肺がんのタイプの1つである「非小細胞肺がん」。
このタイプのがんに対しては、イレッサ(2002年承認)、タルセバ(2007年承認)などの比較的新しい分子標的薬が治療の中心になってきています。ただし、これらの薬が使えるのは「EGFR遺伝子変異陽性」の患者さんが対象です。(詳しい情報はこちら)
いっぽう、新たに肺腺がんがんの特徴として発見されたのが「ALK遺伝子変異」です。
これは2007年に発見され、2012年にはこのALK変異を標的とした新薬「ザーコリ」が承認され医療現場で利用されています。
簡単に仕組みを説明すると、ALKとは細胞の増殖に関係する酵素の1つです。ALKで異常が起きたときそれは「ALK融合遺伝子」と呼ばれます。この状態(ALK遺伝子変異)が起きると肺がんがどんどん増殖していく原因となります。
ALK遺伝子変異は、肺腺がんのおよそ5%の方に起きます。特にタバゴを吸わない若い人に多くみられるのが特徴です。変異する原因は分かっていませんが、がん細胞を活性化してしまう遺伝子異常であることは確かです。喫煙と縁がないのに若いうちに肺腺がんを発症してしまった人は、この遺伝子変異を疑うべきだといえます。
分子標的薬「ザーコリ」はALK融合遺伝子を阻害することでがんの増殖を止め、腫瘍を小さくさせる効果があります。奏効率は高くおよそ60~70%です。初回治療(化学療法の第一選択)としても使われますし、抗がん剤終了後の二次治療としても使われています。
このザーコリに続き、2014年の9月には新薬「アレセンサ」が承認されました。
アレセンサの臨床試験では、化学療法(主に抗がん剤)による治療歴があり、ALK阻害剤による治療歴のない(ザーコリを使っていない)ALK変異陽性の非小細胞肺がんの患者さんにおいて、アレセンサは高い奏効率を示しました。1年間、無増悪に生存している確率(がんが悪化せず生存している期間。PFS率)は83%という高いデータが得られました。また、脳転移に対する効果も長く続くことが明らかになっています。
脳転移に関して、14例の患者さんを対象にした試験では、9例で脳病変が消失し、全身を含めて増悪が12か月を超えても見られない、という結果でした。他の5例も増悪が認められず、現状維持という結果になりました。脳転移に対してはEGFR遺伝子変異に対するイレッサやタルセバでも一定の効果がありますが、アレセンサは効果が高く、持続性があるといえます。
もともと、対象となる患者数が少ないため、さらにデータを蓄積する必要はありますが、現時点では第一世代のALK阻害薬のザーコリよりも、明らかに効果が長く続き、副作用も軽度だと医療関係者の中では評価されているのです。
■ALK遺伝子変異を調べる検査について
肺腺がん、非小細胞肺がんと診断されたら、必ずEGFRとALK遺伝子の検査を受けるべきだといえます。現時点ではEGFRの検査をしたあとにALKを調べるという順序で実施するので時間がかかるのが難点です。しかし同時にすべての遺伝子変異を調べようという研究も進んでいるので、近い将来は短時間で複数の遺伝子検査が完了するようになるはずです。
以上、ザーコリとアレセンサについての解説でした。
私がサポートしている患者さんでもザーコリなどの分子標的薬を使っている方は多くいます。従来の抗がん剤に比べると効果を発揮しやすく、副作用は少ないですが、それでも「がんを治す薬」ではありません。
「どのようにしてがんと闘うのか」については総合的に考えなくてはなりません。