大腸がんの検査は、大きく分けて「検診」と「精密検査」の2種類です。(大腸がんと診断され、手術を受けたあとには経過観察のための検査も行われます)
検診は、いまのところ特に症状のない人に対して行われます。
検診を受ける人の多くは、病気である可能性が低いので、まず受診者の負担が軽い簡単な方法で行われます。
病気である可能性が高い人を効率よく選び出し、精密検査を受けてもらうようにすることが、検診の第1の目的です。
大腸がんの検診には、便に血が混じっているかどうかを調べる「便潜血検査」と、肛門から指を入れて直腸にしこりがないかどうかを調べる「直腸診」があります。
大腸がんの検診
1.便潜血検査とは
大腸がんは、ある程度大きくなると、がんの表面からじわじわと出血するようになります。
便ががんの部分を通るときには、がんの表面がこすれて、便に血が混じります。
この便の中に混じったわずかな血液を検出するのが、便潜血検査です。
排便後に、専用の小さなスプーン状の棒で少量の便をすくって検査容器に入れ、便に血が混じっていないかどうかを調べます。
とても簡単な検査ですが、目に見えない血液も、検出することができます。
しかし、この検査が陽性だったからといって、必ず大腸がんがあるとは限りません。
大腸がん以外の病気(炎症など)でも血液が混じることがありますし、歯茎など口の中の出血にも反応する場合があります。
逆に、陰性だったからといって、絶対に大腸がんがないともいいきれません。
早期がんでは出血が少なく、便潜血検査で陽性とならない場合も少なくありません。
しかし、毎年この検査を受けることによって、病気が見逃される確立はかなり低くなります。
2.問診での確認
便潜血反応のうち、陽性反応が出たら、病院で詳しい診察を受けることになります。
最初に行われる問診では次のような質問から、症状の様子や経過などを確認します。
・痔をわずらっていますか(痔でも、便潜血反応で陽性が出るという可能性があるためです)。
・血便に気づいたことがありますか。
・それは、いつごろからですか。
・血便の状態について、たとえば、色は黒いのか、赤いのか、赤褐色なのか。便に血がついていたのか、便に血が混じっていたか(どの消化管から出血したのかがわかります)。
・便の通過が悪いと感じたことはあったか、下痢や便秘はあるか。便の太さは太いか、細いか(便通異常は大腸がんの症状です。
また、下痢や便秘をくり返すのは、大腸左側の結腸がんや直腸がんの進行した症状という可能性があります。便が細くなるのも、直腸がんを疑う症状です)。
・腹痛はあるか。痛む場所は右か左か、いつごろ痛いのか、排便と関係のある痛みか。痛さは、かなり痛いか、なんとなく痛いのか(早期がんの場合でも、なんとなく腹痛が続くことがあります)。
・最近、貧血やめまいを起こしたことはあるか(長期間、大腸粘膜から出血していた場合、慢性的な貧血症状やめまいが起こります)
・食欲はあるか。体のだるさはあるか(食欲の減退や体のだるさは、体が最初に異常を訴える、いわば危険信号です)。
・以前、いつ大腸検査を受けたか(1年以内に受診し、異常なしという結果が出ていれば、進行大腸がんという可能性はなくなります)。
3.直腸診とは
直腸診は、肛門から指を入れ、肛門に近い直腸の中を直接触わって、がんがあるかどうかを調べる検査です。
特に、排便時に目で見てはっきりとわかる出血がある場合や、肛門に近い直腸にがんがある場合に有効な検査です。
直腸診では、指が届く範囲のことしかわかりませんが、下剤などの準備も不要で、診察室で簡単にできるという大きなメリットがあります。
大腸がんの精密検査
大腸がん検診の結果、要精密検査となると「注腸造影検査」や「内視鏡検査」を受けることを提案されます。
1.大腸がんの注腸造影検査や内視鏡検査の準備
注腸造影検査でも大腸内視鏡検査でも、大腸の中に便が残っていると、正確な検査ができません。
細かい病変を見逃してしまう可能性も高くなるため、大腸の中をすっかりきれいにしておく必要があります。
そこで、これらの検査をする場合には前日から、便になりにくい食事に変えたり検査用の下剤を飲んだりする必要があります。
下剤の量や種類などは、患者さんの病状や医療機関によって若干違うことがあります。
検査を予約する際に、医師や看護師から説明があります。
ただし、下剤を飲んでいる最中に、急激におなかが張ってきたり激しい痛みが出てきたりしたときは、すぐに下剤を飲むのを中断し、検査室スタッフに申し出ましょう。
また自宅で下剤を飲んでいる場合は、病院(内視鏡検査室)に連絡しましょう。
2.大腸がんの注腸造影検査とは?
