
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんのホルモン療法を続けていると、治療開始から平均3年程度で効果が弱まり、PSA値が再上昇してくることがあります。これが「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC:Castration-Resistant Prostate Cancer)」と呼ばれる状態です。
2014年以降、日本でも去勢抵抗性前立腺がんに対する新しい治療薬が次々と承認され、患者さんの治療選択肢は増えています。2025年9月には、日本初のPSMA標的放射性医薬品「プルヴィクト」も承認されました。
この記事では、去勢抵抗性前立腺がんと診断された後に使われる治療薬について、作用の仕組みや適応の判断基準、その後の治療順序、費用などを詳しく解説します。
去勢抵抗性前立腺がんとはどのような状態か
前立腺がんは、男性ホルモン(アンドロゲン)の刺激を受けて増殖する性質があります。そのため、精巣や副腎で作られる男性ホルモンの産生を抑えるホルモン療法が、転移のある前立腺がんの第一選択治療として広く行われています。
しかし、ホルモン療法を長期間続けると、がん細胞は男性ホルモンが枯渇した環境に順応し、さらに自ら微量の男性ホルモンを作り出して増殖を始めることがあります。
医学的には「外科的去勢または内科的去勢により、血清テストステロン値が50ng/dL未満の去勢状態であるにもかかわらず、PSA値の連続した上昇や画像検査での病勢増悪が認められる状態」と定義されています。
去勢抵抗性前立腺がんには、画像検査で遠隔転移が確認できる「転移性CRPC(mCRPC)」と、転移が確認できない「非転移性CRPC(nmCRPC)」があり、転移の有無によって治療方針が異なります。
新規ホルモン療法:アビラテロンとエンザルタミド
去勢抵抗性前立腺がんと診断された場合、まず検討されるのが新規ホルモン薬です。従来のホルモン療法よりも強力に男性ホルモンの作用を抑える薬剤で、2014年に日本で承認されました。
アビラテロン(商品名:ザイティガ)の作用機序
アビラテロン酢酸エステルは、男性ホルモン合成に必要な酵素「CYP17」を阻害することで、精巣、副腎、そして前立腺がん細胞自身が作り出す男性ホルモンの合成を抑える薬剤です。
従来のホルモン療法では抑えられなかった、がん細胞自身が作り出すアンドロゲンの合成も阻害するため、より強力な効果が期待できます。
アビラテロンの使用方法と注意点
アビラテロンは1日1回4錠(1000mg)を空腹時に服用する経口薬です。食事の影響を最小限にするため、食前2時間・食後1時間以内の服用は避ける必要があります。
重要な点として、アビラテロンは副腎皮質ホルモンの合成も阻害するため、プレドニゾロン(商品名:プレドニン)というステロイド薬を必ず併用します。プレドニゾロンには抗腫瘍作用もあるため、副腎皮質ホルモンの補充だけでなく、アビラテロンの効果を強める働きも期待されています。
主な副作用は、肝機能障害(AST・ALT上昇)、低カリウム血症、血圧上昇、体液貯留などです。定期的な血液検査と血圧測定が必要です。
エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)の特徴
エンザルタミドは、アンドロゲン受容体を強力に阻害する薬剤です。前立腺がんの成長に必要なアンドロゲン受容体シグナル伝達を、3つの特徴的な作用で阻害します。
具体的には、①男性ホルモンがアンドロゲン受容体に結合すること、②アンドロゲン受容体が核へ移行すること、③アンドロゲン受容体によるDNA結合および活性化を阻害します。
この三重の作用により、PSA値を低下させ、がん細胞の縮小または病態の安定をもたらします。
転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者さんで化学療法を行っていない方を対象とした第三相臨床試験では、エンザルタミド群はプラセボ群と比較して生存期間の延長が認められ、死亡のリスクを29%低下させたという結果が報告されています。
エンザルタミドの服用方法
エンザルタミドは1日1回4カプセル(160mg)を服用する経口薬です。アビラテロンと異なり、食事の影響を受けにくく、ステロイド薬の併用も不要です。
主な副作用は、けいれん(約1%)、便秘、疲労、食欲減退、体重減少、吐き気、ほてり、無力症などです。けいれん発作のリスクがあるため、自動車の運転などには注意が必要です。
その他の新規アンドロゲン受容体阻害薬
エンザルタミドと同様の作用を持つ薬剤として、アパルタミド(商品名:アーリーダ)とダロルタミド(商品名:ニュベクオ)が承認されています。
アパルタミドは非転移性CRPC患者さんに対して、遠隔転移または死亡までの期間を延長することが示されています。ダロルタミドも同様に、非転移性CRPC患者さんの無転移生存期間を延長します。
これらの薬剤は、転移の有無や患者さんの全身状態、副作用のプロフィールなどを考慮して選択されます。
化学療法(抗がん剤):ドセタキセルとカバジタキセル
ドセタキセルの役割
去勢抵抗性前立腺がんに対して最も早く有効性が示された薬剤がドセタキセルです。約50%の患者さんでPSA低下や痛みの軽減などの効果が認められています。
海外の大規模臨床試験では、生存期間の中央値がドセタキセル群で19.2ヶ月、対照群の16.3ヶ月と比べ延長することが示されました。
ドセタキセルは3〜4週ごとに点滴注射で投与します。主な副作用は白血球減少、吐き気、食欲不振などですが、外来通院での治療が可能です。
カバジタキセルの適応
カバジタキセル(商品名:ジェブタナ)は、ドセタキセルで効果が得られなくなった患者さんに使用される二次的な抗がん剤です。ドセタキセル抵抗性の前立腺がんに対しても効果があるとされています。
