
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
直腸がんの手術を受けると、多くの患者さんが術後の生活について不安を感じられます。特に排便機能、排尿機能、性機能といった日常生活に直結する機能への影響は、患者さんにとって大きな関心事です。
この記事では、直腸がん手術後に起こりうる後遺症と合併症について、それぞれの症状、発生するメカニズム、回復の見込み、そして具体的な対策や対処法を詳しく解説します。
手術を控えている患者さんやご家族が、術後の生活について理解を深め、適切な準備ができるよう情報を整理していきます。
直腸がん手術と後遺症が起きる理由
直腸は肛門から約15センチメートルの長さの腸管で、便を一時的に貯めておく重要な役割を担っています。この直腸の周囲には、膀胱の機能を調整する自律神経や、性機能に関わる神経が複雑に走っており、手術の際にこれらの神経に影響が及ぶことがあります。
直腸がんの手術では、がんの位置や進行度に応じて、直腸の一部または全部を切除します。がんが肛門に近い位置にある場合や、周囲への広がりがある場合には、より広範囲の切除が必要となり、それに伴って後遺症のリスクも高くなります。
近年では、自律神経温存手術が標準的に行われるようになり、以前と比べて機能障害の程度は軽減されています。しかし、がんを確実に取り除くためには、ある程度の組織切除が避けられず、結果として何らかの機能障害が残る可能性があります。
手術の方法には、開腹手術のほか、腹腔鏡手術やロボット支援手術といった低侵襲手術もあります。これらの手術方法は術後の回復が早いというメリットがありますが、後遺症については手術方法よりも、がんの位置や切除範囲、神経温存の程度によって決まることが多いといえます。
手術後の排便機能障害とその対策
排便機能障害が起きるメカニズム
直腸がんの手術で肛門を残せた場合でも、多くの患者さんが排便に関する問題を経験します。これは、便を一時的に貯めておく直腸の一部または全部を切除することで、腸の連続性や神経の一部が失われるためです。
健康な状態では、便が直腸に入ってくると直腸が膨らみ、そのことを感覚神経が脳に伝えます。そして排便のタイミングを自分でコントロールできます。しかし手術後は、便を貯めるスペースが小さくなったり、感覚が鈍くなったりするため、このコントロールが難しくなります。
また、便を押し出す力を担っている腸の蠕動運動や、肛門括約筋の働きも影響を受けることがあります。特に肛門に近い部分の直腸を切除した場合、肛門括約筋そのものにダメージが及ぶことがあり、排便のコントロールがより困難になります。
具体的な症状
排便機能障害の症状は、患者さんによって様々ですが、以下のようなものがよく見られます。
| 症状 | 詳細 | 発生頻度 |
|---|---|---|
| 排便回数の増加 | 1日に3回から10回以上トイレに行く。特に食後に頻繁になる | 多くの患者さんで見られる |
| 便意の切迫感 | 突然強い便意が起こり、トイレまで我慢できない | 比較的多い |
| 排便に時間がかかる | 1回の排便に10分から15分以上かかる。何度もいきむ必要がある | 多くの患者さんで見られる |
| 便失禁 | 意図せず便が漏れてしまう。特に夜間や下痢の時に起こりやすい | 肛門に近い部分を切除した場合に多い |
| 残便感 | 排便後もまだ便が残っている感じがする | 比較的多い |
| 便とガスの区別困難 | ガスだけを出そうとして便が出てしまう | 時々見られる |
回復の経過と見込み
排便機能障害の程度は、手術後の時間経過とともに改善していくことが多いです。一般的に、手術直後は最も症状が強く、その後数か月から数年かけて徐々に回復していきます。
手術後6か月から1年程度で排便回数は減少し、排便のコントロールもつきやすくなってきます。多くの患者さんでは、手術後2年から3年経過すると、排便機能はかなり安定した状態になります。ただし、完全に手術前の状態に戻ることは難しく、1日に2回から4回程度の排便が続くことが多いといえます。
