
がんの終末期とは何か
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
がんという病気に対して、現代医療でできることは年々増えています。新しい治療薬や治療法が次々と開発され、治療選択肢も広がっています。しかし、現時点では「こうすればがんを確実に治せる」という万能な治療法は存在しません。
進行したがん、末期のがんの状態になると、治療の継続が難しくなり、死を迎える可能性が高くなります。がんが進行すると最後はどうなるのか、どのような症状が出てくるのか。この点は、患者さん本人にとっても、ご家族にとっても、知っておきたい情報の一つです。
がんの終末期は医学的に明確な定義があるわけではありません。一般的には、治療による根治が難しくなり、余命が数週間から数か月程度と予測される時期を指します。この時期においては、生活の質(QOL)を維持し、症状を和らげることに重点が置かれます。
がんの終末期における主な死因
がんで命を落とす場合、がん細胞やがん腫瘍そのものが直接、中枢神経機能や心臓機能、呼吸機能を停止させるわけではありません。がんという病気においては、いくつかの特有のパターンがあります。
悪液質による死亡
がん患者さんの約50%から80%に認められるのが「悪液質(あくえきしつ)」です。これは単なる栄養不足とは異なり、がんに伴う炎症反応や代謝異常が原因で起こる複合的な症状です。
がん悪液質は「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義されています。
がん細胞が産生する炎症性サイトカイン(腫瘍壊死因子αやインターロイキン-6など)により、体内のタンパク質合成が減少し、タンパク質分解が増加します。その結果、筋肉量が減少し、体重が減り、極端な身体の消耗状態に陥ります。
悪液質には3つの段階があります。
| 段階 | 主な特徴 | 体重減少の程度 |
|---|---|---|
| 前悪液質 | 食欲低下や代謝異常が見られ始める段階 | 体重減少は5%未満 |
| 悪液質 | 筋肉量の減少が顕著になる段階 | 6か月以内に体重が5%以上減少 |
| 不応性悪液質 | 抗がん剤治療も難しくなり、緩和治療が中心となる段階 | 体重減少が進行し、全身状態が著しく低下 |
2021年1月には、世界初のがん悪液質治療薬アナモレリン(商品名:エドルミズ錠)が日本で承認されました。適応となるのは、切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんのがん悪液質です。
がんの進行による機能不全
がんの進行により、血液やリンパ液の流れが阻害されたり、排泄機能に障害が生じたりします。これにより、臓器の機能不全が引き起こされます。
感染症による死亡
体力の消耗に伴い、免疫力が低下します。その結果、感染症にかかりやすくなり、感染症が原因で命を落とすことがあります。
出血制御不能
がん腫瘍が自壊(自己融解)することで、出血が起こり、制御できなくなることがあります。
持病の悪化
がん以外に患者さんが元々持っている疾患(持病)が悪化することで、死に至ることもあります。
ほとんどのがん患者さんには、これらの死亡原因が複雑に絡み合っています。
がん終末期に現れる症状と経過
がんによる死は、心筋梗塞のように突然訪れるものではありません。時間をかけて進行するため、最期を迎えるまでにある程度の時間的な猶予があります。これががんによる死の大きな特徴です。
現代のがん医療においては、予め死期をある程度予測することができます。
余命2~3か月の時期
がん患者さんは、亡くなる2~3か月前まで、日常生活を大きな支障なく送ることが多いです。全身状態は比較的保たれており、普段と変わらない生活を送れることが多い時期です。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 軽度の倦怠感 | 疲れやすさを感じ始めるが、日常生活は可能 |
| 食欲の変化 | 以前より食事量が減ってきたと感じ始める |
| 体重減少 | 緩やかに体重が減少していく |
余命1か月前後の時期
亡くなる約1か月前になると、食欲不振、倦怠感、呼吸困難感などの症状が出現し、次第に増強します。がんは進行しても全身状態は保たれますが、死亡前の約1か月で急速に全身状態が低下することが特徴です。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 食欲不振 | 食事量が減少し、食べることへの関心が薄れる |
| 倦怠感の増強 | 身体のだるさが増し、動く度に息が上がる |
| 呼吸困難感 | 呼吸が苦しくなり、息切れを感じやすくなる |
| 嚥下障害 | 飲み込む力が弱くなり、食事や水分摂取が困難になる |
| 体重減少の加速 | 体重が急速に減少し、体力・筋力の低下が進行 |
| 痛みの増強 | がんの進行により新たな痛みが現れたり、現在の痛みが悪化する |
これらの症状は、がんの種類や部位によらず、多くの患者さんに見られる傾向があります。
余命数週間の時期
週単位で症状の変化がみられるようになります。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 意識の変化 | 寝ている時間が長くなり、意識が朦朧とする時間が増える |
| せん妄 | 昼間にウトウトし、夜は起きて意味不明のことを言ったり、家族の顔が分からなくなる |
| 浮腫の増悪 | 足や腹部に浮腫ができ始め、体動困難や不快感を引き起こす |
| 皮膚の変化 | 黄疸や皮膚の色素沈着などの変化が見られる |
最期の数日間
日々症状や状態が変化します。
