人間の体には、動脈と静脈のほかに、リンパ管が網の目のようにはりめぐらされています。このリンパ管にはリンパ液という体液が循環しており、リンパ液は最終的には心臓に戻ります。
リンパ管のところどころには、リンパ節という球状の関所のような場所があります。このリンパ節は、免疫をつかさどる細胞を貯蔵する一方で、細菌や有害物質を血液の流れに乗せないように、フィルターの役割も果たしています。
しかし、破壊できなかったがん細胞がリンパ節に定着し、増殖することがときどき起こります。これをリンパ節転移といい、リンパ液を通してがんが全身に広がる可能性も否定できません。そこで、もともとがんのあった病巣に所属したリンパ節を切除する処置が行われます(リンパ節郭清)。
リンパ節郭清は、再発予防のほかに、摘出したリンパ節を顕微鏡で観察し、リンパ節転移の有無や転移の個数を調べ、術後の治療方針を決定するのにも役立ちます。
前立腺がんでは、前立腺全摘除術の際、リンパ節郭清が行われます。内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節、閉鎖リンパ節などが切除範囲です。
下肢や外陰部がむくみ、QOLが低下するリンパ浮腫
前立腺がんの治療後、足などがむくんでしまう「リンパ浮腫」になることがあります。
これは、手術でリンパ節を切除した場合や、放射線療法で照射を受けた部分のリンパ管やリンパ節がダメージを受けた場合に起こりやすいものです。
そのために、足から心臓に戻るリンパの流れが悪くなって、リンパ液が下半身にたまり、むくみ(浮腫)が起こりやすくなるのです。
前立腺がんのリンパ節郭清や放射線療法によるリンパ浮腫が起こりやすいのは、下肢や外陰部。太もものつけ根が重く感じられる、歩きにくい、外陰部がはれて排尿が困難になるなどといった不都合が生じてきます。
初期はむくんだ表面を押すとへこみますが、進行するとへこまなくなるほどひどくなります。リンパ浮腫は自然によくなることはなく、適切なケアをしないと悪化する一方であることが特徴です。自覚症状があらわれたら、大きな病院のリンパ浮腫外来でみてもらいましょう。
圧迫療法と並行して、スキンケアにも配慮
リンパ浮腫のケアの1つに、圧迫療法という方法があります。前立腺がんの手術によるリンパ浮腫の場合、脚のつけ根の内側や外陰部(陰嚢と陰茎)からむくみ始め、脚全体に及ぶことが多く見られるようです。
脚のつけ根は、医療用の弾性ストッキングで圧迫します。外陰部を圧迫するためのアイテムとしては、医療用の専用サポーターか弾性包帯、スポーツ用のサポーターなどが活用できるので、自分に合うものを選びましょう。
特に外陰部は圧迫しにくい位置にあるので、マッサージ(リンパドレナージ)も行って、リンパの流れをスムーズにするとよいでしょう。マッサージ(リンパドレナージ)の方法は必ず受診して医師や専門家の指導を受け、自己流で行うことは避けます。
一般的に、体の一部がむくんだときは、足を少し高く上げるといいといわれます。しかし、外陰部がむくんだ場合は、下半身をめぐるリンパ液が、足を上げることで外陰部にたまってしまい、逆効果になるので控えましょう。
そのほか、スキンケアにも気を配ります。毛穴や汗腺、傷口から細菌が入ると、足全体のリンパ管に炎症(蜂か織炎)を起こしやすくなります。汗をかいたらふき、お風呂でしっかり汚れを洗い落とし、清潔を保つように心がけましょう。足を傷つけた場合はすぐに水で洗い、炎症が起きたらすぐに受診することが大切です。
手術後に無理しないことがリンパ浮腫の予防に
リンパ浮腫は、手術後の生活で無理をすると起こりやすくなるものです。重いものを持ったり、息が切れるほど体を動かすなどといったことは避けます。
手術に限ったことではありませんが、前立腺がんの治療が終わったあとはなるべく休み、体をいたわりながら過ごすことが基本です。
また、体に脂肪がたまりすぎると、それがリンパ液の流れを妨げるので、肥満にも注意しましょう。
リンパ浮腫治療の費用には健康保険を活用
2008年4月から、リンパ浮腫治療で以下の2点に健康保険が適用されています。
①乳がん、子宮がん、卵巣がん、前立腺がんの手術または治療後に、リンパ浮腫に対する適切な指導を個別に行った場合の「リンパ浮腫指導管理料」
「リンパ浮腫指導管理料」とは、わきの下や骨盤内のリンパ節を広く切除したり、放射線療法を受けた患者さんに対し、リンパ浮腫の悪化を防ぐための方法などを、医師や看護師、理学療法士が説明することです。
主な説明の内容はリンパ浮腫とはどのようなものか、治療法、適切なケアの大切さと具体的なケアの方法、感染症や肥満を予防するための生活上の注意点、感染症の治療など。
②腕や脚のリンパ浮腫治療のための弾性スリーブ、ストッキングなどにかかる費用の支給
圧迫療法が必要になったときに支給されます。弾性スリーブ、ストッキング、グローブ、弾性包帯が対象。
<支給額の上限>
弾性スリーブ1着あたり16,000円
弾性ストッキング1着あたり28,000円(片脚用なら25,000円)
弾性グローブ1着あたり15,000円
弾性包帯1組あたり7,000円(上肢)/14,000円(下肢)
<申請に必要な書類>
・主治医の指示書(弾性着衣等装着指示書):つける部位、手術日などが記されたもの
・購入した際の領収書
以上、前立腺がん手術後のリンパ浮腫についての解説でした。