回復の程度は、残っている直腸の長さ、患者さんの年齢、手術の技術、吻合(つなぎ合わせ)の正確さなどによって変わります。残っている直腸が長い場合や、年齢が若い場合は回復が早い傾向にあります。また、肛門から5センチメートル以上離れた位置でがんを切除できた場合は、それより近い位置で切除した場合と比べて機能の回復が良好です。
日常生活での対策と工夫
排便機能障害に対しては、特効薬となるような治療法はありませんが、日常生活での工夫によって症状を軽減し、生活の質を向上させることができます。
食事については、排便の状態に合わせて調整することが重要です。下痢が続く場合は、消化の良い食品を選び、脂っこいものや刺激の強い香辛料、アルコール、カフェインを控えます。一方、便秘傾向がある場合は、食物繊維を適度に摂取し、水分を十分に取るようにします。ただし、食物繊維を急に増やすと腸の動きが活発になりすぎて下痢や腹痛を起こすことがあるため、少しずつ増やしていくことが大切です。
食事のタイミングも工夫できます。朝食後は特に腸の動きが活発になるため、外出前には十分にトイレの時間を確保するようにします。外出時には事前にトイレの場所を確認しておくと安心です。
排便習慣をつけることも効果的です。毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつけることで、排便のリズムを整えることができます。ただし、便意がない時に無理にいきむと、肛門や直腸に負担がかかるため避けるべきです。
便失禁が心配な場合は、パッドや失禁用の下着を使用することで、外出時の不安を軽減できます。また、消臭スプレーやウェットティッシュを携帯しておくと安心です。
医療的な対応
症状が強い場合や、日常生活に支障が出ている場合は、医療的な対応を検討します。
下痢が続く場合は、止痢剤(ロペラミドなど)を使用することがあります。これらの薬は腸の動きを抑えて便を固めるため、排便回数を減らす効果が期待できます。ただし、使いすぎると便秘になることがあるため、医師の指導のもとで適切に使用することが重要です。
便失禁に対しては、骨盤底筋訓練(ケーゲル体操)が効果的な場合があります。これは肛門括約筋を意識的に鍛える運動で、理学療法士や看護師の指導を受けながら行います。継続的に行うことで、排便のコントロール能力が向上することが期待できます。
また、バイオフィードバック療法という方法もあります。これは、肛門括約筋の動きをモニターで確認しながら訓練する方法で、効果的な筋肉の使い方を学ぶことができます。
手術後の排尿機能障害とその対策
排尿機能障害が起きる原因
直腸がんの手術後、排尿に関する問題を経験する患者さんも少なくありません。これには主に2つの原因があります。
1つ目は、膀胱の働きを調整している自律神経への影響です。膀胱を支配する自律神経(骨盤神経叢)は、直腸のすぐ近くを走っているため、直腸を切除する際に傷ついたり、切断されたりすることがあります。
特にがんが周囲に広がっていて、リンパ節を含めて広範囲に切除する必要がある場合は、神経を温存することが難しくなります。神経が障害を受けると、膀胱に尿が貯まっても尿意を感じにくくなったり、膀胱が収縮しにくくなったりして、排尿が困難になります。
2つ目は、手術によって骨盤内の構造が変化することです。直腸を切除すると膀胱の後ろの空間が空き、そのために膀胱が後ろに傾いて尿道の出口が屈曲し、尿が流れにくくなることがあります。
ただし、近年では自律神経温存手術が標準的に行われるようになり、排尿機能障害の発生頻度は以前と比べて低下しています。神経は仙髄から左右複数出ているため、注意深く手術を行えば神経の全部または一部を残すことができます。
具体的な症状
排尿機能障害の症状には、以下のようなものがあります。
| 症状 | 詳細 |
|---|---|
| 排尿困難 | 尿が出にくい、尿の勢いが弱い、排尿に時間がかかる |
| 尿意の低下 | 膀胱に尿が貯まっても尿意を感じにくい |
