こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんと診断された患者さんやそのご家族にとって、現在の病状がどの程度進行しているのか、どのような治療が適しているのかを理解することは、今後の治療方針を考えるうえで欠かせない情報です。
この記事では、肝臓がんのステージ分類の方法と、各ステージに応じた治療方法の選択について、最新の情報を交えながら詳しく解説します。
肝臓がんの特徴と早期発見が難しい理由
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれています。これは、肝臓に病変があっても、初期段階では痛みや不快感といった自覚症状がほとんど現れないためです。
肝臓は再生能力が高く、一部が損傷しても残りの部分で機能を補うことができます。このため、かなり病状が進行するまで症状が出にくいという特徴があります。
症状が現れる頃には、すでにがんが進行していることも少なくありません。だからこそ、肝炎ウイルス検査や定期的な肝臓の検診が重要になります。
特に、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染している方、慢性肝炎や肝硬変と診断されている方は、定期的な画像検査や腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-IIなど)の測定を受けることで、早期発見につながります。
肝臓がんのステージ分類の基準
肝臓がんと診断された場合、治療方針を決定するために、がんの進行度を評価する必要があります。この進行度を示すものが「ステージ(病期)」です。
肝臓がんのステージ分類には、国際的に使用されるTNM分類と、日本で広く用いられている臨床病期分類があります。ここでは、日本での治療方針決定に用いられる分類を中心に説明します。
ステージ分類の3つのポイント
肝臓がんのステージを決定する際には、以下の3つの要素を評価します。
1つ目は、肝臓内のがんの状態です。具体的には、がんの大きさ、個数、そして肝臓内の血管への浸潤(広がり)の有無を確認します。
2つ目は、リンパ節転移の有無です。肝臓の周囲にあるリンパ節にがん細胞が転移しているかどうかを調べます。
3つ目は、遠隔転移の有無です。肝臓から離れた臓器、例えば肺や骨などにがんが転移しているかどうかを確認します。
これら3つの要素を総合的に評価して、ステージⅠからⅣBまでが決定されます。
各ステージの詳細な分類基準
肝臓がんのステージ分類では、腫瘍の状態を評価するための条件分類があります。この条件分類は以下の3つです。
・条件A:がんの大きさが2センチ以下である
・条件B:がんの数が1個である
・条件C:肝臓内の血管にまで広がっていない
この3つの条件を基準として、各ステージが以下のように分類されます。
| ステージ | 条件A・B・Cの該当 | リンパ節転移 | 遠隔転移 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ期 | 3つすべてに該当 | なし | なし |
| Ⅱ期 | 3つのうち2つに該当 | なし | なし |
| Ⅲ期 | 3つのうち1つに該当 | なし | なし |
| ⅣA期 | いずれにも該当しない、またはリンパ節転移あり | あり/なし | なし |
| ⅣB期 | 条件に関わらず | 問わず | あり |
ステージⅠ期の特徴
ステージⅠ期は、最も早期の段階です。がんの大きさが2センチ以下で、腫瘍は1個のみ、そして肝臓内の血管への浸潤もない状態です。リンパ節転移や遠隔転移も認められません。
この段階で発見できれば、治療の選択肢が広がり、良好な治療成績が期待できます。
ステージⅡ期の特徴
ステージⅡ期は、条件A・B・Cのうち2つに該当する状態です。例えば、がんが2センチ以下で1個だが血管浸潤がある場合や、がんが2センチを超えているが1個で血管浸潤がない場合などが該当します。
リンパ節転移や遠隔転移はまだ認められていない段階です。
ステージⅢ期の特徴
ステージⅢ期は、条件A・B・Cのうち1つのみに該当する状態です。がんが複数個あったり、大きさが2センチを超えていたり、血管浸潤が認められたりするなど、局所での進行が見られます。
ただし、この段階でもリンパ節転移や遠隔転移はまだ認められていません。
ステージⅣA期の特徴
ステージⅣA期は、条件A・B・Cのいずれにも該当しない場合、またはリンパ節転移が認められる場合です。肝臓内でのがんの進行が進んでいるか、リンパ節への転移が起きている状態ですが、遠隔転移はまだ認められていません。
ステージⅣB期の特徴
ステージⅣB期は、最も進行した段階です。肝臓以外の臓器、例えば肺や骨、腹膜などへの遠隔転移が認められる状態です。
