
放射線治療を検討する際に知っておきたい「感受性」とは
がんの治療法を検討する際、「このがんには放射線治療が効果的です」あるいは「このタイプには放射線はあまり効きません」という説明を受けることがあります。
同じ放射線治療という方法なのに、なぜがんの種類によって効果に差が出るのでしょうか。その理由を理解するために重要なのが「放射線感受性」という概念です。
放射線感受性とは、組織や臓器に同じ量の放射線を照射した場合に、生物学的な効果がどれだけ現れるかを示す指標です。感受性が高い組織やがんでは、少ない線量でも細胞に影響が出やすく、逆に感受性が低い場合は同じ線量を照射しても効果が限定的になります。
この記事では、放射線感受性の基本的な仕組みと、がんの種類による効果の違いについて整理していきます。放射線治療を「受けるべきか」「効果が期待できるのか」を判断するための基礎知識として参考にしてください。
放射線感受性の基本原理
細胞の特性と放射線の効きやすさの関係
放射線感受性には、細胞の特性が深く関係しています。1906年にフランスの研究者ベルゴニーとトリボンドーが提唱した法則によれば、次のような細胞ほど放射線の影響を受けやすいとされています。
- 細胞分裂が盛んな細胞
- 組織の再生能力が活発な細胞
- 形態的・機能的に未分化な細胞
つまり、活発に増殖している細胞や、まだ特定の役割に分化していない若い細胞ほど、放射線によるダメージを受けやすいということです。これは、放射線が主にDNAを傷つけることで細胞を死滅させるため、DNA複製が頻繁に行われる分裂期の細胞がより影響を受けやすいという仕組みによるものです。
正常組織における感受性の違い
正常な組織においても、放射線感受性には明確な違いがあります。
| 感受性 | 組織・臓器 | 特徴 |
|---|---|---|
| 高い | リンパ組織、骨髄、生殖器(卵巣・精巣)、消化管粘膜、水晶体、唾液腺 | 細胞分裂が活発、または特に放射線の影響を受けやすい |
| 中程度 | 皮膚、血管内皮、軟骨 | 再生能力はあるが、分裂頻度は中程度 |
| 低い | 神経細胞、神経繊維、骨組織、筋肉、結合組織 | ほとんど分裂しない、成熟した細胞 |
この違いは、放射線治療の計画において重要な意味を持ちます。感受性が高い正常組織が照射範囲に含まれる場合、副作用のリスクが高まるため、線量の調整や照射方法の工夫が必要になります。
法則の例外について
ベルゴニー・トリボンドーの法則は放射線感受性を理解する上で有用ですが、完全に当てはまるわけではありません。
例えば、卵母細胞やリンパ球はほとんど分裂しない状態にあるにもかかわらず、放射線感受性が高いことが知られています。これは、これらの細胞が放射線によるDNA損傷に対して修復機能が弱いことや、細胞死のメカニズムが異なることなどが関係していると考えられています。
したがって、この法則は絶対的な基準ではなく、あくまで放射線感受性を予測する際の目安として用いられています。
がん組織における放射線感受性
がん細胞の特性と感受性
がん細胞は、正常細胞と比べて一般的に細胞分裂が盛んです。そのため、基本的には放射線の効果が現れやすいと考えられます。
しかし実際には、がんの種類によって放射線感受性には大きな差があります。これは、がん細胞の分化度、増殖速度、DNA修復能力、酸素状態など、様々な要因が複雑に関わっているためです。
臨床の現場では「○○がんは放射線感受性が高い」「△△がんには放射線治療が効きにくい」という表現が頻繁に使われます。これは、過去の治療経験や臨床データの蓄積から、がんの種類ごとの治療効果の傾向が明らかになっているためです。
放射線感受性が高いとされるがん
以下のようながんは、比較的放射線感受性が高く、放射線治療が有効な選択肢となることが多いです。
| がんの種類 | 感受性の程度 | 放射線治療の位置づけ |
|---|---|---|
| 悪性リンパ腫 | 高い | 標準的な治療法の一つ。早期では根治も期待できる |
| 精上皮腫(セミノーマ) | 高い | 早期では放射線治療が主要な選択肢 |
| 小細胞肺がん | 比較的高い | 化学療法との併用が標準的 |
| 頭頸部がん(咽頭がん、喉頭がんなど) | 比較的高い | 臓器温存を目的とした治療で重要 |
