
シスプラチンとはどのような薬か
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
シスプラチンは、白金を含む抗がん剤で「白金製剤」または「プラチナ製剤」に分類されます。1965年に細菌の増殖抑制効果が発見され、その後がん細胞に対する抗腫瘍効果が確認されました。
日本では1983年に承認され、現在では多くのがん種の標準治療として広く使用されています。
シスプラチンの作用機序は、がん細胞のDNAと結合することで、DNAの複製や転写を阻害し、細胞分裂を停止させます。具体的には、DNAの構成塩基であるグアニンやアデニンのN-7位に結合し、DNA鎖内および鎖間に架橋を形成します。
この架橋によってDNAの複製が妨げられ、最終的にがん細胞の死滅(アポトーシス)を誘導します。
シスプラチンは「プラチナ製剤の王様」とも呼ばれ、高い腫瘍縮小効果を持つことで知られています。一方で、副作用も強く現れることがあるため、適切な対策と管理のもとで使用されます。
シスプラチンの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | シスプラチン |
| 商品名 | ランダ、ブリプラチン、プラトシン、シスプラチンなど |
| 分類 | 白金製剤(プラチナ製剤) |
| 投与経路 | 点滴静注 |
| 代謝経路 | 主に腎臓から尿中へ排泄 |
| 血管外漏出リスク | 中程度 |
| 催吐リスク | 高度 |
対象となるがんと効果・奏効率
シスプラチンは、幅広いがん種に対して効果が認められています。2026年現在、保険適応が認められているがん種は以下の通りです。
シスプラチンが適応となる主ながん種
- 睾丸腫瘍(精巣がん)
- 膀胱がん
- 腎盂・尿管腫瘍
- 前立腺がん
- 卵巣がん
- 頭頸部がん
- 非小細胞肺がん
- 小細胞肺がん
- 食道がん
- 胃がん
- 子宮頸がん
- 子宮体がん
- 神経芽細胞腫
- 骨肉腫
- 胆道がん
- 胚細胞腫瘍
シスプラチン単剤投与による奏効率
国内で行われた臨床試験における、シスプラチン単剤投与時の各がん種別の奏効率は以下の通りです。奏効率とは、がん治療を実施した後にがん細胞が縮小または消滅した患者さんの割合を示します。
| がん種 | 奏効率 |
|---|---|
| 睾丸腫瘍 | 68.9% |
| 卵巣がん | 57.6% |
| 膀胱がん | 52.9% |
| 腎盂・尿管腫瘍 | 36.4% |
| 神経芽細胞腫 | 37.5% |
| 子宮頸がん | 35.9% |
| 頭頸部がん | 25.8% |
| 食道がん | 21.3% |
| 非小細胞肺がん | 19.4% |
| 前立腺がん | 19.0% |
| 胃がん | 17.2% |
評価の基準として、奏効率が20%以上の場合に効果があるとされています。睾丸腫瘍、膀胱がん、卵巣がんでは特に高い数値を示しています。実際の治療では、シスプラチンは他の抗がん剤と併用されることが多く、その場合はさらに高い効果が期待できます。
代表的な併用療法(レジメン)
| がん種 | 代表的なレジメン名 |
|---|---|
| 小細胞肺がん | PE療法、IP療法 |
| 非小細胞肺がん | CDDP+PEM療法、CDDP+GEM療法 |
| 胃がん | TS-1+CDDP療法 |
| 尿路上皮がん | MVAC療法、GC療法 |
| 胆道がん | GEM+CDDP療法 |
投与方法と投与スケジュール
シスプラチンは点滴静注で投与されます。投与方法は複数あり、がん種や患者さんの状態によって適切な方法が選択されます。
主な投与方法
| 投与法 | 用量 | 投与期間 | 休薬期間 |
|---|---|---|---|
| A法 | 15~20mg/m² | 5日間連続 | 2週間以上 |
| B法 | 50~70mg/m² | 1日 | 3週間以上 |
| C法 | 25~35mg/m² | 1日 | 1週間以上 |
| D法 | 10~20mg/m² | 5日間連続 | 2週間以上 |
| E法 | 70~90mg/m² | 1日 | 3週間以上 |
