
前立腺がん治療と勃起障害(ED)の関係
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの治療を受けた患者さんにとって、勃起障害(ED)は生活の質に関わる重要な問題です。前立腺全摘除術、放射線治療、ホルモン療法といった治療を行うと、程度の差はありますが勃起機能の低下が起こります。
前立腺がんの治療を受ける年代は70代後半が中心であり、治療前からすでに性生活を送っていない患者さんもいます。本人やパートナーが性生活の継続を希望しない場合、勃起障害の治療を行わないという選択肢もあります。
一方で、性機能の温存を重視する患者さんには、いくつかの治療選択肢が用意されています。主治医との相談のもと、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
前立腺がん治療でEDが起きる原因と理由
手術による勃起神経の損傷
前立腺全摘除術では、前立腺の両側を走る勃起神経が手術操作で影響を受けることがあります。勃起神経は前立腺の右側と左側のすぐ外側を走行しており、がんの進行度によっては両側の神経を切除しなければならないケースもあります。
神経温存手術が可能な場合、両側の勃起神経を残すことができれば術後の勃起機能がある程度保たれる可能性があります。片側のみの神経温存では、両側温存と比べて勃起能の保持率は低下します。神経非温存手術ではほとんどの患者さんで完全なEDが生じます。
近年はロボット支援下前立腺全摘除術(RARP)が主流となり、精密な手術が可能になったことで神経温存の成績は向上していますが、すべての患者さんで神経温存が可能というわけではありません。年齢や治療前の勃起機能も回復に影響し、個人差が生じます。
放射線治療による影響
放射線治療も勃起機能に影響を与えます。かつては二次元で広範囲に照射していたため前立腺周囲の組織ダメージが多かったのですが、現在は三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)など、勃起神経を避けて照射できるようになりました。
小線源療法では前立腺内にヨウ素125を用いた線源を挿入し、内側から照射します。放射線治療では手術に比べると性機能の低下はマイルドですが、徐々に低下していく傾向があります。手術と違い射精は保たれますが、ホルモン治療を併用することが多いため性欲が減退します。
ホルモン療法による影響
アンドロゲン遮断療法と呼ばれるホルモン療法は、手術や放射線治療の前後に補助療法として行う場合があります。男性ホルモンの分泌や働きを抑えることでがん細胞の増殖を抑えようとする治療法ですが、男性ホルモンには勃起を強くする役割もあるため、EDを生じることにつながります。
ホルモン治療を終了、中断、中止した後、男性ホルモン値は次第に回復していきますが、すぐには回復しません。通常は半年程度かかり、投与量や種類によっても回復時期は異なります。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
EDの診断と評価
治療を希望する場合は、主治医に相談することから始めます。まずは問診を行い、国際勃起機能スコア(IIEF-5)によって勃起の状態が詳しく調べられます。これは勃起機能を数値化して評価する標準的な質問票です。
治療前の性機能の状態、神経温存手術が行われたかどうか、年齢、併存疾患などを総合的に評価し、適切な治療法が選択されます。
PDE5阻害薬による治療
PDE5阻害薬の作用メカニズム
勃起障害の治療は、内服薬から始めるのが一般的です。男性が性的に興奮すると、サイクリックGMP(cGMP)という化学物質が陰茎に増えます。これが増えると、血管の平滑筋が緩んで海綿体に血液が流れ込み、勃起が起こる仕組みです。
射精が終わると、PDE5という酵素がサイクリックGMPを分解し、勃起状態が終わります。このPDE5の働きを阻害して、勃起を起こしたり維持したりするのがPDE5阻害薬です。
日本で承認されているPDE5阻害薬
日本では、以下の3種類のPDE5阻害薬が医療用医薬品として承認されています。
| 商品名 | 一般名 | 特徴 | 効果持続時間 |
|---|---|---|---|
| バイアグラ | シルデナフィル | 世界初のED治療薬。即効性があり勃起力が強い。食事の影響を受けやすい | 約4~5時間 |
