
がん患者さんの腰痛について
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中には、腰痛が生じることがあります。通常であれば「少し疲れたかな」程度で済むかもしれませんが、がん患者さんの場合は「骨への転移ではないか」「がんが悪化しているのではないか」といった不安を感じてしまうこともあるでしょう。
この記事では、がん闘病中の腰痛について、どのような原因で起きるのか、起きた場合の対処法や治療法はあるのか、について詳しく解説します。腰痛に悩まされている患者さんやご家族が、現状を整理し、適切な対応を考えるための参考にしていただければと思います。
腰痛とは
腰痛は、触知可能な最下端の肋骨と臀部の間の領域に生じる疼痛のことを指します。有症期間により、急性腰痛(発症から4週間未満)、亜急性腰痛(発症から4週間以上3か月未満)、慢性腰痛(発症から3か月以上)と定義されています。
一般的な腰痛の約85%は、画像検査を行っても明確な原因が特定できない「非特異的腰痛」とされています。筋肉の疲労、椎間関節の負担、長時間の同一姿勢、運動不足、ストレスなど、様々な要因が複合的に作用して腰痛を引き起こしていると考えられています。
しかし、がん患者さんの場合は、がん自体やその治療に関連した特有の原因で腰痛が生じる可能性があるため、注意深い観察と適切な対応が必要になります。
がん患者さんに腰痛が生じる主な原因
腰痛の原因は多岐にわたります。発生状況、痛みの性質や程度、随伴症状の有無、内臓部位との関係など、様々な観点からの観察が必要です。
腰痛が生じると、歩行時や座位時に苦痛があるばかりでなく、日常生活が不便になり、就床時にも痛みのために睡眠がとれないことがあります。心理的にも不安が強くなり、これが痛みを助長して全身の疲労を強めることがあるため、疼痛の緩和とともに不安の軽減を図ることが重要です。
がん(腫瘍)による腰痛
がん患者さんの腰痛で最も注意が必要なのは、がん自体が原因となっている場合です。具体的には以下のケースがあります。
脊椎・脊髄への転移(骨転移)
最も頻度が高いのは、原発がんから脊椎への転移による腰痛です。がんで亡くなった方の約30%では骨に転移があるとされており、骨転移の中で最も頻度が高いのが脊椎への転移です。
頚椎から仙椎まで脊椎のどの部分でも転移は起こりますが、特に腰椎への転移が多いため、患者さんの訴えとしては腰痛が最も多くなります。
骨転移しやすいがんとしては、以下の3つが特に知られています。
| がんの種類 | 骨転移の頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 乳がん | 約70% | 骨転移は乳がんの最も多い転移部位。胴体部だけでなく頭蓋骨や手足の骨にも転移する |
| 前立腺がん | 約70% | 前立腺と近い位置にある骨盤や腰椎など、近くの骨に早い段階から転移しやすい |
| 肺がん | 約50% | 骨盤、大腿骨、腰椎、胸椎など体の中心部に転移。末梢の骨にも転移しうるのが特徴 |
腰部周辺に分布する脊髄神経の知覚神経終末の刺激や、脊髄神経根そのものの圧迫刺激により、腰痛が生じます。痛みは骨転移の部位に応じて、腰椎に転移すれば腰痛、胸椎なら背中の痛み、大腿骨なら股関節や太ももの痛みなどが現れます。
腹部臓器のがん
胃がん、膵がん、胆嚢・胆管がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がんなどの腹部臓器のがんも、進行すると腰痛を引き起こすことがあります。
特に膵がんは、膵臓が胃の後ろに位置するため、腫瘍が周囲の組織や神経を圧迫することで腰痛や背部痛を引き起こすことが多いです。痛みの特徴としては、鈍痛や焼けつくような痛みがあり、持続的に感じることが多く、特に夜間や休息時に強くなることがあります。
がん治療に関連した腰痛
がん自体が原因ではなく、治療や療養の過程で生じる腰痛もあります。
長時間の同一体位による腰痛
手術後の安静や、化学療法・放射線療法の副作用による倦怠感などで長時間同じ体位を取り続けることにより、筋肉の疲労や血流の低下から腰痛が生じることがあります。
治療による骨の脆弱化
化学療法やホルモン療法などの治療により骨密度が低下し、圧迫骨折のリスクが高まることがあります。特に女性の乳がん患者さんでホルモン療法を受けている場合や、男性の前立腺がん患者さんでホルモン療法を受けている場合には注意が必要です。
その他の要因
尿路感染などに伴う化膿性脊椎炎、化学療法などに伴う免疫抑制状態で生じる感染症、腹部大動脈瘤など、がん治療中の患者さんでは様々な合併症により腰痛が生じる可能性があります。
注意が必要な腰痛の特徴
一般的な腰痛の場合、横になって楽な姿勢でじっとしていれば痛みは和らぐことが多く、これらの症状の場合はがんのリスクは少ないと言われています。
