
膵臓がんを理解するために必要な膵臓の基礎知識
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
膵臓がんの診断を受けた方、あるいは膵臓がんが疑われる検査結果を受け取った方にとって、まず理解しておきたいのが膵臓という臓器の構造と働きです。
膵臓がんがどこに発生するのか、がんによってどのような機能が失われるのかを知ることは、これから受ける治療内容を理解し、生活上の注意点を把握するうえで重要な基礎となります。
この記事では、膵臓の構造、位置、働き、そして膵臓がんによって影響を受ける機能について、患者さんとご家族が理解しやすいように詳しく解説します。
膵臓の位置と全体的な構造
膵臓がある場所
膵臓は上腹部の深い位置にあり、胃の後ろに隠れるように存在しています。具体的には、胃と十二指腸に囲まれた位置で、背骨の前方、腹部の中心よりやや左寄りに横たわっています。
この位置関係が、膵臓がんの早期発見を難しくしている理由の一つです。胃の後ろという奥まった場所にあるため、通常の触診や簡単な検査では異常を見つけにくく、また初期の段階では症状が現れにくいのです。
膵臓の前には胃や腸があり、後ろには背骨と大動脈があります。この解剖学的な位置関係は、膵臓がんの手術を考えるうえでも重要な意味を持ちます。
膵臓の大きさと形状
膵臓は横長の形をした臓器で、その形状はしばしば「オタマジャクシ」や「トウガラシ」に例えられます。
大きさは個人差がありますが、一般的に以下のようなサイズです。
| 測定項目 | 平均的なサイズ |
|---|---|
| 長さ | 約15~20cm |
| 幅 | 約3~5cm |
| 厚さ | 約2~3cm |
| 重さ | 約65~100g |
このように、膵臓は比較的小さな臓器ですが、消化と代謝において極めて重要な役割を担っています。
膵臓の3つの部位
膵臓は、その位置によって3つの部分に区分されます。
膵頭部は膵臓の右側、全体の約3分の1を占める部分で、十二指腸に囲まれるように位置しています。この部分は他の部位と比べてやや膨らんだ形状をしており、膵臓がんが最も発生しやすい場所です。膵頭部の後ろには胆管や門脈という重要な血管が接しているため、この部位にがんができると、これらの構造に影響を及ぼしやすくなります。
膵体部は膵臓の中央部分で、全体の約3分の1を占めます。この部分は胃の後ろに位置し、大動脈や腹腔動脈、上腸間膜動脈といった主要な血管の前面を横断しています。
膵尾部は膵臓の左端、全体の約3分の1を占める部分で、細長い形状をしています。この部分は脾臓に接しており、膵尾部のがんを切除する際には、多くの場合、脾臓も一緒に摘出されます。
周囲の臓器との位置関係
膵臓は多くの重要な臓器や血管に囲まれており、この解剖学的な特徴が膵臓がんの治療を困難にしている要因となっています。
膵頭部は十二指腸にぴったりと接しており、この部位のがんを切除する場合は、十二指腸も一緒に切除する必要があります。また、総胆管が膵頭部の中を通っているため、膵頭部のがんは胆管を圧迫して黄疸を引き起こすことがあります。
膵体部と膵尾部の後ろには門脈や脾静脈が走行しており、膵臓全体の後方には腹部大動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈という太い動脈が位置しています。がんがこれらの血管に浸潤すると、手術での完全切除が困難になります。
膵臓の内部構造と細胞の種類
外分泌組織と膵管の構造
膵臓の組織の大部分、約98~99%は外分泌組織で構成されています。この外分泌組織は、消化酵素を含む膵液を作り出す腺房細胞と、その膵液を運ぶ膵管から成り立っています。
腺房細胞は膵臓全体に広く分布し、ブドウの房のような構造を形成しています。これらの細胞で作られた膵液は、まず小さな管に集められ、次第に合流して太い膵管へと流れ込みます。
膵管は膵臓の中を貫く管で、主膵管と副膵管があります。主膵管は膵尾部から始まり、膵体部、膵頭部を通って十二指腸に開口します。途中、多くの小さな枝が主膵管に合流し、膵臓全体からの膵液を集めています。
膵頭部では、主膵管は総胆管と合流して、ファーター乳頭という開口部から十二指腸に膵液と胆汁を注いでいます。
膵臓がんの約90%が発生する膵管
一般的に「膵臓がん」と呼ばれるがんの約90~95%は、この膵管の細胞から発生する「膵管がん」です。正式には「浸潤性膵管がん」と呼ばれます。
膵管がんは、膵管の上皮細胞が悪性化することで発生します。初期には膵管の内側に留まっていますが、進行すると膵管の壁を破って周囲の組織に広がっていきます。
