
肝臓がんの90%以上は肝炎ウイルスが原因
肝臓がん、特に肝細胞がんの発症には、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染が深く関わっています。
統計データによると、肝細胞がんの患者さんの95%が、B型またはC型のいずれかの肝炎ウイルスに感染しています。その内訳を見ると、C型肝炎ウイルス感染者が約80%を占め、残りの約15%がB型肝炎ウイルス感染者という状況です。
これらの肝炎ウイルスに感染した場合、適切な抗ウイルス治療を行わないと、多くのケースで慢性肝炎を発症します。慢性肝炎は長い年月をかけて肝硬変へと進行し、最終的に肝臓がんを発症するという経過をたどります。
このような背景から、肝炎ウイルス感染と肝臓がんの関係を理解することは、予防や早期発見において重要な意味を持ちます。
B型肝炎とC型肝炎で異なる発がんの確率とメカニズム
B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスでは、肝硬変から肝臓がんへ進行する様式や確率に違いがあります。
B型肝炎ウイルス由来の肝硬変における発がん確率
B型肝炎ウイルスによる肝硬変と診断された患者さんの場合、診断時点から10年後には約30%の確率で肝臓がんが発生します。つまり10人中3人に発がんが認められることになります。
特徴的なのは、10年を経過した後は発がん率がそれ以上増加しないという点です。この傾向は、B型肝炎ウイルスが持つ独特の発がんメカニズムに関係しています。
C型肝炎ウイルス由来の肝硬変における発がん確率
一方、C型肝炎ウイルスによる肝硬変の場合、発がんリスクはより高くなります。肝硬変と診断された時点から10年後には約50%、つまり10人中5人に肝臓がんが発生します。
さらに深刻なのは、10年を過ぎてもなお発がん率が継続して増加していく点です。この継続的な発がんリスクの上昇が、C型肝炎ウイルス感染の大きな問題となっています。
発がん確率の比較表
| 肝炎ウイルスの種類 | 肝硬変診断から10年後の発がん率 | 10年経過後の傾向 |
|---|---|---|
| B型肝炎ウイルス | 約30%(10人中3人) | それ以上増加しない |
| C型肝炎ウイルス | 約50%(10人中5人) | 継続して増加 |
このように、B型肝炎とC型肝炎では発がんの様式が明確に異なっており、それぞれに応じた経過観察や治療戦略が必要となります。
肝炎ウイルスの主な感染経路
B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスには、いくつかの感染経路が確認されています。
主な感染経路として以下の4つが挙げられます。
1)妊娠・分娩による母子感染
2)感染した血液製剤の注射
3)針刺し感染(医療従事者の事故、入れ墨、麻薬・覚醒剤の注射器の共用など)
4)性行為による感染
現在では、血液製剤のスクリーニング検査が徹底されているため、輸血による感染はほぼ防げています。また、母子感染についても予防対策が進んでおり、新規感染者数は減少傾向にあります。
B型肝炎ウイルスと肝臓がんの関係性
B型肝炎ウイルスの感染と症状の現れ方
B型肝炎ウイルスは、血液や体液(精液、乳汁など)を介して感染します。3歳以上で感染した場合、急性肝炎の症状が現れるのは約20%程度です。残りの約80%は症状が現れないまま、ウイルスが自然に排除されます。
ごく稀なケースとして、B型急性肝炎から劇症肝炎へ移行することがあります。劇症肝炎は肝臓の機能が急激に低下する重篤な状態であり、緊急の治療が必要となります。
B型慢性肝炎の発症メカニズム
より問題となるのは、B型慢性肝炎の発症です。3歳未満の幼少期にB型肝炎ウイルスを持った母親から感染すると、免疫システムが未発達なため、ウイルスを排除できずに肝臓に感染した状態が持続します。この状態を「キャリア」と呼びます。
キャリアの中には、生涯にわたって症状が現れることなく過ごす方もいます。これを「無症候性キャリア」といいます。しかし、無症候性キャリアの約10%が、何らかのきっかけで肝炎を発症し、B型慢性肝炎となります。
肝硬変への進行
慢性肝炎が治癒せずに進行すると、肝硬変の状態となります。肝硬変では肝機能障害が起こり、黄疸、腹水、むくみなどの症状が認められるようになります。
B型肝炎ウイルス特有の発がんメカニズム
