がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事では肺がんで使われるオプジーボについて解説します。
免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」が、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」において標準治療で使えるようになりました。健康保険も適用されます。
一部では夢の薬のような表現がされていますが、実際にどのくらいの効果が期待できるのでしょうか。また「あまりない」とされている副作用についてもどのくらいの確率でどんな症状が出るのでしょうか。
臨床試験での効果や薬価などを含めて、肺がん治療でオプジーボを使う場合の留意点について解説したいと思います。
オプジーボとはどんな作用のある薬か
医療機関におけるがん治療で使われる薬は、これまで「抗がん剤」「分子標的薬」「ホルモン薬」が主な種類でした。
抗がん剤はその毒性によってがん細胞を攻撃しますが、正常細胞にも大きなダメージを与えることはよく知られています。
分子標的薬は遺伝子レベルでがん細胞の動き(増殖行為など)を阻害する薬で、一般に抗がん剤より効果が高く、副作用が軽微なタイプです。しかし、分子標的薬は使える人と使えない人が明確に分かれます。
ホルモン剤は乳がんや前立腺がんなど、ホルモンに関与するタイプのがんでしか使用できません。
オプジーボは上記のどれの種類にも属さない「免疫チェックポイント阻害剤」というタイプの薬です。
今までにない、新しい作用を持つ薬として大きな注目を集めています。
免疫チェックポイント阻害剤の作用
免疫システムは体内に入り込んだ異物を攻撃し、死滅させたり体外に排除させたりする機能を持ちます。
この機能をがん治療に活かせないか、ということで様々な「免疫療法」が開発されてきましたが、思惑通りの効果を上げることができませんでした。
そのため免疫療法は標準治療(保険内治療)として、免疫療法は承認されていません。免疫システムをがん治療に活かすのはとても困難な課題だったのです。
特に免疫細胞を活性化してがん細胞への攻撃性を高めようとしたとき、自己の細胞を攻撃しすぎないようにコントロールする反応=免疫チェックポイントが働くことは大きな障壁でした。
免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボは、がん細胞が持つ免疫チェックポイントの働きを阻害することで、免疫システムががん細胞を攻撃しやすくするようにする薬です。
オプジーボは日本で開発され、2014年にメラノーマ向けの薬として使用が承認されました。2015年12月に切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに適応になっています。
臨床試験(治験)結果からみるオプジーボの効果
薬の使用が承認されるためには、臨床試験(治験)で薬の効果が認められる必要があります。オプジーボは海外で以下の2つの試験を行っています。その結果をみることでどのくらいの効果があるのか分かります。
1.肺がんのうち、扁平上皮がんを対象とした試験
標準治療の抗がん剤「タキソテール」と比較して死亡リスクが41%低減し、全生存期間が延長した。
1年生存率はオプジーボを使ったグループでは42%、タキソテールを使ったグループは24%。全生存期間の中央値はオプジーボが9.2か月、タキソテールが6.0か月。
奏効率(薬が少しでも効いたと判定された割合)はオプジーボが20%。タキソテールが9%という結果であった。
2.肺がんのうち、非扁平上皮がんを対象とした試験
タキソテールと比較して死亡リスクが27%低減した。
1年生存率はオプジーボで51%、タキソテールで39%。全生存期間中央値はオプジーボが12.2か月、タキソテールが9.4か月。
奏効率はオプジーボが19%、タキソテールが12%という結果であった。
いつ、どのようにオプジーボを使うか
上記のような試験結果に基づき「切除不能な進行・再発非小細胞肺がん」に対して適応となったわけですが、他にも様々な薬があるなかで、どのような優先順位でオプジーボは使われるのでしょうか。
試験結果で示されたのはあくまで「何らかの初回治療(これまでの標準的な治療)を受けたあとに進行した非小細胞肺がんの2次治療薬として、タキソテールよりは効果があった」ということです。
まずはこの結果に基づいて、この条件のもとで医療現場で使われるのが基本となります。
現在、非小細胞肺がんのガイドラインで定められている初回治療は「シスプラチン+タキソテール」などの抗がん剤の併用療法です。
この「シスプラチン+タキソテール」の奏効率は30%以上あります。また「パラプラチン+タキソテール+アバスチン」という方法では60%になります。
オプジーボの奏効率は20%程度のため、「先にオプジーボを使うべき根拠」は薄いといえます。
オプジーボの副作用とは
通常の抗がん剤のように、毒性を用いて細胞を殺すタイプの薬ではないので比較的副作用は軽微です。
具体的にどのような副作用が、どのくらいの確率で起きるかは以下の表のとおりです。
【オプジーボの副作用(症状)と発生確率】
副作用(症状) | すべて(%) | 重篤(%) |
すべての副作用 | 58~69 | 7~10 |
好中球減少 | 1 | 0 |
発熱性好中球減少 | 0 | 0 |
貧血 | 2 | 0 |
疲労 | 16 | 1 |
食欲不振 | 10~11 | 0~1 |
発熱 | 5~12 | 0 |
悪心 | 9~12 | 0~1 |
下痢 | 8 | 0~1 |
皮膚湿疹 | 4~13 | 0~1 |
肝機能異常 | 2~3 | 0~1 |
注入にともなう反応 | 1~3 | 0 |
甲状腺機能低下 | 4~7 | 0 |
肺臓炎 | 3~5 | 1 |
上記は臨床試験時の結果ですので、全身状態が悪い人や自己免疫疾患のある人は対象から外れています。
実際の医療現場では様々な体調、体質をもった人に使うため、想定しないような副作用が起きる可能性もあります。
特に気をつける副作用は肺臓炎などの肺障害です。日本人は薬剤性の肺障害を起こしやすい人種であるため注意が必要です。
オプジーボの費用(薬価)
オプジーボは2週間に一度、点滴で投与するのが一般的な方法ですが、一回あたりの薬価はおよそ130万円です。1か月換算で260万円にもなります。
もちろん保険も効き、高額医療の対象となるため、患者の実際の負担は収入に応じて25,000円~140,000円程度になりますが、それでも軽い負担ではありません。進行肺がんが対象であるため、1回~2回投与して終わりではなく、継続的な投与が前提になります。
奏効率もそう高いわけではないので、夢の薬と飛びつくのではなく、がんの進行状態や他の薬の使用との兼ね合いもみながら、タイミングを計らって慎重に使うべきだといえます。
以上、肺がんの新しい薬「オプジーボ(ニボルマブ)」についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。