大腸がんは結腸から発生する結腸がんと、直腸から発生する直腸がんがあり、総称として大腸がんと呼ばれます。
進行は他のがんに比べると比較的ゆるやかで、早期発見で早期に対処すれば再発するリスクがとても少なくなります。
しかし近年、大腸がんは日本でも急速に増えており「近いうちに患者数の最も多いがんになるのではないか」と言われ続け、実際に2014年の統計では「男女通じて最も罹患数の多いがん」になりました。(2番目は胃がん、3番目は肺がん)
また、大腸がんの死亡数は1950年が男性1,819人、女性1,909人、2002年が男性20,568人、女性17,100人と半世紀で10倍にもなり、2017年の死亡者数統計では男性27,334人、女性23,347人と増加の一途を辿っています。
大腸がんの主な原因
主な原因としては、食生活の欧米化、高脂肪、高カロリー、低食物繊維の食事などが挙げられています。
また、50歳以上の人や、家族に大腸がんの人がいる場合もリスクが高くなります。
年齢に関しては発症のピークは60歳代で、70歳代、50歳代と続きます。高齢化が進み、こうした年代の人たちが増えれば、大腸がんも増加することになります。
家族性の大腸がん、つまり遺伝的な要因によってがんになることがありますがその割合は、大腸がん全体の5%以下と、ごく一部に過ぎません。
過去に大腸ポリープが見つかったことがある、またはポリープを切除したことがあることも大腸がんのリスク要因となります。
なお、他ののすべてのがんと同様、喫煙は重大な危険因子です。
最近、新たな原因として、リトコール酸が注目されています。
胆汁酸は小腸に入ると、腸内細菌によってデオキシコール酸とリトコール酸という二種類の二次胆汁酸に変化します。リトコール酸は発がん物質で、腸の粘膜を刺激してがん因子をつくります。
リトコール酸の増加を抑える働きをするのはビタミンDで、大腸粘膜を保護する働きをもっビタミンCと一緒にとると効果的だとされています。
その他のリスク要因としては、肥満、運動不足、便秘がちであることも挙げられます。
大腸がんが発生する仕組み
大腸がんは、大腸の壁の内側の表面にある粘膜の細胞から発生します。
もともとは正常な粘膜の細胞が、何らかの原因でがん細胞に変身(がん化)します。
そして、そのがん細胞がどんどん増えて、何億個という数になり、かたまりとして目に見えるようになります。
そうなって初めてがんと診断されるわけですが、実はそのずっと前から、からだの中でがんはひそかに育っているということです。
現在のところ、大腸がんの発生には、2つの経路があると考えられています。
1つは、良性の大腸ポリープの細胞が何らかの発がん刺激を受けてがん化する経路で「腺腫~がん連関」と呼ばれています。
この経路によって発生するがんが、大腸がんの多くを占めると考えられています。
もう1つは、正常細胞から直接がんが発生する経路です。
このようにして発生したがんは「デノボ(de novo)がん」と呼ばれます。デノボがんが発生する経路については、詳しいことはまだよくわかっていません。
大腸がんができやすい場所
大腸は約1.5~2mにわたる長い臓器ですががんが発生する場所は均一ではなく、はっきりとした傾向があります。
その内訳は、直腸が35%、S状結腸が34%、上行結腸が11%、横行結腸が9%、盲腸が6%、下行結腸が5%の順になっています。肛門から30cm以内にある直腸とS状結腸に、大腸がんの約70%が集中しているのです。
直腸やS状結腸に多くの大腸がんが発生するのは、世界共通の傾向です。
その理由の1つとして、直腸とS状結腸は便がためられる部分であるため、それだけ便に含まれる発がん物質にさらされる時間が長く、がん化が起こりやすい状況にあるから、と考えられています。
大腸ポリープと大腸がん
ポリープとは、粘膜に発生するイボのような形をしたものの総称です。
大腸だけでなく、声帯、食道、胃など、粘膜のあるところなら、どこにでもできる可能性があります。
消化管のポリープの中で最も多いのが大腸ポリープです。特に直腸とS状結腸にできる場合が多く、大腸ポリープの約8割がこの部分に集中しています。
これは大腸がんの部位別の発生頻度と同じ傾向です。
大腸ポリープには、いくつかの種類があります。この中でがんになる可能性があるのが腺腫です。
腺腫とは、大腸の粘膜の上皮細胞に発生する良性の腫瘍です。しかし、腺腫が大きくなる過程で遺伝子の異常が起こり、がん化を起こすと考えられています。
