
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中には「お腹が張る」「下腹がぽっこりする」「お腹が苦しい」といった腹部膨満の症状を感じることがあります。医学的には「腹部膨満」や「腹満」と呼ばれるこの症状は、腹部の大きさが突然または徐々に増加する状態を指します。
腹部膨満は、単なる不快感だけでなく、呼吸困難や食欲不振といった日常生活に大きな影響を及ぼす症状です。ここでは、がん患者さんに起こる腹部膨満の主な原因と対策、治療法について解説します。
重い症状や痛み、長期的な張りを感じる場合は、腸管癒着によるイレウスなど重篤な問題が隠れている可能性もあるため、主治医への報告が第一です。ただ、予備知識として「どのような場合にお腹が張るのか」を理解しておくことで、適切な対応の判断に役立ちます。
お腹が張る主な原因
がん患者さんのお腹が張る原因は、大きく分けて以下の4つに分類されます。
がん(腫瘍)そのものによる腹部膨満
がん自体やその進行に伴う変化が原因で、お腹が張ることがあります。
炎症や栄養状態の低下によって腹水が溜まることがあります。腹水とは、がん細胞から産生される増殖因子による腹膜の血管新生や血管透過性の亢進、肝臓への転移や合併した肝硬変による門脈圧の上昇、がん自体によるリンパ管閉塞などが原因で、腹腔内に体液が貯留する状態です。
がんの増大により腸が閉塞して、ガスや食べ物が流れることができずに貯留すると、腸管が膨張して腹部膨満が起こります。これはイレウス(腸閉塞)と呼ばれる状態です。
卵巣がん、子宮がん、大腸がん、胃がん、膵がん、肝臓がんなどでは、腹腔内臓器の腫瘍自体が大きくなることで腹部膨満が生じることもあります。また、がん性腹膜炎による腹水も腹部膨満の主要な原因の一つです。
手術によるお腹の張り
開腹手術を受けた後には、腸の動きが一時的に低下することがあります。消化管の機能は手術直後に一時的に停止しますが、通常は術後2から3日で回復します。
開腹手術後に腸管癒着が起こると、閉塞性イレウスが発生して腹部膨満が続くことがあります。腸管癒着とは、手術によって腸と腹壁、または腸同士がくっついてしまう状態です。
術後の縫合不全や腹膜炎を発症した場合は、腸管運動が抑制され、麻痺性イレウスを発症してお腹の張りが起きることがあります。
手術後の腸管運動低下のリスクとなるものには、長期間の絶食、放射線療法後の状態、腹膜炎などの炎症、大量出血による大量輸液、疼痛コントロールが不十分な状態、術後の離床が進まないことなどがあります。
化学療法(抗がん剤治療)によるお腹の張り
抗がん剤の副作用として便秘や下痢が起こることがあり、これらが腹部膨満の原因となることがあります。便秘では腸内にガスや便が貯留し、下痢でも腸管の炎症によって腹部膨満感を感じることがあります。
その他の原因によるお腹の張り
痛みの緩和に使われるオピオイド(鎮痛剤)や抗うつ薬は、腸管運動を低下させる副作用があるため、便秘を引き起こし、結果として腹部膨満が生じることがあります。
特にオピオイド誘発性便秘症(OIC)は、オピオイド使用がん患者さんの60から90パーセントに発生すると報告されており、用量依存的に頻度も重症度も増していきます。
長期間寝たままの状態が続くと、腸の動きが低下して便秘になり、お腹が張ることがあります。
がん(腫瘍)によるお腹の張りの詳細と対策
腫瘍によりお腹が張る理由
がんが原因で腹部膨満が起こる主な理由は、以下の3つです。
第一に、腹水の貯留です。がん細胞から産生される増殖因子による腹膜の血管新生や血管透過性の亢進、肝臓への転移や合併した肝硬変による門脈圧の上昇、がん自体によるリンパ管閉塞などにより、腹水が貯留して腹部膨満が起こります。
第二に、イレウス(腸閉塞)の発生です。がんの増大により腸が閉塞すると、ガスや食べ物が流れることができずに貯留し、腸管が膨張して腹部膨満が起こります。