| 子宮頸がん | 比較的高い | 進行度に応じて単独または化学療法との併用 |
これらのがんでは、放射線治療単独、または化学療法との併用によって、腫瘍の縮小や根治が期待できるケースが多くあります。
放射線感受性が低いとされるがん
一方、以下のようながんは放射線感受性が比較的低く、放射線治療が第一選択にならないことが多いです。
| がんの種類 | 感受性の程度 | 放射線治療の位置づけ |
|---|---|---|
| 悪性黒色腫(メラノーマ) | 低い | 限定的。症状緩和や脳転移に対して使用されることがある |
| 腎細胞がん | 低い | 手術が第一選択。転移病変の症状緩和に使用 |
| 肉腫(骨肉腫など) | 低い | 補助的な役割。手術が困難な場合に検討 |
| 膵臓がん | 低い~中程度 | 手術が困難な場合の局所制御や化学療法との併用 |
ただし、「放射線感受性が低い」ことは「放射線治療が全く意味がない」ということではありません。がんの進行度、場所、患者さんの状態によっては、症状緩和や局所制御を目的として放射線治療が有効な場合もあります。
放射線治療のメリットとデメリット
放射線治療の主なメリット
放射線治療には、他の治療法にはない利点があります。
まず、臓器の形態と機能を温存できることが挙げられます。特に喉頭がんや前立腺がんなどでは、手術と同等の治療効果を得ながら、発声機能や排尿機能を維持できる可能性があります。
また、体への負担が比較的少ないため、高齢の患者さんや他の疾患を持つ患者さんでも実施できる場合があります。入院が不要な通院治療で完結することも多く、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
さらに、手術が困難な部位や、複数の病変がある場合にも対応可能です。脳転移や骨転移による痛みの緩和にも効果を発揮します。
放射線治療の主なデメリット
一方で、放射線治療にはいくつかの制約もあります。
治療効果が現れるまでに時間がかかることが多く、数週間から数ヶ月単位での経過観察が必要です。手術のように組織を取り除くわけではないため、効果判定には画像検査や腫瘍マーカーの推移を見る必要があります。
照射範囲に含まれる正常組織への影響も避けられません。急性期の副作用として、皮膚炎、粘膜炎、倦怠感などが現れることがあります。また、治療後数ヶ月から数年経ってから現れる晩期合併症のリスクもあります。
同じ部位への再照射には制限があるため、再発した場合に再び放射線治療を行うことが難しい場合があります。
放射線治療の効果を左右する要因
腫瘍の酸素状態
放射線の効果は、腫瘍内の酸素濃度に左右されます。酸素が豊富な環境では、放射線によって生成されるフリーラジカルが効率的にDNAを傷つけるため、治療効果が高まります。
しかし、がん組織の中心部は血流が乏しく、低酸素状態になっていることがあります。このような領域のがん細胞は、放射線に対する抵抗性が高くなります。
最近では、この問題を克服するために、高圧酸素療法との併用や、低酸素細胞に特異的に作用する薬剤の開発などが研究されています。
細胞周期と分裂速度
細胞周期の中でも、特にDNA合成期やM期(分裂期)にある細胞は放射線感受性が高いとされています。
がん細胞の増殖速度が速いほど、これらの感受性の高い時期にある細胞の割合が多くなるため、理論的には放射線治療の効果が高まります。ただし、増殖速度だけで感受性が決まるわけではなく、DNA修復能力など他の要因も関わります。
DNA修復能力
放射線によってDNAが損傷を受けても、細胞には損傷を修復する機能があります。がん細胞の中には、この修復能力が高いものがあり、そのようながんでは放射線治療の効果が限定的になることがあります。
逆に、DNA修復能力が低いがん細胞は放射線に対して脆弱であり、治療効果が現れやすくなります。
部位別の放射線治療の適応と効果
頭頸部がん
喉頭がん、咽頭がん、舌がんなどの頭頸部がんでは、放射線治療が重要な役割を果たします。特に早期の喉頭がんでは、放射線治療によって発声機能を温存しながら根治を目指すことができます。
進行例では、化学療法との併用(化学放射線療法)が標準的な治療となります。手術に比べて臓器機能を保つことができるため、生活の質を重視する選択肢として位置づけられています。