腺腫の大きさが1cmを超えるとがん化している可能性が高くなり、2cmを超えるようになると、がんである可能性はさらに高くなります。
しかし、1cm以下の小さな腺腫でもがん化しているものもありますし、逆にすべての腺腫ががんになるわけでもありません。
内視鏡で切除したポリープの組織を顕微鏡で調べると、一部にがん化した部分が見つかることがあります。これは「腺腫内がん」と呼ばれ大腸がんの中でも最も"若い"状態といえます。
放っておくと徐々に大きくなり、最終的には大きながんに育ってしまいます。
また、過去に腺腫ができたことのある人(既往歴のある人)は、できたことのない人に比べて、再び腺腫ができる確率が高いことがわかっています。
つまり、腺腫ができたことのある人は、できやすい体質であることを自覚して、定期的にチェックを受ける必要があります。
腺腫内がんの状態で発見・切除できれば、再発のリスクはとても低いことが分かっています。
大腸ポリープには、腺腫以外にも、老化によってできるポリープ(過形成ポリープ)や炎症性の病気に伴うポリープ(炎症性ポリープ)などがあります。炎症性ポリープは、がんになることはほとんどありません。
大腸がんの症状
大腸は約1.5Mの長さがあり、盲腸から肛門まで続きます。
そのなかで、肛門の直前の部分が直腸です。直腸がんは、基木的には(S状結腸、下行結腸)の結腸がんと同じ症状がみられますが、肛門により近いため病変が小さな段階でも比較的早期に自覚症状が出現する傾向にあります。
ただ、一般的に大腸がんは、早期の段階ではほとんど自覚症状は認められません。大腸がん固有の特徴的な症状もなく、症状だけでがんと気づくのは難しいのです。
それでも、大腸がんが進行してくると症状が現れてきます。そのときの代表的な症状が、「出血」、「便通異常」、「腸閉塞」です。
大腸がんの症状「出血」
粘膜の表面に血が行き渡らなくなり、下部の血管まで組織が崩れる(潰瘍)と、出血が始まります。
最初は小さな血管から出血するため、目で見ても血便とは気づきません。やがて、がんによる潰瘍が深くなり、大きな血管が破れると、排便後に血便だとわかるほど出血するようになります。
特に便が通るときには、がんの表面がこすられて、便に血が混じります。ただし、1度に大量に出血することはまれなので、出血に気づきにくく、貧血になってから見つかることもしばしばあります。
大腸がんの症状「便通異常」
がんが大きくなると、大腸の内腔(通り道)が狭くなり、便の通りが悪くなります。そのため、便秘になったり、便が細くなったりします。
また、硬い便は狭いところを通過できず、緩い便が少しずつ出るようになるため、下痢がちと感じることもあります。
狭いところの上流(口側)に便がたまってしまい、おなかが張る、痛む、などの症状が出ることもあります。
大腸がんの症状「腸閉塞」
がんが大きくなると、大腸の内腔をふさいでしまうようになります。こうなると、便やガス(おなら)が出ず、大腸の中にどんどんたまってしまいます。
この状態を「腸閉塞(イレウス)」といいます。大腸がんによる腸閉塞は緊急の処置が必要です。
行き場のない腸の中身が逆流して、嘔吐(吐く)したり、腸がぱんぱんに張って穴があいたりすることもあるからです。
そのほかにも、肺や肝臓の腫瘤(しこり)として大腸から転移したがんのほうが先に発見される場合もあります。
結腸の右半分(上行結腸や横行結腸)のがんの症状
この部分にできたがんでは、出血しても肛門までの距離が長いために血液の赤色の成分(ヘモグロビン)が大腸の中で分解されてしまい、便に血が混じっているかどうかがわかりにくくなります。
また、この部分では、便はまだ液状なので、がんのために大腸の内腔が少し狭くなっていても、通過障害による症状はあまり起こりません。
このため、症状による早期発見が難しく、がんがかなり大きくなってから見つかることが多くあります。
血液検査で貧血と言われ、よく調べたら大腸がんが見つかったり、おなかにしこりを触れるようになって見つかったりする場合も多くみられます。
結腸の左半分(下行結腸やS状結腸)のがんの症状
この部分にできたがんでは、便に赤黒い血や粘液がついていることがあります。
また、便が固形になっているため、がんによって大腸の内腔が狭くなってくると、便が細くなったり、便秘と下痢を繰り返したりする「便通異常」や「腸閉塞」を起こすようになります。
進行した大腸がんの自覚症状とは?