第三に、腫瘍自体の増大です。がんの進行により腹腔内臓器の腫瘍が大きくなることで、物理的に腹部膨満が起こります。
| リスクの高いがんの種類 | 腹部膨満が起こりやすい理由 |
|---|---|
| 卵巣がん、子宮がん | 腹膜播種による腹水貯留、腫瘍の増大 |
| 大腸がん、胃がん、膵がん | 腸閉塞、がん性腹膜炎、肝転移による腹水 |
| 肝臓がん | 門脈圧亢進による腹水、肝機能低下 |
| 乳がん | 腹膜転移による腹水 |
腹水に対する治療法
イレウスや腹水貯留がある患者さんへの過剰な輸液は、腹部膨満感を増悪させる場合があるため、輸液量は病期や予後、悪心・嘔吐、全身の浮腫の状態などから慎重に検討されます。腹部膨満の原因は1つでないことが多いため、総合的な診断が必要になります。
薬物療法による腹水の管理
腹水に対しては、利尿薬が使用されることがあります。スピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)やフロセミド(商品名:ラシックス)といった利尿薬が併用されることが多いです。
肝転移による腹水の場合、抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンが第一選択薬として推奨されています。スピロノラクトン50から100ミリグラムに、フロセミド20から40ミリグラムを併用する方法が一般的です。スピロノラクトンの効果は投与後3から7日で現れるため、投与初期は週1から2回程度、電解質と腎機能をチェックする必要があります。
ただし、腹膜播種による腹水の場合は、利尿薬の効果が低いことがあります。また、利尿薬には腎機能低下や電解質異常などの副作用のリスクもあるため、慎重な使用が求められます。
その他、腹水の原因や症状に応じて、トルバプタン(商品名:サムスカ)などの水利尿薬が併用されることもあります。
腹水穿刺による腹水の除去
腹水を抜く処置である腹水穿刺は、腹部膨満感をすみやかに改善させる方法です。お腹に針を刺して直接腹水を抜き取ります。
腹水穿刺は症状の緩和に効果的ですが、タンパク質が体外に排出されてしまうため、すぐに再び腹水が貯留してしまうという課題があります。そのため、腹水穿刺の適応は、患者さんの症状の強さや穿刺への意向、全身状態、予後などから総合的に判断されます。
近年では、CART(腹水濾過濃縮再静注法)という治療法も行われています。これは、抜いた腹水を濾過・濃縮して、有用なタンパク質を回収して体内に戻す方法です。多量の自己アルブミンとグロブリンが回収できるだけでなく、タンパク質の喪失を最小限に抑えることができます。
イレウス(腸閉塞)に対する治療法
イレウスに対しては、原因や重症度に応じて、以下のような治療が行われます。
保存的治療
単純性イレウスや麻痺性イレウスに対しては、まず保存的治療が行われます。絶飲食(食事と飲み物を取らない)として腸を休め、点滴で栄養管理を行います。
腸管の張りが強い場合は、鼻からイレウスチューブという細いチューブを入れて、腸の中にある内容物やガスを吸引します。腸閉塞から回復するまでチューブは挿入しておくため、長期間チューブを入れておく可能性もあります。
薬物療法
イレウスに対しては、オクトレオチド(商品名:サンドスタチン)やメトクロプラミド(商品名:プリンペラン)、コルチコステロイド(商品名:デカドロン)などが使用されることがあります。
ただし、完全閉塞の場合や幽門狭窄を認める場合、メトクロプラミドのような消化管蠕動を亢進する薬剤は、疝痛や穿孔のリスクがあるため禁忌とされています。
腹部膨満感による苦痛が強い場合は、オピオイド鎮痛剤の使用が検討されますが、オピオイドには腸管運動を抑制する作用もあるため、非完全閉塞で排便を維持したい場合には、腸管運動の抑制が弱いフェンタニルが検討されることもあります。
