
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肺がんの患者さんや、肺に転移がある患者さんにとって、咳は日常生活に大きな影響を与える症状の一つです。
一度咳が出ると止まらない、夜間に咳が出て眠れないなど、つらい状態が続くことがあります。
咳は体力を消耗させ、食欲の低下や不眠、疲労感につながり、生活の質を低下させる要因となります。
この記事では、肺がん患者さんに咳が出る原因や、咳の特徴、よく使われる咳止めの薬、日常生活でできる対策について、2026年の情報をもとに詳しく解説します。
肺がん患者さんの咳とは
医学的に咳とは、短い吸気に続いて声門が部分的に閉鎖し、胸腔内の圧力が上昇した後、強制的な呼気とともに気道内の異物や痰が押し出される状態を指します。
咳は気道の痰や異物を体外に排出するための重要な生体防御機能です。
しかし、肺がんによる咳は、この防御機能を超えて持続的に起こることが特徴です。
咳は大きく2つのタイプに分類されます。
| 咳のタイプ | 特徴 | 状態 |
|---|---|---|
| 湿性咳嗽(しっせいがいそう) | 痰を伴う咳 | 気道分泌物を排出する生理的な咳 |
| 乾性咳嗽(かんせいがいそう) | 痰を伴わない空咳 | 気道内や胸膜の刺激による病的な咳 |
肺がんの初期段階では、痰を伴わない乾いた咳が続くことが多く、進行すると痰を伴う湿った咳へと変化することがあります。
肺がんによる咳の特徴
肺がんによる咳には、風邪などの感染症による咳とは異なる特徴があります。
これらの特徴を知ることで、早期に医療機関を受診する判断材料になります。
2週間以上続く咳
風邪など感染症による咳は、通常2週間以内に改善します。
しかし、肺がんによる咳は2週間以上続き、時間とともに悪化していく傾向があります。
咳止め薬を使用しても改善しない場合や、少しずつ悪化している場合は、肺がんを含む重篤な疾患の可能性を考える必要があります。
安静時にも出る咳
肺がんによる咳は、特定の刺激が原因ではなく、がんそのものが引き起こします。
そのため、安静にしていても咳が続くのが特徴です。
がんが気道を狭くしたり、胸水が溜まって肺が圧迫されたりすることで、常に咳が出やすい状態になります。
夜間に悪化する咳
横になることで気道が圧迫されたり、がんが周辺の神経を刺激したりすることで、夜間に咳が悪化することがあります。
夜間の咳は患者さんの不眠を引き起こし、同居する家族にも影響を与えます。
血痰を伴う咳
がんが進行すると、肺や気管、血管が傷つき、痰に血が混じることがあります。
血痰の量が増えると窒息の危険もあるため、長期間続いたり量が多くなったりした場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
肺がん患者さんの咳の原因
肺がん患者さんに咳が出る原因は多岐にわたります。
がん自体によるものだけでなく、治療によるもの、またがんとは関連しない併存疾患によるものもあります。
がん(腫瘍)によるもの
肺がんによる咳の最も直接的な原因は、腫瘍そのものの影響です。
- 気管・気管支にできたがん
- 肺実質へのがんの浸潤
- 胸膜病変(がん性胸膜炎など)
- がん性リンパ管症
- 上大静脈症候群による気道のうっ血と狭窄
- がんの増大により生じる誤嚥
がんが気管支を圧迫すると気道が狭くなり、呼吸がしにくくなって咳が出やすくなります。
また、がん細胞がリンパ管を詰まらせることで咳を引き起こすこともあります。
手術によるもの
- 手術時の麻酔による意識低下や気管挿管による分泌物の貯留・増加
- 術後の感染
肺がんの手術後は、気道内の分泌物が増加したり、術後感染が起こったりすることで咳が出ることがあります。
化学療法(薬物治療)によるもの
- 化学療法による肺線維化
- 薬剤性肺障害
一部の抗がん剤は、副作用として肺に障害を与えることがあります。
