こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療において、2023年12月に大きな転換点が訪れました。早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法(RFA)が保険適用となり、「切らない乳がん治療」という新しい選択肢が正式に認められたのです。
従来、乳がんの治療といえば手術による切除が基本でしたが、乳房の変形や傷痕が残ることは患者さんにとって大きな心理的負担となっていました。ラジオ波焼灼療法は、そうした悩みに応える治療法として注目を集めています。
乳がんのラジオ波焼灼療法とは
ラジオ波焼灼療法は、AMラジオと同じ周波数帯(約472kHz)の電磁波を利用してがん組織を焼き切る治療法です。肝臓がんでは2004年から保険適用されており、すでに20年以上の実績があります。
治療の仕組みは次のとおりです。全身麻酔下で、超音波画像を見ながら乳房の皮膚から直径1~2mmの細い電極針をがんの中心部に刺します。そこからラジオ波の電流を流すと、針の周囲に熱が発生し、約70度以上の温度でがん細胞を死滅させます。焼灼にかかる時間は10分程度で、手術全体でも1時間から1時間半ほどです。
がん細胞は正常細胞よりも熱に弱く、42度以上で死滅しやすい性質があります。ラジオ波による加熱では70~100度の高温に達するため、確実にがん組織を破壊できます。治療後、焼灼された組織は数か月かけて体内に吸収されていきますが、一部が硬結(しこり)として残る場合もあります。
保険適用までの経緯と臨床試験の成績
乳がんに対するラジオ波焼灼療法の研究は、1999年にアメリカやイタリアで始まり、日本では2003年から導入されました。しかし、当初は明確な基準がないまま一部の医療機関で実施され、適応外の症例に無理に治療を行い再発するケースが多発するという問題が起きました。
こうした事態を受けて、2013年8月から国立がん研究センター中央病院を中心に、厳格な基準のもとで臨床試験が開始されました。これが「早期乳癌へのラジオ波熱焼灼療法の有効性の検証と標準化に向けた多施設共同研究(RAFAELO試験)」です。
RAFAELO試験には全国9施設で372名の患者さんが参加し、腫瘍の大きさが1.5cm以下、リンパ節転移と遠隔転移がない限局性早期乳がんを対象に、ラジオ波焼灼療法の安全性と有効性が評価されました。
この試験の5年間の短期成績では、乳房内無再発生存割合が98.6%、全生存率が99.2%という良好な結果が得られ、標準治療である乳房部分切除術に劣らない成績が示されました。この成果により、2023年7月7日に医療機器として薬事承認を取得し、同年12月1日から保険適用となったのです。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
ラジオ波焼灼療法を受けられる条件
ラジオ波焼灼療法は、すべての乳がん患者さんが受けられるわけではありません。日本乳癌学会が定める適正使用指針では、以下の条件を満たす必要があります。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 腫瘍の大きさ | 造影MRI検査、超音波検査など全ての画像検査で1.5cm以下の単発病変 |
| 組織型 | 針生検で組織学的に通常型の原発性乳管がんと証明されている |
| リンパ節転移 | 触診および画像診断で腋窩リンパ節転移を認めない |
| 遠隔転移 | 遠隔転移を認めない |
| 皮膚浸潤 | 皮膚浸潤や皮膚所見(へこみなど)が認められない |
| 前治療 | 化学療法・ホルモン療法・放射線治療などの前治療がない |
| 年齢 | 20歳以上 |
また、治療後5年間は定期的な通院と検査が必要です。造影MRI検査、超音波検査、針生検による病理組織検査を受け、がんが完全に焼き切れているか、再発していないかを確認します。万が一、焼灼不全や再発が見つかった場合は、外科的切除による追加手術が必要となります。
治療の流れと入院期間
ラジオ波焼灼療法の実際の治療手順は次のようになります。
まず全身麻酔をかけた後、通常の乳がん手術と同様にセンチネルリンパ節生検を行います。これは、わきの下のリンパ節のうち、最初にがん細胞が転移すると考えられるリンパ節を切除して調べる検査です。もしここにがん細胞が見つかった場合は、リンパ節郭清(リンパ節を広範囲に切除する手術)を追加します。
センチネルリンパ節に転移がなければ、続いてラジオ波焼灼療法を行います。超音波画像を確認しながら、電極針を腫瘍の中心部に正確に刺入します。針は腫瘍の真上ではなく、やや離れた位置から斜めに刺していくのが技術的なポイントです。
