トーリセル(テムシロリムス)とは
トーリセル(一般名:テムシロリムス)は、腎細胞がんの治療に使用される分子標的薬です。この薬は、がん細胞の生存・増殖を調節するmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の活性を阻害することで、がんの増殖を抑制する作用があります。
mTOR阻害剤として分類されるトーリセルは、細胞周期の進行を抑制し、がん細胞における新しい血管形成を抑制する働きも持っています。これにより、がん細胞の活性化を阻害することが期待されます。
効果とメカニズム
トーリセルの主な作用機序は、mTORというタンパク質の働きを阻害することです。mTORは細胞の成長や増殖、血管新生に重要な役割を果たしており、この経路を遮断することで、腫瘍細胞の増殖を抑制します。
海外で実施された第3相臨床試験では、高リスクの未治療進行性腎細胞がん患者を対象として、トーリセル投与群(25mg週1回点滴静脈内投与)とインターフェロン-α投与群を比較したところ、トーリセル投与群で全生存期間の有意な延長が認められました。
トーリセルは、腫瘍を完全に消失させるよりも、腫瘍の進展を食い止め、無増悪生存期間を延長させることが最大の特徴です。薬が効いていても、腫瘍径に変化が見られないことがありますが、これは腫瘍の増殖が抑制されているためです。
投与回数と治療方法
トーリセルの標準的な投与方法は以下の通りです。
通常、成人にはテムシロリムスとして25mgを1週間に1回、30~60分間かけて点滴静脈内投与します。患者さんの状態により適宜減量することもあります。
1コースの期間は1週間で、効果があれば継続されます。治療期間は患者さんの病状や薬剤の効果、副作用の程度によって決定されます。発売開始当時から使用し、現在も治療継続されている患者さんもいらっしゃいます。
調製方法と投与時の注意点
トーリセルは調製時の損失を考慮して過量充填されており、無菌的に二段階の希釈調製を行います。調製は過剰な室光及び日光を避けて行い、調製後6時間以内に投与を終了する必要があります。
投与時には孔径5μm以下のインラインフィルターを使用し、DEHP(フタル酸ジ-(2-エチルヘキシル))を含まない輸液バック・ボトル、輸液セットを使用します。
副作用について
トーリセルによる治療では、多くの患者さんで副作用が見られます。日本人1,003例を対象とした特定使用成績調査では、77.72%の患者さんで副作用が発現し、重篤な副作用は35.16%の患者さんで発現しました。
主な副作用(発現頻度5%以上)
副作用の種類 | 症状 |
---|---|
口内炎 | 口の中の痛み、ただれ |
発疹 | 皮膚の赤み、かゆみ |
高血糖 | 血糖値の上昇 |
血小板減少 | 出血しやすくなる |
貧血 | 疲労感、息切れ |
高脂血症・高コレステロール血症 | 血中脂質の上昇 |
食欲不振 | 食事摂取量の減少 |
重大な副作用
特に注意が必要な重大な副作用として、以下のものがあります。
間質性肺疾患は最も重要な副作用の一つで、呼吸困難、咳嗽、発熱などの症状が現れることがあります。症状や重症度に応じて、休薬または中止する必要があります。
インフュージョンリアクション(点滴中の過敏反応)も重要な副作用で、点滴中や点滴後にアレルギー反応が起こることがあります。血管神経性浮腫反応が報告されており、特にACE阻害剤との併用時には注意が必要です。
その他、重篤な感染症、肺炎、ニューモシスティス肺炎、静脈血栓塞栓症、血栓性静脈炎、腎不全、消化管穿孔なども報告されています。
費用について
トーリセルは高額な薬剤です。2025年3月現在の薬価は、25mg1mL1瓶(希釈液付)で133,439円となっています。
1週間に1回の投与のため、4週間分の薬剤費は約533,756円となります。ただし、患者さんの実際の負担額は健康保険制度により軽減されます。
高額療養費制度の活用
現在、外来通院でも高額療養費制度が使用可能です。この制度を利用すれば、自己負担額は患者さんの収入に応じて、検査費用なども含めて月額約8万円程度の上限額に調整されます。
費用についてご不明な点がある場合は、医療機関の相談支援センターなど各相談窓口へご相談いただくことをお勧めします。限度額適用認定証の手続きなども利用できます。