薬剤性肺障害が起こると、咳や息切れなどの症状が現れます。
放射線治療によるもの
- 放射線肺臓炎(急性期)
- 放射線肺線維症(晩期)
放射線治療後に肺に炎症が起こると、咳や息切れ、発熱などの症状が出ます。
これについては後ほど詳しく説明します。
その他の原因(併存疾患)
肺がん患者さんでも、がんと直接関連しない咳を合併する場合があります。
- 心不全
- 気管支喘息・咳喘息
- 慢性気管支炎
- 気管支拡張症
- 後鼻漏症候群
- 胃食道逆流症
- 感染後咳嗽
- 好酸球性肺炎
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬の副作用
原因を特定する診断の重要性
咳には、がんに関連するものと関連しない原因が関与していることがあります。
咳の原因を正しく診断することが、適切な対処につながります。
診断では、胸部エックス線検査、喀痰培養検査、胸部CT検査、気管支鏡検査などの結果を確認し、咳の原因を特定します。
肺がんによる咳のリスクが高い場合でも、他の原因が隠れていないか、総合的に身体で何が起きているのかを明らかにすることが重要です。
放射線治療による咳
肺への放射線治療を受けた患者さんでは、放射線肺臓炎や放射線肺線維症によって咳が生じる可能性があります。
放射線肺臓炎とは
放射線肺臓炎は、肺に放射線が照射されることによって起こる肺の炎症です。
治療終了後から数か月後に起きるリスクがあり、急性期の有害事象として知られています。
主な症状は、空咳、発熱、息切れなどですが、無症状で経過することもあります。
放射線治療終了後1~3か月で症状が出現し、3~4か月で症状が目立つようになることが多いのが特徴です。
発症リスクと頻度
40Gy以上の照射で放射線肺臓炎が起きる可能性が高くなり、発症頻度は5~30%程度とされています。
化学療法(薬物治療)と放射線治療を併用した場合、耐容線量が低下し、重症化しやすくなるため注意が必要です。
また、高齢者や肺に他の持病がある患者さん、喫煙歴がある患者さんは、放射線肺臓炎のリスクが高まります。
放射線肺臓炎の治療
軽症の場合は、経過観察や対症療法のみで自然に改善することが期待できます。
症状が進行する場合は、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)を使用します。
酸素飽和度が低下している場合には酸素療法を行い、体内の酸素不足を改善します。
ただし、ステロイド治療では減量時に症状が再燃しやすいという課題があります。
重症例や進行した場合には、呼吸不全に対する治療が必要になることもあります。
咳の予防と日常生活での対策
咳を完全に防ぐことは難しいですが、日常生活での工夫で症状を軽減することができます。
環境を整える
- 室温は低めに設定し、加湿器やネブライザーを使って適度な湿度を保ちます
- 室外へ出るなど温度差のある場所に移動する時は、マスクを着用します
- 口腔乾燥も咳の誘発につながるため、口の中を清潔に保ち、保湿します
会話の工夫
会話が咳を誘発する場合は、「はい」「いいえ」で答えられる会話や筆談など、患者さんに負担の少ない意思表示方法を確認します。
禁煙
喫煙している場合は禁煙に努めます。
喫煙は咳を悪化させるだけでなく、治療の効果を低下させる要因にもなります。
効果的な咳の方法
湿性咳嗽(痰を伴う咳)では、大きく咳払いして一度で痰を喀出するより、小さく咳き込んで痰を移動させてから喀出する方が楽な場合があります。
肺がんによる咳に対する治療
がんに対する治療
がんに対する治療(手術、化学療法、放射線療法)により腫瘍が縮小、または除去できれば、咳の症状も改善することがあります。
内視鏡治療
がんによる気管や主気管支など中枢気道の閉塞を解除するため、内視鏡治療が行われることがあります。
- レーザー治療
- 高周波治療
- アルゴンプラズマ凝固療法
- 凍結療法
- ステント留置