針がきちんと腫瘍に到達したことを確認したら、ラジオ波の通電を開始します。がん細胞が壊死する70度以上まで温度が上昇したことを確認して針を抜きます。治療中と治療後は、乳房の皮膚に熱傷(やけど)が起きないよう、冷却パックで皮膚を覆います。また、腫瘍と皮膚や胸の筋肉との距離が近い場合は、5%ブドウ糖液を注入して熱傷を予防します。
入院期間は施設によって異なりますが、標準的には手術前日に入院し、術後2~3日目に退院する3泊4日から4泊5日程度です。通常の乳房切除術に比べて入院期間が短く、社会復帰が早いのが特徴です。
術後の放射線治療と経過観察
ラジオ波焼灼療法を受けた患者さんは、術後3~4週間後に放射線治療を受ける必要があります。これは乳房温存療法と同じ考え方で、残存乳房への放射線照射により乳房内再発を減らすためです。放射線治療は通常、複数回の通院で行われます。
放射線治療終了後、約3~4か月経過した時点で、造影MRI検査と超音波検査を行い、さらに吸引式針生検で焼灼部位から組織を採取します。顕微鏡レベルでがん細胞が完全に死滅しているかを確認するためです。
もしがん細胞の残存が認められた場合(約2.6~4%の確率)は、追加で外科的切除(乳房温存術または乳房全摘術)を受けることになります。このため、ラジオ波焼灼療法は「切らない治療」ではありますが、最終的に切除手術が必要になる可能性があることを理解しておく必要があります。
治療にかかる費用
2023年12月の保険適用により、ラジオ波焼灼療法は健康保険の対象となりました。患者さんの自己負担は、保険の負担割合によって異なります。
| 負担割合 | 概算費用(入院費等を含む) |
|---|---|
| 3割負担 | 約15万円~16万円 |
| 1割負担 | 約5万円~6万円 |
なお、RFA治療本体の技術料は3割負担で約4万5千円です。これに入院費、麻酔料、各種検査費用などが加算されます。施設によって若干の差がありますが、先進医療だった時代の自費負担(約13万円)に比べると、保険適用により患者さんの経済的負担は軽減されています。
高額療養費制度の適用も受けられますので、所得に応じた自己負担限度額を超えた分は払い戻しを受けることができます。
ラジオ波焼灼療法のメリット
ラジオ波焼灼療法には、従来の手術療法と比較して以下のようなメリットがあります。
まず、整容性(見た目の美しさ)が保たれることが最大の利点です。乳房にメスを入れないため、目立つ傷痕が残りません。針を刺した跡に絆創膏を貼るだけで治療が終わるため、乳房の形状がほぼ変わらず、患者さんの心理的負担が少なくなります。
次に、低侵襲であることです。出血がほとんどなく、術後の痛みも軽度です。このため入院期間が短く、早期に日常生活や仕事に復帰できます。全身状態が良くない患者さんや高齢の患者さんでも、比較的安全に治療を受けることができます。
また、手術時間が短いことも利点です。準備から治療完了まで1時間から1時間半程度で終わるため、患者さんの身体的負担が軽減されます。
ラジオ波焼灼療法のデメリットと注意点
一方で、ラジオ波焼灼療法にはいくつかのデメリットや注意すべき点もあります。
最も重要なのは、長期的な治療成績のデータがまだ十分ではないことです。RAFAELO試験では5年間の短期成績しか得られておらず、10年、20年といった長期の再発率や生存率については、今後さらなるデータの蓄積が必要です。
また、焼灼したがん組織を切除しないため、病理検査で詳細な診断ができません。通常の手術では、切除した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、がんの性質や広がりを正確に把握できますが、ラジオ波焼灼療法ではこれができません。このため、治療前の画像診断と針生検による正確な診断が極めて重要になります。
さらに、合併症のリスクもあります。RAFAELO試験の安全性評価では、370名のうち43件の有害事象が報告されました。具体的には、術中の熱傷が7件、術後の硬結(しこり)が10件、皮下出血が3件、乳腺炎が1件、陥没乳頭が1件などです。重篤な合併症は少ないものの、こうしたリスクがあることを理解しておく必要があります。
また、焼灼不全のリスクもあります。ラジオ波の熱が腫瘍全体に十分行き渡らず、一部のがん細胞が残ってしまう可能性があり、その場合は追加で切除手術が必要になります。
実施できる医療機関と地域別の状況
ラジオ波焼灼療法は、日本乳癌学会が認定した施設でのみ実施できます。認定を受けるには、厳格な施設基準と術者要件を満たす必要があります。
施設基準には、実施診療科に常勤医師が2人以上いること、RFA術者要件を満たした常勤の乳腺外科専門医または乳腺専門医が配置されていること、病理部門が設置され専門医がいること、新専門医制度の基幹・連携施設であることなどが含まれます。