膵管がんは悪性度が高く、早期から周囲の神経や血管、リンパ管に浸潤しやすい性質を持っています。また、小さながんでも肝臓やリンパ節に転移しやすいという特徴があります。
内分泌組織(膵島)の構造
膵臓の残り1~2%は内分泌組織で構成されています。この内分泌組織は、膵臓全体に島のように散在していることから「膵島」または「ランゲルハンス島」と呼ばれています。
一つの膵臓には約100万個の膵島が存在し、それぞれの膵島には数千個の内分泌細胞が集まっています。
膵島には主に4種類の細胞が存在します。
| 細胞の種類 | 分泌するホルモン | 膵島内での割合 |
|---|---|---|
| β細胞(B細胞) | インスリン | 約65~80% |
| α細胞(A細胞) | グルカゴン | 約15~20% |
| δ細胞(D細胞) | ソマトスタチン | 約3~10% |
| PP細胞 | 膵ポリペプチド | 約1%未満 |
これらの細胞から分泌されるホルモンは、血液中に直接放出され、全身に運ばれて作用します。
膵内分泌腫瘍との違い
膵島の細胞から発生するがんは「膵内分泌腫瘍」または「膵神経内分泌腫瘍」と呼ばれ、一般的な膵臓がん(膵管がん)とは性質が異なります。
膵内分泌腫瘍は膵臓がん全体の1~2%程度と少なく、多くの場合、膵管がんよりも進行が遅く、予後が良好です。ただし、悪性度の高いタイプも存在します。
膵臓の働き:外分泌機能
膵液の生産と分泌
膵臓の外分泌機能は、消化酵素を含む膵液を産生し、十二指腸に分泌することです。健康な成人では、1日に約1~1.5リットルの膵液が産生されます。
膵液の分泌は、食事を摂取することで刺激されます。食べ物が胃に入ると、胃や十二指腸からホルモンが分泌され、これが膵臓に働きかけて膵液の産生と分泌を促進します。
膵液は透明でアルカリ性の液体で、pH8~8.5程度の弱アルカリ性を示します。このアルカリ性は、胃から十二指腸に送られてくる酸性の食べ物を中和し、消化酵素が最も効率よく働く環境を作り出す役割を持っています。
消化酵素の種類と働き
膵液には、炭水化物、タンパク質、脂肪を分解する消化酵素が含まれており、これらは食べ物の消化に不可欠です。
アミラーゼは炭水化物を分解する酵素です。ご飯やパン、麺類などに含まれるデンプンを、より小さな糖に分解します。アミラーゼは唾液にも含まれていますが、膵液中のアミラーゼはより強力で、炭水化物の消化の大部分を担っています。
リパーゼは脂肪を分解する酵素です。油や肉の脂身などに含まれる脂肪を、脂肪酸とグリセロールに分解します。脂肪の消化は主に膵液中のリパーゼによって行われるため、膵臓の機能が低下すると脂肪の消化不良が起こりやすくなります。
タンパク質分解酵素には、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼなど複数の種類があります。これらの酵素は協力して、肉や魚、大豆製品などに含まれるタンパク質をアミノ酸やペプチドに分解します。
酵素の活性化のしくみ
興味深いことに、これらの消化酵素は、膵臓で作られる段階では不活性な形で存在しています。なぜなら、活性型のまま膵臓内に存在すると、膵臓自身の組織を消化してしまう危険があるからです。
タンパク質分解酵素は、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲンなどの「酵素前駆体」として膵臓で作られます。これらは十二指腸に分泌された後、腸の粘膜から分泌される酵素によって活性型に変換され、初めて消化能力を発揮します。
この巧妙な仕組みにより、通常は膵臓組織が自己消化されることはありません。しかし、何らかの原因で膵臓内で酵素が活性化してしまうと、急性膵炎という重篤な状態を引き起こします。
重炭酸塩の分泌
膵液には消化酵素だけでなく、重炭酸塩も多く含まれています。重炭酸塩は膵液にアルカリ性を与える成分で、胃酸を中和する重要な役割を果たしています。
胃から十二指腸に送られてくる食べ物は、胃酸によって強い酸性になっています。このままでは消化酵素がうまく働けないため、膵液中の重炭酸塩が胃酸を中和し、消化に適した環境を作り出します。
膵臓の働き:内分泌機能
血糖値の調節機構
膵臓の内分泌機能は、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)を適切な範囲に保つことです。この調節は、膵島から分泌される複数のホルモンによって行われています。
血糖値は、食事によって上昇し、運動や時間の経過によって低下します。しかし、健康な人では血糖値は一定の範囲内(空腹時で70~110mg/dL程度)に維持されています。これは、膵臓から分泌されるホルモンが精密に血糖値を調整しているためです。
インスリンの働き
