)の作用機序:抗がん剤(薬剤師の転職・求人情報)