化学療法(抗がん剤・分子標的薬などの薬を使った治療)を行えば、必ず何らかの副作用が出ます。
脱毛、吐き気などの症状が出れば辛いですし、骨髄抑制など体の内部的に起きる副作用もあります。副作用の種類はとても多いですが、その中でも日常生活に大きな影を落とすのが「手足症候群」といわれるものです。
手足症候群とは、手足の指を中心に、皮膚が角質化して割れて出血し、痛みを伴う症状のことを言います。
この副作用は薬の種類によっては、数10%の患者さんに生じます。手足に出る症状ですので命を脅かすようなものではないですが、手が荒れると人前に出るのはもちろん、洗顔や入浴など水を使う際に大きな負担になります。また、耐えがたい痛みに苦しむこともあります。
手足症候群は、従来の抗がん剤だけでなく、昨今の化学療法の主流である「分子標的薬」の副作用として多発する傾向があります。
分子標的薬で手足症候群がでる場合、所見としては「薬が効いて抗腫瘍効果が出ている証拠」と考えられていますので、止めれば副作用は収まるが、がんを抑える効果も弱まる、ということになります。それゆえにどうすればよいのか、苦慮する患者さんが多いといえます。
この副作用が起きやすいのは、タルセバ、アービタックス、ベクティビックスなどの分子標的薬です。
専門的にいえば、これらはERGR(上皮成長因子受容体)を標的とした分子標的薬です。この「ERGR」はがん細胞の表面にたくさん存在します。そしてがん細胞が増殖するときに活発になります。このERGRの働きをブロックするのがタルセバ、アービタックス、ベックティビックスなど抗ERGR標的薬の狙いなのです。
ところが、ERGRは皮膚や、毛、爪、汗腺、皮脂腺などの組織にも存在しているのです。皮膚や爪の代謝に貢献しています。がん細胞に効くということは、これらの組織にも効いてしまい、ダメージを与えてしまうのです。
従来、がん治療で使われてきた抗がん剤を使ったときは、薬疹やアレルギーにより手足の皮膚に異常がでました。これは「この薬は合わない」というサインでした。ところが上記の分子標的薬の副作用は違います。「この薬は効いている」というサインなので、止めればよいということではなく、なんとか手足症候群だけケアして治療を続けたい、と医師も患者も考えます。
症状をコントロールできれば、投薬期間を長くして抗腫瘍効果を最大に引き出すことが可能になり、がん治療の成功にもつながってきます。
分子標的薬による手足症候群は、足や手が赤くなって角質化(硬くなって)きます。そのとき小さい石を踏んだり、ガビョウを踏んでいるのと同じような感じになり、強い痛みを感じます。
このような状態になると、外から手当をしても気休め程度にしかなりません。そのため対策はおのずと「予防」「ダメージの事前ケア」になります。
分子標的薬の投与を開始する前から肌のケアをしっかりやっておけば、症状が出たとしても重篤な状態にならずに済むことがあります。
基本的には低刺激の保湿クリームや尿素軟膏を使います。症状が出ていないうちから、軽くこのようなクリームを使っておき、皮膚を保護します。また、皮膚の状態は食生活にも左右されます。ビタミン、ミネラル類をしっかり摂れる食事を行い、肌荒れ、皮膚荒れがでないように注意をしておくことが重要です。
副作用が起きてしまったら、ステロイドの塗り薬を使って炎症を抑えます。それでも症状が悪化する場合や、患者が耐えきれない、という状態になれば服薬を中断して回復する期間を設けることになります。
以上、手足症候群についての解説でした。