
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中に「背中が痛い」「背中に違和感がある」という症状を経験される患者さんは少なくありません。
背部痛は日常的によくある症状ですが、がん患者さんにとっては「がんが悪化しているのではないか」「転移したのではないか」という不安につながりやすい症状でもあります。
背中の痛みには実に様々な原因があり、がんそのものに起因するケースもあれば、筋肉や骨の問題、内臓の疾患など、がん以外の要因によるケースも多く見られます。
この記事では、がん患者さんが背部痛を訴える際に考えられる原因と、医療機関で受けられる検査や治療法について、2026年の最新情報を踏まえて詳しく解説します。
背部痛とは
背部痛とは、背中に痛みを感じる状態を指します。背中の真ん中、左側、右側など、痛む場所によって原因が異なる場合が多いです。痛みの性質も、鈍い痛み、刺すような痛み、焼けつくような痛みなど様々です。
がん患者さんの場合、背部痛の原因を大きく分けると、がん(腫瘍)そのものによるものと、その他の要因によるものに分類されます。
がん(腫瘍)そのものによる背中の痛み
主な原因
がんそのものが原因で背部痛が起こるケースには、以下のようなものがあります。
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 腎細胞がん | 腎臓がんは背中の痛みが起りやすいことで知られています。腎臓に発生したがんが増殖すると、腎臓の被膜が伸び、腰背部痛が出現します。痛みは片側(がんがある側)に現れることが多く、肋骨の下あたりに感じることが一般的です。 |
| 後腹膜臓器への影響 | がんが後腹膜や腹腔神経叢に浸潤することで背部痛が起こります。後腹膜には膵臓、腎臓、副腎などの重要な臓器が位置しています。 |
| 実質臓器の病変 | 膵臓がん、肝臓がんなどの実質臓器のがんによる内臓痛や関連痛として背部痛が現れることがあります。 |
| 脊椎への転移 | がんが骨に転移し、特に背骨(胸椎や腰椎)に転移した場合、体性痛として背中の痛みが現れます。骨転移は肺がん、乳がん、前立腺がんなど様々ながんで起こり得ます。 |
| 水腎症 | 腎盂がん、膀胱がん、尿管がんなどが大きくなり尿管口を塞ぐと水腎症となります。その結果、尿管や腎盂の拡張、腎臓への圧迫が起こり、背部痛が発生します。 |
がんの部位別の背部痛の特徴
膵臓がんによる背部痛
膵臓は後腹膜に位置するため、膵臓がんでは臓器やその周囲の炎症、後腹膜神経叢へのがん浸潤によって背部痛が生じやすいです。膵臓がんによる背部痛には以下のような特徴があります。
- 腰の上部から背骨の中央部にかけて痛みが現れることが多い
- 鈍痛や焼けつくような痛みとして感じられる
- 夜間に痛み(上腹部から左背部)が増強する傾向がある
- 前屈位や座位など、腹壁の緊張がとれる体位で緩和することがある
- 食後に痛みが強くなることがある
後腹膜への浸潤による体性痛や膵壊死に伴う神経破壊による神経障害性疼痛など、痛みの機序は複雑です。
肺がんによる背部痛
肺がんは肺の外側や周囲の神経に広がることで、背中に痛みが生じることがあります。発生した部位によって痛む場所が変わり、肩甲骨から肩にかけて症状が現れやすい傾向です。また、肺がんが骨に転移した場合は、腰や背中、肩などに痛みがみられます。
大腸がんによる背部痛
大腸がんの浸潤に伴う上部腰仙部神経障害によって背中の痛みが起こり得ます。直腸がんの場合、腫瘍が腸管外の神経や他臓器に浸潤している場合は、腹部以外の痛み(下肢痛、背部痛、臀部痛など)として認識されることもあります。
胃がんによる背部痛
心窩部痛や腹腔神経叢へのがん浸潤に伴う神経障害性疼痛、強い突出痛が出現することにより、痛みをかばうような体位をとることで背部痛が現れる場合があります。肝臓に転移した場合、腫れや被膜の緊張が原因で右肩や背中に鈍い痛みを感じることがあります。
