
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がん治療を受ける中で、勃起障害(ED)に悩まれる患者さんは少なくありません。特に前立腺がんの治療では起きやすい症状として知られていますが、原因や対処法は多岐にわたります。
この記事では、がん闘病中に起こり得る勃起障害の原因や理由、具体的な対処法や治療法について、2026年の最新情報を踏まえて整理しています。
勃起障害(ED)とは何か
医学的に勃起障害(ED)とは、勃起の発現や維持ができないために満足な性交ができない状態を指します。勃起に関与する血管系、神経系、ホルモン系、陰茎海綿体などの異常や病変によって生じる「器質性勃起障害」と、精神および情動の変化によって引き起こされる「心因性(機能性)勃起障害」に分類されます。
日本国内では約1400万人の男性がEDの悩みを抱えているとされ、50歳以上では2人に1人が何らかの勃起障害を経験しているといわれています。がん患者さんの場合、治療に伴う身体的な変化だけでなく、心理的なストレスも大きな要因となります。
勃起のメカニズムと神経の働き
勃起は交感神経と副交感神経からなる「海綿体神経」によって支配されています。性的な刺激により脳の視床下部からドパミンが放出され、骨盤神経からアセチルコリンと一酸化窒素が放出されます。血管からも一酸化窒素が放出され、これらの働きによって海綿体平滑筋と血管平滑筋が弛緩します。
その結果、動脈から海綿体へ血液が流れ込み、海綿体が拡張します。拡張した海綿体が静脈叢を圧迫することで静脈の抵抗が増大し、勃起が維持される仕組みです。このプロセスのどこかに問題が生じると、勃起障害が起こります。
がん闘病中の勃起障害の主な原因
がん患者さんに起こる勃起障害の原因は、以下のように分類できます。
| 原因の分類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| がん(腫瘍)そのものによる影響 | ・勃起神経へのがんの浸潤 ・脳腫瘍や脳転移による視床下部の障害 ・男性ホルモンの減少 |
| 手術による影響 | ・骨盤内臓器(直腸、前立腺など)の手術による勃起神経の損傷 ・神経温存術の可否による術後機能の違い |
| 化学療法(抗がん剤)による影響 | ・精巣の障害による男性ホルモンの分泌量減少 ・ホルモン療法による男性ホルモンの減少 ・神経障害(シスプラチン、ビンクリスチンなど) |
| 放射線治療による影響 | ・骨盤への照射による動脈の損傷 ・血管の瘢痕化と弾性の喪失 ・視床下部・下垂体への照射によるホルモンバランス異常 |
| その他の原因 | ・制吐薬などのドパミン受容体遮断薬による高プロラクチン血症 ・脱毛、ストーマ造設などボディイメージの変化 ・治療に伴う精神的ストレス |
手術による勃起障害の詳細
手術でEDが起きる仕組み
骨盤内手術による勃起神経の障害が、術後のEDの主な原因です。手術によって勃起神経が障害されると、一酸化窒素の放出が阻害され、海綿体の弛緩が発生しなくなります。そのため、血液が流入せず陰茎海綿体が膨張できなくなり、勃起障害が起こります。
特にリスクが高いのは、前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術、膀胱がんに対する膀胱全摘除術、大腸がんに対する根治的手術などです。骨盤内手術全般において、勃起神経損傷のリスクがあります。
神経温存術と術後の勃起機能
前立腺全摘除術では、勃起神経の温存が可能な場合があります。勃起神経は前立腺の右側と左側の両方の外側を走っており、両側の神経を温存できた場合、術後の勃起機能がある程度温存できる可能性があります。
2026年の最新データによると、神経温存術を行った場合、両側温存で約70%前後、片側温存で約30~40%前後の勃起機能の維持が可能とされています。ただし、この数値は性交渉が可能なレベルかどうかの評価方法によって変わります。
がんを根治的に治療することが優先されるため、がんの進行度によっては神経温存が困難な場合もあります。また、神経が温存されても、術前の勃起機能まで完全に回復することは限られています。
手術後の対応と治療法