一方で、以下のような特徴がある腰痛の場合は、がんやその他の重大な疾患の可能性があるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。
- 安静にしていても痛みが引かない、または悪化する
- 夜間や早朝に痛みが強くなる、痛みで目が覚める
- 数日にわたって痛みが消えない
- 体重減少や発熱を伴う
- 血便、便の異常(下痢・便秘の繰り返しなど)を伴う
- しびれや麻痺を伴う
- 排尿・排便障害を伴う
これらの症状がある場合には、がんの進行や骨転移、脊髄圧迫症状などの可能性があるため、緊急で対応が必要なケースもあります。
腰痛の診断方法
がん患者さんに腰痛が生じた場合、原因を特定するために様々な検査が行われます。
問診と身体診察
痛みの部位、性質(鈍痛、刺すような痛み、焼けつくような痛みなど)、発症時期、痛みが強くなる時間帯や姿勢、随伴症状などを詳しく聞き取ります。また、痛みの部位に触れて圧痛の有無、感覚の異常、筋力の低下などを確認します。
画像検査
単純X線検査
最初に行われることが多い検査ですが、骨転移の早期発見には限界があります。腰椎が変形しているのは分かりますが、それが単純な圧迫骨折によるものなのか骨転移による変形なのかは判別が難しいことがあります。
MRI検査
骨転移の診断において非常に有用な検査です。骨転移している腰椎をMRIで撮ると、通常の圧迫骨折とは明らかに違う画像になります。通常の圧迫骨折は、潰れている部分と正常な部分がはっきりとしていますが、骨転移の場合、まだらで境界がはっきりしていないことが特徴です。
膵臓、大腸、子宮などの内臓のがんが原因の腰痛の場合には、それらの臓器に焦点をあてたMRI検査が必要となります。
骨シンチグラフィー
放射性物質を用いて、骨格全体を一度に評価することができる検査です。骨転移の有無や広がりを把握するのに有用です。単純X線検査では認められなかった腫瘍の発見に役立ちます。
CT検査・PET-CT検査
腫瘍の大きさ、リンパ節への転移、他の臓器への転移の有無などを確認することができます。PET-CT検査は、がん細胞に取り込まれやすい放射性物質を投与して行う検査で、全身のがんの広がりを評価するのに有用です。
血液検査
腫瘍マーカーの測定、炎症反応の確認、カルシウム値の測定などが行われます。骨転移があると、骨からカルシウムが溶け出して血液中のカルシウム濃度が高くなる「高カルシウム血症」を起こすことがあります。
生検
画像検査で異常が見つかった場合、その部位から組織を採取して顕微鏡で調べることがあります。がんの種類を特定し、適切な治療方針を決定するために重要な検査です。
がん患者さんの腰痛に対する治療とケア
がん患者さんの腰痛に対しては、原因に応じた治療が行われます。
腹部大動脈瘤など緊急性の高い疾患の除外
腹部大動脈瘤など、緊急対応を要する腰から背部の痛みと判断される場合もあります。強い痛みがある場合は速やかに医療機関を受診することが必要です。
がん自体に対する治療
手術療法
脊髄圧迫症状を呈する転移性脊椎腫瘍の場合や、病的骨折や切迫骨折のリスクのある四肢長管骨の骨転移に対して、手術が有効な場合があります。主に、神経圧迫に対する除圧と、脊椎の固定を目的として行われます。
バルーン椎体形成術や椎体形成術といった低侵襲の手術も行われています。これらは、腫瘍によって背骨が潰れているものの脊髄には圧力が加わっていない場合に行うことができます。骨セメントを注入することで、骨を安定させ、痛みを軽減することができます。
放射線療法
骨転移による痛みの緩和に非常に有効です。転移した部位に放射線を照射することで、腫瘍を縮小させ、痛みを軽減することができます。1回の照射で効果が得られることもあれば、複数回の照射が必要な場合もあります。
薬物療法(がん治療薬)
化学療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、ホルモン療法など、がんの種類や進行度に応じた薬物療法が行われます。がん自体を縮小させることで、痛みの原因を取り除くことを目指します。
痛みに対する治療
薬物療法(鎮痛薬)
痛みの程度に応じて、段階的に薬剤を選択します。
| 薬剤の種類 | 主な薬剤 | 特徴 |
|---|---|---|
| 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) | ロキソプロフェン、ジクロフェナクなど | 軽度から中等度の痛みに使用。炎症を抑える効果もある |
| アセトアミノフェン | カロナールなど | 軽度から中等度の痛みに使用。胃腸障害が少ない |
| 弱オピオイド | トラマドール、コデインなど | 中等度の痛みに使用 |