| 残尿感 | 排尿後も膀胱に尿が残っている感じがする |
| 尿閉 | 全く尿が出せなくなる状態 |
| 頻尿 | 少量ずつ頻繁にトイレに行く |
| 尿失禁 | 意図せず尿が漏れる |
回復の経過と医療的対応
神経が完全に温存できた場合は、手術後も以前と同じように排尿できます。神経の一部のみ残せた場合でも、時間をかけて機能が回復することが多く、手術後1か月から2か月で自然に尿が出るようになることが期待できます。
手術直後に尿が出ない場合は、尿道カテーテル(フォーリーカテーテル)を膀胱に留置して、尿を体外に排出します。カテーテルは通常1週間ごとに交換し、自分で排尿できるかどうかを確認します。
少しでも自分で排尿できるようになったら、カテーテルを抜いて、残尿の量を測定します。残尿が100ミリリットル以下になるまでは、1日に4回から5回、自分で細い管(カテーテル)を膀胱に入れて尿を出す「自己導尿」を行います。これは清潔に行えば自宅でも可能で、多くの患者さんが習得できる手技です。
残尿が50ミリリットル以下になれば、自己導尿を中止できます。ただし、膀胱に尿が600ミリリットル以上貯まると、膀胱の筋肉が過度に伸びて収縮力が低下してしまうため、定期的に導尿することが重要です。
膀胱炎を繰り返すと膀胱の収縮力が失われて回復が困難になるため、感染予防も大切です。導尿の際は清潔な手技を心がけ、十分な水分摂取を行います。
排尿機能の回復を促すために、薬物療法(コリン作動薬など)や鍼灸治療が効果的な場合もあります。また、手術後2か月経過しても自力での排尿が困難な場合は、泌尿器科の専門医に相談し、原因を詳しく調べることが勧められます。
場合によっては、経尿道的前立腺切除術、膀胱頸部切開術、外尿道括約筋切開術などの外科的治療によって改善することもあります。
手術後の性機能障害とその対策
男性の性機能障害
直腸がんの手術後、男性では勃起機能や射精機能に障害が起こることがあります。これは、性機能に関わる自律神経が手術の際に影響を受けるためです。
性機能を完全に温存するためには、骨盤神経叢を完全に残す必要があります。神経の一部でも損傷していると、勃起能力は回復することがあっても、射精などの機能の回復は困難です。一般的に、手術後1年経過しても回復しない場合は、その後の自然回復も難しいと考えられます。
ただし、近年の自律神経温存手術の進歩により、性機能を保てるケースは増えています。がんが直腸の前壁(膀胱側)や側壁に位置している場合は神経温存が難しくなりますが、後壁にある場合は神経を温存しやすい傾向にあります。
性機能障害への対応
勃起機能障害に対しては、いくつかの治療法があります。
まず、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィルなど、いわゆるバイアグラ系の薬)があります。これらの薬は、性的刺激に対する反応を改善し、勃起を促す効果があります。効果は個人差がありますが、60パーセントから80パーセントの患者さんで有効とされています。
陰茎海綿体注射療法もあります。これは陰茎にプロスタグランジンE1などの薬剤を注射して勃起を誘発する方法で、3時間から4時間程度勃起状態を維持できます。この注射は繰り返し使用することが可能です。
また、陰圧式勃起補助具(バキュームデバイス)という器具もあります。これは陰茎を筒に入れて陰圧をかけることで血液を流入させ、勃起状態を作り出すものです。
さらに、定期的な勃起刺激が神経や血管の機能維持に役立つという報告もあり、早期からのリハビリテーション的なアプローチが推奨されることもあります。
女性の性機能への影響
女性の場合も、手術によって性機能に影響が出ることがあります。膣の一部を切除した場合は、膣の長さが短くなったり、狭くなったりすることがあります。また、骨盤内の神経が障害されると、性交時の潤滑不足や感覚の変化が起こることがあります。
対策としては、水溶性の潤滑剤の使用や、膣拡張器を使った訓練が有効な場合があります。また、性交の体位を工夫することで痛みを軽減できることもあります。
