
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
前立腺がんの治療を受けた後、排尿に関するトラブルに悩まされる患者さんは少なくありません。
治療前には想像していなかった尿失禁や頻尿、血尿などの症状が現れ、日常生活に大きな影響を与えることがあります。
この記事では、前立腺がん治療後に起こりうる排尿障害について、その原因から具体的な対処法、リハビリテーションの方法まで、2026年時点の最新情報を交えて詳しく解説します。
前立腺全摘除術後の排尿障害
前立腺全摘除術を受けた後、ほとんどの患者さんが経験するのが尿失禁や尿もれです。
これは腹圧性尿失禁と呼ばれるもので、咳やくしゃみ、重いものを持つなど、お腹に力が加わったときに尿が漏れてしまう症状です。
尿失禁が起こる仕組み
尿もれを防ぐ働きは、前立腺につながる膀胱頸部と、前立腺の下にある外尿道括約筋が担っています。
前立腺を摘出すると、膀胱頸部の働きが失われます。さらに手術中に外尿道括約筋も傷つくことがあるため、尿道の開閉をコントロールする機能が低下し、一時的に尿失禁や尿もれが避けられない状態になります。
手術中には尿道にカテーテルが挿入され、術後1週間ほどで抜去されます。カテーテルを抜いた直後から数日間は、体を起こした瞬間に尿が意思とは関係なく大量に漏れることがあります。
尿失禁の回復期間
尿失禁の改善時期には個人差があります。早ければ数日、平均して3カ月から6カ月、長い場合は1年程度で改善されるのが一般的です。
2026年時点の報告では、手術後6カ月の時点で約90%の患者さんが、パッド1枚以下の状態まで改善することが示されています。しかし、全体の約5%程度の患者さんでは、尿もれが長期間続く可能性があります。
重要なのは、術後6カ月までは尿失禁が急速に改善していきますが、6カ月を超えると改善のペースが緩やかになるという点です。術後半年経過しても症状が改善しない場合は、専門的な治療が必要になることがあります。
尿道狭窄による排尿困難
手術で縫い合わせた膀胱と尿道の吻合部が狭くなる尿道狭窄が起こると、排尿困難になることがあります。
この場合、尿道ブジーという棒状の器具を使って狭窄部を拡張したり、内視鏡を用いて狭窄部を切開する治療が行われます。
放射線療法後の排尿障害
放射線療法を受けた患者さんも、排尿トラブルが起こる可能性があります。放射線療法後の症状は、治療開始直後に現れる急性期症状と、治療後数カ月以降に現れる晩期症状に分けられます。
急性期の症状
治療を始めてすぐ(急性期)に出やすい症状として、頻尿や排尿痛があります。これらの症状は比較的頻度が高いものの、一過性であることが多く、治療終了後1~2カ月でほとんどの場合改善されます。
急性期症状には以下のようなものがあります:
・頻尿:昼間8回以上、および就寝中に2回以上排尿がある状態
・排尿痛:尿を出すときに痛みを感じる症状
・排尿時の不快感や残尿感
これらの症状に対しては、抗コリン薬やα遮断薬などの薬物療法が行われます。また、水分を十分に摂取することや、刺激物(アルコール、カフェイン、香辛料)を控えることも推奨されます。
晩期症状としての血尿
治療後半年以降(晩期)に発生する代表的な症状が血尿です。
放射線治療を受けると、血管の内側を覆っている細胞がダメージを受け、膀胱組織に血液が届きにくくなります。その結果、膀胱粘膜面に存在する血管が異常に拡張し、わずかな刺激でも出血しやすい状態になります。
前立腺がんに対する放射線療法では、比較的軽度の血尿を呈する出血性膀胱炎が約10%の患者さんに生じ、輸血や止血手術などを必要とする重症のものは1~2%程度に生じるとされています。
血尿が出る場合、放射線による膀胱炎や直腸炎になっている可能性が高く、症状が軽度であれば止血剤の投与で対処できますが、重篤な場合は以下のような治療が必要になることがあります:
・膀胱の安静を保つためのバルーンカテーテル挿入
・内視鏡を使った止血手術
・高気圧酸素療法による組織修復
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放射線療法後の排便トラブル
放射線療法の合併症として、排尿トラブルのほかに多いのが排便に関するトラブルです。
頻便(便意をもよおす回数が増える)、排便痛、血便が主な症状で、放射線の影響を受けて直腸の伸展が悪くなっているのが原因の1つです。
これらの症状に対しては、下剤や便秘薬など、その人に合った薬が処方されます。
前立腺全摘除術後の排尿トラブルへの対処法
軽度の尿失禁・尿もれの対処
軽度の尿失禁に対しては、以下のような治療法があります:
薬物療法:
・膀胱の収縮を抑える薬剤
・外尿道括約筋を締める作用がある塩酸クロンブテロール(商品名:スピロペント)
・過活動膀胱を抑える抗コリン薬
これらの薬物療法は、症状の改善を助ける補助的な役割を果たします。
中等度の尿失禁への対処
薬物療法で十分な効果が得られない場合、コラーゲン注入法という選択肢があります。
これは、膀胱の出口付近の尿道に内視鏡下でコラーゲンを注入する方法です。注入したコラーゲンによって尿道が狭くなり、尿失禁を防ぎます。この治療は健康保険が適用されますが、効果は限定的です。
1日に何枚も尿もれパッドが必要となる患者さんなどは、試してみる価値があるかもしれません。
