
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
HER2陽性の乳がんや大腸がんの治療において、パージェタ(一般名:ペルツズマブ)という薬の名前を聞いたことがある患者さんも多いのではないでしょうか。
この薬は、がん細胞の増殖に関わるHER2というたんぱく質を標的とした分子標的薬であり、従来の抗がん剤とは異なる仕組みでがん細胞の増殖を抑えます。
しかし、どのような特徴を持つ薬なのか、どんな患者さんに適しているのか、副作用はどの程度なのかなど、治療を受ける前に知っておきたい情報は多いはずです。
この記事では、パージェタの作用機序、対象となるがん、投与方法、効果、副作用、費用など、患者さんが治療について判断するために必要な情報を整理してお伝えします。
パージェタ(ペルツズマブ)はどんな薬か
パージェタは、2013年に日本で承認された抗HER2抗体薬です。一般名はペルツズマブといい、中外製薬が製造販売しています。
この薬は、がん細胞の表面に存在するHER2というたんぱく質に結合することで、がん細胞の増殖を抑制する分子標的薬の一種です。
パージェタの特徴は、同じHER2を標的とするハーセプチン(トラスツズマブ)と結合する部位が異なる点にあります。ハーセプチンがHER2の細胞外ドメインⅣに結合するのに対し、パージェタはドメインⅡに結合します。
この違いにより、2つの薬を併用することで、より効果的にHER2の働きを抑えることができると考えられています。
対象となるがんと適応
パージェタは、以下のがんに対して使用が認められています。
HER2陽性の乳がん
HER2陽性の手術不能または再発乳がんに対して、トラスツズマブ(ハーセプチン)および他の抗がん剤と併用して使用されます。
また、HER2陽性の早期乳がんに対しては、手術前の術前薬物療法や手術後の術後薬物療法としても使用されます。ただし、術前・術後薬物療法の場合、投与期間は12カ月間までと定められています。
なお、HER2陽性の早期乳がんの術後患者さんのうち、リンパ節転移のない患者さんは再発リスクが低いと考えられており、この集団に対するパージェタの有効性および安全性は確立していません。そのため、再発リスクの高い患者さんを対象とすることが推奨されています。
HER2陽性の大腸がん(結腸がん・直腸がん)
2022年3月に適応が追加された適応症です。がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸がん、直腸がんに対して、トラスツズマブとの併用で使用されます。
この適応では、フッ化ピリミジン系抗がん剤、オキサリプラチン、イリノテカンによる治療歴がある患者さんが対象となります。
パージェタの作用機序と特徴
パージェタの作用機序は、HER2受容体の二量体形成(2つのHER2が結合すること)を阻害することにあります。
がん細胞の表面にあるHER2受容体は、他のHER受容体(HER1/EGFR、HER3、HER4)と結合して二量体を形成することで、細胞内に増殖シグナルを伝達します。特に、HER2とHER3が結合した場合、強力な増殖シグナルが生じます。
パージェタは、HER2の細胞外ドメインⅡという部位に結合することで、HER2が他のHER受容体と結合するのを防ぎます。その結果、細胞内への増殖シグナルの伝達が抑制され、がん細胞の増殖が抑えられます。
また、パージェタには抗体依存性細胞障害活性(ADCC)という働きもあります。これは、パージェタががん細胞に結合することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくなる効果です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ペルツズマブ(遺伝子組換え) |
| 商品名 | パージェタ |
| 薬効分類 | 抗HER2ヒト化モノクローナル抗体 |
| 投与経路 | 点滴静注 |
| 製造販売 | 中外製薬 |
| 承認年 | 2013年(日本) |
投与方法と投与スケジュール
投与量
パージェタの投与量は、初回投与時と2回目以降で異なります。
- 初回投与:840mgを60分かけて点滴静注
- 2回目以降:420mgを60分かけて点滴静注
- 投与間隔:3週間ごと
初回投与時に問題がなければ、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮することができます。
併用療法
パージェタは単独で使用されることはなく、必ずトラスツズマブ(ハーセプチン)と併用します。
HER2陽性の手術不能または再発乳がんに対しては、主に以下のレジメン(治療計画)で使用されます。
- パージェタ + トラスツズマブ + ドセタキセル
この組み合わせにおいて、ドセタキセルは初回75mg/m²を投与し、忍容性が確認できれば100mg/m²に増量することができます。
