甲状腺がんと診断がつき、がんの広がり状態などが十分に把握できると治療法の選択に入ります。甲状腺がんの治療には「手術」「甲状腺ホルモン療法」「アイソトープ治療」「化学療法」「放射線療法」などが行われています。
甲状腺がんの中の乳頭がん、濾胞がん、髄様がんの治療は手術が基本とされています。がんを含めて甲状腺を切除すると共に、周囲のリンパ節も切除する手術が一般的です。
甲状腺の手術はがんの大きさによって切除範囲が変わります。甲状腺の左右どちらかを切除する「葉切除」、3分の2を切除する「亜全摘」、そして、甲状腺をすべて切除する「全摘」があります。
40歳以下の男性、50歳以下の女性で乳頭がん、濾胞がんの場合、性質の良い(悪性度の低い)がんのケースが多いので、そのときは体にダメージの少ない「小切開甲状腺切除術」が選択されるのが一般的です。
小切開甲状腺切除術は首のキズはわずか3センチ程度で済みます。一般的に行われている手術の3分の1程度の傷の大きさです。手術による剥離面積が少ないため、手術後の痛み、ピリピリとした不快感は著しく減少します。さらに、退院後の首の違和感、張った感じ、硬くなった感じ、肩こりなども最小限で抑えられます。
ですが進行したがんとなると小切開では対応できません。甲状腺全摘、拡大頸部リンパ節郭清(切除)など、大きな切除範囲をともなう手術を行うことになります。こうなると手術による合併症も起こる可能性が高まります。
たとえば声帯を動かす反回神経を傷つけると、「しわがれ声」と「水を誤飲してむせる」症状を起こすことになります。ただし傷であれば普通は数か月で改善します。しかし、反回神経を切断せざるを得ないと、それらの症状がずっと続くことになります。
加えて、甲状腺の裏側にある副甲状腺を共に摘出すると、血液中のカルシウムが減少します。すると、唇や指先がしびれたり、こわばったりする症状がでます。その場合は、カルシウム製剤、ビタミンDを永続的に内服することになります。
なお、手術以外の治療法は以下のとおりです。
甲状腺ホルモン療法
甲状腺がんの手術は、甲状腺を2分の1、3分の2、すべてを切除するという形があります。切除後に甲状腺ホルモン薬を服用するのがホルモン療法です。
この治療の目的は2つあります。第1は甲状腺ホルモンが少なくなると、もっと出しなさいと、脳から甲状腺刺激ホルモン(TSH)がより多く分泌されます。それが甲状腺がんの細胞の増殖を促進させるという考え方があります。
それを防ぐために甲状腺ホルモン薬を服用するのです。"TSH甲状腺刺激ホルモン抑制療法"という形です。これは葉切除(2分の1切除)を行った場合が対象です。
第2は甲状腺を亜全摘(3分の2を切除)、全摘した場合です。このときは甲状腺ホルモンが絶対的に不足するので"甲状腺ホルモン補充療法"という形でホルモンを補充します。
アイソトープ治療
甲状腺がんの中の乳頭がん、濾胞がんが肺や骨に転移したときに行うのがアイソトープ治療です。甲状腺全摘後に放射性ヨ-ドのカプセルを飲みます。すると放射性ヨードががん細胞に取り込まれて、放射線を出してがん細胞を攻撃する、という仕組みです。
化学療法
甲状腺がんで抗がん剤を使った化学療法が行われているのは、未分化がんと悪性リンパ腫だけです。しかし、未分化がんでは効果がそれほどではないのが現状です。
放射線療法
未分化がんと悪性リンパ腫に対しては放射線療法も用いられています。これは乳頭がんや濾胞がんが進行した場合にも行われます。悪性リンパ腫には抗がん剤も効きますが、放射線療法もかなり効果があります。ただ未分化がんにはなかなか効果がないのが現状です。
しかし、悪性リンパ腫、未分化がんはまれながん。甲状腺がんの95%を占める乳頭がんと濾胞がんは予後は悪くないので落ち着いて治療法を選択することが大切です。
以上、甲状腺がんについての解説でした。