こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がんの標準治療が終了したと告げられたとき、多くの患者さんは大きな不安を感じます。「もう治療法はないのか」「これからどうすればいいのか」という疑問が浮かぶのは当然のことです。
しかし、標準治療が終了したからといって、すべての道が閉ざされたわけではありません。現在の医療では、標準治療終了後にも検討できる選択肢がいくつか存在します。
この記事では、標準治療終了後に考えられる選択肢について、それぞれの特徴や考え方を整理してお伝えします。患者さんご自身が納得できる判断をするための情報として活用していただければと思います。
標準治療終了とはどういう状態か
標準治療とは、科学的根拠に基づいて現時点で最良とされる治療のことを指します。多くの臨床研究によって有効性と安全性が確認されており、診療ガイドラインで推奨されている治療法です。
標準治療は、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤など)を単独または組み合わせて行います。がんの種類や進行度、患者さんの体の状態に応じて、最適な組み合わせが選ばれます。
「標準治療が終了した」という状態は、がんの大きさや転移の状況により、診療ガイドラインで推奨されている治療の選択肢を使い切った状態を意味します。特に進行がんの場合、抗がん剤は一度使用すると効果が出にくくなることがあり、次第に使える治療法が限られていきます。
ただし、標準治療が終了したからといって、すぐに緩和ケアだけになるわけではありません。がんの状態や患者さんの体力、希望に応じて、他の選択肢を検討することができます。
標準治療終了後に検討できる選択肢
標準治療が終了した後、患者さんが検討できる主な選択肢は以下の通りです。それぞれの選択肢には特徴があり、患者さんの状態や希望によって適した方法が異なります。
| 選択肢 | 内容 | 対象となる患者さん |
|---|---|---|
| がん遺伝子パネル検査 | がんの遺伝子変異を調べ、それに合った治療薬を探す | 全身状態が良好で、検査後の治療に耐えられる見込みのある方 |
| 臨床試験・治験 | 開発中の新しい治療法を試す | 参加条件を満たす方 |
| 緩和ケア | 痛みや不安などの症状を和らげ、生活の質を高める | すべての患者さん |
| セカンドオピニオン | 他の医師から意見を聞き、治療方針を再検討する | 治療の選択に迷いがある方 |
これらの選択肢は、必ずしも一つだけを選ぶものではありません。たとえば、緩和ケアを受けながら臨床試験に参加することもできますし、がん遺伝子パネル検査を受けた結果、新たな治療法が見つからなかった場合には緩和ケアに重点を移すこともあります。
がん遺伝子パネル検査という選択肢
がん遺伝子パネル検査は、2019年に保険適用となった検査で、標準治療が終了した、または標準治療がない固形がんの患者さんが対象となります。一度に多数の遺伝子を調べることで、がんの性質を詳しく把握し、それに合った治療薬を探すことを目的としています。
検査の仕組みと目的
がん遺伝子パネル検査では、がん組織や血液から採取したDNAを解析し、がん細胞に存在する遺伝子の変異や異常を調べます。この検査で分かった遺伝子変異に基づいて、その変異に効果が期待できる薬剤があるかどうかを検討します。
検査結果は、エキスパートパネルと呼ばれる専門家チームによって評価されます。がんゲノム医療に精通した医師、遺伝カウンセラー、バイオインフォマティシャンなどが集まり、検査結果を解釈し、治療の選択肢があるかどうかを検討します。
検査後の治療につながる割合
2025年の報告では、がん遺伝子パネル検査を受けた患者さんのうち、実際に遺伝子変異に基づく治療を受けられた方は約1割程度にとどまっています。これは、検査で遺伝子変異が見つかっても、その変異に対応する薬剤が承認されていない場合や、患者さんの全身状態が悪化して治療を受けられなくなる場合があるためです。
そのため、がん遺伝子パネル検査は、全身状態が比較的良好で、検査後に治療を受けられる見込みのある段階で実施することが重要とされています。標準治療の終了を待つのではなく、より早い段階での検査実施も議論されるようになってきました。
費用と実施施設
がん遺伝子パネル検査は保険適用となっており、3割負担の場合で約5万6千円程度です。ただし、検査を受けられるのは、がんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム医療拠点病院など、指定された医療機関に限られます。
臨床試験・治験への参加という選択肢
臨床試験や治験は、新しい治療法や薬の効果と安全性を確かめるために行われる研究です。標準治療が終了した患者さんにとって、開発中の新しい治療を受けられる可能性がある選択肢となります。