| G法 | 100mg/m² | 1日 | 3週間以上 |
投与前後には、腎毒性を軽減するために大量の補液(輸液による水分補給)が行われます。これは「ハイドレーション」と呼ばれ、腎臓への負担を減らすために重要な処置です。
近年では、補液時間を短縮する「ショートハイドレーション」が導入され、入院治療から外来治療への移行が進んでいます。外来治療の場合は、患者さん自身による十分な水分摂取が必要になります。
シスプラチンの副作用
シスプラチンは高い治療効果を持つ一方で、副作用の発現率も高い薬剤です。総症例における副作用発現率は85.6%と報告されています。
頻度の高い副作用
| 副作用 | 発現率 |
|---|---|
| 悪心・嘔吐 | 73.4~74.6% |
| 食欲不振 | 62.2~63.8% |
| 白血球減少 | 27.9~36.5% |
| 全身倦怠感 | 30.1~34.8% |
| 貧血 | 28.0~30.5% |
| 脱毛 | 25.7% |
| 血小板減少 | 17.0% |
| クレアチニン・クリアランス値低下 | 40.4% |
重大な副作用
以下の重大な副作用が報告されており、早期発見と適切な対処が必要です。
- 腎機能障害・急性腎不全:尿量の減少、むくみ、倦怠感などが現れた場合は速やかに医師に相談してください
- 聴力低下・難聴・耳鳴り:高音域から聞こえにくくなることがあります
- 骨髄抑制:感染症にかかりやすくなる、出血しやすくなる、貧血が進行するなどの症状
- 末梢神経障害:手足のしびれ、感覚の鈍麻
- 過敏症:発疹、呼吸困難、血圧低下などのアレルギー反応
- 血栓塞栓症:血管が詰まることによる症状
- 肝機能障害:黄疸、肝酵素の上昇
- SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群):低ナトリウム血症を引き起こす
- 低マグネシウム血症・低カルシウム血症:尿中への過剰排泄により発生
悪心・嘔吐への対策
シスプラチンは催吐リスクが高い薬剤であるため、投与前後に制吐薬が使用されます。一般的には以下の制吐薬が併用されます。
- 5HT3受容体拮抗薬(オダンセトロン、グラニセトロンなど)
- NK1受容体拮抗薬(アプレピタントなど)
- デキサメタゾン(ステロイド)
日常生活への影響
シスプラチンによる治療を受ける患者さんは、日常生活においていくつかの注意点があります。
水分摂取について
シスプラチンは腎毒性が高いため、十分な水分摂取が必要です。水分摂取量が減ると腎機能障害が増悪するため、医師から指示された水分量を確実に摂取することが重要です。必要な水分量が摂取できない場合は、点滴による水分補給が必要になることもあります。
投与後は排尿回数が増えますが、これは腎臓を保護するために必要なことです。また、薬剤の尿中への排泄時間が長いため、投与後も長期間にわたって腎機能の変化に注意が必要です。
感染症予防
骨髄抑制により白血球が減少するため、感染症にかかりやすくなります。手洗い、うがいを励行し、人混みを避けるなどの感染予防策が大切です。発熱や咳、喉の痛みなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関に連絡してください。
食事と栄養
悪心・嘔吐や食欲不振により、十分な栄養摂取が困難になることがあります。少量ずつ、複数回に分けて食事を摂る、消化の良いものを選ぶなどの工夫が有効です。栄養状態の維持が治療継続のために重要であるため、食事摂取が困難な場合は医師や管理栄養士に相談してください。
末梢神経障害への対応
手足のしびれや感覚の鈍麻が生じた場合、転倒や火傷などの事故につながる可能性があります。熱いものを扱う際には注意し、足元の安全を確保するなどの配慮が必要です。
保険適応と費用・自己負担
保険適応
シスプラチンは、前述のがん種に対して保険適応が認められています。保険診療として使用できるため、患者さんの自己負担は原則3割(年齢や所得により異なります)となります。
薬価
2026年現在のシスプラチンの薬価は以下の通りです(後発医薬品の例)。
| 製剤 | 薬価 |
|---|---|
| シスプラチン点滴静注10mg | 約980円 |