術者要件としては、乳腺外科専門医または乳腺専門医の経験年数が5年以上であること、日本乳癌学会が監修するeラーニングを受講していること、実施経験が3例以上あることなどが求められます。
2025年12月時点で、日本乳癌学会のホームページに認定施設のリストが公開されています。全国で数十施設が認定を受けており、今後も増加していく見込みです。
以下、検索で確認できた主な実施施設を地域別にまとめます。ただし、患者さんの受け入れ状況や研修の実施については各施設に直接お問い合わせください。
| 地域 | 都道府県 | 主な実施施設 |
|---|---|---|
| 北海道・東北 | 北海道 | 北海道がんセンター |
| 北海道・東北 | 山形県 | 山形大学医学部附属病院 |
| 関東 | 東京都 | 国立がん研究センター中央病院、都立駒込病院、三井記念病院など |
| 関東 | 神奈川県 | 横浜市立市民病院、湘南鎌倉総合病院など |
| 関東 | 千葉県 | 国立がん研究センター東病院、千葉県がんセンター |
| 関東 | 群馬県 | 群馬県立がんセンター |
| 中部 | 静岡県 | 静岡市立静岡病院など |
| 関西 | 京都府 | 京都大学医学部附属病院 |
| 関西 | 大阪府 | 大阪公立大学医学部附属病院、JCHO大阪病院 |
| 中国・四国 | 岡山県 | 岡山大学病院 |
| 中国・四国 | 広島県 | 広島市立広島市民病院 |
| 中国・四国 | 愛媛県 | 四国がんセンター |
| 九州 | 福岡県 | 久留米大学病院など |
地域によって実施施設の数に差があり、関東地域に多く集中している傾向があります。しかし、各地域の中核病院で徐々に導入が進んでおり、今後は地方でも治療を受けやすくなることが期待されます。
治療を検討する際のポイント
ラジオ波焼灼療法を検討する際には、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、この治療法は「標準治療の代替選択肢」であり、「標準治療そのもの」ではないということを理解する必要があります。早期乳がんの標準治療は依然として手術による切除であり、ラジオ波焼灼療法はあくまでもオプションの一つです。
次に、適応条件が厳しいことを認識しておくことです。腫瘍の大きさが1.5cm以下という条件は、実際には早期乳がん患者さんの一部にしか当てはまりません。また、転移がないことや、前治療を受けていないことなど、複数の条件を全て満たす必要があります。
また、治療後も長期にわたる経過観察が必須です。5年間は定期的な検査を受け続ける必要があり、その間に再発や焼灼不全が見つかれば、結局は切除手術を受けることになります。このため、「絶対に切りたくない」という理由だけでこの治療を選ぶのではなく、総合的に判断することが大切です。
治療を受ける施設の選択も重要です。日本乳癌学会の認定を受けた施設で、経験豊富な術者がいることを確認してください。また、万が一再発や焼灼不全が起きた場合に、適切な追加治療を受けられる体制が整っているかも確認しておくべきです。
今後の展望
乳がんに対するラジオ波焼灼療法は、保険適用されたばかりの新しい治療法です。今後、実施施設が増え、治療を受けられる患者さんが増えていくことが期待されます。
また、長期的なデータの蓄積により、10年、20年といった長期の治療成績が明らかになれば、より多くの患者さんが安心してこの治療を選択できるようになるでしょう。
さらに、技術の進歩により、適応範囲が広がる可能性もあります。現在は1.5cm以下という厳しい条件がありますが、将来的にはより大きな腫瘍にも対応できるようになるかもしれません。
ただし、どんなに技術が進歩しても、ラジオ波焼灼療法がすべての乳がん患者さんに適しているわけではありません。それぞれの患者さんの状況に応じて、最適な治療法を選択することが何より重要です。
乳がんと診断された患者さんは、まず主治医とよく相談し、自分の病状に合った治療法を検討しましょう。
参考文献・出典情報
1. 日本乳癌学会:ラジオ波焼灼療法(RFA)が早期乳がんにも適応拡大されました
2. 国立がん研究センター:早期乳がんに対するラジオ波焼灼療法による切らない治療が薬事承認・保険適用を取得
3. がん情報サイト「オンコロ」:ラジオ波焼灼療法、早期乳がんにおいて薬事承認・保険適用を取得
4. 日本乳癌学会:ラジオ波焼灼術(RFA)日本乳癌学会承認施設一覧
6. 京都大学医学部附属病院:早期乳がんを切らずに治療するラジオ波焼灼療法
7. がん+:早期乳がんに対する切らない治療「ラジオ波焼灼療法」が保険適用を取得
8. 東京新聞:早期乳がんを切除せず治療 「ラジオ波焼灼療法」保険適用
