
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん闘病中に「息苦しい」「呼吸が苦しい」「息切れ」といった症状が起きることがあります。このような呼吸困難の症状は、がん患者さんにとって身体的にも精神的にも負担が大きく、生活の質に影響を与える重要な問題です。
呼吸困難とは、呼吸をするときの不快な感覚のことを指します。肺がんの患者さんに多くみられますが、肺がん以外のがんでも起こることがあります。
この記事では、がん患者さんに起きる息苦しさや息切れの原因、医療機関で行われる治療法、そして日常生活でご自身やご家族ができるケアについて詳しく説明します。
最新の診療ガイドライン(2023年版)に基づく情報を含め、症状緩和のための選択肢を考える参考にしていただければと思います。
がん患者さんに呼吸困難が起きる仕組み
呼吸は、脳幹部にある呼吸中枢によってコントロールされています。外からの刺激が感覚受容器から呼吸中枢に伝わり、そこから肺や呼吸筋への指令が出されることで、呼吸の調整が行われます。
がんによってこの調整システムのどこかに支障が出ると、呼吸困難が生じる可能性があります。呼吸困難は主観的な症状であるため、血液中の酸素濃度が低下する「呼吸不全」という客観的な状態とは必ずしも一致しません。
血液検査で酸素濃度に問題がなくても、患者さん自身が息苦しさを感じている場合は、適切な対応が必要になります。
がん患者さんの息苦しさ・息切れの原因
呼吸困難の原因は多岐にわたります。原因によって治療法が異なるため、まず何が原因となっているかを医師が診断することが重要です。
がんそのものによるもの
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 原発性・転移性肺がんの増大 | 肺の組織ががんに置き換わることで、酸素を取り込む機能が低下します |
| 悪性胸水・心嚢水 | 肺の外側の空間や心臓の周りに水がたまり、肺が圧迫されます |
| がん性リンパ管症 | リンパ管経由でがん細胞が肺に広がり、肺の機能が低下します |
| 気道閉塞・狭窄 | がんが気道を塞いだり狭くしたりすることで、空気の通りが悪くなります |
| 上大静脈症候群 | 上大静脈の閉塞・狭窄により上半身がうっ血します |
| 腹水や便秘による横隔膜の挙上 | お腹が張ることで横隔膜が押し上げられ、肺が十分に膨らめなくなります |
| 気胸 | がんによって肺に穴が開き、肺がしぼんでしまう状態です |
| がんの進行に伴う全身症状 | 悪液質、発熱、貧血、倦怠感、痛みなどが呼吸困難につながります |
| 神経系への影響 | 脊髄や脳への転移により、呼吸筋の麻痺が起こることがあります |
治療によるもの
手術による影響
肺がんの手術で肺の一部を切除した場合、肺の容積が減少することで呼吸機能が低下し、息切れを感じやすくなることがあります。
化学療法(抗がん剤治療)による影響
・心毒性:一部の抗がん剤は心筋障害や心不全を引き起こし、呼吸困難の原因となることがあります
・薬剤性肺障害:細胞障害性抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などによって間質性肺炎が起きることがあります
・骨髄抑制:抗がん剤の副作用で貧血や感染症が起こり、呼吸困難につながることがあります
特に薬物療法中に痰がからまない乾いた咳が続く場合は、間質性肺炎の可能性があるため注意が必要です。間質性肺炎は早めに対処しないと症状が重くなる可能性があります。
放射線療法による影響
肺、食道、乳房などへの放射線照射後に、放射線肺臓炎(肺の間質に起きる炎症)が生じることがあります。放射線療法後、数週間から数ヶ月経ってから症状が現れることもあります。
また、放射線宿酔(だるさや吐き気)、倦怠感、消化管への照射による栄養障害なども間接的に呼吸困難の原因となる可能性があります。
その他の原因
・薬剤の副作用(オピオイドの過量投与など)
・精神的、心理的な刺激:パニック発作、不安、恐怖
・持病の影響:心不全、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など
・肺炎などの感染症
・誤嚥(食べ物や飲み物が気道に入ること)
医療機関で行われる呼吸困難の治療