HER2陽性の大腸がんに対しては、パージェタとトラスツズマブの2剤併用で使用されます。
投与が遅れた場合の対応
予定された投与日から遅れてしまった場合、前回投与日からの期間に応じて対応が異なります。
| 前回投与日からの期間 | 投与量 |
|---|---|
| 6週間未満 | 420mgを投与 |
| 6週間以上 | 初回投与量の840mgを投与し、次回以降は420mgを3週間間隔で投与 |
パージェタの効果と奏効率
HER2陽性転移・再発乳がんにおける効果(CLEOPATRA試験)
パージェタの有効性を示す最も重要な臨床試験が、CLEOPATRA試験です。
この試験は、前治療歴のないHER2陽性転移・再発乳がん患者さん808例を対象に、パージェタ+トラスツズマブ+ドセタキセル群とプラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセル群を比較した第Ⅲ相試験です。
主要評価項目である無増悪生存期間において、パージェタを追加した群で有意な延長が認められました。また、全生存期間についても、パージェタ群で改善が示されています。
HER2陽性早期乳がんにおける効果(APHINITY試験)
HER2陽性早期乳がんの術後患者さん4,804例を対象としたAPHINITY試験では、パージェタ+トラスツズマブ+化学療法群がプラセボ+トラスツズマブ+化学療法群と比較されました。
主要評価項目である浸潤性疾患のない生存期間(IDFS)において、パージェタ群で有意な延長が認められました。特に、リンパ節転移陽性の患者さんにおいて効果が高いことが示されました。
HER2陽性大腸がんにおける効果(TRIUMPH試験)
国内で実施されたTRIUMPH試験では、化学療法歴のあるHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発大腸がん患者さん30例に対して、パージェタとトラスツズマブの併用療法が検討されました。
腫瘍組織を用いた検査でHER2陽性と判定された患者さん群では、奏効率が29.6%でした。
| 臨床試験名 | 対象 | 主な結果 |
|---|---|---|
| CLEOPATRA試験 | HER2陽性転移・再発乳がん | 無増悪生存期間の有意な延長 |
| APHINITY試験 | HER2陽性早期乳がん(術後) | 浸潤性疾患のない生存期間の改善 |
| NeoSphere試験 | HER2陽性早期乳がん(術前) | 病理学的完全奏効率の向上 |
| TRIUMPH試験 | HER2陽性進行・再発大腸がん | 奏効率29.6%(組織検査陽性群) |
主な副作用とその頻度
パージェタは通常、他の薬剤と併用するため、併用薬に関連した副作用も含めて管理する必要があります。
比較的多くみられる副作用
CLEOPATRA試験において、パージェタ+トラスツズマブ+ドセタキセルが併用投与された患者さんでは、以下の副作用が報告されています。
| 副作用 | 頻度 |
|---|---|
| 下痢 | 58.0% |
| 脱毛症 | 57.0% |
| 倦怠感 | 52.1% |
| 好中球減少症 | 50.9% |
| 悪心(吐き気) | 36.6% |
| 爪の異常 | 35.6% |
| ニューロパチー(しびれ) | 31.0% |
| 発疹 | 30.7% |
一方、APHINITY試験では、術後補助療法としてパージェタ+トラスツズマブが使用された場合、以下の頻度でした。
- 下痢:33.0%
- 発疹:14.6%
- 疲労:11.8%
- 悪心:8.7%
- 好中球減少症:6.6%
ドセタキセルを併用しない場合、副作用の頻度は低くなる傾向があります。
重大な副作用
頻度は低いものの、注意が必要な重大な副作用として以下が挙げられます。
好中球減少症・白血球減少症
発熱性好中球減少症が4.1%、好中球減少症が16.9%、白血球減少症が7.2%で報告されています。好中球は感染症から体を守る役割を持つため、減少すると感染症にかかりやすくなります。定期的な血液検査が必要です。
インフュージョンリアクション
点滴投与中または投与開始後24時間以内に、悪寒、発熱、疲労、悪心、紅斑、高血圧、呼吸困難などが現れることがあります。発現頻度は4.8%です。
症状が現れた場合は、投与速度を遅くしたり、投与を中断したりする必要があります。重篤な場合は投与を中止します。
心障害
左室機能不全やうっ血性心不全が現れることがあります。パージェタ投与開始前には心機能を確認し、投与中も定期的に心エコー検査などで心機能を評価する必要があります。
間質性肺疾患
頻度は0.3%と低いですが、発熱、咳、呼吸困難などの症状が現れた場合は、すぐに医師に連絡する必要があります。
日常生活への影響と対処法
下痢への対処
下痢はパージェタ治療で最も高頻度に見られる副作用です。軽度の場合は市販の止瀉薬で対処できることもありますが、水分をしっかり補給することが重要です。
