
乳がん遺伝子検査とは何か
こんにちは。がん治療専門アドバイザーの本村ユウジです。
乳がんの遺伝子検査には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは遺伝性乳がんのリスクを調べるBRCA1・2遺伝子検査、もう1つは既に乳がんと診断された患者さんの再発リスクや治療方針を決めるための検査です。
BRCA1・2遺伝子検査は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)のリスクを評価するために実施されます。BRCA1またはBRCA2遺伝子に病的変異があると、乳がんや卵巣がんの発症リスクが一般の方と比較して高くなることが知られています。
一方、オンコタイプDX、マンマプリント、キュアベストなどの検査は、乳がんと診断された患者さんを対象に、がん組織の遺伝子発現パターンを解析して再発リスクを予測し、化学療法の必要性を判断する材料とするものです。
BRCA1・2遺伝子検査について
BRCA1・2検査の対象となる患者さん
BRCA1・2遺伝子検査は、以下のような条件に当てはまる患者さんが対象となります。
若年発症の乳がん患者さん(45歳以下で診断された場合)、トリプルネガティブ乳がんと診断された患者さん、両側乳がんを発症した患者さん、家族に乳がんや卵巣がんの患者さんが複数いる場合などです。
また、既に乳がんや卵巣がんを発症している患者さんで、特定の条件を満たす場合には保険適用でBRCA1・2検査を受けることができます。2020年4月からは卵巣がん患者さん全例に保険適用が拡大され、2025年現在も継続されています。
BRCA1・2検査で分かること
BRCA1・2遺伝子検査では、血液や唾液から採取したDNAを解析し、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に病的変異があるかどうかを調べます。
病的変異が見つかった場合、生涯で乳がんを発症するリスクは一般の方の約10倍、卵巣がんは約40倍になるとされています。ただし、変異があっても必ず発症するわけではなく、発症しない方もいます。
検査結果により、サーベイランス(定期的な検診)の強化、リスク低減手術(予防的乳房切除術や卵巣卵管摘出術)、PARP阻害薬などの分子標的治療薬の使用といった選択肢を検討することになります。
再発リスク予測のための遺伝子検査
オンコタイプDXとは
オンコタイプDXは、乳がん組織から21の遺伝子を解析し、再発スコアを算出する検査です。ホルモン受容体陽性、HER2陰性、リンパ節転移陰性または1-3個の早期乳がん患者さんが対象となります。
再発スコアは0から100の数値で示され、スコアが低いほど再発リスクが低く、化学療法の上乗せ効果が限定的であることを示します。スコアが高い場合は化学療法の追加により再発リスクを減らせる可能性が高いと判断されます。
2018年に保険適用となり、2025年現在も広く利用されています。検査費用は保険適用で約14万円(3割負担で約4万2千円)です。
マンマプリントとは
マンマプリントは、オランダで開発された70遺伝子を解析する検査で、再発リスクを「低リスク」「高リスク」の2段階で評価します。ホルモン受容体陽性、HER2陰性、リンパ節転移陰性または1-3個の早期乳がん患者さんが対象です。
オンコタイプDXと異なり、数値スコアではなく分類評価となります。日本では2020年に保険適用となり、埼玉県内でも一部の医療機関で実施可能です。
キュアベストとは
キュアベスト95GCは、日本で開発された遺伝子検査で、95の遺伝子を解析して再発リスクを評価します。ホルモン受容体陽性、HER2陰性、リンパ節転移陰性の早期乳がん患者さんを対象としています。
日本人のデータに基づいて開発されているため、日本人患者さんにより適した評価ができる可能性があります。2022年に保険適用となりました。
埼玉県で遺伝子検査を実施できる病院
埼玉県内で乳がんの遺伝子検査を実施できる主要な医療機関は以下の通りです。
| 病院名 | 所在地 | オンコタイプDX | BRCA1・2検査 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 埼玉医科大学国際医療センター | 日高市山根 | 対応 | 対応 | 家族性腫瘍外来あり |
| 獨協医科大学越谷病院 | 越谷市南越谷 | 対応 | 対応 | 遺伝カウンセリングセンターあり |
| 埼玉医科大学総合医療センター | 川越市鴨田 | 対応 | 対応 | 遺伝相談室あり(年間82件) |
| 春日部市立医療センター | 春日部市中央 | 対応 | 対応 | 乳がん遺伝相談外来あり |
| 自治医科大学附属さいたま医療センター | さいたま市大宮区天沼町 | 対応 | 対応 | 遺伝カウンセリング室あり |
埼玉医科大学国際医療センター