呼吸困難の治療は、まず原因を特定することから始まります。問診や身体診察、必要に応じて血液検査、胸部レントゲン、CTスキャンなどの検査を行い、原因に応じた治療が選択されます。
原因に対する治療
| 原因 | 主な治療法 |
|---|---|
| 気道狭窄 | 放射線療法、レーザー治療、ステント留置、コルチコステロイド |
| がん性リンパ管症 | 化学療法、ホルモン療法、コルチコステロイド |
| 胸水、心嚢水 | ドレナージ(水を抜く処置)、胸膜癒着術 |
| 放射線肺臓炎 | コルチコステロイド |
| 感染症 | 抗菌薬、理学療法 |
| 心不全 | 利尿薬、強心薬 |
| 気管支攣縮 | 気管支拡張薬、コルチコステロイド |
| 肺内多発転移 | 予後や全身状態により集学的治療を検討 |
症状緩和のための薬物療法
2023年に改訂された「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン」では、がん患者さんの呼吸困難に対する薬物療法について以下の推奨が示されています。
モルヒネ
モルヒネは、がん患者さんの呼吸困難に対する第一選択薬として推奨されています。
モルヒネは呼吸困難そのものを改善するわけではありませんが、以下のような作用によって症状を緩和します:
・呼吸中枢の二酸化炭素に対する感受性を低下させる
・呼吸リズムを調整し、呼吸回数を減らす
・呼吸仕事量を軽減する
・抗不安効果
研究によると、呼吸困難に効果的なモルヒネの用量は比較的低用量(1日あたり10~20mg程度)であることが分かっています。疼痛に使用する場合より少ない量で効果が得られることが多いです。
モルヒネの副作用には、便秘、吐き気・嘔吐、眠気、呼吸抑制などがありますが、適切な用量で使用すれば、多くの場合安全に呼吸困難を緩和できます。
オキシコドン
モルヒネの使用が困難な場合(腎機能障害がある場合など)には、オキシコドンが代替薬として提案されています。
オキシコドンは主に肝臓で代謝されるため、腎機能が低下している患者さんでもモルヒネより安全に使用できる可能性があります。
小規模な研究では、オキシコドンもモルヒネと同程度の呼吸困難改善効果が示唆されています。
コルチコステロイド
肺に病変があるがん患者さんの呼吸困難に対して、コルチコステロイドの全身投与が提案されています。
主な効果:
・抗炎症作用
・がん周囲の浮腫(むくみ)を軽減
・がん性リンパ管症、上大静脈症候群などに有効
一般的にはデキサメタゾン(デカドロン)が1日4~8mg使用されます。効果がある場合は有効最小量まで減量して継続し、5~7日間投与しても効果がない場合は速やかに中止します。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系薬の単独投与は推奨されていませんが、オピオイドに併用することは提案されています。
不安を緩和することで呼吸困難の閾値を上げ、呼吸筋をリラックスさせる効果があります。
一般的には、アルプラゾラムやロラゼパムが頓用(症状が出たとき)で使用され、効果がある場合は定時投与も検討されます。
モルヒネとの併用時は、眠気や呼吸抑制に注意が必要です。
酸素療法
血液検査で低酸素血症(血液中の酸素濃度が低い状態)がある場合には、酸素療法が推奨されます。
鼻カニュラという鼻にあてる細いチューブや、口や鼻に密着させる酸素マスクなどを使って酸素を吸入します。
ただし、低酸素血症がない場合の酸素療法の効果は限定的であり、チューブ類の増加による負担も考慮する必要があります。
終末期における鎮静
あらゆる手段を用いても呼吸困難が軽減しない場合、終末期では鎮静の検討が必要な場合があります。
鎮静は、患者さんの苦痛が強く治療に抵抗性があり、死亡が数時間から数日以内に予測される場合で、患者さんの希望が明らかな場合に選択肢となります。
呼吸法と日常生活でできるケア
薬物療法に加えて、呼吸法の習得や環境調整、生活上の工夫によって、呼吸困難を軽減できる可能性があります。
呼吸法の習得
口すぼめ呼吸
気道内圧を上昇させ、呼吸回数を減少させることを目的とした呼吸法です。
方法:
1. 鼻からゆっくり息を吸います
2. 口をすぼめて(口笛を吹くような形)、ゆっくりと息を吐き出します
3. 吐く時間を吸う時間の2倍程度にします