肛門から白い造影剤(バリウム)と空気を注入して大腸の輪郭を写し出し、X線写真(レントゲン)を撮影する検査です。
肛門にチューブの先を入れて、そこから大腸の中へ液体状のバリウムを流し込みます。
大腸の壁にバリウムがまんべんなく付着するように、検査台の上でごろごろとからだを動かしてもらいます。写真を撮るときには、空気を入れて大腸を膨らませます。
もし、大腸の壁が変形しているなどの異常があれば、大腸がんが疑われます。
この検査では、大腸全体の形と、異常のある位置を正確に把握することができます。ただし、注腸造影検査で撮影された写真は、あくまで"かげ絵"です。
どんな病気かを直接見ているわけではありません。
注腸造影検査で異常が疑われたら、大腸内視鏡検査を行って、さらに詳しく調べる必要があります。
なお、早期がんや平坦ながんは、見落とすことがあります。
3.大腸がんの大腸内視鏡検査とは
肛門から、太さ1cm、長さ1.4mほどのチューブ状の内視鏡を入れて、大腸の中を直接観察する検査です。
はじめに大腸のいちばん奥(盲腸。小腸との境目)まで内視鏡を進め、その後、引き抜きながら大腸の中を観察していきます。
大腸の中を直接見ることができるため、小さな病変も見逃すことが少ないというメリットがあります。
また、異常があった場合は、その場で組織をつまんで検査に出したり、ある程度までの大きさのポリープなら、その場で切除することもできます。
大腸がんの場合、内視鏡検査の"見た目"で、がんかどうかはほとんどわかります。最近は、画像を100倍程度に拡大して観察できる拡大内視鏡もあります。
大腸壁の表面構造の細かいところまで描き出せるので、良性か悪性かもおよそ判別がつきます。
しかし、いくら"見た目"がそれらしくても、1OO%がんと決まったわけではありません。
がんの診断を確かなものにするためには、病変部分から組織を採取し、顕微鏡で調べる「病理検査」が必要です。内視鏡の手元の操作部から"鉗子"という組織を採取する道具を入れ、内視鏡の先端から出します。
鉗子で病変から2~3mmの大きさの組織をつまみ取ります。
これを「生検(バイオプシー)」といいます。
その後、採取した組織を顕微鏡で調べ、がんかどうかを診断します。
大腸がん診断結果とステージ
生検で採取された組織を顕微鏡で観察して、そこではじめて組織学的診断が下されます。どの治療を行うかは、がんの進み具合(進行度)によって決めることになります。
この進行度は専門用語では「病期(ステージ)」といいます。
病期分類で重要なのは、浸潤の度合(壁深達度)、リンパ節転移の度合、遠隔臓器転移の度合、の3つです。これらの度合の違いにより、治療法が異なってきます。
大腸がんの進行度をあらわすステージ(病期)とは
がんの深さや転移の有無などによって分類されます。大腸がんには、Dukes(デュークス)分類とTNM分類のステージ分類が使われます。
がんの大きさではなく、大腸の壁の中にがんがどの程度深く入っているか、及びリンパ節転移、遠隔転移の有無によって進行度が規定されています。
各病期の分類方法と手術後の5年生存率は以下のとおりです。
デュークス分類
・デュークスA(95%)
がんが大腸壁内にとどまるもの。
・デュークスB(80%)
がんが大腸壁を貫くがリンパ節転移のないもの。
・デュークスC(70%)
リンパ節転移のあるもの。
・デュークスD(10%)
腹膜、肝、肺などへの遠隔転移のあるもの。
ステージ分類
・ステージ0期:がんが粘膜にとどまるもの。
・ステージ1期:がんが大腸壁にとどまるもの。
・ステージ2期:がんが大腸壁を越えているが、隣接臓器におよんでいないもの。
・ステージ3期:リンパ節転移のあるもの。
・ステージ4期:腹膜、肝、肺などへの遠隔転移のあるもの。
ステージ分類における0~1期が早期がん、2期以上が進行がんです。病期によって治療方針が変わってきます。
大腸がんの治療方針は、切除可能な限り手術をすることです。
大腸がんの約70%以上は手術で対応できますが、残念ながら、残りの30%は手術後に再発したり、転移が見つかったりします。
転移しやすい場所は、病変部にもっとも近いリンパ節や横隔膜リンパ節、肺や肝臓などです。
大腸がんでは放射線療法はあまり効果がなく、再発・転移がんでは薬物療法(抗がん剤)が中心になります
その他 必要に応じて行われる検査
1.遠隔転移があるかどうか調べる検査
遠隔臓器転移の診断には、CT検査、MRI検査、腹部超音波検査などが用いられます。
手術中の視診や触診も重要です。
これらの所見を総合してどの臓器にどの程度の転移がおこっているかを予測・判定し、外科的切除の範囲やそのほかの治療方針が決められます。
