
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
大腸がんは進行すると血液の流れに乗ってがん細胞が全身に広がり、肝臓や肺だけでなく骨にも転移することがあります。
大腸がんの骨転移は全体の5~10%程度の頻度で発生します。肝臓転移(60~70%)や肺転移(20~30%)と比較すると少ないものの、骨転移が起きると痛みや骨折などの症状により生活の質が低下する可能性があります。
大腸がんの骨転移について理解を深めることで、早期発見や適切な治療の選択につながります。
この記事では、骨転移が発生するメカニズム、どのような症状が現れるのか、診断のための検査方法、そして現在行われている治療法について詳しく説明します。
大腸がんの骨転移はどのくらいの確率で発生するのか
大腸がんの遠隔転移で最も多いのは肝臓転移で、診断時に約11%、手術後の再発として約7%の患者さんに認められます。次に多いのが肺転移で、診断時に約2.4%、手術後の再発として約5%です。
一方、大腸がんの骨転移は比較的頻度が低く、全体の5~10%程度で発生するとされています。これは乳がん、前立腺がん、肺がんなどの骨転移(約20~30%)と比べると少ない数字です。
大腸がんの場合、骨だけに転移しているケースはほとんどありません。骨転移が見つかった時には、すでに肝臓や肺など他の臓器にも転移していることが多く、病期はステージ4と診断されます。骨転移の好発部位は、骨盤、脊椎(背骨)、大腿骨などです。
大腸がんが骨に転移するメカニズム
大腸がん細胞が骨に転移すると、骨の正常な代謝バランスが崩れて骨破壊が進行します。このメカニズムを理解することは、治療法を選択する上で重要です。
骨の正常な代謝の仕組み
健康な骨は、骨を作る「骨芽細胞」と古い骨を壊す「破骨細胞」がバランスよく働くことで、常に新しく作り替えられています。この骨のリモデリング(骨代謝)により、骨の強度が保たれています。
がん細胞による骨破壊の悪循環
骨に転移したがん細胞は、PTHrP(副甲状腺ホルモン関連タンパク)という物質を分泌します。このPTHrPが骨芽細胞を刺激すると、RANKL(ランクル)という物質が発現します。RANKLは、破骨細胞になる前の前駆細胞の表面にあるRANK(ランク)という受容体に結合し、破骨細胞への分化を促進します。
増えた破骨細胞は骨を溶かしていきますが、このとき骨の中に蓄えられていたTGF-βやIGFなどの成長因子が放出されます。これらの成長因子ががん細胞の増殖をさらに活性化させ、がん細胞がより多くのPTHrPを分泌するという悪循環が生まれます。
この「がん細胞が破骨細胞を刺激→骨が溶ける→成長因子が放出される→がん細胞が増える」という悪循環を、骨転移の「vicious cycle(悪性サイクル)」と呼びます。
| プロセス | 詳細 |
|---|---|
| 1. がん細胞の骨転移 | 血流に乗ったがん細胞が骨に到達 |
| 2. PTHrPの分泌 | がん細胞がPTHrPを出して骨芽細胞を刺激 |
| 3. RANKLの発現 | 骨芽細胞がRANKLを産生 |
| 4. 破骨細胞の増加 | RANKLがRANKに結合し破骨細胞が増える |
| 5. 骨破壊と成長因子放出 | 破骨細胞が骨を溶かし、TGF-β・IGFが放出 |
| 6. がん細胞の増殖 | 成長因子ががん細胞を活性化し悪循環へ |
大腸がんの骨転移で現れる症状
主な症状は疼痛(痛み)
骨転移が進行した場合の最も一般的な症状は疼痛です。疼痛とは、ジンジンとうずくような持続的な痛みのことで、進行したがんに特有な症状の1つです。
骨転移で痛みを感じるのは、骨を覆っている骨膜や骨髄が入っている髄腔に痛みを感じる神経(痛点)が多く分布しているためです。最初は軽い痛みや違和感として始まることが多く、夜間や安静時にも痛みを感じるようになります。
病的骨折のリスク
骨転移が進行すると、がんに侵された骨の組織は破壊されてもろくなります。その結果、日常生活での軽い動作や転倒などで骨折を起こすことがあり、これを「病的骨折」と呼びます。特に脊椎や大腿骨(太ももの骨)での骨折は、歩行や日常生活に大きな影響を与えます。
脊椎転移による神経症状
脊椎に骨転移が起きた場合、転移した腫瘍が大きくなると脊髄や神経根を圧迫し、痛みだけでなく、しびれ、筋力低下、麻痺などの神経症状が現れることがあります。重症化すると下半身の麻痺や排尿・排便障害を引き起こす可能性もあります。
その他の症状