がん性腹膜炎による背部痛
後腹膜や骨盤腔に存在する神経叢への浸潤による神経障害性疼痛が起こり得ます。
骨転移による背部痛の特徴
がんが骨に転移すると、腫瘍が神経を圧迫したり骨を破壊したりして痛みが生じます。骨転移による背部痛には以下のような特徴があります。
- 胸椎に転移した場合は背中の痛みとして現れる
- 腰椎に転移した場合は腰の痛みとして現れる
- 痛みは少しずつ増強する
- 安静にしていても痛みがある
- 就寝中に痛みで目が覚めることもある
- 進行すると圧迫骨折を引き起こす可能性がある
- さらに進行すると脊髄を圧迫し、下半身のしびれや麻痺を引き起こすこともある
その他の要因による背中の痛み
がん患者さんの背部痛は、必ずしもがんそのものが原因とは限りません。以下のような様々な疾患が背部痛の原因となることがあります。
| 疾患の分類 | 具体的な疾患 |
|---|---|
| 脊椎疾患 | 椎間板ヘルニア、椎体すべり症、骨粗鬆症による圧迫骨折、加齢による変化など |
| 泌尿器系疾患 | 腎結石、尿路結石、腎盂腎炎、膀胱炎など |
| 消化器系疾患 | 膵炎、胆石、胆嚢炎、胆管結石、胃・十二指腸潰瘍など |
| 循環器疾患 | 腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、急性心筋梗塞など |
| 呼吸器疾患 | 緊張性気胸など |
| その他 | 筋膜性疼痛症候群、筋肉のこわばり、帯状疱疹など |
特に、腹部大動脈瘤破裂、大動脈解離、急性心筋梗塞、緊張性気胸などは緊急対応が必要となるため、背部痛の原因を正確に把握することが重要です。
医療機関での対応と検査
対応のポイント
がん患者さんが背部痛を訴える場合、「背部痛=筋肉の痛み」と決めつけず、がんをはじめとした疾患の増悪である可能性をふまえて対応することが求められます。
痛みの原因を探るために、以下のような検査が行われます。
主な検査方法
| 検査名 | 詳細 |
|---|---|
| 超音波検査 | 侵襲が少なく、水腎症の有無、腹部臓器の状態を確認できます。腎盂内の腫瘍の有無やリンパ節、肝への転移の有無なども分かります。 |
| CT検査 | がんの位置、大きさ、周囲組織への広がり、転移の有無などを詳細に評価できます。造影剤を使用することでより詳細な情報が得られます。 |
| MRI検査 | 軟部組織の評価に優れ、神経への浸潤や骨髄の変化などを詳しく調べることができます。 |
| 静脈性尿路造影 | 尿路の状態を確認し、水腎症の程度や尿路の閉塞の有無を評価します。 |
| 血液検査 | 腎機能、肝機能、炎症マーカー、腫瘍マーカーなどを評価します。 |
治療と対処法
原因に応じた治療
背部痛の治療は、その原因によって異なります。
水腎症への対応
水腎症が認められる場合は、その程度に応じた治療が実施されます。
- 経皮的腎瘻造設:皮膚から腎臓に管を入れて、尿を体外に排出する処置
- 尿管カテーテル留置:尿管にステント(細い管)を挿入して尿の流れを確保する処置
これらの処置により、腎臓への圧迫が軽減され、背部痛の改善が期待できます。
疼痛緩和の基本的な考え方
がん患者さんの疼痛緩和は、がん治療と並行して行うことができます。日本緩和医療学会の「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版」などに基づいた治療が行われています。
薬物療法
がん性疼痛の薬物療法では、痛みの強さに応じて段階的に薬剤を選択します。
| 痛みの程度 | 使用される薬剤 |
|---|---|
| 軽度の痛み | 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンから開始します。NSAIDsを使用する場合は、消化性潰瘍を予防するため、プロトンポンプ阻害薬などを併用します。 |
