胃がん検査方法の基礎知識
胃にがんがあるかどうかを調べる検査には、複数の方法があります。国の指針(2016年4月1日から適用)では胃がん検診の内容は問診、胃部X線検査または胃内視鏡検査が勧められています。現在、主流となっているのは、従来から行われている「レントゲン検査(バリウム検査)」と、より精度の高い「内視鏡検査(胃カメラ)」の2つです。
胃がんはわが国のがんによる死亡原因の上位に位置しており、罹患する人(かかる人)は50歳代から増加します。早期発見・早期治療によって治癒率を大幅に向上させることができるため、適切な検査方法を選択することが非常に重要です。
胃がんレントゲン検査(バリウム検査)の特徴
レントゲン検査の仕組み
レントゲン検査は造影剤のバリウムと、胃を膨らませる炭酸ガスを発生させる発泡剤を飲んで検査を受けます。胃透視検査は、飲んだバリウムを胃の中に薄く広げて、胃の形や表面の凹凸をレントゲンで観察するものです。
検査中は、胃を膨らませた状態でバリウムを胃の粘膜に付着させるため、身体を仰向けやうつ伏せ、左右に回転させるなどの指示が出されます。バリウムは時間と共に粘膜から剥がれ落ちてしまうため、撮影を行いながらバリウムを付着させる動作を繰り返すのが特徴です。
レントゲン検査のメリット
レントゲン検査の最大のメリットは、多くの集団検診で広く実施されており、比較的安価で受診できることです。胃部エックス線検査の自己負担額目安は0〜1,500円と、経済的な負担が軽いのが特徴です。
また、内視鏡検査のように管を挿入する必要がないため、嘔吐反射が強い方でも比較的受けやすい検査といえます。
レントゲン検査の限界と問題点
しかし、レントゲン検査にはいくつかの重要な限界があります。胃透視は白黒の影絵を見ているにすぎず、凸凹のない平坦な病変や色の違いは認識できません。
特に早期の胃がんについては、ごく小さいものは見逃すことが多いのが実情です。さらに胃の上部や前壁(胃のお腹に近いほうの壁)は大きな病変でも見落とされることがあります。また、レントゲン検査では形状が分かるのみで、がんとほかの病気との質的な違いをはっきり見分けることができません。
少量ではあるものの放射線被ばくがあります。また、稀ですがバリウムの誤嚥による肺炎や、バリウムがなかなか排便されない場合に腸閉塞が起こることがあります。
胃がん内視鏡検査の優位性
内視鏡検査の精度の高さ
小型のカメラを装着した細い管(直径5mm~10mm程度)を口または鼻から挿入し、食道、胃、十二指腸を直接観察します。内視鏡は色の変化やわずかな粘膜の隆起や凹み、模様のちがいを認識できます。
特に早期の胃がんにおいては、病変がわずかな隆起や凹み、周囲の粘膜との色のちがいとしてしか認識できないことが多いため、内視鏡の方がこうした病変の指摘には断然優れています。
生検による確定診断が可能
内視鏡検査の大きなメリットの一つは、検査中に病変が見つかった場合、鉗子と言われる処置具を使って直接組織を採り(生検:せいけん)、病理検査ができるため、病気の判定に役立っています。
これにより、がんかどうかを確実に診断することができ、二次検査として改めて検査を受ける必要がありません。
現在は内視鏡検査が主流
胃内視鏡検査は、任意型検診や、胃部X線検査(バリウム検査)で陽性となった(病気が疑われた)場合の精密検査として行われていましたが、複数の研究によって胃がんによる死亡率を減少させる効果があると判断されたことから、平成28年度より対策型検診としても推奨されるようになりました。
最近では、レントゲン検査をやらずに、最初から精度のよい内視鏡検査を実施するところも増えています。
内視鏡検査の種類と選択肢
経口内視鏡と経鼻内視鏡
内視鏡検査には、口から挿入する経口内視鏡と鼻から挿入する経鼻内視鏡があります。最近では、口から挿入する内視鏡よりも苦痛の少ない鼻から挿入する細い内視鏡(経鼻内視鏡)も多くの施設で行われています。
経鼻内視鏡は喉の反射が強い方でも比較的楽に受けることができ、検査中に医師との会話も可能です。
鎮静剤を使用した検査
検査の苦痛を軽減するため、多くの施設で鎮静剤を使用したオプションが提供されています。検査の際に鎮静剤(眠りぐすり)を注射することによって、眠っている間に(あるいはぼんやりした状態で)楽に検査を行っている施設もあります。
鎮静剤を使用すると、ウトウトした状態で苦痛を和らげながら検査が受けられます。費用は60~540円程度(3割負担で20~160円)と比較的安価です。
検査費用の比較
市区町村検診の費用
市区町村が実施している対策型がん検診では、検診費用の補助があり、自己負担額は軽減されています。
| 検査種別 | 自己負担額目安 |
|---------|----------------|
| 胃部エックス線検査 | 0〜1,500円 |
| 胃内視鏡検査 | 2,500円〜 |
自治体によって異なりますが、自己負担の料金は平均500〜3,000円程度が多く、無料としている自治体もあります。
自費診療での費用
