
アファチニブ(ジオトリフ)とはどんな薬か
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
アファチニブ(商品名:ジオトリフ)は、EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんに対する分子標的薬です。一般名をアファチニブマレイン酸塩といい、錠剤として口から服用する経口薬として使用されます。
がん細胞の表面には、細胞の増殖を促すEGFR(上皮成長因子受容体)というタンパク質があります。非小細胞肺がんの患者さんの一部では、このEGFR遺伝子に変異が起きることで、がん細胞が無秩序に増殖し続けてしまいます。
アファチニブは、EGFR(ErbB1)だけでなく、HER2(ErbB2)やHER4(ErbB4)といった関連する受容体のチロシンキナーゼ活性を不可逆的に阻害します。「不可逆的」という点が特徴で、一度結合すると離れないため、がん細胞への増殖シグナルを持続的に遮断できます。
同じEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるイレッサ(ゲフィチニブ)やタルセバ(エルロチニブ)が可逆的に阻害する第一世代であるのに対し、アファチニブは第二世代の分子標的薬と位置づけられています。
対象となるがんの種類
アファチニブが保険適応となるのは、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がんです。
特にエクソン19欠失変異やエクソン21のL858R点突然変異を有する患者さんに対して効果が高いことが臨床試験で確認されています。これらの遺伝子変異を持つ患者さんでは、がん細胞の増殖にEGFRシグナルが重要な役割を果たしているため、アファチニブによる阻害が効果的に作用します。
進行期(ステージIIIBまたはIV)または転移性の非小細胞肺がん患者さんが主な対象となります。早期のステージでは手術や放射線療法が主な治療選択肢となるため、アファチニブの使用は限定的です。
重要な点として、アファチニブを使用する際には事前にEGFR遺伝子変異検査を実施することが必須です。遺伝子変異が確認された場合に限り保険適用となります。
アファチニブの効果と奏効率
臨床試験で示された治療効果
国際共同第III相臨床試験(LUX-Lung 3試験)では、化学療法未治療のEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん患者さん345例を対象に、アファチニブと標準化学療法(ペメトレキセド+シスプラチン)の効果が比較されました。
主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の中央値は、アファチニブ群で11.1ヶ月、化学療法群で6.9ヶ月でした。アファチニブはハザード比0.58で化学療法と比較して有意にPFSを延長させることが示されました。
また、LUX-Lung 6試験などの複数の臨床試験においても、アファチニブの有効性が確認されています。特にエクソン19欠失変異を有する患者さんでは、より顕著な効果が観察されています。
他のEGFR阻害薬との比較
一般的な傾向として、効果はイレッサ<タルセバ<アファチニブの順で期待できるとされています。ただし、副作用の強さも同様の順序で強くなる傾向があるため、患者さんの全身状態や耐容性を考慮して薬剤を選択する必要があります。
アファチニブは不可逆的な阻害作用を示すため、可逆的阻害薬であるイレッサやタルセバと比較して、より持続的な腫瘍増殖抑制効果が期待できます。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与方法
通常、成人にはアファチニブとして1日1回40mgを空腹時に経口投与します。患者さんの状態により適宜増減しますが、1日1回50mgまで増量できます。
空腹時の服用が重要です。食事の1時間以上前または食後3時間以降に服用する必要があります。食後に服用すると、最高血中濃度(Cmax)および体内の薬物量(AUC)が低下することが報告されています。
毎日同じ時間に服用することで飲み忘れを防ぐことができます。
飲み忘れた場合の対応
| 状況 | 対応方法 |
|---|---|
| 次の服用時間まで8時間以内 | その回は飛ばして、次の決められた時間に服用 |
| 次の服用時間まで8時間以上あるが、3時間以内に食事をとった | その回は飛ばして、次の決められた時間に服用 |
| 次の服用時間まで8時間以上あり、3時間以内に食事をとっていない | ただちに定められた服用量を服用し、食事は1時間経ってから摂る |
投与量の調整
副作用が発現した場合は、症状の重症度に応じて休薬、減量、または中止を検討します。