神経が完全に障害されてしまった場合、回復は困難になります。手術前に、担当医から勃起神経温存の可否について十分な説明を受けることが重要です。
神経が温存された場合、術後1年以内であれば勃起機能が回復する可能性があります。この期間に、PDE5阻害薬(バイアグラ、シアリスなど)を定期的に使用することで、勃起機能の回復を促すアプローチが海外では推奨されています。
症状が出た場合、医師と相談し、陰茎海綿体注射や陰圧式勃起補助具の使用が検討されます。
化学療法(抗がん剤)による勃起障害の詳細
化学療法でEDが起きる理由
抗がん剤の副作用により、男性ホルモンが減少することで、神経伝達物質であるドパミンや一酸化窒素が活発に作動せず、勃起障害が起こると考えられています。ただし、そのメカニズムは完全には解明されていません。
抗がん剤、特にシクロホスファミドやイホスファミドなどのアルキル化剤は、精巣のライディッヒ細胞を障害し、男性ホルモン(テストステロン)の分泌を減少させるとされています。
また、シスプラチンやビンクリスチンは、神経障害によって勃起障害を起こす可能性があるといわれていますが、確実な科学的データは限られています。
脱毛などによるボディイメージの変化や倦怠感などの副作用によって性的欲求が低下し、勃起障害をきたすこともあります。副作用症状による精神的ストレスが、心因性勃起障害を引き起こす場合もあります。
対応と治療のアプローチ
化学療法におけるEDは、治癒可能な心因性、内分泌性(ホルモンによる)勃起障害と、それ以外の原因を分けて対応します。
化学療法における内分泌性の勃起障害は、治療終了後に回復することが多いとされています。通常投与量の化学療法を受ける男性の多くでは、正常な勃起機能が保たれます。
心因性、内分泌性以外の勃起障害がある場合は、医師へ相談し、PDE5阻害薬(バイアグラなど)や陰茎海綿体注射、陰圧式勃起補助具の使用が検討されます。
放射線治療による勃起障害の詳細
放射線でEDが起きる理由
放射線療法による勃起障害のメカニズムは、完全には解明されていません。しかし、照射部位の内部組織が、治癒に伴って瘢痕化し、陰茎海綿体の血管が弾性を失い、血流障害をきたすためと考えられています。
視床下部・下垂体への放射線照射によってホルモンバランス異常が起こり、性欲が低下することで、間接的に勃起障害が起こる場合もあります。
特にリスクが高いのは、前立腺がん、膀胱がん、結腸がんへの治療による骨盤への放射線照射です。照射範囲が広く、照射量が多くなるほど、勃起障害のリスクは大きくなります。
また、喫煙歴や高血圧の既往がある場合、すでに動脈にダメージを受けているため、勃起障害のリスクがさらに高まります。
放射線治療と手術の比較
2026年の最新情報によると、ロボット手術で両側の勃起神経を温存した場合と放射線治療(IMRT)を比較すると、長期的には大きな違いはないとされています。ただし、放射線治療では手術と異なり、射精は保たれます。
現在では、三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)など、勃起神経を避けて照射できる技術が進歩しています。前立腺内に放射線源を挿入する小線源療法もあります。
対応と治療法
動脈へのダメージを減らすためには、禁煙が必要です。放射線治療後のEDに対しては、PDE5阻害薬(バイアグラなど)の使用により勃起障害の回復が見込める場合があります。神経が残っていれば、PDE5阻害薬が有効です。
治療法の比較
勃起障害の治療法には、いくつかの選択肢があります。それぞれの特徴を比較すると以下のようになります。
| 治療法 | 有効率 | 特徴 | 対象 |
|---|---|---|---|
| PDE5阻害薬 (バイアグラ、シアリスなど) |
約70% | ・内服薬 ・性的刺激が必要 ・心因性EDに高い効果 ・神経温存術後に有効 |
心因性ED、軽度から中等度のED、神経が温存されている場合 |
| 陰茎海綿体注射 (プロスタグランジンE1) |
約77~91% | ・自己注射 ・性的刺激不要 ・5~15分で効果 ・1~2時間持続 ・日本では未承認 |
PDE5阻害薬が無効の場合、神経非温存手術後、糖尿病性ED、脊髄損傷 |
| 陰圧式勃起補助具 | 個人差あり | ・機械的に勃起を促す ・副作用が少ない ・繰り返し使用可能 |
