乳がんの診断がついてから初期治療前に行う検査は、大きく分けて次の3つを調べるためのものです。
①乳房内での乳がんの広がり
②腋窩りンパ節(乳房・脇周辺のリンパ節)への転移の有無と程度
③遠隔転移の有無
それぞれ検査方法が異なりますので、詳しく解説します。
乳房内での広がりを診断する検査
乳房を全て切除することなく、がん腫瘍を取り除く「乳房温存療法」は乳房内の再発率を高めることなく、できるだけよい形の乳房を残そうとする手術方法です。そのためには乳房内での広がりを把握し、過不足なくがん腫瘍を切除する必要があります。しかし、乳房温存療法後には乳房内再発といって、手術した乳房にまたがんが出てくることがあります。
これは、主に乳管内進展や離れた場所に存在する小さながん細胞が、すでに乳房の中で広がっていたことが原因で発生します。
これらの乳房内での広がりや離れた場所に存在する小さながんの有無を調べるのがマンモグラフィや超音波検査です。しかし、完全に把握することは困難であるため、これを補う検査として、近年はCT検査やMRI検査が行われるようになってきています。
さらに造影剤を用いることにより、乳房内での広がりや離れた場所に存在する小さながんの有無をとらえやすくなります。CT検査やMRI検査を追加することで、取り残しなく完全に切除できる率が高くなったという報告や、乳房内再発が減ったという報告もあります。
CT検査に比べてMRI検査のほうがわかりやすいので,現在では手術前にMRI検査を行う施設が多くなっています。
腋窩リンパ節転移の有無と程度の検査
腋窩リンパ節の転移を検査するには、超音波検査あるいはCT検査を行います。これらの検査だけでりンパ節転移をみつけることができるわけではありません。これらの画像診断によって、明らかに転移と思われる腫れた腋窩リンパ節をみつけることはできますが、実際は転移しているけれど「腫れていない」腋窩リンパ節をみつけるのは困難です。
近年は腋窩りンパ節転移を診断するために、手術の際にセンチネルリンパ節生検(乳房に近いリンパ節を切除して調べる検査。ここに転移がなければリンパ節転移はない、と診断する)が行われています。
しかし、もともと明らかなリンパ節転移がある場合にはセンチネルリンパ節生検は行わないため、腋窩リンパ節転移の有無をあらかじめ可能な限り正確に予測することが必要となっています。
今後これら超音波検査やCT検査などの画像による検査は、データを集積し、その有効性がより客観的に評価されることが期待されています。
遠隔転移の有無の検査
転移の有無を心配される人は多いですが、実際には乳がんと診断されると同時に転移がみつかる可能性はきわめて低いです。
例えば、乳房内での広がりや腋窩リンパ節転移を検査するCT検査やMRI検査で、肺転移や肝転移などを検査することはあります。その結果、CT検査で骨転移などがみつかる確率は0.5%、肺転移のみつかる確率は5cm以下の乳がんで0.1%程度と低い頻度です。
また、骨シンチグラフィで骨転移がみつかる確率は、2cm以下の乳がんで0.5%、2.1cm以上5cm以下の乳がんでも2.4%といわれています。
これらの検査で転移疑いと出てもさらに詳しく検査してみると、実際には転移ではなかったという結果になることも多くあります。結論が出るまで患者さんにとっては不要な不安を引き起こし、必要のない検査を実施することで、余分な費用がかかってしてしまうことにもなりかねません。
以上により、手術前に骨シンチグラフィによる骨転移やPET検査による遠隔転移などを調べることは必ずしも必要ではありません。ただし、骨転移はしばしば転移部位に痛みを伴うことから、最近新たに出現した背中の痛みなどがある場合には検査をしたほうがよいといえます。
乳がんの性格(タイプ)診断
がん細胞を採取して検査する「病理検査」では、乳がんの確定診断に加えて、乳がんの性格を知ることができます。乳がんの性格からその患者さんの予後やさまざまな薬剤の効き具合を予測することができ、これらの情報は治療方法を決定する際に必要不可欠となります。
具体的にはホルモン受容体やHER2の状況などを病理検査で調べることで、再発の危険性や薬の有効性を予測することができる、などです。これらの情報は、治療方法を決定する際にとても重要な役割を担います。
以上、乳がんの検査についての解説でした。