治療期間と効果の評価
トーリセルによる治療は、基本的にはがんを根治させることを目的とするものではなく、よい状態をできるだけ長く維持することが目的となります。
治療効果は定期的な画像検査により評価されます。通常、治療開始から3か月程度で最初の効果判定を行います。効果があれば治療を継続し、効果が認められなくなったり、副作用が重篤になったりした場合は、治療方針の変更を検討します。
1次治療で効果があっても、いずれ効かなくなることがありますが、その場合は2次治療として他の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬への変更が検討されます。
最新の治療動向(2024-2025年)
腎細胞がんの治療においては、近年、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が注目されています。2025年現在、複数の薬剤を組み合わせる併用療法の選択肢が増えており、患者さん個々の状態に応じた個別化治療が可能になってきています。
現在使用可能な分子標的薬には、チロシンキナーゼ阻害薬とmTOR阻害薬の2つのタイプがあり、8種類の薬剤が使用できるようになっています。これらの薬剤の使い分けにより、より効果的な治療戦略が構築されています。
体験談から学ぶ重要なポイント
実際にトーリセルによる治療を受けている患者さんからは、副作用との上手な付き合い方が重要であるという声が聞かれます。
口内炎対策としては、こまめなうがいや口腔ケア、刺激の少ない食事の摂取が効果的です。皮膚の副作用に対しては、保湿ケアや紫外線対策が重要とされています。
定期的な血液検査により、血糖値や血中脂質の変化を監視し、必要に応じて食事療法や薬物療法を併用することで、副作用を管理しながら治療を継続することが可能です。
服薬指導と生活上の注意点
トーリセルによる治療中は、以下の点に注意が必要です。
感染症予防のため、手洗いやうがいを徹底し、人混みを避けるなどの対策を行います。生ワクチンの接種は禁忌とされているため、予防接種を受ける前には必ず医師に相談してください。
間質性肺疾患の早期発見のため、息切れ、咳、発熱などの症状があらわれた場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。
CYP3A4により代謝されるため、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品の摂取は避け、他の薬剤との併用については医師や薬剤師に相談してください。
妊娠・授乳期の注意事項
妊娠中の女性、妊娠している可能性のある女性には投与できません。動物実験において、胚死亡率増加、胎仔死亡率増加、胎仔発育遅延、催奇形性作用が報告されています。
授乳中の場合は、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討する必要があります。
まとめ
トーリセルは腎細胞がんに対する重要な治療選択肢の一つです。適切な副作用管理により、長期間の治療継続が可能であり、患者さんの生活の質の向上が期待できます。
治療を受ける際は、医療チームと密に連携し、定期的な検査を受けながら、副作用に対する適切な対処を行うことが重要です。費用面での不安がある場合は、高額療養費制度などの活用により、経済的負担を軽減することができます。
参考文献・出典情報
医療用医薬品 : トーリセル (トーリセル点滴静注液25mg) - KEGG
トーリセル点滴静注液25mgの基本情報 - 日経メディカル処方薬事典
抗悪性腫瘍剤(mTOR阻害剤)「トーリセル点滴静注液25mg®」承認条件解除について - ファイザー株式会社
腎臓がん(腎細胞がん) 治療 - 国立がん研究センター がん情報サービス
トーリセル(テムシロリムス) - がん情報サイト「オンコロ」
腎細胞癌に有効なmTOR阻害薬に注射剤が登場 - 日経メディカル
Temsirolimus テムシロリムス (トーリセル®) のレジメン - HOKUTO
手術ができない進行腎細胞がん 再発、転移に対する治療とは - がんプラス