がんが進行すると、はっきりと自覚症状が出はじめます。
食後、小腸で消化と吸収を終えると、食べかすは大腸へ運ばれます。
大腸では、各結腸部位を通って、かすが4分のlの大きさになるまで水分を吸収し、かたまりをつくっていきます。
このため、結腸の部位によって、食べかすの状態が水のような状だったり固形状だったりします。
たとえば、上行結腸から横行結腸の間は水分のほうが多いため水様性ですが、下行結腸を通るころにはかたまりになっています。
腸管の太さも、右側の結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)は、大量の水様性の食べかすを通過させるために内腔が太くなっていますが、左側の結腸(下行結腸、S字状結腸)は固形性の便となり体積が減るため細くなっています。
このため、大腸がんでは右側の結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)、左側の結腸(下行結腸、S字状結腸)、直腸の3つの部位に分けて、症状別に治療法を考えるのが一般的です。
さて、自覚症状についてですが、おなかの右側にある盲腸、上行結腸、横行結腸にがんができた場合、ほかの部位と比べて自覚症状があまり出ません。
このため、がんの発見に時間がかかるというケースが多く見られます。
代表的な症状は「おなかの痛み、貧血、黒っぽい便」 です。
ただ、これらの症状がすべて出るということではありません。人によっては、黒っぽい便だけ出る場合もあります。
腹痛は、右側のおへその横あたりに起こります。
なんとなく重苦しい、すっきりしないという痛みが連日続きます。
また、慢性的な貧血症状も起こります。
がんが左側の結腸や直腸にできた場合、便に血が混じっていたり便の周りに血がついていたりするのが目で見てわかるものです。
しかし、右側の結腸部分では、まだ便が水様状なため、出血しても便に血が混じってしまい気づきにくく、さらに、便が肛門に到達するのに半日近くかかるため、便に血が混じっていても、よくわからなくってしまいます。
出血量が多くなったときに、初めて黒っぽい色の便が出たと自覚できます。
このように、色が赤い便ではないため、血便が出ていると気づくまでに長期間かかるケースが多く見られます。
ですから「立ちくらみや階段を上がったときの息切れ、ふらつきなど、貧血症状が2年間続いていました」と、原因がわからないまま症状に悩まされていたという患者さんが多くいます。
貧血の診察を受けたときの検査で、偶然、大腸がんが発見されることもあります。
また、がんが大きくなると、大腸の内腔が狭くなり、便が通りにくくなりがちです。
しかし、右側の結腸の場合、がんができても内腔が広いため、便通の異常はあまり起こりません。
さらに右側の結腸にがんができた場合、自覚症状が出にくいため、右側のおなかに腫瘤が触れるほど進行して初めてがんが発見されることもあります。
便の状態・出血と大腸がんとの関連
大腸がんによる出血は、血便の状態から、がんのできた部位を推測することができます。
1.黒色便が出る←右側の結腸からの出血
2.便に血が混じっているのが、肉眼でも少し見える←S字状結腸からの出血
3.便の周りにべったりと血が付着する←直腸からの出血
4.便と血が別々に出ている← 下部直腸からの出血
結腸では、水様の便に血が混じってしまうこと、便が肛門まで通過するための時間がかかることから、出血していても色が変わってしまい、排便時には黒っぽい色になります。
一方、直腸ではがんから出血しても、すぐに排便されるので、赤みが強い便になります。ただし、下血するのはがんに限ったことではありません。
潰瘍性大腸炎、出血性大腸炎でも、血の混じった赤色の便が出ます。
また、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、食道静脈癌の破裂などが起きた場合は、黒色の便が出ます。粘り気があり黒ずんだ色をした、いわゆるコールタール状のものです。
総胆管結石症、胆管がん、すい臓がんで胆道が閉塞する場合、皮膚や粘膜、眼球結膜が黄色くなる黄痘を起こし、白っぽい便が出ます。