転移のない腎臓がんの治療の基本は手術になります。医療機関が手術をするとき、がん細胞をすべて切除することを目的とするので、以前は「根治的腎摘除」といって、腎臓を周囲の脂肪を含めてすべて切除してしまうのが標準治療でした。
ところが、今は4センチ以下のがんの場合は、がん部分と周囲の正常部分を少し含めて切除する「部分切除」が主体となっています。
それは、がんが4センチ以下であれば腎臓を全摘しても部分切除をしても再発率に変わりのないことが統計的に裏付けられたからです。また、今ではがんが4センチを超えていても、部分切除を行うことが稀ではなくなりました。これはできる限り腎機能を残すことに主眼がおかれるようになったことを表しています。
たとえば、腎機能が悪くて腎不全状態になると心血管疾患が起こりやすいなど、長生きするには良い腎機能を持つことがキーポイントともいえます。
腎機能が良ければ、2つの腎臓のうち1つを取っても大きな問題はないですが、高齢社会の中で腎機能が悪い患者、糖尿病や高血圧などで今後腎機能の悪化のリスクがある患者、すでに腎臓が1つしかない患者なども多く、腎部分切除手術の進歩も相まってできる限り腎臓の機能を残す、という時代にシフトしてきたといえます。
ただし、どんな場合でも部分切除が行えるものではありません。腎臓は被膜に覆われています。がんがその被膜をこえて外へ大きく広がってしまうと、もはや部分切除の範囲ではなく。腎全摘出手術となります。
この場合はがんのできた側の腎臓をその周囲を包む脂肪とともに切除することになります。手術の方法としては3種類あります。それは「開放手術」「腹腔鏡手術」「腹腔鏡下小切開手術(ミニマム創内視鏡下手術)」です。いずれの手術も腎全摘出に対しても部分切除に対しても行われています。
開放手術
この中で、最も長い歴史を持つ手術は、開放手術です。ただし、腹部を20~30センチ程度切開して行うため、患者の体に対しては負担が大きいといえます.入院日数も長くなり、手術後の傷の痛みも続きます。それでも最も多くの医療機関で行われているのが事実です。
特に部分切除の場合は手術が難しくなるため、確実かつ短時間で行えるということで開放手術を行っている医療施設がまだまだ多いようです。ただ、そういうところでも、最近は全摘出の場合では、腹腔鏡手術などの体にダメージの少ない手術を行うところが増えてきました。
腹腔鏡手術
腹腔鏡手術では腹部に7~10ミリ程度の刺しキズを3~4か所に開けます。ここから内視鏡や手術器具を挿入して患部を治療する方法です。手術器具を挿入する前に、腹部に炭酸ガスを注入して膨らませ、腹部をドーム状にして手術を行うスペースを確保します。
内視鏡からの画像はモニターに拡大してうつし出され、それを術者のみならず、手術チーム全員が見ながら手術が進行していきます。最後に、切除した臓器を取り出すために6センチ程度の切開を行います。
この手術法のメリットは、ダメージが少ないことです。手術翌日に患者が動くことができます。いっぽうデメリットは、炭酸ガスを注入して行うことで呼吸や血液の巡りに負担をかけ、さまざまなリスクも生じることです。特に呼吸循環系の合併症を持つ高齢者では注意が必要です。重篤なリスクとしては、肺の血管に炭酸ガスが詰まるガス塞栓や肺梗塞が挙げられます。
また、モニター画面では深さも分かりにくく、より手術者の習熟が必要といえます。そのため、腎臓を全摘する根治的腎摘除ではよく行われていますが、繊細で迅速な操作が必要な腎臓がんの部分切除ではそれほど行われていません。腹腔鏡手術は術者の技量に大きな差ができやすい手術だということを認識しなければなりません。
腹腔鏡下小切開手術
腹腔鏡下小切開手術は、腎臓のある腰部に3~5センチ程度の切開を行います。切開するのはこの1か所のみです。腹腔鏡手術では、最後に切除した臓器を取り出すために切開を行いますが、腹腔鏡下小切開手術では取り出す切開を先に行って、そこを手術にも利用します。
その3~5センチ程度の切開口から内視鏡や手術器具を挿入し、拡大された画像をモニターで見ると共に、肉眼でも患部を見ることができ、拡大視と立体視を併用しながら手術を行います。
つまり、腹腔鏡手術は手術器具を挿入する3、4か所の刺しキズが必要となりますが、腹腔鏡下小切開手術はその刺し傷が不要です。さらに、炭駿ガスで腹部を膨らませないので、まれにある合併症(ガス塞栓など)のリスクがありません。
腹腔鏡下小切開手術のその他のメリットは「腹膜にキズをつけないので、術後に内臓の癒着のリスクがない」「腎臓がんになる以前に腹部の開放手術を行った患者でも受けられる」ということが挙げられます。これらのメリットは、腹腔鏡下小切開手術が腹膜外で手術を行うことに起因しています。
腎臓はもともと腹膜の外にある臓器です。その腎臓の手術を腹膜外で行うため、腹膜内の臓器の癒着があっても手術に関係しませんし、術後の腸閉塞のリスクも解消できる、というわけです。
以上、腎臓がんについての解説でした。