外科的治療
保存的治療で改善しない場合や、血流が遮断されている複雑性腸閉塞の場合には、手術が必要になることがあります。
腫瘍が原因の場合は、消化管内の減圧を行った上で、可能であれば腫瘍を腸管ごと切除し、その後残った腸管同士をつなぎ合わせます(吻合)。吻合できない場合は人工肛門(ストーマ)を造設します。
癒着が原因の場合は癒着部分をはがしますが、腸管の損傷が激しい場合は腸管を切除する必要があります。
近年では、内視鏡を用いた消化管ステント留置という方法も行われています。これは、狭窄部分にステントと呼ばれる管を留置して、腸管の通過を改善する方法です。
日常生活での対策とケア
がんによるお腹の張りに対しては、以下のような日常生活での工夫も大切です。
食事の工夫
一度にたくさん食べると腹部膨満が増強するため、食べたいときに少しずつ食べられるよう工夫します。のどごしがよく、消化のよいものを摂るようにします。
食物繊維を多く含む食べ物(イモ類や豆類など)や発酵食品は、腸内でガスを発生させやすいため、摂取を控えめにすることが推奨されます。ただし、消化管狭窄がある場合は、食物繊維が便秘を助長させる可能性があるため、低残渣食への変更が必要になることもあります。
体位の工夫
腹部が張って苦しいと、腰が重く痛くなることがあります。身体とマットレスとの隙間をつくらず、安楽な体勢がとれるよう、腰の隙間を埋めるように枕やクッションを使用します。
皮膚ケア
腹部膨満があると、腹部の皮膚が伸展するため、脆弱化し乾燥しやすくなってしまいます。入浴後や腹部マッサージ時は、皮膚保護のため、手で保湿薬を温めてから、腹部全体にやさしく塗布します。
下着や衣服は締め付けが少ないゆったりとしたものを選び、うっかりお腹を傷つけないように爪は短く切っておくことも大切です。
手術によるお腹の張りの原因と対策
手術でお腹が張る理由
腹部手術後には、正常な術後経過として、一時的に消化管の機能が停止することがあります。これは通常、術後2から3日で回復します。
開腹手術後に腸管癒着による閉塞性イレウスが発生すると、腹部膨満が続きます。腸管癒着とは、手術によって腸と腹壁、または腸同士がくっついてしまう状態です。
術後の縫合不全や腹膜炎を発症した場合は、腸管運動が抑制され、麻痺性イレウスを発症してお腹の張りが起きることがあります。
| 術後イレウスのリスク要因 | 対策 |
|---|---|
| 長期間の絶食 | 適切なタイミングでの経口摂取再開 |
| 放射線療法後 | 腸管運動促進薬の使用検討 |
| 術中の大量出血による大量輸液 | 適切な輸液管理 |
| 疼痛コントロール不十分 | 適切な鎮痛剤の使用 |
| 術後の離床が進まない | 早期離床の促進 |
主な対応・対策・治療法
手術後のお腹の張りに対する最も重要な対策は、早期離床です。痛みが発生する場合は適切に鎮痛剤を使うことで、早期離床を促進できます。
術後、お腹の張りが強くなり悪心・嘔吐、便秘が続く場合は、まず経口摂取が中止されます。
術後の麻痺性イレウスの場合、腹圧が十分にかけられないときは、ガス抜きや浣腸が行われ、腹部膨満感を改善させます。
メトクロプラミド(商品名:プリンペラン)、パンテノール(商品名:パントール)などの腸蠕動運動促進薬が使用されることもあります。
術後の腸管癒着による腹部膨満に対しては、経鼻胃管やイレウス管を挿入し、腸管内容物やガスの排出が促されます。
オピオイド(鎮痛剤)によるお腹の張りと便秘への対策
オピオイド誘発性便秘症(OIC)について
痛みの緩和に使われるオピオイドは、腸管のオピオイド受容体に作用して、消化酵素の分泌抑制、消化管の蠕動運動抑制、大腸における水分吸収促進などを引き起こします。