肺がん
小細胞肺がんは放射線感受性が比較的高く、化学療法との併用が標準的です。限局型の小細胞肺がんでは、化学放射線療法によって根治を目指すことが可能です。
非小細胞肺がんでは、手術が困難な早期がんに対して定位放射線治療(ピンポイント照射)が有効です。また、局所進行がんでは化学療法との併用が行われます。
消化器がん
食道がんでは、化学放射線療法が標準的な治療選択肢の一つです。手術と比較して臓器を温存できるメリットがあります。
直腸がんでは、手術前に放射線治療を行うことで腫瘍を縮小させ、肛門温存の可能性を高めることができます。
一方、胃がんや結腸がんでは、放射線治療が標準的に用いられることは少なく、主に術後の再発予防や症状緩和の目的で検討されます。
泌尿器・生殖器がん
前立腺がんでは、放射線治療が手術と並ぶ根治的治療の選択肢です。外照射と組織内照射(小線源治療)があり、病期やリスク分類に応じて選択されます。
子宮頸がんでは、早期から進行期まで幅広く放射線治療が用いられます。特に局所進行がんでは、化学放射線療法が標準的な治療です。
膀胱がんでは、膀胱温存を目的として化学放射線療法が選択されることがあります。
乳がん
乳がんでは、乳房温存手術後の再発予防として放射線治療が標準的に行われます。局所再発のリスクを低下させる効果が証明されています。
また、骨転移による痛みの緩和や、脳転移に対する治療としても効果的です。
脳腫瘍・転移性脳腫瘍
脳腫瘍の中でも、膠芽腫などの悪性神経膠腫では、手術後の補助療法として放射線治療が必須です。
転移性脳腫瘍に対しては、定位放射線治療(ガンマナイフやサイバーナイフなど)が効果的で、個数が限られた転移巣であれば高い局所制御率が期待できます。
放射線治療を「しないほうがよい」と判断される場合
感受性が極めて低い場合
腎細胞がんや悪性黒色腫のように放射線感受性が低いがんでは、他の治療法が優先されます。ただし、転移病変による症状緩和などの目的では使用されることがあります。
全身状態が不良な場合
患者さんの全身状態が著しく低下している場合、治療に伴う負担が利益を上回る可能性があります。このような場合は、緩和ケアに重点を置いた対応が選択されることがあります。
過去に同部位への照射歴がある場合
同じ部位に対して既に放射線治療を受けたことがある場合、正常組織の耐容線量を超えるリスクがあるため、再照射が困難なことがあります。
急速な治療効果が必要な場合
がんが急速に増大し、生命に関わる状況が差し迫っている場合、効果が現れるまでに時間がかかる放射線治療よりも、手術や全身化学療法が優先されることがあります。
放射線治療の選択にあたって考えるべきこと
治療目的の明確化
放射線治療を検討する際は、その目的を明確にすることが重要です。根治を目指すのか、症状緩和が目的なのか、あるいは再発予防なのかによって、治療計画や期待される効果が異なります。
他の治療法との比較
放射線治療だけでなく、手術や薬物療法など、複数の選択肢がある場合は、それぞれのメリット・デメリットを比較検討することが必要です。治療効果、副作用、生活の質への影響、治療期間など、様々な観点から総合的に判断します。
施設の設備と専門性
放射線治療の効果は、使用する機器の精度や、治療計画の質に左右されます。高精度な治療を提供できる施設を選ぶことも、治療成績に影響する要因の一つです。
治療後の生活への影響
放射線治療は通常、数週間にわたって毎日通院する必要があります。自宅からの距離、治療にかかる時間、仕事や家庭生活との両立など、実際的な面も考慮に入れる必要があります。
まとめとして
放射線感受性は、がんに対する放射線治療の効果を予測する重要な指標ですが、絶対的なものではありません。同じ種類のがんでも、個々の腫瘍の特性や患者さんの状態によって、実際の治療効果は異なります。
「放射線治療が効く」「効かない」という判断は、がんの種類、病期、場所、患者さんの状態、治療の目的など、多くの要因を総合的に評価した上で行われます。感受性が低いとされるがんでも、特定の状況では有効な選択肢となることがあります。
放射線治療を検討する際は、主治医や放射線治療医から十分な説明を受け、治療の目的、期待される効果、起こりうる副作用について理解した上で、自分にとって最適な選択をすることが大切です。