| 中等度以上の痛み | オピオイド(医療用麻薬)を使用します。モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、トラマドール、ヒドロモルフォンなどが、患者さんの状態に応じて選択されます。 |
| 神経障害性疼痛 | 抗うつ薬、抗痙攣薬(ガバペンチノイドなど)、抗不整脈薬などの鎮痛補助薬を併用することがあります。 |
鎮痛薬使用の原則
WHO方式がん疼痛治療法では、以下のような原則が示されています。
- 経口投与が基本(嚥下困難などがある場合は、坐剤、貼付剤、持続皮下注・持続静注などを検討)
- 時刻を決めて規則正しく投与(痛みが出てから使用する頓用方式は避ける)
- 突出痛に対してはレスキュー薬(即効性のある鎮痛薬)を使用
- 副作用対策を同時に行う(特に便秘と悪心・嘔吐への対策)
非薬物療法
薬物療法と並行して、以下のような非薬物療法も検討されます。
- マッサージ
- 皮膚刺激法(温熱療法、冷却療法など、患者さんの意識を痛みからそらす方法)
- 心理社会的介入、気分転換法
- アロマテラピー
- 音楽療法
- リラクゼーション法
- 体位の工夫(前屈位や座位など、痛みが緩和される姿勢を見つける)
放射線治療
骨転移による痛みに対しては、放射線治療が効果的な場合があります。放射線治療により腫瘍を縮小させ、痛みを軽減することが期待できます。
神経ブロック療法
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、神経障害性疼痛が強い場合には、神経ブロック療法が検討されることがあります。特定の神経に局所麻酔薬などを注射して、痛みの伝達を遮断する治療法です。
患者さんが知っておくべきこと
早期の医療機関受診が重要
背部痛が1か月以上続く場合や、じっとしているときも痛む場合、夜間に痛みで目が覚める場合、徐々に痛みが強くなる場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
以下のような症状を伴う場合は、特に注意が必要です。
- 発熱
- 体重減少
- 血尿
- 黄疸(皮膚や目が黄色くなる)
- 下肢のしびれや麻痺
- 排尿障害
痛みを我慢しないことが大切
痛みを我慢していると、日常生活に影響するだけでなく、体力を消耗して、がんの治療に耐えられなくなることもあります。痛みを抑えるのに十分な量の鎮痛薬を適切に使って、積極的に痛みをとることが大切です。
医療用麻薬(オピオイド)の使用に対して、「中毒になるのではないか」「寿命が縮まるのではないか」という誤解を持たれる方もいますが、適切に使用すれば中毒になることはありませんし、寿命を縮めることもありません。むしろ、痛みを適切にコントロールすることで、QOL(生活の質)を維持し、がん治療を継続できるようになります。
担当医とのコミュニケーション
背部痛について気になることがあれば、遠慮せず担当医、看護師、薬剤師に相談してください。以下のような情報を伝えると、より適切な対応が受けられます。
- 痛みの場所(背中のどこが痛むか)
- 痛みの性質(鈍い痛み、刺すような痛み、焼けつくような痛みなど)
- 痛みの強さ(0から10の尺度で表すなど)
- 痛みが始まった時期
- 痛みが強くなる時間帯や状況
- 痛みが楽になる体位や行動
- その他の症状の有無
まとめ
がん患者さんの背部痛には、がんそのものによるもの(腫瘍の増大、神経への浸潤、骨転移、水腎症など)と、その他の要因によるもの(脊椎疾患、泌尿器系疾患、消化器系疾患など)があります。
背部痛が続く場合は、原因を正確に診断するために医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。痛みの原因に応じて、水腎症への処置、薬物療法、放射線治療、神経ブロック療法など、様々な治療法があります。
痛みを我慢せず、医療者と相談しながら適切な疼痛管理を行うことで、QOLを維持しながらがん治療を続けることができます。背部痛でお悩みの際は、早めに担当医に相談しましょう。