下痢が続く場合や、発熱を伴う場合は医師に相談してください。脱水を防ぐため、経口補水液などを利用するのも有効です。
発疹への対処
皮膚の発疹や乾燥が起こることがあります。保湿剤を使用して皮膚を保護し、刺激の少ない石鹸を使用することが推奨されます。
かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬が処方されることもあります。
感染症の予防
好中球減少により感染症にかかりやすくなるため、手洗い・うがいを徹底し、人混みを避けるなどの対策が必要です。
発熱(37.5度以上)がある場合は、すぐに医療機関に連絡してください。
脱毛への対処
ドセタキセルとの併用では脱毛が高頻度で起こります。治療開始前にウィッグや帽子を準備しておくと安心です。治療終了後、髪は再び生えてきます。
保険適応と費用・自己負担
薬価
パージェタ点滴静注420mg/14mLの薬価は、2025年12月時点で206,472円(1瓶)です。
初回投与時は840mg(2瓶)、2回目以降は420mg(1瓶)を使用するため、1回あたりの薬剤費は以下のようになります。
| 投与回 | 使用量 | 薬剤費 |
|---|---|---|
| 初回 | 840mg(2瓶) | 約412,944円 |
| 2回目以降 | 420mg(1瓶) | 約206,472円 |
自己負担額
パージェタ+ハーセプチン+ドセタキセル併用療法の場合、1回の投与における薬剤費の自己負担額(3割負担)は、体重50kg、身長160cm程度の患者さんで約123,000円となります。
ただし、この金額は薬剤費のみであり、診察料や検査費用などは含まれていません。
高額療養費制度の活用
パージェタを含むがん治療は高額になるため、高額療養費制度の利用が重要です。
この制度を利用すると、1カ月の医療費が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。
2026年8月からは高額療養費制度の見直しが段階的に実施される予定ですが、多数回該当(年間4回目以降の自己負担限度額引き下げ)は据え置かれる方針です。
| 所得区分(70歳未満) | 自己負担限度額(月額) | 多数回該当 |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770万~1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370万~770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
治療開始前に、加入している医療保険の窓口で「限度額適用認定証」の交付を受けることで、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までにすることができます。
治療を受ける際の注意点
HER2陽性の確認が必須
パージェタは、HER2陽性のがんに対してのみ効果が期待できます。治療開始前に、免疫組織化学検査(IHC法)や蛍光in situハイブリダイゼーション法(FISH法)などで、HER2陽性であることを確認する必要があります。
心機能の評価
パージェタは心障害のリスクがあるため、投与開始前および投与中は定期的に心エコー検査などで心機能を評価します。左室駆出率(LVEF)が低下している場合は、使用が制限されることがあります。
妊娠・授乳中の使用
パージェタは妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与できません。また、授乳中の使用も推奨されていません。
妊娠する可能性のある女性は、治療中および治療終了後一定期間は避妊が必要です。
まとめ
パージェタ(ペルツズマブ)は、HER2陽性の乳がんや大腸がんに対して、トラスツズマブと併用することで高い効果が期待できる分子標的薬です。
臨床試験では、無増悪生存期間や全生存期間の改善が示されており、特にHER2陽性転移・再発乳がんや、リンパ節転移陽性の早期乳がんにおいて有効性が確立されています。
一方で、下痢、脱毛、好中球減少などの副作用が比較的高頻度で見られるため、適切な管理が必要です。また、治療費が高額になるため、高額療養費制度などの公的支援制度を活用することが重要です。
治療を受けるかどうかの判断には、効果と副作用のバランス、治療目標、患者さんの状態などを総合的に考慮する必要があります。
主治医とよく相談し、納得したうえで治療方針を決定しましょう。
参考文献・出典情報
パージェタ点滴静注420mg/14mL - 日経メディカル処方薬事典
パージェタ(ペルツズマブ)の作用機序と副作用 - 新薬情報オンライン
Trastuzumab + Pertuzumab レジメン - HOKUTO
ペルツズマブ/トラスツズマブ/ドセタキセル療法の手引き - 国立がん研究センター中央病院