これらの治療は、気道症状の改善や喀血のコントロールを目的に行われます。
咳止めとして使用される薬剤
肺がんによる咳に対しては、様々な薬剤が使用されます。
咳止め薬は大きく分けて、中枢性鎮咳薬と末梢性鎮咳薬があります。
中枢性鎮咳薬(オピオイド)
延髄にある咳中枢を抑制し、咳を鎮める効果があります。
がんによる咳には、中枢性鎮咳薬の方が効果的とされています。
- コデイン(リン酸コデイン)
- モルヒネ
オピオイドは効果が高い一方で、依存性があり便秘になりやすく、呼吸抑制作用があるため、医師の慎重な管理のもとで使用されます。
中枢性鎮咳薬(非オピオイド)
- デキストロメトルファン(メジコン)
- チペピジン
- ペントキシベリン
- エブラジノン
- クロペラスチン
市販の咳止め薬にも非オピオイドの中枢性鎮咳薬が含まれていますが、有効成分の配合量が少なく、十分な効果を感じにくいことがあります。
新しい鎮咳薬
2022年1月から、8週間以上続く慢性咳嗽に対して、気道の迷走神経に作用する選択的P2X3受容体拮抗薬ゲーファピキサント(リフヌア)が使用可能になっています。
ただし、味覚障害の副作用に注意が必要です。
末梢性鎮咳薬
- クロモグリク酸ナトリウム
気管や気管支に作用する薬ですが、がんによる咳にはほとんど効果がないとされています。
去痰薬
痰の排出を助ける薬です。
- ブロムヘキシン
- L-カルボシステイン
- アンブロキソール
- フドステイン
去痰薬は、「気道粘液修復薬」と「気道分泌促進薬」の2種類に分類され、患者さんの痰の量や性状に応じて使い分けられます。
気管支拡張薬
- テオフィリン
- プロカテロール
- クレンブテロール
- サルブタモール
- ツロブテロール
- サルメテロール
- イプラトロピウム
- フルトロピウム
- オキシトロピウム
コルチコステロイド(ステロイド)
- プレドニゾロン(内服)
- ベタメタゾン(内服)
- フルチカゾン(吸入)
- ブデソニド(吸入)
- ベクロメタゾン(吸入)
消化性潰瘍治療薬
胃食道逆流症が咳の原因となっている場合に使用されます。
- ファモチジン
- ラニチジン
- シメチジン
- ランソプラゾール
- オメプラゾール
- ラベプラゾール
| 薬剤の種類 | 効果 | がんによる咳への効果 |
|---|---|---|
| 中枢性鎮咳薬(オピオイド) | 咳中枢を抑制 | 高い |
| 中枢性鎮咳薬(非オピオイド) | 咳中枢を抑制 | 中程度 |
| 末梢性鎮咳薬 | 気管・気管支に作用 | 低い |
咳が生活の質に与える影響
持続的な咳は、以下のような様々な問題を引き起こし、患者さんの生活の質(QOL)を低下させます。
- 食欲低下
- 頭痛
- 嘔吐
- 失神
- めまい
- 発汗
- 疲労
- 肋骨骨折
- 尿失禁
- 不眠
特に夜間の咳は、患者さん本人の不眠だけでなく、同居する家族にも影響を与えます。
咳の症状をコントロールすることは、患者さんと家族の生活の質を保つために重要です。
医療機関を受診すべき咳の症状
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
- 2週間以上咳が続く
- 咳が徐々に悪化している
- 血痰が出る
- 発熱が5日以上続く
- 息苦しさを伴う
- 胸の痛みを伴う
- 市販の咳止め薬を使っても改善しない
特に、放射線治療を受けた患者さんで、咳や微熱が長く続く場合は、放射線肺臓炎の可能性があるため、すぐに担当医に連絡してください。
通常、のどの痛みや鼻水などの症状は伴いません。
おわりに
肺がん患者さんの咳は、がん自体、治療、併存疾患など様々な原因で起こります。
咳の原因を正しく診断し、適切な治療や対策を行うことで、症状を軽減することができます。
咳は日常生活に大きな影響を与える症状ですが、医師と相談しながら、薬物療法や環境調整などの対策を組み合わせることで、生活の質を保っていきましょう。