B型肝炎ウイルスの特徴的な点は、ウイルスの遺伝子が感染した肝細胞の遺伝子の中に組み込まれることです。この遺伝子の組み込みが、肝臓がん発症の原因となります。
C型肝炎と異なり、B型肝炎の場合には、肝硬変まで進行していない段階でも肝臓がんが発生することがあります。これはウイルス遺伝子が肝細胞の遺伝子に直接組み込まれるという、B型肝炎ウイルス特有のメカニズムによるものです。
C型肝炎ウイルスと肝臓がんの関係性
C型肝炎の慢性化率の高さ
B型急性肝炎が慢性化することは稀ですが、C型肝炎では状況が大きく異なります。C型肝炎ウイルスに感染した場合、急性肝炎から慢性肝炎へ移行する確率は60~70%と高い水準にあります。
この高い慢性化率が、C型肝炎ウイルス感染の大きな問題点となっています。
肝硬変への進行率
C型慢性肝炎を発症した患者さんのうち、約20%が肝硬変へと進行するといわれています。主な感染原因としては、過去に行われた輸血が挙げられます。
現在では血液製剤のスクリーニングが徹底されているため、輸血による新規感染はほぼなくなっていますが、過去に感染した方が現在も治療を受けているケースが多く見られます。
C型肝硬変からの発がん確率
C型肝炎ウイルスによる肝臓がんは、ほとんどが肝硬変まで進行してから発生します。C型肝硬変の患者さんの約50%に肝臓がんが発症するというデータがあり、これは極めて高い確率といえます。
血小板数と発がん率の関係
近年の研究により、血小板数と肝硬変の程度、そして発がん率に相関があることが明らかになっています。血小板数を定期的に測定し、その数値を把握することは、肝硬変の進行度や発がんリスクを予測する上で有用な指標となります。
血小板数が低下している場合、肝硬変の進行度が高く、発がんリスクも上昇している可能性があるため、より慎重な経過観察が必要となります。
肝硬変と肝臓がんの関係性
日本における肝臓がんの80%は肝硬変が原因
日本人の原発性肝臓がん(肝細胞がん)の約80%は、肝硬変が進展して発症することが明らかになっています。
この統計から、肝硬変の患者さんは、高い確率で肝臓がんを発症するリスクを抱えていることがわかります。肝硬変と診断された方は、定期的な検査により肝臓がんの早期発見に努めることが重要です。
肝硬変が発症するメカニズム
肝硬変は、さまざまな原因で肝臓を構成している肝細胞が繰り返し損傷を受けることによって発症します。
主な原因としては以下のものが挙げられます。
・長期間にわたるアルコールの多量摂取
・肝炎ウイルス(B型またはC型)の感染
・薬物や毒物の長期摂取
・自己免疫疾患
・胆汁のうっ滞
これらのうち、肝硬変をもっとも引き起こしやすい原因は、B型またはC型肝炎ウイルスの感染です。
肝炎から肝硬変へ進行する過程
肝炎ウイルスに感染すると、肝臓を構成している肝細胞が炎症を起こして肝炎となります。この炎症が持続すると、肝細胞が壊死し、それが繰り返されることで肝硬変へと進行します。
ただし、肝炎ウイルスに感染してから実際に肝硬変になるまでには、長い時間がかかります。これは肝臓が体内で最も大きな臓器の一つであり、機能的に余力があること、また損傷しても再生する能力を持っているためです。
肝硬変の進行と症状の変化
肝硬変は、時には30~40年もかけてゆっくりと進行します。この長い進行期間の間、患者さんにはほとんど自覚症状がありません。これは損傷していない肝細胞が必要な機能を維持しているためです。
しかし、肝硬変を起こした部分が広がっていくにつれ、以下のような症状が現れてきます。
初期段階の症状:
・疲れやすい
・食欲の低下
・体力の低下
進行した段階の症状:
・腹水(お腹に水が溜まる)
・むくみ
・黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
・皮膚のかゆみ
・胆石
・出血傾向(出血しやすくなる)
・肝性脳症(精神・意識障害)
・食道静脈瘤からの出血
・クモ状血管腫(胸や顔の赤い斑紋)
肝硬変の進行と予後
肝硬変そのものを完全に治癒させる治療法は、現時点では確立されていません。このため、治療を行わない場合、患者さんは最終的には肝臓が機能を失って肝不全に至るか、あるいは肝臓がんを発症することになります。
ただし、早期に適切な治療を始めれば、肝硬変の進行をある程度遅らせることができます。また、肝炎ウイルスが原因の場合は、抗ウイルス治療により進行を抑制できる可能性があります。
肝炎ウイルス感染と完治の可能性
C型肝炎の治療と完治