グレード1または軽度のグレード2の副作用では同一投与量を継続できます。グレード2の副作用が持続する場合(48時間を超える下痢または7日間を超える皮膚障害)や、グレード3以上の副作用が出現した場合は、症状がグレード1以下に回復するまで休薬し、回復後は休薬前の投与量から10mg減量して再開します。
1日1回40mgで3週間以上投与し、グレード2以上の副作用が認められない場合は、1日1回50mgに増量することもできます。ただし、一旦減量した後は増量を行いません。
主な副作用とその特徴
重大な副作用
アファチニブで特に注意が必要な重大な副作用には以下があります。
間質性肺疾患(発現頻度1.3%)は、間質性肺炎、肺浸潤、肺臓炎、急性呼吸窮迫症候群などを含み、死亡に至った症例も報告されています。息切れ、呼吸困難、乾性咳嗽、発熱などの症状が現れた場合は、急性肺障害や間質性肺炎の可能性があるため、すみやかに医療者に報告する必要があります。
重度の下痢(14.4%)も重要な副作用です。下痢に伴って脱水症状をきたし、急性腎不全に至った症例も報告されています。止瀉薬を常に携帯し、下痢発現時にはただちに服用することが推奨されます。水分摂取の必要性について理解しておくことも重要です。
重度の皮膚障害(16.6%)として、発疹やざ瘡(にきび様の皮疹)などが現れることがあります。全身性発疹、斑状丘疹性皮疹、紅斑性皮疹、爪囲炎、皮膚乾燥などが含まれます。
その他、肝不全や肝機能障害(2.2%)、心障害(0.4%)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、消化管潰瘍、消化管出血なども報告されています。
その他の注意が必要な副作用
| 症状の種類 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 皮膚症状 | 皮膚乾燥、掻痒症、爪囲炎 |
| 消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢、口内炎、口唇炎、食欲減退 |
| 感覚器症状 | 味覚異常、結膜炎 |
| その他 | 鼻出血 |
これらの副作用の多くは、支持療法や休薬、減量により管理可能です。副作用の症状や程度には個人差があるため、自己判断で服用を中止せず、必ず医師に相談することが大切です。
日常生活への影響と注意点
服用時の生活上の注意
アファチニブは湿気と光に不安定なため、保管方法に注意が必要です。未使用時はアルミピロー包装のまま保存し、開封後は湿気と光を避けて保存します。包装から出さず、PTPシートのまま保管することが推奨されています。
食事との関係では、食前1時間から食後3時間の服用を避ける必要があります。このため、1日の生活リズムの中で服用のタイミングを決めておくことが重要です。例えば、朝食前や就寝前など、毎日同じ時間に服用することで飲み忘れを防げます。
併用注意の薬剤と食品
P-糖タンパクに関与する薬剤や食品との併用には注意が必要です。特定の薬剤との併用により、アファチニブの血中濃度が変化する可能性があります。
リファンピシンやセイヨウオトギリソウを含む製品を併用すると、アファチニブの効果が弱まることがあります。一方、同じ肺がん治療薬であるエルロチニブと異なり、アファチニブは胃の酸の影響をあまり受けないため、胃薬との飲み合わせについては比較的心配が少ないとされています。
下痢への対処
下痢は最も頻度の高い副作用の一つであるため、日常的な対策が重要です。普段の排便状況を確認しておき、排便回数に変化があれば早めに医療者に報告します。
下痢が重篤化し脱水を引き起こすことがないよう、十分な水分摂取を心がける必要があります。止瀉薬(ロペラミドなど)を常に携帯し、下痢が始まったらすみやかに服用することが推奨されます。
皮膚症状への対応
皮膚の乾燥や発疹が現れた場合は、保湿剤の使用や適切なスキンケアが有効です。症状が重度の場合は、必要に応じて皮膚科を受診するよう医師から指導されることがあります。
保険適応と遺伝子検査
アファチニブの保険適応を受けるためには、事前にEGFR遺伝子変異検査を実施することが必須です。特定の遺伝子変異(EGFR遺伝子変異)が認められた場合に限り、公的医療保険が適用されます。
EGFR遺伝子変異が確認された患者さんであれば、最初の治療(一次治療)からアファチニブを使用することも認められています。
EGFR遺伝子変異不明例の扱いについては、日本肺癌学会の「肺癌診療ガイドライン」などの最新情報を参考に判断されます。
なお、アファチニブの術後補助化学療法における有効性および安全性は確立していないため、手術後の再発予防目的での使用は保険適応外となります。
費用と自己負担額
薬価(2024年時点)
| 製剤規格 | 薬価(1錠あたり) |
|---|---|
| ジオトリフ錠20mg | 4,346.7円 |