骨破壊が進むと、骨からカルシウムが血液中に過剰に溶け出し、高カルシウム血症を引き起こすことがあります。高カルシウム血症では、吐き気、嘔吐、便秘、意識障害などの症状が現れることがあります。
大腸がん骨転移の診断と検査方法
骨転移の診断には、症状の評価と画像検査、血液検査を組み合わせて行います。骨転移の位置、範囲、活動性を正確に評価することが、適切な治療計画を立てるために重要です。
骨シンチグラフィー
骨シンチグラフィーは、骨転移のスクリーニング検査として最もよく用いられる検査です。テクネシウムという放射性物質を静脈注射し、数時間後に全身の骨を撮影します。骨の代謝が活発な部位に放射性物質が集まるため、骨転移があるとその部分が黒く映ります。
全身の骨を一度に検査できる利点がありますが、骨折や骨の病気でも陽性になることがあり、偽陽性が出やすいという欠点もあります。また、早期の骨転移や骨梁間型の転移は検出しにくい場合があります。
CT検査
CT検査では、骨の構造を詳細に観察することができます。骨の破壊の程度や骨折のリスクを評価するのに適しており、造影剤を使用することで周囲の軟部組織への広がりも確認できます。骨シンチグラフィーで陽性となった部位の精密検査として行われることが多いです。
MRI検査
MRI検査は、脊髄などの神経組織も画像化できるため、脊椎転移による脊髄圧迫の評価に優れています。X線検査やCT検査では発見できない小さな骨転移も検出できる可能性があります。特に脊椎転移が疑われる場合には重要な検査です。
PET-CT検査
PET-CT検査は、がん細胞がブドウ糖を多く取り込む性質を利用した検査です。骨転移だけでなく、全身の転移を一度に検索できます。PET-CT検査は、溶骨性(骨が溶ける)の骨転移の診断に特に有用とされています。ただし、骨シンチグラフィーより偽陽性が少ないものの、小さな病変は見逃す可能性があります。
血液検査
血液検査では、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)や、骨代謝マーカー(ALP、カルシウム値など)を測定します。これらの値の上昇は骨転移の可能性を示唆しますが、確定診断には画像検査が必要です。
| 検査方法 | 特徴 | 適している場面 |
|---|---|---|
| 骨シンチグラフィー | 全身の骨を一度に検査できる 感度が高いが偽陽性もある |
骨転移のスクリーニング検査 |
| CT検査 | 骨の構造を詳細に観察 骨破壊の程度評価に優れる |
骨折リスクの評価 治療計画の立案 |
| MRI検査 | 神経組織も画像化できる 小さな病変も検出可能 |
脊椎転移の評価 脊髄圧迫の確認 |
| PET-CT検査 | 全身の転移を検索 溶骨性転移の検出に優れる |
全身の転移状況の評価 再発の検索 |
| 血液検査 | 腫瘍マーカーや骨代謝マーカーを測定 | 経過観察 治療効果の判定 |
大腸がん骨転移の治療法
大腸がんの骨転移に対する治療は、痛みの緩和、骨折の予防、生活の質の維持を主な目的として行われます。骨だけに転移しているケースはほとんどなく、他の臓器にも転移していることが多いため、全身化学療法と骨転移に対する治療を組み合わせて行います。
全身化学療法
大腸がんの骨転移がある場合でも、がん細胞を抑える全身化学療法が治療の中心となります。抗がん剤や分子標的薬がよく効いた場合、骨転移巣も小さくなることが期待されます。骨転移に対する治療は、この全身化学療法と並行して行われます。
骨修飾薬(骨吸収抑制薬)による治療
骨転移に対しては、骨の破壊を防ぐ働きがある「骨修飾薬」を使用します。骨修飾薬には、ビスホスホネート製剤と抗RANKL抗体製剤の2種類があります。
ビスホスホネート製剤:ゾメタ(一般名:ゾレドロン酸)
ゾメタは骨表面に吸着し、破骨細胞に取り込まれることで、破骨細胞の働きを抑える薬です。静脈点滴で4週間に1回投与します。点滴には約30分かかります。
腎機能障害がある患者さんでは副作用のリスクが高まるため、使用に注意が必要です。主な副作用として、腎機能障害、低カルシウム血症、顎骨壊死などがあります。
抗RANKL抗体製剤:ランマーク(一般名:デノスマブ)
ランマークは、骨破壊の悪循環の鍵となるRANKLに特異的に結合し、破骨細胞の活性化を抑える薬です。皮下注射で4週間に1回120mgを投与します。
2025年2月時点での薬価は1瓶(120mg)あたり約44,000円です。ゾメタと比較した臨床試験では、骨関連事象が起こるまでの期間がランマークで20か月、ゾメタで17か月と、ランマークのほうがやや効果が高いという結果が報告されています。