腹式呼吸
1回の呼吸で取り込む空気の量を増やすことを目的とした呼吸法です。
方法:
1. 楽な姿勢で、お腹に手を当てます
2. 鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませます
3. 口からゆっくり息を吐き、お腹をへこませます
呼吸困難が起きたときは、「吸う」ことに意識が向きがちですが、「吐く」ことを意識することが効果的です。パニック状態になる前に、日頃から練習しておくことが大切です。
心地よさへの援助
顔面への送風
扇風機を用いた顔面への送風は、簡単で負担が少なく、爽快感につながります。
2018年の研究では、扇風機による顔面送風ががん終末期患者さんの呼吸困難を改善することが確認されています。
方法:
・やわらかい風が顔にあたるように扇風機を使用します
・うちわで扇ぐのも効果的です
・窓を開けて空気の流れを作ります
・室温は比較的低めに設定します
安楽な体位の工夫
・枕やクッションを使って、体を預けられるような工夫をします
・一般的に、上半身を起こした姿勢(ファーラー位)が呼吸しやすいとされています
・横向きの姿勢が楽な場合もあります
その他の心地よさの提供
・足浴、マッサージなど
・これらは不安の軽減、呼吸筋の緊張緩和、不眠の解消などが期待されます
生活における注意点
| 場面 | 工夫のポイント |
|---|---|
| 動作全般 | 呼吸に合わせて動作をゆっくり行います。息を吐きながら動作することを意識します |
| 日用品 | ペットボトルの開封や床に落ちた物を拾うなど、息を止める動作はできるだけ避けます。生活で使用するものは手元に置くなど、環境を整えます |
| 食事 | やわらかく飲み込みやすい食事を少量ずつ分割して摂取します。食事時の負担を避けます |
| 水分・食事後 | むせたり、咳・痰が多くなる場合は誤嚥の可能性があるため、すぐに医師や看護師に連絡します |
| 苦しいとき | 背中をさすります。孤独にしないようにします。ゆっくりと声をかけます |
| 禁煙 | 喫煙は呼吸機能をさらに低下させるため、確実に禁煙することが重要です |
心理的ケアの重要性
呼吸困難は、不安、不眠、痛みなどの心理的・身体的要因によって増強されます。逆に、親しい人の存在、安心感、気分転換などは症状を軽減する要因となります。
ご家族など周りの方による日常生活のサポートに加え、心理的なケアも重要です。
患者さんとのコミュニケーションでは:
・会話によって咳を誘発させないよう、簡潔にわかりやすく話します
・落ち着いた話し方を心がけます
・必要に応じて筆談を組み合わせるなど、患者さんの負担が少ない意思疎通の方法を考えます
放射線療法による呼吸困難への対応
原因
・肺、食道、乳房などへの放射線照射による放射線肺臓炎
・放射線宿酔、倦怠感
・消化管への照射による栄養障害
予防と対処
・禁煙を徹底します
・治療スケジュールを調整し、連日の照射による疲労を最小限にします
・放射線肺臓炎に対しては、対症療法としてコルチコステロイドが用いられることが多いです
・低酸素血症がある場合には酸素投与を行います
・食べやすく栄養価の高いものを、可能なタイミングで摂取します
・嚥下痛(飲み込むときの痛み)があるときは、食前に鎮痛薬の使用を検討します
・刺激物や硬いもの、熱いものは避けます
・水分摂取を心がけます
薬剤による呼吸困難への対応
オピオイド過量による呼吸困難
鎮痛薬であるオピオイドが過量となると、二酸化炭素に対する呼吸中枢の反応が低下し、呼吸回数が減少します。これにより換気が不十分となり、呼吸困難が生じる可能性があります。
ただし、通常は呼吸抑制時には意識も低下するため、患者さん自身が呼吸困難を感じることは少ないとされています。
モルヒネの場合は、腎機能低下によって活性代謝物(M6G)が蓄積することが原因となることがあります。
対処法
・酸素投与を行います
・患者さんの覚醒と呼吸を促します
・呼吸数が減少しているにもかかわらず、疼痛や呼吸困難が改善されない場合は、オピオイドの効果がない可能性があります
・その場合は、オピオイドの減量・中止を検討します
・重篤な場合には、オピオイド拮抗薬であるナロキソンを使用し、他の苦痛緩和の方法を検討します
便秘による呼吸困難