臨床試験と治験の違い
治験は、国(厚生労働省)に薬として承認してもらうために行う臨床試験のことを指します。一方、臨床試験には治験以外にも、医師や研究グループが主導して行うものがあります。
治験には第1相、第2相、第3相という段階があり、それぞれで確認する内容が異なります。第1相では主に安全性を確認し、第2相では有効性と適切な用量を調べ、第3相では既存の標準治療と比較して効果を検証します。
参加するための条件
臨床試験や治験に参加するには、それぞれの試験で定められた条件を満たす必要があります。主な条件には以下のようなものがあります。
| 条件の種類 | 具体例 |
|---|---|
| がんの種類 | 特定のがん種に限定されることが多い |
| 進行度 | ステージや転移の有無など |
| 年齢 | 試験により上限・下限が設定されることがある |
| これまでの治療歴 | 特定の薬剤を使用していないことなど |
| 全身状態 | 日常生活がある程度自立していることなど |
これらの条件は、治療の効果を正確に評価するために設定されています。条件に合わない場合は参加できないため、まずは自分の状態が条件に合うかどうかを確認することが重要です。
臨床試験・治験の情報の探し方
国内で実施されている臨床試験の情報は、いくつかの公開データベースで検索することができます。
国立がん研究センターの「がんの臨床試験を探す」では、がんの種類や治療法、地域などから臨床試験を検索できます。また、「患者本位のがん治験情報サイト」では、治験情報を患者さん向けに分かりやすく提供しています。
ただし、これらの情報を見つけても、実際に参加できるかどうかは主治医との相談が必要です。主治医に臨床試験への参加を相談することで、適切な試験があるか、参加条件を満たしているかなどを確認してもらえます。
臨床試験・治験参加時の注意点
臨床試験や治験は、新しい治療法を試すものであるため、効果や副作用について十分なデータが揃っていません。「新しい治療」が必ずしも「最良の治療」とは限らないという点を理解しておく必要があります。
また、参加には詳しい説明を受け、内容を理解した上で同意する必要があります。疑問や不安があれば、納得できるまで質問することが大切です。途中で参加を取りやめることも可能です。
緩和ケアという選択肢
緩和ケアは、がんと診断されたときから受けることができるケアです。標準治療が終了した後も、痛みや息苦しさなどの体の症状、不安や気持ちの落ち込みなどの心の問題を和らげ、患者さんとご家族が自分らしく生活できるよう支援します。
緩和ケアの誤解
緩和ケアというと、「終末期のケア」「もう治療をあきらめた人が受けるもの」というイメージを持つ方がいますが、これは誤解です。緩和ケアは、がんの進行度に関係なく、つらい症状があればいつでも受けることができます。
実際、がんと診断された早い段階から緩和ケアを受けることで、生活の質が向上し、治療に専念できるようになることが分かっています。研究によっては、緩和ケアを受けることで生存期間が延びる可能性も示されています。
緩和ケアで対応できる症状
緩和ケアでは、以下のような様々な症状に対応します。
| 症状の種類 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 体の症状 | 痛み、吐き気、食欲不振、倦怠感、息苦しさ、便秘など |
| 心の問題 | 不安、気持ちの落ち込み、いらだち、眠れないなど |
| 社会的な問題 | 仕事や経済的な不安、家族関係の悩みなど |
| スピリチュアルな問題 | 生きる意味への問い、孤独感など |
これらの症状に対して、医師、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー、心理士などの専門職がチームとなって支援します。
緩和ケアを受けられる場所
緩和ケアは、通院、入院、在宅療養のいずれでも受けることができます。全国のがん診療連携拠点病院では、緩和ケアチームが組織されており、外来でも入院でも緩和ケアを受けられる体制が整っています。
緩和ケア外来では、緩和ケアの専門知識を持つ医師や看護師から専門的なケアを受けられます。また、緩和ケア病棟(ホスピス)では、症状緩和に重点を置いた入院治療を受けることができます。
自宅で療養したい場合は、在宅医療を提供する診療所や訪問看護ステーションと連携して、自宅でも緩和ケアを受けることが可能です。
がんの種類別に考える標準治療終了後の対応
標準治療終了後の選択肢は、がんの種類によっても異なります。がんの種類ごとに、遺伝子変異の特徴や新しい治療法の開発状況が異なるためです。
遺伝子変異が見つかりやすいがん