| レビトラ | バルデナフィル | 即効性と勃起力に優れる。食事の影響を比較的受けにくい | 約5~6時間 |
| シアリス | タダラフィル | 長時間作用型で服用タイミングの自由度が高い。副作用が比較的少ない | 約24~36時間 |
これらの薬は医師の指示のもとで使用していれば、比較的安全な薬といえます。ジェネリック医薬品も多く流通しており、費用負担を軽減できる選択肢もあります。
前立腺がん治療後の効果
前立腺全摘除術で勃起神経を温存しなかった場合は効果が期待できませんが、温存した場合は約50~60%の患者さんに効果が見られます。放射線療法による勃起障害では約80%の患者さんに効果が見られるという報告があります。
神経が残っていればPDE5阻害薬が有効ですが、神経非温存では薬を使っても勃起機能は回復しません。術後1年程度は神経温存を行った場合、勃起機能が回復する可能性があるため、定期的に刺激を行うことが勧められています。
PDE5阻害薬を使用できないケース
PDE5阻害薬は血管を広げて血圧を下げる作用があります。狭心症や心筋梗塞の患者さんで、ニトログリセリンなどの硝酸薬、冠動脈拡張薬を使用している人が服用すると、血圧が下がりすぎて危険な場合があるので使用できません。
また、重度の肝機能障害、腎機能障害、低血圧の患者さんなども使用に注意が必要です。他の薬との相互作用もあるため、服用中の薬は必ず主治医に伝えましょう。
陰茎海綿体注射による治療
陰茎海綿体注射の概要
陰茎海綿体注射は、PDE5阻害薬が無効または使用できない患者さんに対する有効な治療選択肢です。陰茎海綿体に血管拡張薬のプロスタグランジンE1を自己注射する方法です。
性行為の直前に海綿体に直接注射することで、陰茎の血管を強制的に拡張し、血流を増加させることで勃起させるものです。通常は注射後5~15分ほどで勃起し、30分~1時間ほど持続します。
日本での承認状況
プロスタグランジンE1の陰茎海綿体注射は、日本人研究者が世界で初めて開発した治療法です。世界80カ国以上で承認されていますが、日本では2011年に「勃起障害の診断」としては承認されたものの、患者さん自身が自己注射する治療法としては未承認です。
そのため、現時点では自己責任で行う治療となり、保険適用もありません。日本性機能学会が厚生労働省に働きかけを続けており、各施設で自主研究が進められています。
有効性と満足度
陰茎海綿体注射の有効性は全ED患者さんの70%以上との報告があります。日本国内の医療機関での報告では、約72~77%の患者さんで十分な勃起が得られており、海外では82%の有効率が報告されています。
患者満足率は87~94%、パートナーの満足率も86~90%と共に高いとされています。前立腺がん術後EDの患者さんに対する有効性が特に高く、PDE5阻害薬が無効だった患者さんでも効果が期待できます。
副作用とリスク
一般的な報告では、以下の副作用があります。
| 副作用 | 発生頻度 |
|---|---|
| 局所の疼痛 | 約5~40% |
| 海綿体線維化 | 約0.5~1% |
| 持続勃起症(6時間以上) | 約0.5~6% |
特に注意が必要なのは持続勃起症です。4時間以上勃起が続く場合は、速やかに医療機関を受診して緊急処置を受ける必要があります。放置すると海綿体の線維化や陰茎の壊死につながる可能性があります。
専門医の管理のもとで適切な用量を使用すれば、比較的安全な治療法です。使用する薬剤は慢性動脈閉塞症などにも使われており、安全性・有効性については問題ありません。
費用
保険適用外のため全額自己負担となります。薬代は1回あたり5,000~10,000円程度が相場です。診察料や自己注射の指導費用が別途かかる場合もあります。費用は医療機関によって異なるため、事前に確認しましょう。
通販で購入した薬剤は安全性や効果が保証されず、不衛生な針による感染症のリスクもあるため、必ず信頼できる医療機関で処方を受けることが重要です。
陰茎プロステーシスによる治療
陰茎プロステーシスの種類
陰茎プロステーシスは、陰茎の中に手術で埋め込む人工的な勃起を実現させるシリコン製の器具です。PDE5阻害薬や陰茎海綿体注射が無効または適応外の場合の最終的な治療手段として選択されます。
主に2つのタイプがあります。