肝機能評価の重要性
肝臓がんの治療方針を決定する際、他のがん種とは異なる重要な要素があります。それは、治療後に残る肝臓の機能です。
肝臓は生命維持に必要な多くの働きを担っています。タンパク質の合成、栄養の代謝、解毒作用、胆汁の生成など、その役割は多岐にわたります。
肝臓がんの患者さんの多くは、背景に慢性肝炎や肝硬変といった肝臓の病気を抱えています。そのため、治療によってがんを取り除いても、残った肝臓が十分に機能しなければ、患者さんの生活の質や生命予後に影響します。
このため、肝臓がんの治療では、ステージだけでなく肝機能の状態も重視して、治療法を選択します。
肝障害度分類
日本では、肝機能の状態を評価するために「肝障害度」という分類が用いられます。これは、複数の項目を点数化して評価するものです。
評価項目は以下の5つです。
・腹水の有無
・血清ビリルビン値
・血清アルブミン値
・プロトロンビン活性値(またはINR)
・脳症の有無
これらの項目を点数化し、合計点によって肝障害度A、B、Cに分類されます。
| 肝障害度 | 特徴 | 自覚症状 |
|---|---|---|
| A(軽度) | 肝機能は比較的良好 | ほとんどない |
| B(中等度) | 肝機能の低下が見られる | たまに自覚する |
| C(高度) | 肝機能が著しく低下 | 頻繁に自覚する |
肝障害度Aは肝機能が比較的保たれている状態で、手術を含む積極的な治療が可能です。肝障害度Bは肝機能の低下が見られる状態で、治療法の選択には慎重な判断が必要です。肝障害度Cは肝機能が著しく低下している状態で、積極的な治療が難しい場合もあります。
ステージごとの治療方法
肝臓がんの治療法は、ステージと肝機能の状態を総合的に判断して決定されます。主な治療法には、手術(肝切除)、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、分子標的薬による薬物療法、放射線療法などがあります。
ステージⅠ・Ⅱ期の治療
ステージⅠ・Ⅱ期で肝障害度がAの場合、肝切除が第一選択となります。がんとその周囲の肝組織を外科的に切除する方法で、根治を目指せる治療です。
腫瘍が3センチ以下で個数が3個以内の場合は、ラジオ波焼灼療法も選択肢となります。これは、針を腫瘍に刺して高周波の熱でがん細胞を焼き切る治療法です。体への負担が比較的少なく、入院期間も短いという利点があります。
肝障害度がBの場合は、ラジオ波焼灼療法や肝動脈化学塞栓療法が検討されます。肝切除を行う場合は、切除する範囲を慎重に判断する必要があります。
肝障害度がCの場合は、積極的な治療が難しく、緩和ケアを中心とした対応となることもあります。
ステージⅢ期の治療
ステージⅢ期では、がんの状態と肝機能を詳しく評価して治療法を選択します。
肝障害度がAで、手術が可能と判断される場合は、肝切除が検討されます。ただし、腫瘍の位置や大きさ、個数によっては、完全切除が難しい場合もあります。
手術が難しい場合や肝障害度がBの場合は、肝動脈化学塞栓療法が主な選択肢となります。これは、肝臓のがんに栄養を送っている血管に抗がん剤と塞栓物質を注入し、がん細胞を死滅させる治療法です。
血管浸潤が認められる場合は、分子標的薬による薬物療法も併用されることがあります。
ステージⅣA期の治療
ステージⅣA期では、局所療法だけでなく、全身療法を組み合わせた治療が検討されます。
肝動脈化学塞栓療法に加えて、分子標的薬による薬物療法が選択されることが多くなります。レンバチニブ(商品名:レンビマ)やソラフェニブ(商品名:ネクサバール)といった分子標的薬が使用されます。
2024年以降、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法も保険適用となり、治療選択肢が広がっています。アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)とベバシズマブ(商品名:アバスチン)の併用療法などが該当します。
リンパ節転移がある場合は、転移部位への放射線療法が検討されることもあります。
ステージⅣB期の治療
ステージⅣB期では、遠隔転移があるため、全身療法が中心となります。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いた薬物療法が主な治療法です。近年の薬物療法の進歩により、進行した肝臓がんでも生存期間の延長が期待できるようになってきました。
肝臓内の病変に対しては、肝動脈化学塞栓療法を併用することもあります。また、転移部位に対して放射線療法を行うこともあります。
症状緩和を目的とした緩和ケアも、治療の初期段階から並行して行われます。
治療法選択のプロセス