PDE5阻害薬が使用できない場合、補助的治療 |
| カウンセリング | 心因性では有効 | ・心理的サポート ・パートナーとの関係改善 ・不安やストレスの軽減 |
心因性ED、治療に伴う精神的ストレスがある場合 |
PDE5阻害薬による治療
PDE5阻害薬の種類と特徴
日本で承認されているPDE5阻害薬は、シルデナフィル(バイアグラ)、バルデナフィル(レビトラ)、タダラフィル(シアリス)の3種類です。これらは勃起障害の第一選択薬として位置づけられており、約70%の患者さんに有効性が認められています。
PDE5阻害薬は、陰茎海綿体平滑筋細胞内のcGMP濃度を高めることで、性的刺激に反応して起こる陰茎海綿体平滑筋の弛緩を促進し、勃起を促します。精力剤や催淫剤とは異なり、性的刺激がないと効果は発現しません。
| 薬剤名 | 効果発現時間 | 持続時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| シルデナフィル(バイアグラ) | 30~60分 | 約4時間 | ・世界で最初のED治療薬 ・食事の影響を受けやすい ・25mg、50mgが承認 |
| バルデナフィル(レビトラ) | 15~30分 | 約4時間 | ・即効性が高い ・製造上の問題で販売中止(ジェネリックは販売中) ・5mg、10mg、20mgが承認 |
| タダラフィル(シアリス) | 30~60分 | 最長36時間 | ・長時間作用型 ・食事の影響を受けにくい ・5mg、10mg、20mgが承認 ・2026年以降に市販化予定(10mg) |
使用上の注意点
PDE5阻害薬は、硝酸薬(ニトログリセリンなど)を服用している患者さんには使用できません。併用すると、予測できない血圧の低下を引き起こす危険性があるためです。
副作用として、顔のほてり、頭痛、鼻閉、消化不良などが10~20%の患者さんに現れますが、多くは軽度で一過性です。
インターネットを通じて購入したPDE5阻害薬の半数以上が偽造薬であるという調査結果があり、健康被害のリスクがあります。必ず医師の処方のもとで入手することが重要です。
保険適用について
2026年現在、PDE5阻害薬は「勃起障害を伴う男性不妊症」に対しては保険適用となっています。ただし、一般的な勃起障害の治療目的では自費診療となります。
陰茎海綿体注射(ICI治療)について
陰茎海綿体注射の仕組み
陰茎海綿体注射は、陰茎の海綿体にプロスタグランジンE1(PGE1)という血管拡張薬を直接注射することで、勃起を引き起こす治療法です。
PDE5阻害薬が無効な場合の第一選択肢となる治療法で、神経の働きに関係なく勃起が維持されるため、難治性EDでも約77~91%の患者さんに効果が認められます。
注射後5~15分で勃起が起こり、1~2時間程度持続します。性的刺激がなくても勃起するため、前立腺がん手術後や糖尿病性ED、脊髄損傷によるEDなど、PDE5阻害薬が効きにくい場合にも有効です。
実施方法と安全性
使用する注射針は0.3mmと非常に細く、痛みはごくわずかです。患者さん自身で自己注射を行いますが、医師による指導と導入が必要です。
副作用は、勃起時の痛み8~40%、海綿体線維化0.5~1%、持続勃起症1~6%と報告されています。特に持続勃起症(4時間以上勃起が持続する状態)は、放置すると海綿体が線維化するリスクがあるため、発症した場合はすぐに医療機関を受診する必要があります。
日本での承認状況
プロスタグランジンE1は、日本では「勃起障害の診断」の効能・効果を取得しており、労災認定の検査項目としても認められています。しかし、ED治療薬としては未承認のため、自主研究として性機能専門医のもとで自己責任で行う治療となります。
世界80カ国以上で承認されており、アメリカでは1995年からFDA(アメリカ食品医薬品局)による承認を受けています。日本性機能学会では、厚生労働省への承認申請を継続しています。
陰圧式勃起補助具について
陰圧式勃起補助具は、陰茎に陰圧をかけて血流を吸引した後、陰茎基部にゴムバンドを巻いて血流を停滞させ、疑似勃起状態を引き起こす器具です。
日本で医療器具として厚生労働省の使用認可が下りているものは、アメリカのベトコ社製の手動式ポンプ「ベトコ」、日本のツムラ社製の電動式ポンプ「リテント」、日本の三井ヘルス社製の手動式ポンプ「カンキ」の3種類です。