| ジオトリフ錠30mg | 6,352.3円 |
| ジオトリフ錠40mg | 8,367.6円 |
標準的な投与量である40mgを1日1回服用した場合、1週間で約58,000円(8,367.6円×7日)、1ヶ月(30日)で約25万円の薬剤費がかかります。
ただし、実際の患者さんの自己負担額は、健康保険の適用により薬剤費の3割(70歳未満の場合)となります。さらに、高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額を大幅に軽減することができます。
高額療養費制度の活用
アファチニブは高額な薬剤のため、高額療養費制度の利用が重要です。この制度を利用すると、医療費の自己負担額が一定の上限額を超えた場合、その超えた金額が払い戻されます。
自己負担限度額は年齢や所得に応じて異なります。70歳未満の方の場合、以下のような上限額が設定されています。
| 所得区分 | 自己負担限度額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770万円~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370万円~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 57,600円 |
| 住民税非課税世帯 | 35,400円 |
例えば、年収600万円の患者さんが月に25万円の薬剤費(3割負担で75,000円)と診察費などで合計10万円の医療費を支払った場合、自己負担限度額は約8万円強となり、約2万円が払い戻されます。
また、直近12ヶ月間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合は、4回目から「多数回該当」となり、自己負担限度額がさらに軽減されます。
限度額適用認定証の活用
医療費が高額になることがあらかじめわかっている場合は、「限度額適用認定証」を事前に取得することをお勧めします。この認定証を医療機関の窓口に提示すると、支払額そのものを自己負担限度額までとすることができ、一時的な高額支払いと後日の払い戻し手続きが不要になります。
限度額適用認定証は、加入している健康保険組合(国民健康保険、協会けんぽ、健康保険組合など)に申請して取得します。
その他の経済的支援
民間の医療保険やがん保険に加入している場合、治療費の一部が補填される可能性があります。また、製薬会社による患者さん支援プログラムが用意されている場合もあるため、担当医や医療ソーシャルワーカーに相談することも検討できます。
慎重投与が必要な患者さん
以下の状態にある患者さんでは、アファチニブの使用に特に注意が必要です。
間質性肺疾患の既往がある患者さんでは、間質性肺疾患が再発または悪化するリスクがあるため、慎重な観察が必要です。
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)や重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/分未満)がある患者さんでは、アファチニブの血中濃度が上昇する可能性があります。
心不全症状の既往がある患者さんや左室駆出率が低下している患者さんでは、心障害のリスクが高まる可能性があります。
これらの状態にある患者さんでは、より頻繁な検査や観察が必要となる場合があります。
治療開始前と治療中の検査
アファチニブによる治療を開始する前に、EGFR遺伝子変異検査を実施します。また、肝機能、腎機能、心機能などの基礎的な検査も行われます。
治療中は、間質性肺疾患の早期発見のため、定期的な胸部画像検査が実施されます。必要に応じて、動脈血酸素分圧(PaO2)、動脈血酸素飽和度(SpO2)などの検査も行われます。
肝機能検査も定期的に実施され、肝機能障害の早期発見に努めます。ALT(GPT)、AST(GOT)、ビリルビンなどの値を継続的にモニタリングします。
これらの検査結果に基づいて、投与量の調整や休薬の判断が行われます。
アファチニブが効かなくなった場合
アファチニブによる治療中に病勢が進行した場合(耐性を獲得した場合)、次の治療選択肢が検討されます。
第三世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬であるオシメルチニブ(タグリッソ)は、T790M変異陽性例に対して高い有効性を示すため、最も有力な選択肢の一つです。
また、免疫チェックポイント阻害薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブなど)や、従来の細胞障害性抗がん剤による化学療法も検討されます。
耐性の分子メカニズムに応じて、MET阻害薬やHER2標的薬などの使用が検討される場合もあります。