| シスプラチン点滴静注25mg | 約2,170円 |
| シスプラチン点滴静注50mg | 約3,360円 |
実際の治療費は、投与量、投与回数、併用する薬剤、検査費用、入院費用などにより異なります。1回の治療で数万円から十数万円程度の費用がかかることがあります。
高額療養費制度の活用
がん治療では医療費が高額になることが多いため、高額療養費制度を活用することで自己負担を軽減できます。この制度は、1か月(同月1日から月末まで)の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みです。
自己負担限度額は年齢と所得により異なります。70歳未満で標準的な所得(年収約370万円~約770万円)の方の場合、自己負担限度額は月額8万円強(多数回該当の場合は4万4,400円)となります。
事前に「限度額適用認定証」を取得し、医療機関の窓口で提示することで、支払い時から限度額までの負担で済ませることができます。マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、限度額適用認定証の申請は不要です。
なお、2025年8月から予定されていた高額療養費制度の自己負担限度額引き上げについては、がん患者団体などからの要望を受けて見送りとなっています。2026年1月現在、制度の見直しについては再検討が進められている段階です。
使用時の注意点
投与前の確認事項
シスプラチンは、緊急時に十分対応できる医療施設において、抗がん剤治療に十分な知識と経験を持つ医師のもとで使用されます。投与前には以下の点が確認されます。
- 腎機能:腎機能が低下している場合は投与できないことがあります
- 骨髄機能:骨髄抑制がある場合は慎重な判断が必要です
- 聴力検査:難聴のリスクがあるため、投与前後に聴力検査が行われます
- 感染症の有無:活動性の感染症がある場合は治療のタイミングを調整します
併用注意の薬剤
以下の薬剤との併用時には特に注意が必要です。
- パクリタキセル:投与順序が重要で、通常はパクリタキセルを先に投与します
- アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシンなど):腎機能障害や聴覚障害のリスクが増加します
- バンコマイシン:腎毒性が増強される可能性があります
- アムホテリシンB:腎機能への影響が強まります
- フロセミド、ピレタニド:利尿薬との併用により電解質異常のリスクが増加します
- フェニトイン:フェニトインの血中濃度が低下することがあります
- 胸部・腹部への放射線照射:併用により副作用が強く出ることがあります
慎重投与が必要な患者さん
- 骨髄抑制のある方
- 腎機能障害のある方
- 肝機能障害のある方
- 聴覚障害のある方
- 感染症を合併している方
- 高齢の方
- 小児
- 水痘(水ぼうそう)の方
他の白金製剤との違い
シスプラチンの副作用が強く出る場合や、腎機能が低下している場合には、同じ白金製剤であるカルボプラチンやネダプラチンが選択されることがあります。
これらの薬剤は、シスプラチンと比較して腎毒性や悪心・嘔吐が軽減されています。
また、大腸がんの治療では、オキサリプラチンという別の白金製剤が使用されます。がん種や患者さんの状態に応じて、最適な薬剤が選択されます。
シスプラチンは多くのがん種に対して高い治療効果を持つ薬剤ですが、副作用も強く現れることがあります。医療チームと密に連携し、適切な副作用対策を行いながら治療を継続することが重要です。
水分摂取の励行、感染予防、体調変化の早期報告など、患者さん自身ができる対策も治療成功のために大切な要素となります。
参考文献・出典情報:
医療用医薬品 : シスプラチン(KEGG MEDICUS)
シスプラチンが適応となるがんの種類と治療効果・副作用一覧 | がんメディ
シスプラチン | がん情報サイト「オンコロ」
シスプラチン - Wikipedia
国立がん研究センター
シスプラチン注射液の薬一覧|日経メディカル処方薬事典
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