ただし、白血球減少がドセタキセルより高度になることがあるため、感染症に注意が必要です。
放射性医薬品による治療
ゾーフィゴ(塩化ラジウム-223)の特徴
骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して、2016年から日本で使用可能になったのがゾーフィゴです。
ゾーフィゴに含まれるラジウム-223は骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質があり、代謝が活発になっているがんの骨転移巣に集積します。そこから放出されるアルファ線が、骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。
アルファ線の届く距離は体内で0.1ミリ未満と短いため、正常組織への影響は少なく抑えられます。4週間隔で最大6回まで静脈注射で投与します。
プルヴィクト(ルテチウムビピボチドテトラキセタン)の承認
2025年9月19日、日本初のPSMA標的放射性リガンド療法としてプルヴィクトが承認され、11月12日に発売されました。
プルヴィクトは、前立腺がん細胞の表面に90%以上発現しているPSMA(前立腺特異的膜抗原)を標的とし、放射性同位元素ルテチウム-177が結合した薬剤です。
がん細胞に選択的に集積し、そこから放出されるベータ線がDNA損傷を引き起こすことで細胞増殖を抑制します。周辺の正常組織への傷害が抑えられ、効率的な放射線照射が可能です。
適応は「PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん」で、1剤以上の新規アンドロゲン受容体阻害薬とタキサン系抗がん剤による治療歴のある患者さんなどが対象となります。
6週間間隔で最大6回まで静脈内投与します。
PARP阻害剤による個別化治療
転移性去勢抵抗性前立腺がんの患者さんのうち、BRCA1やBRCA2といった遺伝子に変異がある場合、PARP阻害剤が有効です。
オラパリブ(商品名:リムパーザ)やタラゾパリブ(商品名:ターゼナ)といったPARP阻害剤は、BRCA変異陽性の患者さんに対して効果的な治療選択肢となります。
使用にあたっては、FoundationOneやBRACAnalysisといったゲノム検査で遺伝子変異の有無を確認する必要があります。
治療薬の選択順序と判断基準
去勢抵抗性前立腺がんの治療では、患者さんの病状や全身状態、これまでの治療歴によって最適な薬剤を選択します。
一般的には、まず新規ホルモン薬(アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミド、ダロルタミド)を使用します。これらの薬剤で効果が得られなくなった場合、抗がん剤(ドセタキセル、カバジタキセル)の適応となります。
骨転移がある場合は、ゾーフィゴやプルヴィクトといった放射性医薬品も選択肢となります。
重要な点として、これらの薬剤には交差耐性(ある薬剤に耐性を獲得すると、他の薬剤にも耐性を示す)があることが知られています。そのため、2回目以降に使用する薬剤は効果が弱くなる傾向があります。
どの薬剤をどのタイミングで使用するかは、PSA値の推移、画像検査での病勢、全身状態、副作用の出現状況などを総合的に判断して決定します。
治療費用について
去勢抵抗性前立腺がんの治療薬は高額です。健康保険が適用されますが、それでも患者さんの経済的負担は少なくありません。
| 薬剤名 | 1日の薬価 | 1ヶ月の費用(3割負担) |
|---|---|---|
| アビラテロン(ザイティガ) | 約15,000円 | 約135,000円 |
| エンザルタミド(イクスタンジ) | 約8,200円 | 約74,000円 |
2025年12月からはアビラテロンのジェネリック医薬品(後発医薬品)も販売開始されており、費用負担を軽減できる可能性があります。
高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額に上限が設定され、収入に応じて負担が軽減されます。詳しくは加入している健康保険の窓口や医療機関のソーシャルワーカーに相談することをお勧めします。
患者さんへのアドバイス
去勢抵抗性前立腺がんと診断されても、現在では多くの治療選択肢があります。完全に治癒させることは困難ですが、適切な治療により病状をコントロールし、生活の質を保ちながら長く付き合っていくことが可能です。
治療を開始する際は、病状だけでなく、副作用の程度、経済的な負担、患者さんの希望する生活スタイルなども考慮して、主治医とよく相談することが大切です。
症状がない段階でPSA値のみが上昇している場合、治療により副作用が出現してかえって生活の質が低下する可能性もあります。治療のメリットとデメリットをよく理解した上で判断することが重要です。
また、定期的な検査によりPSA値や画像所見の変化を確認し、治療効果が得られなくなった場合は速やかに次の治療に移行することで、より良い病状コントロールが期待できます。
体調の変化や気になる症状があれば、些細なことでもメモに記録し、診察時に主治医に伝えるようにしましょう。
まとめ
去勢抵抗性前立腺がんの治療は、2014年以降の新薬承認により選択肢が増え、2025年にはPSMA標的放射性医薬品も加わりました。
新規ホルモン薬、抗がん剤、放射性医薬品、PARP阻害剤など、患者さんの病状に応じて適切な薬剤を選択・組み合わせることで、病状をコントロールし生活の質を保ちながら治療を継続できるようになっています。
治療選択にあたっては、主治医とよく相談し、自分の病状や生活スタイルに合った最適な治療法を見つけていくことが大切です。