埼玉医科大学国際医療センターは埼玉県日高市に位置し、乳腺腫瘍科内に家族性腫瘍外来を設置しています。この外来では遺伝カウンセリングとBRCA1・2遺伝子検査を実施しており、オンコタイプDXなどの再発リスク予測検査にも対応しています。
高度専門医療機関として、遺伝性乳がんの診断から予防的手術、薬物療法まで一貫した診療体制を整えています。家族歴のある患者さんや若年発症の患者さんに対して、専門医による詳細なカウンセリングを提供しています。
獨協医科大学越谷病院
獨協医科大学越谷病院は埼玉県越谷市南越谷に所在し、専門の遺伝カウンセリングセンターを備えています。このセンターには日本人類遺伝学会および日本遺伝カウンセリング学会の認定を受けた専門医と遺伝カウンセラーが在籍しています。
カウンセリングでは患者さんの病歴や家族の状況を詳しくヒアリングし、遺伝子検査の意義やリスク、結果の解釈について丁寧に説明します。意思決定に必要な医療情報を提供し、患者さん自身が納得して選択できるようサポートしています。
費用は初診で10,800円、再診で5,400円(30分)が目安となります。ただし、保険適用の条件を満たす場合は保険診療となります。
埼玉医科大学総合医療センター
埼玉医科大学総合医療センターは埼玉県川越市鴨田にあり、2018年3月に遺伝相談室を開設しました。社会的問題への十分な配慮をしながら、正確な遺伝的情報を科学的に適切に提供する専門機関として位置づけられています。
主に遺伝カウンセリングと遺伝子検査の支援を行っており、年間のカウンセリング件数は82件の実績があります。BRCA1・2変異が確認された患者さんに対しては、発症前の予防的両側乳房切除術も実施可能な体制を整えています。
予防的手術は患者さんにとって重大な決断となるため、十分なカウンセリング時間を設け、心理的サポートも含めた総合的な支援を提供しています。
春日部市立医療センター
春日部市立医療センターは埼玉県春日部市中央に位置し、乳腺外科に乳がん遺伝相談外来を併設しています。専門医師によるカウンセリングが可能で、相談日は第4金曜日の午前9時30分から12時までとなっています。
1枠の相談時間は1時間で、料金は10,800円(税込)です。事前予約制となっているため、受診を希望する患者さんは事前に連絡して予約を取る必要があります。
オンコタイプDXやBRCA1・2検査に対応しており、地域の患者さんが遺伝子検査を受けやすい環境を提供しています。
自治医科大学附属さいたま医療センター
自治医科大学附属さいたま医療センターはさいたま市大宮区天沼町に所在し、専門の遺伝カウンセリング室を設置しています。遺伝性疾患の発症リスクやそのリスクに関する相談を広く受け付けています。
乳がんだけでなく、さまざまな遺伝性疾患に対応できる体制があり、総合的な視点から患者さんをサポートしています。BRCA1・2検査やオンコタイプDXなどの各種遺伝子検査に対応しています。
遺伝子検査の費用と保険適用
BRCA1・2検査の費用
BRCA1・2遺伝子検査の費用は、保険適用の場合と自費の場合で大きく異なります。
保険適用となる条件を満たす場合、検査費用は約2万円から2万5千円(3割負担の場合)です。保険適用の条件には、既に乳がんまたは卵巣がんと診断されていること、特定の診断基準を満たすことなどがあります。
自費で検査を受ける場合、医療機関によって異なりますが、20万円から30万円程度が相場となっています。未発症の方が予防目的で検査を希望する場合は、基本的に自費診療となります。
オンコタイプDXの費用
オンコタイプDXは2018年に保険適用となっており、保険診療で受けることができます。検査費用は約14万円で、3割負担の場合は約4万2千円の自己負担となります。
ただし、高額療養費制度を利用できる場合もあるため、所得に応じて実際の負担額は変わってきます。検査の適応基準を満たしていれば、主治医の判断で保険診療として実施されます。
マンマプリントとキュアベストの費用
マンマプリントとキュアベストも保険適用の検査です。費用はオンコタイプDXと同程度で、3割負担の場合で約4万円前後の自己負担となります。
どの検査を選択するかは、患者さんの病状、主治医の判断、医療機関で実施可能な検査の種類などを総合的に考慮して決定されます。
遺伝子検査を受ける際の流れ
遺伝カウンセリングの重要性
遺伝子検査を受ける前には、必ず遺伝カウンセリングを受けることが推奨されています。遺伝カウンセリングでは、検査の目的、検査で分かること、検査結果の解釈、結果が陽性だった場合の対応策、検査を受けることのメリットとデメリットなどについて詳しく説明を受けます。
特にBRCA1・2検査の場合、結果が陽性であれば家族にも影響を与える可能性があるため、十分な理解と心理的準備が必要です。カウンセリングでは患者さんの不安や疑問に丁寧に答え、納得したうえで検査を受けられるようサポートします。
検査実施の流れ
遺伝カウンセリングを受けて検査を希望する場合、血液採取または唾液採取により検体を採取します。採取した検体は専門の検査機関に送られ、遺伝子解析が行われます。