オピオイド誘発性便秘症(OIC)は、オピオイドの投与初期から発現し、ほとんど耐性を形成しないため、オピオイド使用中は症状が持続します。鎮痛作用が発現する必要量の約50分の1で起こり、オピオイド使用がん患者さんの60から90パーセントに発生すると報告されています。
用量依存的に頻度も重症度も増していくため、適切な対策が必要です。
オピオイド誘発性便秘症の治療
オピオイドによる便秘は高頻度に認められることから、オピオイド開始時から下剤の予防的投与が推奨されています。
下剤による治療
便秘に対しては、便の軟化作用のある浸透圧緩下剤と、腸管の蠕動運動を亢進させる大腸刺激性緩下剤を併用することが基本です。
新しい治療薬:ナルデメジン
近年、オピオイド誘発性便秘症に特化した治療薬として、末梢性μオピオイド受容体拮抗薬が開発されています。
ナルデメジン(商品名:スインプロイク)は、消化管に存在するμオピオイド受容体に結合し、オピオイドの末梢性作用に拮抗することでOICを改善します。
2024年に発表された研究では、がん患者さんが新たにオピオイドの使用を開始する際に、ナルデメジンを併用することで、便秘の予防効果があることが実証されました。この併用により、痛みを緩和しながら快適に生活できることが分かっています。
生活習慣の改善
患者さんの負担にならない範囲で、水分摂取、適度な運動、腹部のマッサージや保温を行うことも有効です。
おへそを中心に「の」の字を書くようにマッサージをして、からだの外側から腸を刺激することで、腸の動きを促進できます。
便秘と偽性下痢への注意
がん患者さんにおける便秘は、オピオイド以外にも様々な要因が考えられます。
| 便秘の原因 | 具体例 |
|---|---|
| がん関連 | 腹水、脊髄圧迫、腸閉塞、高カルシウム血症 |
| 薬剤 | 抗コリン薬、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗精神薬、抗がん薬、利尿薬、鉄剤、降圧薬、制酸薬 |
| 食事量の低下 | 食物繊維の減少、脱水 |
| 活動性の低下 | 麻痺・体力低下による腹圧低下、蠕動低下 |
| ストレス | 痛みによる交感神経の優位、不安 |
注意が必要なのは、「便秘ではあるが少量の下痢や軟便が続く」という状態です。これは偽性下痢と呼ばれ、便塊により内肛門括約筋が反射的に弛緩して、軟便や液状便を漏出性に失禁している状態です。
単純に下痢と判断して下剤を止めるとさらに悪化します。摘便などの経直腸的処置を施行し、大腸内の宿便を解除することが最優先となります。
腹部膨満感がある時の緊急受診が必要な症状
以下のような症状がある場合は、すぐに主治医や看護師に連絡してください。
- 腹痛がある
- 便は出ないのに嘔吐がある
- おなら(排ガス)が出ない
- 腹部膨満感が急激に悪化している
- 発熱を伴う
- 呼吸困難が強い
これらの症状は、腸閉塞や腹膜炎など、緊急の処置が必要な状態の可能性があります。
まとめ
がん患者さんのお腹が張る原因は多岐にわたり、がん自体、手術、化学療法、オピオイドなどの薬剤、活動性の低下など、様々な要因が関係しています。
治療法は原因によって異なり、利尿薬や腹水穿刺、イレウス管の挿入、下剤の使用、手術など、状況に応じた適切な対応が選択されます。近年では、CART療法やナルデメジンといった新しい治療法も利用できるようになっています。
日常生活では、食事の工夫、体位の調整、皮膚ケア、適度な運動など、できる範囲での対策を行うことが大切です。
腹部膨満は生活の質を大きく低下させる症状ですが、適切な治療とケアにより症状を緩和することが可能です。気になる症状がある場合は、我慢せずに医療チームに相談しましょう。
参考文献・出典情報
筑波大学「鎮痛薬使用に伴うがん患者の便秘予防に対するナルデメジンの有効性を実証」
塩野義製薬「オピオイド鎮痛薬による便秘(オピオイド誘発性便秘症)」
MEDLEY「大腸がんによる腸閉塞・イレウスとは?治療方法や原因など」