副作用として、陰茎痛、しびれ、皮下出血、射精障害などがあります。血管性EDに対しては有効性が低く、満足度も低いとされています。
心因性EDと心理的サポート
がん治療を受ける患者さんは、がんの診断そのものや治療への不安、ボディイメージの変化、将来への心配など、様々な精神的ストレスを抱えています。これらのストレスは、心因性のEDを引き起こす重要な要因となります。
「うまくできないのではないか」という恐怖心や、パートナーとの関係性の変化なども、性生活に影響を与えます。勃起は心理的な影響を大きく受けるため、心のケアを受けることで改善することもあります。
カウンセリングとサポート体制
がん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターが設置されており、性に関する悩みも含めて相談することができます。看護師、社会福祉士などの専門相談員が、患者さんやご家族の相談を受けています。
必要に応じて、精神科医、心理士、性機能専門医などの専門職を紹介してもらうことも可能です。また、患者会や患者サロンなど、同じような体験をした人と話ができる場に関する情報も提供されています。
性のことをオープンに話すことには抵抗があるかもしれませんが、一人で抱え込まず、安心して相談できる場を利用することが大切です。
治療を受ける際のポイント
がん治療に伴う勃起障害の治療を受ける際は、以下のポイントを意識することが重要です。
まず、担当医や泌尿器科医、性機能専門医に遠慮なく相談することです。多くの医療機関では、性機能外来や男性不妊外来などが設置されており、専門的な診療を受けることができます。
PDE5阻害薬を初めて使用する場合、1度だけでなく4~8回使用して効果を検討することが推奨されています。初回で効果がなかったと諦めず、適切な服用方法や用量の調整を医師と相談することが大切です。
また、パートナーとのコミュニケーションも重要です。性生活は一人だけの問題ではなく、パートナーとの関係性に深く関わります。お互いの気持ちや期待を話し合い、理解し合うことで、治療の効果も高まります。
今後の治療の展望
2026年現在、勃起障害の治療は進歩を続けています。PDE5阻害薬のシアリス10mgが2026年以降に市販化される予定であり、薬剤師との対面相談のもとで購入できるようになります。
また、陰茎海綿体注射についても、日本性機能学会を中心とした臨床研究が継続されており、将来的な承認が期待されています。
ロボット支援下手術の進歩により、神経温存の精度も向上しています。放射線治療においても、IMRTなどの技術により、勃起神経へのダメージを最小限に抑える治療が可能になっています。
相談窓口と情報源
勃起障害について悩んでいる場合、以下のような相談窓口や情報源を活用できます。
がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでは、無料で相談を受けることができます。
性機能に特化した相談を希望する場合は、日本性機能学会の性機能専門医がいる医療機関を受診することをお勧めします。帝京大学、東邦大学などの大学病院には、性機能外来が設置されています。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がんやがんの治療による性生活への影響 がんと診断された男性へ」
- 日本性機能学会「ED診療ガイドライン第3版」
- 帝京大学泌尿器科アンドロロジー診療「前立腺がん治療後の性機能障害について」
- キャンサーネットジャパン「勃起障害2-勃起のしくみ/EDと前立腺がん」
- キャンサーネットジャパン「勃起障害3-前立腺がんの治療による影響」
- 帝京大学泌尿器科アンドロロジー診療「勃起障害の初期治療(PDE5阻害薬)」
- 帝京大学泌尿器科アンドロロジー診療「陰茎海綿体自己注射(ICI治療)」
- 東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター「陰茎注射(陰茎海綿体自己注射)」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「心のケア」
- 日本対がん協会「がん相談ホットライン」