C型肝炎については、2014年以降に登場した直接作用型抗ウイルス薬(DAA)により、治療の状況が大きく変わりました。これらの薬剤により、C型肝炎ウイルスを体内から排除できる確率が飛躍的に向上し、現在では95%以上の患者さんでウイルスの排除(著効)が達成されています。
ウイルスが排除されれば、肝炎の進行を止めることができ、肝硬変への進行リスクを低減できます。ただし、すでに肝硬変まで進行している場合は、ウイルスを排除しても肝臓がんの発症リスクは残ります。
B型肝炎の治療
B型肝炎については、核酸アナログ製剤などの抗ウイルス薬により、ウイルスの増殖を抑制することができます。しかし、C型肝炎のように体内からウイルスを完全に排除することは困難です。
そのため、B型肝炎の治療は長期間にわたる継続的な投薬が必要となります。適切な治療により、肝炎の進行を抑え、肝硬変や肝臓がんへの進行を予防することが目標となります。
肝炎ウイルス感染者への経済的な補助と給付金制度
B型・C型肝炎給付金制度
国の責任により、集団予防接種や特定の血液製剤の投与によってB型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルスに感染した方々に対して、給付金が支給される制度があります。
B型肝炎給付金
集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染した方とその遺族に対して、病態に応じて50万円から3,600万円の給付金が支給されます。
対象となるのは、1948年7月1日から1988年1月27日までの間に、集団予防接種等(予防接種またはツベルクリン反応検査)を受け、注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した方です。
C型肝炎給付金
特定の血液製剤(フィブリノゲン製剤、血液凝固第IX因子製剤)の投与によってC型肝炎ウイルスに感染した方に対して、病態に応じて1,200万円から4,000万円の給付金が支給されます。
給付金額の目安
| 病態 | B型肝炎給付金 | C型肝炎給付金(推定) |
|---|---|---|
| 無症候性キャリア | 50万円 | - |
| 慢性肝炎 | 1,250万円 | 1,200万円 |
| 肝硬変(軽度) | 2,500万円 | 2,500万円 |
| 肝硬変(重度)・肝がん | 3,600万円 | 4,000万円 |
これらの給付金制度については、弁護士などの専門家に相談することで、申請手続きを進めることができます。
肝炎治療の医療費助成
B型・C型肝炎の治療については、国や自治体による医療費助成制度があります。インターフェロン治療や核酸アナログ製剤治療、直接作用型抗ウイルス薬治療が対象となり、所得に応じて自己負担額が軽減されます。
この助成制度により、経済的な負担を軽減しながら治療を受けることが可能となっています。
肝炎ウイルス検査の重要性
肝炎ウイルス感染は、初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、自分が感染していることに気づかないまま、肝硬変や肝臓がんまで進行してしまうケースが少なくありません。
全国の自治体では、肝炎ウイルス検査を無料または低額で受けられる体制を整えています。特に以下のような方は、一度検査を受けることが推奨されます。
・過去に輸血を受けたことがある方
・長期間透析を受けている方
・1992年以前に手術を受けた方
・入れ墨を入れたことがある方
・健康診断で肝機能異常を指摘されたことがある方
早期に感染を発見し、適切な治療を開始することで、肝硬変や肝臓がんへの進行を予防できる可能性が高まります。
定期的な経過観察の重要性
肝炎ウイルスに感染している方、肝硬変と診断された方は、定期的な経過観察が極めて重要です。
特に肝硬変の患者さんは、6ヶ月ごとまたはそれ以上の頻度で、超音波検査やCT検査、腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-IIなど)の測定を行い、肝臓がんの早期発見に努める必要があります。
早期に発見された肝臓がんは、ラジオ波焼灼療法や手術などの根治的治療が可能であり、良好な予後が期待できます。一方、進行してから発見された場合は、治療選択肢が限られ、予後も厳しくなります。
このため、医師の指示に従って定期的な検査を継続することが、余命を延ばす上で重要な要素となります。