実際の治療法の選択は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて行われます。同じステージであっても、年齢、全身状態、合併症の有無、患者さん自身の希望などによって、選択される治療法は異なります。
治療方針は、複数の専門家(外科医、消化器内科医、放射線科医、腫瘍内科医など)がチームで検討する「キャンサーボード」で決定されることが一般的です。
患者さんは、医師から提示された治療選択肢について、それぞれのメリット・デメリット、予想される効果、起こりうる副作用などの説明を受けます。その上で、自分の価値観や生活環境を考慮しながら、治療方針を決定していきます。
治療を受ける前に、セカンドオピニオンを求めることも可能です。複数の専門家の意見を聞くことで、より納得のいく治療選択ができる場合もあります。
治療後の経過観察と再発
肝臓がんは、治療によって完全に取り除いた後でも、再発のリスクがあります。特に、背景に慢性肝炎や肝硬変がある場合、残った肝臓から新たにがんが発生することがあります。
このため、治療後は定期的な画像検査(CT、MRI、超音波検査)と腫瘍マーカーの測定を継続します。早期に再発を発見できれば、再び根治を目指した治療が可能になります。
また、背景にある肝炎の治療も重要です。C型肝炎の場合は抗ウイルス療法によってウイルスを排除することで、新たながんの発生リスクを下げることができます。
予後について
肝臓がんの予後は、ステージと肝機能の状態に大きく影響されます。
ステージⅠ期で肝機能が良好な場合、5年生存率は60~70%程度と報告されています。ステージが進行するにつれて予後は厳しくなりますが、近年の治療法の進歩により、生存期間の延長が見られています。
特に、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、進行した肝臓がんでも治療の選択肢が増えています。2020年代に入り、複数の新しい薬剤が承認され、治療成績の向上が期待されています。
ただし、予後は個人差が大きく、数値はあくまで統計的なものです。患者さん一人ひとりの状態によって異なるため、担当医とよく相談することが大切です。
まとめとして
肝臓がんのステージ分類は、治療方針を決定するための重要な指標です。がんの大きさ、個数、血管浸潤の有無、リンパ節転移、遠隔転移の有無によってステージが決まります。
しかし、肝臓がんの治療では、ステージだけでなく肝機能の状態も同じくらい重要です。ステージと肝障害度を総合的に判断して、患者さんに最適な治療法が選択されます。
治療法は年々進歩しており、新しい薬剤や治療法が次々と登場しています。ステージが進行していても、諦めずに治療の選択肢を検討することが大切です。
患者さん自身が自分の病状を理解し、治療選択に主体的に関わることで、より納得のいく治療を受けることができます。
参考文献・出典
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「肝細胞がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/index.html
2. 日本肝臓学会「肝癌診療ガイドライン」
https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatocellular_carcinoma
3. 日本消化器病学会「肝癌診療ガイドライン」
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/liver_cancer
4. 厚生労働省「肝がん検診の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html
5. 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco.or.jp/jpn/index/page/id/12408
6. 国立国際医療研究センター「肝炎情報センター」
https://www.ncgm.go.jp/center/hepatology/index.html
7. 日本肝胆膵外科学会「肝胆膵外科診療ガイドライン」
https://www.jshbps.jp/modules/guideline/
8. がん研究振興財団「がんの統計」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
9. 日本臨床腫瘍学会「がん薬物療法ガイドライン」
https://www.jsmo.or.jp/guideline/
10. WHO「Liver cancer factsheet」
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/cancer