人間ドックなどの任意型がん検診の場合、費用は原則として全額自己負担となります。内視鏡検査の場合、医療機関によって異なりますが、人間ドック等だと17,000円程度かかる検査が区の助成により1,500円で受診できますという例もあり、自治体の検診を利用することで大幅な費用削減が可能です。
最新のAI診断支援技術
AI技術による診断精度の向上
2024年から2025年にかけて、胃がん検査の分野では革新的なAI技術が実用化されています。AIメディカルサービス(東京都豊島区)は世界初の胃癌検出AIを開発し、2023年12月に、内視鏡検査中に、上皮性腫瘍を疑う病変候補画像から生検等追加検査を検討すべき病変候補の有無を表示する内視鏡画像診断支援AIの製造・販売承認を取得。2024年3月から販売を始めた。
2024年12月にはバージョンアップ版の承認を取得し、2025年5月8日に販売を開始している。このシステムは「内視鏡検査中にAIがダブルチェックするシステム」として機能し、医師の診断を支援します。
AI技術のメリット
AI診断支援の導入により、AIによって見逃しを減らすのがコンセプト。加えてAI支援によって、非専門医であっても高い水準の検出が期待できます。
早期胃癌だと、胃炎との区別が難しかったりするからです。4.5~25.8%が見逃されているという報告もありますが、AI技術により早期発見の可能性が大幅に向上しています。
ペプシノゲン検査の活用
血液検査による事前スクリーニング
ペプシノゲン検査は血液検査で萎縮性胃炎が起こっているかを調べる方法です。特に、慢性的な胃炎が続いている人については、胃の粘膜が縮んだ状態になる萎縮性胃炎になりやすく、その状態の人に胃がんが多いといわれています。
ペプシノゲン検査を行い、そこで異常が発見されると内視鏡検査でがんがあるかどうかを調べる医療機関も多くあります。この検査は血液を少し取るだけで、レントゲン検査よりも精度がよく被曝の心配もありません。
ペプシノゲン検査の限界
しかし、この検査だけでは内視鏡検査の精度には遠く及ばず、早期のがんを見逃す危険性があります。そのため、事前のスクリーニング検査として位置づけられています。
検査方法の選び方
年齢と受診頻度
50歳以上が推奨される受診年齢となっており、2年に1回の受診が国の指針で推奨されています。国では2年に1回受診することを推奨しています。そのため、この胃がん検診(内視鏡検査)を受診した翌年度は、大田区の胃がん検診(エックス線検査)及び胃がん検診(内視鏡検査)のいずれも受診できません。
リスク要因を考慮した選択
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の持続感染により胃がんのリスクが高まると考えられています。ピロリ菌感染の既往がある方や家族歴がある方は、より精度の高い内視鏡検査を選択することが推奨されます。
効率性を重視した判断
日本対がん協会が2010年に行った胃がん検診のデータによると、受診者243万1,647人のうち精密検査が必要と判定された方は20万7,877人(8.5%)で、このうち実際に精密検査(内視鏡)を受けた方は15万4,167人(77.4%)、"がん"が発見された方は2,683人(0.11%)という結果でした。
この結果からも分かるように、最初からレントゲン検査を受けて、異常があれば内視鏡検査を受けるという二段階の検査は効率が悪く、最初から内視鏡検査を受ける方が合理的です。
検査の安全性と注意事項
内視鏡検査のリスク
その他に起こりうる合併症として、稀ですが喉の麻酔薬によるショックや生検(組織採取)による出血、内視鏡による粘膜の損傷や出血、穿孔があり、鼻からの内視鏡では鼻出血がみられることもあります。
ただし、これらの合併症は稀であり、熟練した医師による検査では安全性は非常に高いです。
検査前の準備
内視鏡検査、レントゲン検査ともに、胃の内部を観察するため、食事や飲料の摂取制限があります。各受診機関の事前の指示に従うことが重要です。
一般的には検査前日の夕食後から検査終了まで絶食となり、水分摂取についても制限があります。
検査結果の判定とその後の対応
検査結果の通知
検査結果は、検査後10日~1ヶ月ほどで主に文書で通知されます。内視鏡検査で生検を行った場合は、病理診断の結果が出るまでに1〜2週間程度かかることが一般的です。
異常が見つかった場合の対応
検査で異常が見つかった場合は、専門医による詳しい検査や治療が必要になります。早期胃がんの場合、内視鏡的治療や腹腔鏡手術など、体への負担が少ない治療方法が選択できる可能性が高くなります。
まとめ:最適な検査方法の選択
胃がん検査においては、レントゲン検査と内視鏡検査にはそれぞれメリット・デメリットがありますが、現在は内視鏡検査が主流となっています。
がんの早期発見・早期治療を考えると、最初から精度の高い内視鏡検査を受けることが最も確実で効率的です。費用面での負担が気になる場合は、自治体の検診制度を活用することで、比較的安価に質の高い検査を受けることができます。
また、AI診断支援技術の導入により、内視鏡検査の精度はさらに向上しており、見逃しのリスクを大幅に減らすことが期待されています。