切除後には病理検査を行い、組織学的転移の判定がなされます。
具体的には、どの臓器にどの程度(個数、大きさなど)の転移があったかということが判定されます。
2.大腸がん検査における画像診断(CTとMRI)
CTとMRIは、症状を詳しく調べるためには欠かせない検査です。
CT検査では、病変部の臓器を輪切り状にした写真を撮影し、コンピュータで画像処理して断層写真をつくります。ただし、この検査で使用する造影剤(ヨード剤)にアレルギーのある方は、検査できないこともあります。
CTでは体や臓器を輪切り状にして撮影しますが、MRIでは、縦横斜めから画像を撮ることができます。
CTもMRIも、肝臓やリンパ節への転移や膀胱や小腸などの他臓器へがん細胞が広がっていないか(浸潤)観察します。
特に、MRIでは、写真に映っている影が腫瘍なのか、炎症なのかを見極めることができます。また、がんだけを詳しく観察できるような画像をつくることができます。
3.PET検査とは
PET(陽電子放射断層撮影)は、CTやMRIなどのように、臓器の形を見て診断するこれまでの検査法とは異なります。
がん細胞が正常細胞に比べて栄養分であるぶどう糖の取り込みが多いことを利用して、がんの診断に威力を発揮する最先端の画像診断法です。
PETでは、まずぶどう糖によく似た薬剤(FDG)を腕の静脈から注射します。
FDGを全身に行き渡らせるため、楽な姿勢で5O分程度安静にします。
この薬剤は、がん細胞に多く取り込まれる特性があり、これを特殊なカメラで撮影することでがんの有無を調べます。
撮影後は、放射性物質であるFDGが体外に抜けるまで、1時間程度休んでから帰宅します。CTやMRIは優れた検査法ですが、あくまで"かげ絵"を見ているようなものです。
PETは、正常細胞とがん細胞の「性質」の差を見ているため、1cmに満たない小さなしこりのうちから"がんの性質を持っているかどうか"がわかり、CTやMRIで見つからないがんや再発の早期診断に役立ちます。
PETでは、最初に薬剤を注射する以外は痛みや不快感がなく、全身(頭から足のつけ根まで)を一度に検査できます。
また、同時にCTを撮影するPET-CTでは、CTとPETを組み合わせた画像が撮影できるのでがんが疑われる場所がCTの画像でよくわかります。
最近では、PET-CTが主流となっています。
PETは、大腸がんでは一部の病状に対し保険適用となっていて、通常の健康保険の自己負担割合で検査を受けることができます。ただし、健康な人が健康診断を目的に受診する場合は、健康保険の対象外となります。
4.大腸がんの腫瘍マーカー
その人が大腸がんにかかっているかどうかを、血液検査のみで診断することはできません。
ただし、がんの進み具合の1つの目安となる「腫瘍マーカー」というものがあります。
腫瘍マーカーとは、血液中にあるがんに特有の生体物質(がんに特有のたんぱく質や、糖鎖と呼ばれる物質)のことです。
このような物質は、がん細胞の目印(マーカー)になるため、「腫瘍マーカー」と呼ばれます。
血液検査をして、このマーカーとなる物質の血液中の濃度を測ります。
ひと口に腫瘍マーカーといってもたくさんの種類があり、がんの種類によって、異常を示す腫瘍マーカーの種類は異なります。
大腸がんの腫瘍マーカーとしては、主にCEAとCA19-9の2種類が使われています。
ただし、腫瘍マーカーは、がんではない病気や、病気のない健康な人でも、高い値(異常値)を示すことがあります。
例えば、タバコを吸う人や重い糖尿病の人では、がんがなくても、CEAが高い値を示すことがあります。
また、がん細胞の量がある程度多くないと、マーカーとなる物質の量が少ないため、異常値を示しません。そのため、がんの早期発見にはあまり役には立ちません。
現時点では、腫瘍マーカーは大腸がんを早期に発見するためのものではありません。
大腸がんがどれくらい進行しているかの目安にしたり、治療の効果や再発の有無を判定するための目安にしたりしています。
初回手術後の定期的な経過確認の検査
大腸がんの手術後の定期検査は、再発・転移がないか経過観察をする目的で行なわれます。
したがって、手術でがんの切除が完全にできた場合でも、念のため原発部位である結腸や直腸の観察が続けられます。それと同時に、最も再発を起こしやすい肝臓や肺などを中心として、さまざまな検査が行なわれます。
また、手術で切除したがんの進行度(ステージ)によって、検査の種類や実施の間隔は異なってきます。進行度が高いほど検査の種類は多く、実施間隔も頻繁になる傾向があります。