| 強オピオイド(医療用麻薬) | オキシコドン、モルヒネ、フェンタニルなど | 中等度から強い痛みに使用。適切に使用すれば依存性の心配は少ない |
| 鎮痛補助薬 | 抗うつ薬、抗けいれん薬など | 神経障害性疼痛に有効 |
痛みはとても複雑な仕組みで起こるため、各薬剤の特徴を理解し、適切に組み合わせてより良い効果を目指して調整が行われます。
神経ブロック療法
局所麻酔薬や神経破壊薬、熱などによって神経の伝達機能を一時的または永久的に遮断すること、あるいはオピオイドなどの鎮痛薬を硬膜外腔・くも膜下腔へ投与することで、鎮痛効果を得る方法です。
薬物治療を行いながら、神経ブロックを併用することで、鎮痛薬の量を減らすことができたり、副作用を軽減できたりする効果があります。また、痛み止めとしての効果の質も良いため、生活の質(QOL)の向上を目指せます。
保存療法
温熱療法
急性腰痛、亜急性腰痛に対しては、短期的には温熱療法が有効です。患部を温めることで血流が改善され、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減されることがあります。
コルセットの使用
骨折のリスクがあって可動域を制限する必要があるときや、疼痛部位への圧迫を避けて症状を和らげる必要があるときなどに使用されます。
コルセットは、体重の支持や運動の制限に役立ちますが、不必要に長期間使用すると体幹の筋力が低下し、筋萎縮が生じる可能性があるため注意が必要です。
運動療法とリハビリテーション
運動機能の回復・改善を目的として行われます。長期の安静は、筋力低下などを引き起こし、回復を遅らせることがあります。痛みが緩和したら、すみやかに日常生活の行動に戻るとともに、医師・理学療法士と協力し、適度な運動を取り入れることが重要です。
日常生活での基本的な腰痛対策
がん患者さんが日常生活の中で実践できる腰痛対策について説明します。
環境の整備
外傷や転倒を予防するため、生活環境を整えることが大切です。床に物を置かない、段差をなくす、手すりを設置する、適切な照明を確保するなどの工夫をしましょう。
睡眠環境の工夫
睡眠時の姿勢は大切です。体圧を分散しながらも脊柱の生理的彎曲が保たれるような硬さのマットレスを選びます。柔らかすぎるマットレスは腰が沈み込んでしまい、逆に硬すぎるマットレスは圧迫が強くなるため、自分に合った硬さのものを選ぶことが重要です。
適度な運動の継続
長期の安静は、筋力低下や筋萎縮、血流の低下を招き、かえって腰痛を悪化させることがあります。医師の許可のもと、無理のない範囲で歩行や軽いストレッチなどを継続することが推奨されます。
痛みの記録
痛みがいつ、どのような状況で起こるのか、どのような対処で和らぐのか、日常生活にどのような影響があるのかを記録しておくと、医療従事者に正確に伝えることができ、適切な治療につながります。
痛みを我慢しないことの重要性
がん患者さんの中には、「痛みを訴えるとがんが進行していると思われるのではないか」「医療従事者に迷惑をかけたくない」「痛み止めに頼りたくない」という思いから、痛みを我慢してしまう方がいらっしゃいます。
しかし、痛みを我慢することは、生活の質を低下させるだけでなく、食欲不振、不眠、活動量の低下、精神的な苦痛などを引き起こし、結果的にがん治療そのものにも悪影響を及ぼす可能性があります。
がんによる痛みは、がんと診断された時点で20~50%の患者さんにみられ、進行がん患者さん全体では70~80%に痛みがあるとされています。つまり、がん患者さんの早期から終末期まで、時期を問わず起こるのががん性疼痛であり、どの段階にあっても生活の質(QOL)の向上のため、速やかに治療が開始されるべきです。
痛みの治療を行うことで、がんそのものの治療の効果が弱まってしまうようなことはなく、むしろ、痛みがなくなり体と心のコンディションが整えられればがん治療に専念できるようになります。
痛みを抱え込まず、家族や医療従事者に相談するなど、周囲の支援を積極的に得ていきましょう。理解してくれる誰かがそばにいてくれることは、あなたにとっての支えにもなります。
まとめ
がん患者さんに生じる腰痛には、骨転移などのがん自体が原因となるもの、治療に伴うもの、療養中の安静によるものなど、様々な原因があります。
安静にしていても痛みが引かない、夜間に痛みが強くなる、しびれや麻痺を伴うといった特徴がある場合には、速やかに医療機関を受診することが重要です。
診断には、問診、身体診察、画像検査(X線、MRI、骨シンチグラフィー、CT、PET-CT)、血液検査などが用いられます。治療には、がん自体に対する治療(手術、放射線療法、薬物療法)、痛みに対する治療(鎮痛薬、神経ブロック)、保存療法(温熱療法、コルセット)、運動療法などがあります。
痛みを我慢せず、医療従事者に正確に伝え、適切な治療を受けることが、生活の質を保ちながらがん治療を継続するために大切です。