インスリンは、膵島のβ細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる唯一のホルモンです。
食事をして血糖値が上昇すると、β細胞がこれを感知してインスリンを分泌します。インスリンは全身の細胞に作用し、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませます。また、肝臓ではブドウ糖をグリコーゲンとして貯蔵させ、脂肪組織では脂肪の合成を促進します。
これらの作用により、食後に上昇した血糖値は徐々に正常範囲に戻っていきます。
グルカゴンの働き
グルカゴンは、膵島のα細胞から分泌されるホルモンで、インスリンとは逆に血糖値を上げる働きをします。
食事から時間が経過して血糖値が低下すると、α細胞がグルカゴンを分泌します。グルカゴンは主に肝臓に作用し、貯蔵されていたグリコーゲンをブドウ糖に分解して血液中に放出させます。また、アミノ酸などからブドウ糖を新たに合成する反応も促進します。
これらの作用により、空腹時でも血糖値は一定の範囲に保たれます。
その他のホルモン
ソマトスタチンは、δ細胞から分泌されるホルモンで、インスリンとグルカゴンの分泌を調節する役割を持っています。インスリンやグルカゴンの過剰な分泌を抑制し、血糖調節をより精密にコントロールしています。
膵ポリペプチドは、PP細胞から分泌されるホルモンで、膵液の分泌を調節したり、消化管の運動に影響を与えたりすると考えられていますが、その詳細な働きはまだ完全には解明されていません。
膵臓がんによって失われる機能
外分泌機能の障害
膵臓がんが進行すると、膵液の産生や分泌が障害されます。特に、がんによって膵管が閉塞されたり、膵臓の組織が広範囲に破壊されたりすると、消化酵素が十分に十二指腸に届かなくなります。
この結果、食べ物の消化、特に脂肪の消化が不十分になります。主な症状としては、脂肪便(脂っぽく量の多い便)、下痢、腹部膨満感、体重減少などが現れます。
また、膵頭部のがんで胆管が圧迫されると、胆汁の流れも妨げられるため、脂肪の消化がさらに困難になります。
内分泌機能の障害と糖尿病の発症
膵臓がんによって膵島の細胞が破壊されると、インスリンの分泌が低下し、糖尿病を発症することがあります。
実際、膵臓がんと診断される患者さんの約半数は、診断時すでに糖尿病を合併しているか、診断の1~2年前に糖尿病を新たに発症しています。
特に注意すべきは、これまで糖尿病がなかった方や、血糖コントロールが良好だった方が、急に血糖値の悪化を認めた場合です。これは膵臓がんの初期症状である可能性があるため、膵臓の精密検査を受けることが推奨されます。
膵臓がんの治療、特に膵臓を切除する手術を受けた後は、残った膵臓の機能だけではインスリン分泌が不十分になり、糖尿病を発症したり、既存の糖尿病が悪化したりすることがあります。
手術による機能喪失
膵臓がんの根治を目指す手術では、がんを含む膵臓の一部または全部を切除します。切除する範囲によって、失われる機能の程度が異なります。
膵頭十二指腸切除術では、膵頭部、十二指腸、胆嚢、胆管の一部を切除します。この手術後は、膵体部と膵尾部が残るため、ある程度の膵機能は保たれますが、約20~30%の患者さんで糖尿病を新たに発症します。
膵体尾部切除術では、膵体部と膵尾部、通常は脾臓も切除します。膵頭部が残るため、膵機能はある程度保たれますが、切除範囲が大きい場合は糖尿病のリスクが高まります。
膵全摘術では、膵臓全体を切除するため、外分泌機能も内分泌機能も完全に失われます。消化酵素薬の継続的な服用と、インスリン注射による厳格な血糖管理が生涯にわたって必要になります。
機能障害への対応
膵臓がんによる機能障害、または手術後の機能低下に対しては、適切な補充療法が行われます。
外分泌機能の低下に対しては、消化酵素薬(膵酵素製剤)を食事と一緒に服用します。これにより、消化不良による症状が改善され、栄養状態の維持に役立ちます。
内分泌機能の低下、すなわち糖尿病に対しては、食事療法、経口血糖降下薬、インスリン注射などによる血糖管理が行われます。膵臓がんに伴う糖尿病は、通常の2型糖尿病とは異なる特徴を持つため、専門医による慎重な管理が必要です。
まとめ
膵臓は小さな臓器ですが、外分泌機能による消化の補助と、内分泌機能による血糖調節という、生命維持に不可欠な2つの重要な働きを担っています。
膵臓がんは、この重要な臓器に発生するがんで、その約90%は膵管の細胞から発生します。がんの進行や治療により、膵臓の機能が損なわれると、消化障害や糖尿病といった問題が生じます。
膵臓がんの診断を受けた方は、これらの膵臓の構造と機能を理解することで、今後の治療方針や生活上の注意点をより深く理解できるようになります。

