膵臓は、胃の後ろ側にあるトウガラシのような形をした臓器です。長さ10数センチのこの小さな臓器は、おもに2つの役割をもっています。ひとつは、血液中の糖の量(血糖)をコントロールするホルモンをつくり出すことです。
膵臓内に散らばる小さな細胞の集団(ランゲルハンス島)が、血糖を下げるホルモン「インスリン」と、血糖を上げるホルモン「グルカゴン」を分泌しています。膵臓のもうひとつの役割は、「膵液」を生産することです。
膵液は、脂肪や糖、たんぱく質の消化を助ける酵素を含む消化液であり、膵管を伝わって十二指腸に流れ込みます。膵臓がんの90パーセントはこの膵管に発生します。そのため、一般に膵臓がんとか膵がんというときは、「膵管がん」を意味します。
まれに、ホルモンを分泌するランゲルハンス島などの細胞ががん化することもあります(膵内分泌腫瘍)。膵内分泌腫瘍は比較的良性であることが多く、一般に外科手術のみ、もしくは手術に抗がん剤やホルモン剤を併用することで治療できることもあります。
厳しい状況になる膵臓がん
これに対してふつうの膵臓がん(膵管がん)を発症した人は、大部分が短期間のうちに命を落としているのが現実です。その理由は次のようなものです。
1.初期の膵臓がんにはほとんど症状がなく、症状が現れたときには治療できない状態までがんが進行している。
2.診断が難しく、一般的な検診では容易に発見できない。
3.悪性度が高い。進行が速く、周囲の臓器や組織に広がりやすい。また、がんが小さいうちから肝臓などに転移することが多く、治療後も再発しやすい。
4.進行がんは、有効な治療方法がないに等しい。
これらの理由によって、現在でも膵臓がん患者の5年生存率は、高度な専門技術をもつ医療施設(がんセンターなど)で治療を受けても10パーセント以下、全体では2~3パーセントと、とても厳しい状況にあります。
このようなことから膵臓がんは、すべてのがんの中でもっとも治療の難しいがんのひとつとされているのです。
また、膵臓がんの治療が難しい理由は、その位置とも関係があります。ふくらんだトウガラシのような形をした長さ10数センチの膵臓は、ちょうど胃の裏側の、背中に近い位置にあります。そのため、通常の検診でがんを見つけることはたいへん困難です。
また、膵臓がんを見つけるためのスクリーニング(不特定多の中からがんの疑いのある人を洗い出す検査)はなく、初期症状もはっきりしません。そのため、背中の強い痛みなどの自覚症状が現れてから病院を訪れ、精密検査を受けて発見されたときには、すでにがんは膵臓全体に広がっていることが多いとされています。
そして、がんが周辺の重要な組織や血管に広がっている場合には、切除手術もほとんど行われません。以上のような理由から、膵臓がん患者の生存率はきわめて低く、がんの切除手術を行った患者でも、5年生存率は10パーセント程度です。(日本膵臓学会が過去20年間の治療成績をまとめた結果)
手術が不可能なときにはほとんどが1~2年以内に死亡するとされています。偶然にもごく早期(Ⅰ期)に膵臓がんが発見されれば、手術で病巣を摘出することにより根治が望めます。この場合の5年生存率は、最近では60パーセントに達します。そのため、膵臓がんを早期に発見する技術を探す努力が続けられています。
実際、最近のCTや超音波検査の技術の進展により、状況が改善される徴候があります。また、MRIを利用して膵臓の精語検査を行う「MRCP(磁気共鳴胆管水管造影)」もしだいに普及しており、膵臓がんの早期発見を可能にするのではと期待されています。
膵臓がんの5年生存率
これらによって、ごく最近では、初期の膵臓がんの発見率が全体の10パーセント程度まで上昇しているともいわれます。また手術に代わるさまざまな治療法も開発されており、ごく最近だけを見れば、全体的な生存率はいくぶん向上していると推測されます。
がんセンター中央病院の例を見ると、膵管がん(膵臓がんの約90パーセントを占める)の治療成績は、3年生存率が23パーセント、5年生存率は17パーセントと、以前に比べて高くなりました。病期が3期(リンパ節に転移している)まで進んでいた場合でも、5年生存率は34パーセントと報告されています。しかし、4期で発見される患者が全体の70パーセントを占めており、治療を困難にしています。
以上、膵臓がんについての解説でした。