| 症状 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 意識レベルの低下 | 大半の時間を眠って過ごし、起きている時も反応が鈍くなる |
| 摂食・摂水の困難 | 飲み込む力がさらに弱まり、食事や水分の摂取がほぼ不可能になる |
| 呼吸の変化 | 呼吸が浅くなり、不規則になる。喘鳴(ぜいめい)が聞こえることもある |
| 下顎呼吸 | あごを使って呼吸をするようになる |
| チアノーゼ | 皮膚が青紫色に変わる |
| 脈の変化 | 脈が弱まり、血圧が低下する |
脳転移や脳腫瘍の場合を除いて、がん患者さんの意識が消失することは稀です。音や声は最後まで聞こえていることが多いため、声かけを続けることが大切です。
終末期における症状緩和とケア
これらの複雑な症状、進行状況に対して、栄養改善や痛みの緩和、予防措置が、たとえ死期が迫っていても積極的に行われます。
がんに伴う特有の苦痛や不愉快な症状は、様々なケアによって緩和されます。そのため、数十年前のようにひどく苦しむという事態に陥ることは少なくなっています。
緩和ケアとホスピスケア
緩和ケアは、身体的・精神的・社会的な、あらゆる苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を高めることを目的としています。がんと診断されたタイミングから受けることができ、治療と並行して行うことも可能です。
ホスピスケアは、治癒が望めない時期から終末期を対象としており、緩和ケアと大きな違いはありませんが、対象時期が異なります。
ターミナルケア
ターミナルケアの目的は「いかに苦痛なく最期を迎えるか」であり、延命を目的とせず、患者さんの痛みや恐怖を和らげ、安らかな最期をサポートすることに重きを置いています。
2025年度以降、85歳以上の在宅医療需要は2040年に向けて62%増加することが見込まれており、在宅での緩和ケアの充実が重要な課題となっています。
最期を迎える場所の選択
最期をどこで迎えるかは、患者さんとご家族にとって重要な決定事項です。通常は以下のいずれかで死を迎えることになります。
| 場所 | 特徴 | 必要な準備 |
|---|---|---|
| 一般病棟 | 医療スタッフによる24時間体制のケアが受けられる | 入院手続き、医療費の準備 |
| 緩和病棟(ホスピス) | 症状緩和に特化した専門的なケアが受けられる | 事前の申し込み、空きベッドの確認 |
| 自宅 | 住み慣れた環境で家族と過ごせる | 定期的な医師の往診、訪問看護の手配 |
| 介護施設 | 介護サービスを受けながら過ごせる | 施設との調整、医療機関との連携 |
医療施設以外で死を迎えるには、定期的な医師の往診が必要となります。また、死亡を確認する医師も予め決定しておく必要があります。
医療機関に知られず、自宅でひっそりと亡くなった場合はスムーズに死亡診断書がとれません。病気によって亡くなったのか、それとも別の要因で亡くなったのかを確定することが難しいからです。
尊厳死と事前の意思決定
最後は家族に看取られて自然に逝きたいという「尊厳死」を希望する患者さんも少なくありません。しかし、その内容次第では、法的な問題を含んでいることがあります。
がん治療担当医、かかりつけの家庭医、あるいは在宅医療専門医、患者さん(ご家族)が緊密な連携をとらなければ、医療機関外(特に自宅)で納得できる死を迎えるのは難しいといえます。
事前に決めておくべきこと
臨終に際してどのような措置を行うかも、事前に具体的に決めておく必要があります。
呼吸が止まった時、心臓が止まった時、痙攣が発生した時、昏睡に陥った時など、通常予測される臨死の諸事態に患者さん(ご家族)はどうしたいのか。担当医に希望をあらかじめ伝えておく必要があります。
死に関してあらかじめ何かを決めるというのは、日本人の倫理観としては難しいことです。しかし、死を迎えるに際して、いくつかのことをあらかじめ具体的に患者さん(ご家族)と医療機関との間で決めておくことが、患者さん(ご家族)にとっても、医療機関にとっても負担を減らし、後から生じるトラブルやストレスを防止することになります。
治療継続の判断について
末期になれば死に対する準備も必要ですが、どこで「治療を止める」と判断をするのも難しいことです。
抗がん剤をしないのか続けるのか、などの判断はとても重要な要素です。治療法の進歩により、疾病を抱えた状態での生存時間が伸びている一方で、治療を続けることで生じる副作用と、得られる効果のバランスを考える必要があります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。医師との十分な話し合いを通じて、現在の病状、今後の見通し、利用できる医療やケアの選択肢について理解を深めることが大切です。
まとめ
がんの終末期における症状や経過は、患者さんごとに異なりますが、一定の共通性や規則性が認められます。現代の緩和ケアの進歩により、症状を和らげ、生活の質を保ちながら最期を迎えることが可能になってきています。
患者さん本人やご家族が、どのような最期を迎えたいかを考え、医療者と事前に話し合っておくことで、より納得のいく時間を過ごすことができます。
参考文献・出典情報:
一般社団法人日本終末期ケア協会|終末期がん患者に出現する症状
がん情報サイト|人生の最後の数日間(PDQ®)
ホスピス型住宅ReHOPE|がん末期と診断されたら?症状や必要なケア
日本静脈経腸栄養学会|がんと悪液質
同仁クリニック|がん悪液質とは?診断基準や余命への影響、治療法
MSDマニュアル プロフェッショナル版|がんにおける悪液質
一般社団法人日本終末期ケア協会|悪液質について
小野薬品工業|がん悪液質.jp - がん悪液質にもステージがあります
第30回日本緩和医療学会学術大会|プログラム
厚生労働省|医療と介護の一体的な改革