性機能の問題は、患者さんにとってデリケートな悩みであり、医療者に相談しにくいと感じる方も多いかもしれません。しかし、適切な治療やアドバイスによって改善できる可能性があるため、担当医や看護師、専門のカウンセラーに相談することをお勧めします。
その他の合併症と注意すべき症状
縫合不全
手術で切除した腸と腸をつなぎ合わせた部分(吻合部)がうまくつながらず、便や腸液が漏れ出すことを縫合不全といいます。手術後1週間から2週間の間に発熱、腹痛、腹部の腫れなどの症状が現れます。
縫合不全が起きた場合は、絶食して点滴による栄養管理を行い、抗生物質を投与します。軽度であれば保存的治療で改善しますが、重症の場合は再手術が必要になることもあります。
腸閉塞
手術後、腸の癒着や腸の動きの低下によって、腸の内容物が通過しにくくなることがあります。腹痛、吐き気、嘔吐、腹部の膨満感などの症状が現れます。
軽度の腸閉塞であれば、絶食と点滴で様子を見ることができます。改善しない場合は、鼻から胃や腸にチューブを入れて内容物を吸引したり、場合によっては手術が必要になることもあります。
感染症
手術創の感染、腹腔内膿瘍、尿路感染症などが起こることがあります。発熱、創部の腫れや痛み、排尿時痛などの症状に注意が必要です。早期に発見して抗生物質による治療を開始することが重要です。
人工肛門との選択について
直腸がんの位置が肛門に非常に近い場合や、肛門括約筋にがんが浸潤している場合は、肛門を残すことができず、永久的な人工肛門(ストーマ)を造設する必要があります。
現在では、がんが肛門から2センチメートルから3センチメートル離れていれば肛門を残せることが多くなっています。しかし、肛門を残せた場合でも、前述のような排便機能障害が残ることがあります。
場合によっては、手術直後の安静を図るために一時的な人工肛門を造設し、3か月から4か月後に閉鎖して自然肛門に戻すこともあります。これは縫合不全のリスクを下げるための処置です。
人工肛門というと非常にネガティブなイメージを持たれる方が多いですが、適切な管理とケアによって通常の生活を送ることができます。ストーマ用の装具も進歩しており、臭いの漏れや皮膚のトラブルも少なくなっています。
高齢の患者さんや、肛門を残しても重度の便失禁が予想される場合には、むしろ永久的な人工肛門を選択したほうが、日常生活の質が保たれることもあります。特に介護が必要な状況では、人工肛門のほうが管理がしやすいという面もあります。
大切なのは、自分の状況において肛門温存と人工肛門、それぞれのメリットとデメリットを十分に理解し、医師とよく相談したうえで納得のいく選択をすることです。
生活への影響と社会復帰
直腸がん手術後の後遺症は、患者さんの日常生活や社会生活にさまざまな影響を及ぼします。
仕事復帰については、デスクワークであれば手術後1か月から2か月程度で可能なことが多いですが、排便回数が多い時期は、トイレに自由に行ける環境が必要です。立ち仕事や重いものを持つ仕事の場合は、体力の回復を待って、手術後3か月から6か月程度で復帰を検討します。
外出時には、事前にトイレの場所を確認しておく、長時間の移動は避ける、などの工夫が必要です。また、食事の内容やタイミングを調整することで、外出中の排便頻度をコントロールできる場合もあります。
運動については、術後の体力回復とともに徐々に始めます。ウォーキングなどの軽い運動から開始し、体調に合わせて運動量を増やしていきます。激しい運動や重量挙げなどは、医師と相談しながら慎重に再開します。
性生活については、体力が回復すれば再開できますが、前述のような機能障害がある場合は、パートナーとよくコミュニケーションを取りながら進めることが大切です。
精神的なサポートの重要性
手術後の後遺症は、身体的な問題だけでなく、精神的な負担も大きいものです。排便や排尿のコントロールが難しくなることで、外出が不安になったり、自信を失ったりすることがあります。
こうした悩みを一人で抱え込まず、医療スタッフ、家族、友人に相談することが重要です。

