がんが疑われる部分に針を刺して組織を採取し、がんの有無を調べるのが針生検といわれる検査です。
血液検査によるPSA値の測定や、直腸診でいくら異常が疑われても、それだけでは前立腺がんと確定されることはありません。直接、前立腺の組織の一部を少量採取して、がんが存在するかどうかを調べる生検を行う必要があります。
前立腺がんの場合、前立腺に針を刺して組織をとってくるため、針生検と呼ばれています。そして、採取した組織にがんがある場合に、初めて前立腺がんであるとの診断がつきます。診断と同時にがんの悪性度を調べます。
針生検ではまず、肛門から超音波検査ができる探子(プローブ)を入れます。プローブの先から針を出し、前立腺の様子と針の位置を超音波画像で確認しながら、必要と思われる個所に針を刺し、組織を採取します。
このとき、直腸から針を刺す方法が経直腸的針生検、肛門よりやや手前の会陰部から針を刺す方法が経会陰的針生検です。直腸から刺す場合は、肛門は痛みを感じますが、その先の直腸には痛みを感じる神経がないため、麻酔なしで行ってもそれほど強い痛みにはなりません。
もちろん、少しの痛みでも避けたいときには麻酔を施すこともできます。一方、会陰部から刺す場合は、かなり強い痛みを感じるため、麻酔なしで行われることはありません。
経直腸的か経会陰的のどちらの方法が適しているか、麻酔するかしないかは、医師と患者がよく相談して決めることになります。がんの発生が疑われる場所や、持病、体調などを考慮します。
麻酔の有無は、何カ所から組織を取れるかともかかわってきます。1990年代までは6カ所に針を刺して採取するのが一般的でしたが、最近ではがんの検出率を高めるために、さらに多くの個所から組織を採取するようになっています。
生検は麻酔を用いない場合、15~30分で終了します。刺す針は約10本(10回)、つまり、10カ所から前立腺の組織を採取しています。
一方、麻酔を用いた場合は苦痛がないため、医師も十分な時間をかけて、より慎重に行うことができます。この場合、刺す針はおよそ15本(15回)です。つまり前立腺の15カ所から組織を採取することになります。
これらの針の数は医療機関によって異なります。画像を碓認しながら、疑わしいところを含めて針を刺しますが、確認しきれない部分がないとはいえません。多くの個所から組織を取ってきたほうが、がんがみつかる確率は高いといえます。
病院や医師によっては26カ所に針を刺す方法が行われているところもあり、この方法では、6カ所の場合より検出率が約40%高まるともいわれています。
針生検の選択に際しては、検査の目的や自分の条件を知っておく必要があります。たとえば、1回めに麻酔なしを選び、採取した組織の本数が少ないなかで、確定はできないものの前立腺がんの疑いありとの結果が出て、再生検の必要が生じたとします。
その場合には、正確を期すために前回より多くの針を刺すことのできる方法を選択する必要性が高まります。
また、PSA値は低いものの(10ng/ml未満)、直腸診でかなり小さいがんの発生が疑わしい場合ははじめから本数が多い方法が勧められます。
どの方法でも、針生検自体は短時間で終わりますが、深刻な合併症がおこる可能性がわずかですがあります。そこで、万が一に備え針生検を1泊入院で行う病院もあります。
おこりうる合併症は、出血や急性前立腺炎といったもので、いずれも発症早期に気づいて適切な治療を行えば、大事に至ることはほとんどありません。
しかし、これらの症状は自分で気づかないこともあるので、発見が遅れてしまうと深刻な事態を招きかねません。入院すれば合併症の兆候がないか十分にチェックし、なんらかの変化があればすぐに対応することができます。
入院が長引くような合併症の発生率は1~2%です。針生検を受ける際には、こうした合併症の可能性も理解しておくことが大切です。
以上、前立腺がんに関する解説でした。