がん闘病中の症状として「食べ物が飲み込めない」=嚥下障害(えんげしょうがい)が起きることがあります。
物理的に腫瘍が肥大することで食べ物が通過しにくい、というケースが多いですが、放射線治療による後遺障害が起きることもあります。
この記事では嚥下障害が何によって起きる可能性があるのか?原因や対処法はあるか?という点についてまとめたいと思います。
※嚥下障害とは?
食物を飲み込むことが困難となる症状で、多くの頭頸部がん患者さんが腫瘍またはがん治療による粘膜炎症状に起因して体験する症状です。「食事を楽しむ」ことができず、栄養維持が困難となって栄養障害を引き起こすだけでなく、「むせ」が生じると誤嚥性肺炎を誘発する可能性があります。
がん患者さんの嚥下障害の原因として考えられるもの
がん(腫瘍)によるもの
・食道がんや咽頭部のがんが原因で、物理的に食物通過の際につかえ感や通過障害を引き起こす。
放射線によるもの
・咽頭粘膜の障害:咽頭がん、上顎・下顎がん、口腔がん、鼻腔がんなど頭頸部がんの放射線療法で咽頭が照射範囲に入る場合に疼痛を伴い、食物の嚥下困難を引き起こす。
・食道粘膜の障害:食道がんおよび肺がんや脊椎腫瘍、縦隔のがんの治療で食道が照射範囲に入る場合に粘膜表面の浮腫、炎症、潰瘍が生じる。それによりつかえ感、通過障害を感じることになる。
・食道狭窄:放射線治療の後遺障害。治療後3か月~数年経過し、食道が狭くなったために引き起こされることがある。
放射線治療によって起きる嚥下障害の詳細と対処法
【嚥下障害が発生する理由】
・放射線による直接的な粘膜障害(浮腫、炎症、潰瘍)が主な原因となる。照射中は、20Gyくらいより咽頭粘膜・食道粘膜の炎症が起こり、つかえ感や嚥下時痛が出現する可能性が高くなる。
・治療後半になるにつれて症状が強くなり、鎮痛薬を必要とする場合もある。
・照射後3か月以降に出現する難治性の晩期有害事象がある。
・唾液腺障害などで唾液が減少すると、口腔での食物の噛み砕きが困難となり、食塊の送り込みの低下が生じる。
・咽頭粘膜の萎縮、食道の狭窄、嚥下機能に関連する筋肉や皮膚の拘縮や、舌根部の動きの低下なども通過障害や誤嚥を引き起こす原因となる。
嚥下障害に対する具体的なケア、対処の工夫
食事の工夫、栄養管理
・水分を多く含み、かつ刺激の少ない食品を選択する。
・食品はよく噛んでから嚥下する。
・唾液分泌減少による口腔乾燥がある場合は、常時口腔中を湿らせておき、食事摂取時にも水分を多く含む食物(粥など)を摂取できるよう工夫する。
・粘膜の痛みがある場合は嚥下機能を維持するためにゼリーやプリンなどのどごしのよいものを数回に分けて摂取する。
・食物のとおりをよくするために、食前にアルギン酸ナトリウム(アルロイドG9を使用する。
・嚥下障害が長期間持続する場合には、経管栄養について検討する。
・薬の内服時、カプセルや錠剤は咽頭や食道の通過に支障がある場合もあるため、服薬ゼリーなどを用いて服用できる形態(散剤など)に変える。
痛みの緩和
・アセトアミノフェン、NSAIDs、オピオイドなどが使われることが多い。
・食事摂取時、食物が通過する際の刺激による痛みを緩和するため、事前に鎮痛薬を使用することもある。
誤嚥防止
・水分を含んだ食物にトロミをつけるなど工夫する。
・特に硬い食物やアルコール、熱いものなどの刺激を避ける。
・治療後数年経過しても粘膜は傷つきやすいものと認識し、引き続き硬い食物やアルコール、熱いものなどの刺激を避け、注意しながら食事を摂る。
・交互嚥下(食物と、ゼリーや水分を交互に摂取し、食道内に残っている食物を胃の中に送り込む)や嚥下リハビリテーションなどの指導を専門医より受ける。
・放射線療法の晩期有害事象(後遺症)に対しては、狭窄した食道狭窄部の拡張を目的として食道ブジーなどが実施されることもある。