肺がん、大腸がん、乳がんなどでは、特定の遺伝子変異を持つ患者さんに効果的な分子標的薬が開発されています。これらのがんでは、がん遺伝子パネル検査で治療につながる可能性が比較的高いとされています。
特に肺がんでは、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などが見つかると、それに対応する分子標的薬が使用できる場合があります。大腸がんでもRAS遺伝子やBRAF遺伝子の変異状態により、使用できる薬剤が変わってきます。
臨床試験が活発ながん
肺がん、大腸がん、乳がん、胃がんなどの患者数が多いがんでは、多くの臨床試験が実施されています。これらのがんの患者さんは、臨床試験に参加できる機会が比較的多いと言えます。
一方、希少がんの場合は臨床試験の数が限られることがありますが、近年では希少がんを対象とした臨床試験も増えてきています。
がんの種類ごとの診療ガイドライン
各がんには診療ガイドラインがあり、標準治療終了後の考え方も記載されています。たとえば、2025年に改訂された胃がん治療ガイドライン第7版では、切除不能進行・再発胃がんに対する二次治療、三次治療以降の化学療法についても推奨が示されています。
主治医は、これらのガイドラインを参考にしながら、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療方針を提案します。
判断する際の考え方とポイント
標準治療終了後の選択肢を考える際には、以下のようなポイントを整理することが役立ちます。
自分の体の状態を把握する
まず重要なのは、現在の体の状態です。日常生活がどの程度できるか、体力がどの程度残っているかによって、選択できる治療法が変わってきます。
全身状態が良好であれば、がん遺伝子パネル検査や臨床試験への参加を検討できます。一方、全身状態が低下している場合は、体に負担の少ない緩和ケアを中心に考えることが現実的です。
何を優先するか整理する
患者さんによって、大切にしたいことは異なります。以下のような点について、自分の考えを整理してみましょう。
できるだけ長く生きることを優先したいのか、それとも残された時間の質を重視したいのか。新しい治療法を試してみたいのか、それとも体への負担が少ない方法を選びたいのか。自宅で過ごしたいのか、病院での治療を受けたいのか。
これらの優先順位は、人それぞれであり、正解はありません。自分の価値観に基づいて考えることが大切です。
家族と話し合う
治療の選択は、患者さん本人だけでなく、家族にも影響を与えます。どのような選択をするにしても、家族と十分に話し合い、理解と協力を得ることが重要です。
ただし、最終的な決定は患者さん本人が行うものです。家族の意見を聞きつつも、自分が納得できる選択をすることが大切です。
主治医や医療スタッフに相談する
標準治療終了後の選択肢について、主治医や看護師、相談支援センターのスタッフなどに相談することができます。分からないことや不安なことがあれば、遠慮せずに質問しましょう。
また、セカンドオピニオンを受けることで、他の医師の意見を聞くこともできます。複数の医師の意見を参考にすることで、より納得のいく判断ができる場合があります。
情報を集める際の注意点
インターネットなどで情報を集める際は、情報の信頼性に注意が必要です。国立がん研究センターのがん情報サービスや、学会が提供する情報など、信頼できる情報源から情報を得るようにしましょう。
特に、科学的根拠が不十分な治療法や、過度に効果を強調する情報には注意が必要です。迷ったときは、主治医に相談することをお勧めします。
標準治療終了は終わりではない
標準治療が終了したという状況は、確かに厳しい現実です。しかし、それは選択肢がすべてなくなったということではありません。
がん遺伝子パネル検査で新たな治療法が見つかる可能性があります。臨床試験に参加して、開発中の新しい治療を受けられるかもしれません。緩和ケアを受けることで、症状を和らげながら自分らしい生活を続けることができます。
どの選択肢を選ぶにしても、患者さんご自身が納得し、自分らしく過ごせる方法を見つけることが大切です。主治医や医療スタッフ、家族と話し合いながら、一つずつ考えていきましょう。
医療は日々進歩しています。今はない治療法が、将来は選択肢として加わる可能性もあります。希望を持ちながら、今できることに取り組んでいくことが重要だと考えます。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がんの臨床試験を探す」
2. 患者本位のがん治験情報サイト「がん治験情報」
3. 国立がん研究センター がん情報サービス「緩和ケア」
4. 国立がん研究センター がん情報サービス「標準治療と診療ガイドライン」
5. 日本対がん協会「がん患者・家族の支援」