BRCA1・2検査の結果が出るまでには通常4週間から8週間程度かかります。オンコタイプDXなどの再発リスク予測検査は2週間から3週間程度で結果が出ることが多いです。
結果が出たら、再度カウンセリングを受けて結果の説明を受けます。結果に応じて、今後の治療方針やフォローアップの計画について相談します。
検査結果を受けての対応
BRCA1・2検査で病的変異が見つかった場合、定期的なサーベイランス、リスク低減手術、薬物療法などの選択肢があります。どの選択肢を選ぶかは患者さん自身の価値観やライフスタイル、年齢、家族計画などを考慮して決定します。
オンコタイプDXなどの再発リスク予測検査の結果は、化学療法を追加するかどうかの判断材料となります。低リスクと判定された場合は、化学療法の上乗せ効果が限定的であるため、ホルモン療法のみで経過観察することが選択されることがあります。
病院選びのポイント
専門性と実績
遺伝子検査を実施する病院を選ぶ際には、遺伝カウンセリングの体制が整っているか、認定遺伝カウンセラーや専門医が在籍しているか、年間の検査実績がどの程度あるかなどを確認することが重要です。
実績のある医療機関では、検査前後のサポート体制が充実しており、結果に応じた適切な治療やフォローアップを受けることができます。
アクセスと通院の利便性
遺伝カウンセリングや検査、その後のフォローアップには複数回の通院が必要となります。自宅や職場からのアクセスが良い病院を選ぶことで、継続的な受診がしやすくなります。
埼玉県内には複数の実施施設があるため、地域や交通の便を考慮して選択することができます。
相談体制の充実度
遺伝子検査の結果は患者さんやその家族にとって大きな影響を与える可能性があります。心理的なサポートを含めた相談体制が整っている病院を選ぶことで、安心して検査を受け、結果と向き合うことができます。
カウンセリングの予約の取りやすさや、相談時間の長さ、フォローアップの充実度なども確認するとよいでしょう。
まとめに代えて:検査を受けるかどうかの判断
乳がんの遺伝子検査は、患者さんの治療方針を決める重要な情報を提供します。しかし、すべての患者さんに必要というわけではなく、検査の適応や必要性については主治医とよく相談することが大切です。
BRCA1・2検査については、結果が陽性であった場合の対応について十分に理解し、心理的な準備をしてから受けることが推奨されます。家族への影響も考慮する必要があるため、遺伝カウンセリングを通じて十分な情報を得てから判断することが重要です。
オンコタイプDXなどの再発リスク予測検査は、化学療法の必要性を判断する材料となります。低リスクの場合は過剰な治療を避けることができ、高リスクの場合は適切な治療を追加することで再発リスクを減らせる可能性があります。
埼玉県内には複数の医療機関で遺伝子検査とカウンセリングを受けることができます。各施設の特徴や実績、アクセスなどを比較検討し、ご自身に合った医療機関を選択してください。
なお、ここに掲載している情報は2026年時点のものです。実施状況や費用、予約方法などは変更される可能性があるため、受診を希望される場合は事前に各医療機関に直接お問い合わせください。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 検査」
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html
2. 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン」
https://jbcs.xsrv.jp/guidline/
3. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)
https://johboc.jp/
4. 埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科
https://www.saitama-med.ac.jp/hospital/imc/
5. 獨協医科大学越谷病院 遺伝カウンセリングセンター
https://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-k/
6. 埼玉医科大学総合医療センター
https://www.saitama-med.ac.jp/hospital/center/
7. 日本人類遺伝学会「遺伝学的検査」
http://jshg.jp/
8. 日本遺伝カウンセリング学会
http://www.jsgc.jp/
9. がん研究会有明病院「オンコタイプDXについて」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/
10. 厚生労働省「がんゲノム医療推進コンソーシアム」
https://www.mhlw.go.jp/

