
はじめに
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの診断を受けた後、多くの患者さんが直面する不安の一つが治療費用です。手術が必要だと聞いて、「どのくらいの費用がかかるのだろう」「家計に負担をかけないだろうか」と心配される方は少なくありません。
この記事では、乳がん手術にかかる費用について、手術の種類ごとの詳細な金額、保険適応の範囲、高額療養費制度の活用方法まで、2026年の最新情報を交えながら詳しく解説していきます。
乳がん手術の種類と特徴
まず、乳がん手術の主な種類について理解しておきましょう。手術方法によって費用が異なるため、それぞれの特徴を知ることが重要です。
乳房温存術(乳房部分切除術)
乳房温存術は、がんとその周囲の正常組織を部分的に切除する手術です。がんから1~2cmほど離れた周囲を含めて切除しますが、乳房全体は残すことができます。
現在、日本では乳がん手術を受ける患者さんの約3分の2が乳房温存術を選択しています。がんの大きさが3cm以下で、広範囲に広がっていない場合に適応となることが多いです。
乳房温存術後は、原則として残った乳房組織に対して放射線治療を行います。これにより、温存した乳房内での再発リスクを減らすことができます。
乳房全切除術(胸筋温存乳房切除術)
乳房全切除術は、乳房全体を切除する手術です。がんが広範囲に広がっている場合や、複数の部位にがんが認められる場合に適応となります。
現在の標準的な手術方法は、大胸筋・小胸筋を温存する胸筋温存乳房切除術です。胸筋を残すため、胸部の変形が少なく、腕の運動障害も軽減されます。
乳房全切除術を受けた場合でも、乳房再建という選択肢があります。再建手術については、後ほど詳しく説明します。
リンパ節の手術
乳房の手術と同時に、わきの下(腋窩)のリンパ節に対する処置も行われます。
センチネルリンパ節生検は、最初に転移しやすいリンパ節(センチネルリンパ節)を調べる検査です。転移が認められない場合は、それ以上のリンパ節を取り除く必要がありません。
腋窩リンパ節郭清は、術前の検査でリンパ節への転移が認められた場合に行われます。わきの下のリンパ節を周囲の脂肪組織とともに切除する手術です。
乳がん手術にかかる基本的な費用
手術そのものの費用
乳がん手術は保険適応となる標準治療です。患者さんの自己負担は、通常3割です。
手術料金の目安は以下のとおりです。
| 手術の種類 | 3割負担の場合の手術料 |
|---|---|
| 乳房部分切除術(センチネルリンパ節生検含む) | 約8万8000円 |
| 胸筋温存乳房全切除術(腋窩郭清を伴う) | 約9万円 |
ただし、これは手術料のみの金額です。実際には、麻酔料、点滴などの薬剤費、検査費用などが加わるため、手術料の2~3倍程度の費用がかかります。
入院を含めた総費用
実際に入院して手術を受ける場合の総費用は、以下が目安となります。
| 手術内容 | 入院日数 | 3割負担の場合の総額 |
|---|---|---|
| 乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検 | 4~5日 | 約20万円前後 |
| 乳房部分切除術+腋窩リンパ節郭清 | 4~5日 | 約20~23万円 |
| 乳房全切除術+センチネルリンパ節生検 | 6~7日 | 約22万円前後 |
| 乳房全切除術+腋窩リンパ節郭清 | 6~7日 | 約25万円以上 |
これらの金額には、入院基本料、食事代、手術関連費用、検査費用、薬剤費などが含まれています。
ただし、実際の費用は医療機関によって異なります。また、個室を希望する場合の差額ベッド代は保険適応外となるため、別途負担が必要です。
術後の放射線治療にかかる費用
乳房温存術を受けた患者さんは、原則として術後に放射線治療を行います。
放射線治療の費用
| 照射回数 | 3割負担の場合の費用 |
|---|---|
| 1回目 | 約1万3000円 |
| 2回目以降(1回あたり) | 約4000円 |
| 標準的な25回照射の総額 | 約11万円 |
放射線治療は通常、1日1回、週5回のペースで約4~6週間かけて行います。退院後に外来で受けることが一般的です。
高額療養費制度の仕組みと活用方法
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、同一月(1日から末日まで)に医療機関等の窓口で支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合、超えた金額の払い戻しを受けられる制度です。
この制度により、乳がん手術のような高額な医療費がかかる場合でも、実際の負担額を一定の範囲内に抑えることができます。
2026年以降の高額療養費制度の変更
重要な情報として、高額療養費制度は2026年8月から段階的に変更される予定です。
2026年8月からは、自己負担限度額が一律約7%引き上げられます。さらに2027年8月には、所得区分がより細かく分けられ、所得に応じた負担額の調整が行われます。
一方で、長期療養が必要な患者さんへの配慮として、年間上限額の設定も検討されています。
所得区分別の自己負担限度額(2026年1月時点)
70歳未満の方の自己負担限度額は、以下のとおりです。
| 所得区分 | 1ヶ月の自己負担限度額 | 多数回該当(4回目以降) |
|---|---|---|
| 年収約1160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 140,100円 |
| 年収約770~1160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 93,000円 |
| 年収約370~770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 44,400円 |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 | 44,400円 |
| 住民税非課税 | 35,400円 | 24,600円 |
多数回該当とは、過去12ヶ月以内に3回以上、自己負担限度額に達した場合、4回目からは限度額が引き下げられる制度です。
実際の支払い例
年収約500万円(所得区分:年収約370~770万円)の患者さんが、入院・手術で医療費総額が100万円(3割負担で30万円)かかった場合を考えてみます。
自己負担限度額の計算:
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%=87,430円
実際に支払う金額は約8万7000円となり、残りの約21万3000円は払い戻しを受けられます。
限度額適用認定証の活用
事前に加入している健康保険に申請して「限度額適用認定証」を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。
この認定証があれば、高額な医療費を一時的に立て替える必要がなくなるため、経済的な負担が軽減されます。手術が決まったら、早めに手続きをすることをお勧めします。
乳房再建にかかる費用
乳房再建の保険適応
2013年7月から、人工乳房(シリコンインプラント)を用いた乳房再建も保険適応となりました。現在では、自家組織による再建も人工乳房による再建も、いずれも保険診療で受けることができます。
再建方法別の費用
| 再建方法 | 3割負担の場合の費用 | 特徴 |
|---|---|---|
| 人工乳房(インプラント)による再建 | 30~40万円程度 | 体への負担が比較的少ない。通常2回の手術が必要 |
| 自家組織(腹部や背部)による再建 | 30~60万円程度 | 自然な仕上がり。入院を伴う大手術となる |
高額療養費制度を利用すると、年収約370~770万円の方の場合、実際の月あたりの自己負担額は約9万円程度となります。
再建のタイミング
一次再建(同時再建)は、乳がんの手術と同時に乳房再建を開始する方法です。喪失感が少なく、心理的負担を軽減できます。
二次再建は、乳がん治療終了後、時間を置いて乳房再建を行う方法です。基本的に期間の制限はなく、過去に手術を受けた方も再建を検討できます。
ただし、術後に放射線治療を行った場合は、放射線治療終了後に再建を行うことになります。
その他の関連費用
術前・術後の検査費用
手術前には、画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、MRI、CT)、血液検査、心電図検査などが行われます。これらの検査費用も保険適応となり、総額で3割負担の場合、数万円程度かかります。
術後も定期的な検査が必要です。年1~2回の画像検査と血液検査で、年間2~5万円程度の費用がかかると考えておきましょう。
薬物療法の費用
乳がんのタイプによっては、術後にホルモン療法や抗がん剤治療、分子標的治療などの薬物療法が必要になることがあります。
ホルモン療法の場合、月額3000~5000円程度(3割負担)が一般的です。
抗がん剤治療や分子標的治療の費用は、使用する薬剤によって大きく異なります。高額な薬剤を使用する場合、高額療養費制度が重要な役割を果たします。
通院にかかる費用
手術後の通院費用(交通費)も考慮に入れる必要があります。これらは医療費控除の対象となる場合があります。
医療費控除の活用
1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定額を超える場合、確定申告で医療費控除を受けることができます。
医療費控除の対象となる金額は、以下のように計算されます。
(1年間の医療費総額-保険金等で補填される金額)-10万円(または所得の5%のいずれか少ない方)
医療費には、本人だけでなく、生計を一にする家族の医療費も含めることができます。
通院のための交通費(公共交通機関)も医療費に含まれますので、領収書は保管しておきましょう。
費用負担を軽減するための工夫
事前の準備
手術が決まったら、加入している健康保険に限度額適用認定証の発行を申請しましょう。これにより、窓口での一時的な高額支払いを避けることができます。
医療機関の医療相談室や医療ソーシャルワーカーに相談すると、利用できる制度について詳しく教えてもらえます。
医療費の記録管理
すべての医療費の領収書を保管しておきましょう。高額療養費制度の申請や医療費控除の確定申告に必要です。
家計簿やアプリを使って医療費を記録しておくと、年間の医療費を把握しやすくなります。
民間保険の確認
がん保険や医療保険に加入している場合は、保険会社に連絡して給付金の請求について確認しましょう。診断給付金、入院給付金、手術給付金などが支給される可能性があります。
乳房再建手術に対して特別な給付金が設定されている保険商品もあります。
費用に関する注意点
病院によって費用が異なる
この記事で示した金額は目安です。実際の費用は医療機関によって異なります。入院予定の病院で、事前におおよその費用を確認しておくことをお勧めします。
保険適応外の項目
以下は保険適応外となり、全額自己負担となります。
・個室を希望する場合の差額ベッド代
・先進医療の技術料
・乳房再建における脂肪注入法
・乳輪再建の医療用タトゥー(刺青)
・美容目的の処置
これらの費用が必要かどうかは、医師とよく相談して決めましょう。
治療が長期化する場合
術後の薬物療法が長期間必要になる場合、多数回該当制度を活用することで、4ヶ月目以降の負担を軽減できます。
年間上限額の設定も検討されているため、長期療養が必要な患者さんにとっては、今後さらに負担が軽減される可能性があります。
費用面での不安を抱える患者さんへ
乳がん治療には確かに費用がかかりますが、高額療養費制度をはじめとする様々な支援制度があります。
経済的な理由で治療を諦めたり、治療を遅らせたりすることは避けるべきです。治療のタイミングを逃すことで、病状が進行してしまう可能性があります。
費用面で不安がある場合は、遠慮せずに医療機関の相談窓口や医療ソーシャルワーカーに相談してください。状況に応じて、利用できる制度や支援について詳しく教えてもらえます。
また、自治体によっては、独自の医療費助成制度を設けている場合もあります。お住まいの市区町村の窓口に問い合わせてみることをお勧めします。
おわりに
乳がん手術にかかる費用について、手術の種類、保険適応、高額療養費制度の活用方法などを詳しく解説してきました。
実際の負担額は、所得や治療内容によって異なりますが、高額療養費制度を活用することで、月あたりの負担を一定額に抑えることができます。
2026年8月から高額療養費制度が変更される予定ですが、多数回該当制度や年間上限額の設定により、長期療養が必要な患者さんへの配慮も行われます。
参考文献・出典情報
乳がん.jp「乳がんの手術では、どれくらい費用がかかりますか?」
厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和7年1月23日)」
日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」