薬剤の副作用などによる便秘は、横隔膜を押し上げることで呼吸困難を引き起こすことがあります。また、排便時にいきむことでも呼吸困難が生じることがあります。
便秘の予防と早期の対処が重要です。
受診のタイミング
呼吸困難が急に起こった場合には、ただちに受診する必要があります。緊急度の高い病気が原因となっている可能性があり、一刻を争います。
ゆっくりと息が苦しくなってきた場合でも、がんによるものだけでなく、心不全や肺炎などさまざまな可能性が考えられるため、医師による診断と治療が必要です。
診察の際に医師に状況を伝えやすくするため、以下のような情報をメモしておくと良いでしょう:
・症状が現れた時期
・症状の頻度
・咳に痰がからむかどうか
・痰の色
・発熱や胸の痛みなど、他の症状の有無
・日常生活で支障が出たこと
まとめ
がん患者さんに起きる息苦しさや息切れの症状は、原因が多岐にわたり、身体的・心理的に大きな負担となります。
2023年に改訂された診療ガイドラインでは、薬物療法の順序が詳細に示され、モルヒネを中心としたオピオイド療法が第一選択として推奨されています。また、扇風機による顔面送風などの非薬物療法も、呼吸困難の緩和に効果があることが研究で確認されています。
呼吸困難の治療では、原因に対する治療と症状緩和のための治療を組み合わせることが重要です。また、呼吸法の習得や環境調整、生活上の工夫によって、ご自身やご家族でできるケアもあります。
症状や治療法について疑問がある場合は、遠慮なく医師や看護師に相談してください。適切な治療とケアによって、呼吸困難を緩和し、生活の質を改善できる可能性があります。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター がん情報サービス「呼吸困難・咳・痰」
https://ganjoho.jp/public/support/condition/dyspnea/index.html - 日本緩和医療学会 編「専門家をめざす人のための緩和医療学 改訂第3版」南江堂、2024年
- 日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会編「進行性疾患患者の呼吸困難の緩和に関する診療ガイドライン 2023年版 第3版」金原出版、2023年
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00804/ - 日本呼吸器学会 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 第3版作成委員会編「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版 2025」メディカルレビュー社、2025年
- 小野薬品「がんに伴う呼吸困難・息切れ、咳への対策」
https://p.ono-oncology.jp/care/symptom/08_dyspnea/01.html - 聖隷三方原病院 症状緩和ガイド「呼吸困難感(癌による不可逆性の場合)」
https://www.seirei.or.jp/mikatahara/doc_kanwa/contents3/25.html - 横浜市立市民病院「緩和ケアマニュアル統合版 2024年度Ver.」
https://yokohama-shiminhosp.jp/data/media/kanwa2024.pdf - Kako J, et al. Fan Therapy Is Effective in Relieving Dyspnea in Patients With Terminally Ill Cancer: A Parallel-Arm, Randomized Controlled Trial. J Pain Symptom Manage. 56: 493-500, 2018.
- 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、日本呼吸理学療法学会、日本呼吸器学会「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」2025年改訂版
- 日本緩和医療学会「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2018年版」