主な副作用として、低カルシウム血症、顎骨壊死、関節痛などがあります。低カルシウム血症を予防するため、カルシウム(500mg以上)とビタミンD(400IU以上)の補充が必要です。顎骨壊死のリスクを減らすため、治療開始前に歯科受診し、口腔内の状態を整えておくことが推奨されます。
放射線治療
骨転移に対する放射線治療は、痛みを和らげる効果が高く、80~90%程度の患者さんで痛みの緩和が得られるとされています。
通常の放射線治療
一般的には30~40Gy(グレイ)程度の放射線を、骨転移のある部分に2~4週程度かけて照射します。多くの場合は通院で治療できます。痛みに対する緩和効果は、腫瘍が小さくならなくても観察されることから、骨破壊や骨形成の反応を放射線が抑えることで、痛みを誘発する物質の産生を止めることが理由と考えられています。
体幹部定位放射線治療(SBRT)
近年、骨転移に対して体幹部定位放射線治療(SBRT)という高精度な放射線治療が行われるようになってきました。SBRTは、病巣に対して多方向から放射線を集中させ、大線量を少ない回数で照射する方法です。
脊椎の骨転移に対しては、脊髄という重要な神経を避けながら腫瘍に高線量を投与できるため、治療した部位では80~90%という高い確率で制御できると報告されています。治療回数は2~5回程度で、脊椎では12Gy×2回(計24Gy)や20Gy×1回、脊椎以外では7Gy×5回(計35Gy)などの照射が行われます。
ただし、SBRTは原則として原発のがんや他の転移が治療によって制御され、1~2か所(場合によっては3か所まで)の骨転移がある患者さんにのみ適応されます。
整形外科的治療(手術)
病的骨折を起こした場合や、骨折の危険性が高い場合には、整形外科的な手術が検討されます。特に、腕や太ももの骨(大腿骨)に病的骨折が発生した場合は、痛みが強いため、できる限り手術を行います。
手術は体に大きな負担をかける治療なので、手術によるメリットが手術のリスクを明らかに上回る場合にのみ行われます。
疼痛管理
骨転移は痛みが起こりやすいため、適切な疼痛管理が重要です。痛みの程度に応じて、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、弱オピオイド(トラマドールなど)、強オピオイド(モルヒネ、フェンタニルなど)を使い分けます。
痛みをしっかりコントロールすることで、日常生活の質を保ち、リハビリテーションや他の治療を継続することができます。
| 治療法 | 目的・効果 | 特徴 |
|---|---|---|
| 全身化学療法 | がん細胞の増殖を抑える | 抗がん剤・分子標的薬を使用 治療の中心となる |
| ゾメタ (ビスホスホネート) |
破骨細胞の働きを抑える 骨の溶解を抑制 |
静脈点滴で4週に1回投与 腎機能に注意が必要 |
| ランマーク (抗RANKL抗体) |
破骨細胞の形成を抑制 骨破壊を防ぐ |
皮下注射で4週に1回投与 カルシウム・ビタミンD補充必要 |
| 通常の放射線治療 | 痛みの緩和 骨折の予防 |
30~40Gyを2~4週で照射 痛み緩和率80~90% |
| 定位放射線治療 (SBRT) |
高い局所制御効果 | 2~5回の少数回照射 1~3か所の転移に適応 |
| 整形外科的手術 | 骨折の治療・予防 | 病的骨折や骨折リスクが高い場合に実施 |
| 疼痛管理 | 痛みのコントロール | NSAIDs、オピオイドなどを使用 生活の質の維持に重要 |
骨転移と診断されたら
骨転移と診断されると、不安や心配が大きくなるのは当然のことです。しかし、現在では骨転移に対する治療法が進歩しており、適切な治療により痛みを和らげ、骨折を予防し、生活の質を保つことが可能になっています。
治療の選択肢は一人一人の状況によって異なります。全身状態、他の臓器への転移の有無、骨転移の部位や程度、これまでの治療歴などを総合的に考慮して、主治医とよく相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。
また、骨転移がある場合には、骨折予防のために日常生活での注意も必要です。転倒を避けるため、自宅内の段差をなくす、滑りにくい履物を選ぶ、必要に応じて杖や歩行器を使用するなどの工夫が役立ちます。
痛みがある場合は我慢せず、早めに主治医に相談しましょう。
出典・参考文献
国立がん研究センター がん情報サービス 大腸がん(結腸がん・直腸がん)治療