| タイプ | 特徴 | 使用方法 |
|---|---|---|
| ノンインフレータブルタイプ | 棒状で曲げ伸ばし式。常時半勃起状態 | 普段は曲げておき、性交時に伸ばす |
| インフレータブルタイプ | ポンプ式で水を移動させる。普段は弛緩状態 | 陰嚢内のポンプを押すと下腹部のタンクから水が流れ込み膨張 |
いずれもほぼ100%の成功率です。健康保険適用の対象外なので、手術費用も含め病院によく確認する必要があります。費用は一般的に100万円以上かかることが多く、高額な治療法です。
その他の治療選択肢
陰圧式勃起補助具
日本で医療機器として厚生労働省の使用認可がおりているものは、アメリカのベトコ社製の手動式ポンプ「ベトコ」、日本のツムラ社製の電動式ポンプ「リテント」、日本の三井ヘルス社製の手動式ポンプ「カンキ」の3種類です。
真空ポンプの原理を利用して陰茎に血液を集め、勃起状態を作り出す器具です。薬物治療が使えない患者さんや、注射に抵抗がある患者さんの選択肢となります。
陰茎リハビリテーション
術後早期から陰茎リハビリテーションを行うことで、勃起機能の回復を促す試みが行われています。海外では、術後のEDリハビリテーションとして、シアリスなどの長時間作用型ED薬を週に数回使用してEDを促すことを術後勧める場合があります。
ランダム化試験も行われていますが、現時点で十分なエビデンスはありません。ただし、実際に行うことで回復する患者さんもいます。手術の状況、がんの状況、もともとの性機能など個人差があるため評価が難しいところです。
治療法の選択と考え方
治療選択のステップ
一般的に、以下のような順序で治療を検討します。
1. PDE5阻害薬の内服治療(第一選択)
2. 陰圧式勃起補助具、陰茎海綿体注射(第二選択)
3. 陰茎プロステーシス移植手術(最終手段)
各治療法には長所と短所があり、患者さんの年齢、治療前の性機能、パートナーの有無、併存疾患、経済的な状況などを総合的に考慮して選択します。
患者さんとパートナーの意向
性機能の温存は前立腺がんを治療された後に引き続き生活の質を保つため、重要な要因の一つです。特に、術前にアクティブな性生活があり性機能を維持していた患者さんは、術後の性機能障害が気になるところです。
一方で、術後性機能が低下してもさほど気にならない患者さんもおり、性機能障害の捉え方は人それぞれです。本人とパートナーの双方の意向を確認し、必要に応じて治療を選択することが大切です。
主治医との相談の重要性
主治医や性機能専門医による術前の説明、術後のフォローが重要です。病院の選択としては、放射線治療から勃起神経温存ロボット手術まで、前立腺がんに対する様々な治療選択肢を用意しているところが良いでしょう。
同時に、治療後の性機能障害や尿失禁をフォローするための体制と豊富な治療選択肢があれば万全です。治療前によく相談し、自分の価値観や生活スタイルに合った選択をすることが大切です。
まとめとして
前立腺がんの治療後に勃起障害が生じるのは避けられない面がありますが、現在では複数の治療選択肢が用意されています。PDE5阻害薬、陰茎海綿体注射、陰茎プロステーシスなど、それぞれに特徴があり、患者さんの状況に応じて選択できます。
性機能の温存を重視するか、がんの根治を最優先するか、治療前に十分に検討し、主治医とよく相談することが重要です。治療後のQOLを考える上で、性機能は重要な要素の一つですが、個々の価値観によって重要度は異なります。
自分とパートナーにとって何が大切かを整理し、納得できる選択をすることが、治療後の満足度につながります。
参考文献・出典情報
- もっと知ってほしいがんと生活のこと - 勃起障害3-前立腺がんの治療による影響
- 帝京大学泌尿器科 - 前立腺がん治療後の性機能障害について
- 帝京大学泌尿器科 - 陰茎海綿体自己注射(ICI治療)
- 銀座リプロ外科 - 前立腺がん手術後のEDへの対策
- DIPEx-Japan - 前立腺がんの語り 手術と性機能障害
- イースト駅前クリニック - ED治療薬おすすめ比較
- フィットクリニック - ED治療薬5種類を徹底比較
- 東邦大学医療センター大森病院 - 前立腺癌術後EDに対する陰茎注射
- ユナイテッドクリニック - 海綿体への注射でEDは治せる?
- ED-info.net - 前立腺がんや膀胱がん治療の影響