重度の尿失禁への対処
体内に人工尿道括約筋を埋め込む手術が選択肢となります。
人工尿道括約筋埋め込み手術は、手術から1年以上経過し、これ以上の自然な改善が見込めないと判断された時点で実施されます。
手術は腰椎麻酔または全身麻酔下で60分から90分程度かかり、出血はほとんどありません。合成樹脂製の器具を陰のう内などに埋め込みます。器具はすべて体内に埋め込まれるため、外見上は全く分かりません。
尿道に巻かれたカフの中には生理食塩水が入っており、それが膨らむことで尿道を軽く締め付け、尿の漏れを防ぎます。尿意を感じたら、陰のう内に埋め込まれているコントロールポンプを3回程度つかむとカフが開いて尿道がゆるみ、腹圧で尿を出すことができます。
この治療後は、約50%の患者さんが全く漏れなくなり、残り50%の患者さんも1日1枚のパッドで済む程度まで改善します。患者さんの満足度が高い治療法として評価されています。
尿道狭窄による排尿困難への対処
術後に生じた尿道狭窄(手術で膀胱と尿道をつないだ吻合部が狭くなる)によって排尿困難が起こる場合、以下の治療が行われます:
・尿道ブジーという棒状の器具を使って狭窄部を拡張する
・内視鏡を用いて狭窄部を切開する
放射線療法後の排尿トラブルへの対処法
| 時期 | 症状 | 対処法 |
|---|---|---|
| 急性期 | 頻尿(昼間8回以上、夜間2回以上) | 抗コリン薬、α遮断薬の投与 水分摂取の調整 刺激物の制限 |
| 急性期 | 排尿痛 | 抗コリン薬、α遮断薬の投与 痛み止めの使用 |
| 晩期 | 血尿 | 軽度:止血剤の投与 中等度:バルーンカテーテル挿入 重度:内視鏡手術、高気圧酸素療法 |
骨盤底筋体操によるリハビリテーション
前立腺がん手術後の尿失禁改善において、最も重要かつ効果的なリハビリテーションが骨盤底筋体操(ケーゲル体操)です。
骨盤底筋は骨盤の底部にあり、膀胱や腸を支え、尿の流れを止める役割を果たしています。手術によって弱くなったこれらの筋肉を鍛えることで、尿失禁の改善が期待できます。
骨盤底筋体操の基本的な方法
骨盤底筋体操は、術後早期から正確に行うことが重要です。
基本姿勢:
以下のいずれかの姿勢で行います
・仰向けに寝て両膝を立てる
・椅子に座って少し前かがみになる
・立った状態で足を肩幅に開く
実施方法:
1. 尿道や肛門をきゅっと締める(排尿を止めるイメージ)
2. 5秒間その状態を保持する
3. 5秒間緩める
4. この動作を10回繰り返す
5. 1日4セット(朝・昼・夜・就寝前)を目標に行う
注意点:
・肛門を締めるだけでなく、尿道括約筋を意識する
・腹筋など他の筋肉に力を入れない
・肩の力を抜き、自然な呼吸を心がける
効果が現れるまで約3カ月程度かかるとされています。継続することが最も重要です。
補助的なリハビリテーション
近年では、骨盤底筋体操に加えて以下のような補助的な治療法も行われています:
磁気刺激装置による治療:
25分間、磁気刺激装置に座っているだけで骨盤底筋を鍛えることができる治療法です。週1~2回、6週間を1サイクルとして行います。
ピラティスを用いた指導:
専門のインストラクターによる指導のもと、より効果的な骨盤底筋トレーニングを行います。
日常生活での工夫
骨盤底筋体操と併せて、以下の生活習慣の改善も尿失禁の改善に役立ちます:
・適度な運動(ウォーキングなど)を行う
・排尿を途中で意図的に止める訓練をする(ただし頻繁には行わない)
・体重管理を適切に行う(肥満は腹圧を高め、尿失禁を悪化させる)
・便秘を予防する(便秘による腹圧上昇を避ける)
排尿トラブルへの日常的な対応
尿もれパッドの活用
回復期間中は、尿もれ用パッドや必要に応じて紙おむつを使用します。尿かぶれを予防するために、こまめにパッドを交換し、シャワーや入浴で陰部を清潔に保つことが大切です。
排尿日誌の記録
排尿の量とパッドに漏れた量、1日に使用したパッドの数を記録しておくことで、回復の経過を把握しやすくなります。また、医師への相談時にも有用な情報となります。
水分摂取の管理
放射線治療後で血尿がある場合は、水分を十分に摂取することが推奨されます(コップ6~8杯程度)。ただし、頻尿が問題になっている場合は、就寝2時間前からの水分摂取を控えめにするなど、タイミングを工夫します。
刺激物の制限
膀胱を刺激する以下のものは、症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です:
・アルコール類
・カフェイン飲料(コーヒー、紅茶、緑茶など)
・香辛料の多い食品
医師に相談すべきタイミング
以下のような場合は、早めに担当医に相談することが重要です:
・術後6カ月経過しても尿失禁が改善しない
・1日に尿もれパッドを4枚以上使用している
・血尿が続く、または血尿の量が増える
・排尿時の痛みが強い
・発熱を伴う血尿が出る
・尿が全く出ない
これらの症状は、追加の検査や治療が必要なサインである可能性があります。
治療技術の進歩
2026年現在、前立腺がん手術にはロボット支援手術(ダヴィンチ)が広く普及しています。
ロボット支援手術では、3D映像による鮮明な視野と手振れ補正機能により、従来の開腹手術と比べて尿道括約筋をより温存しやすくなっています。その結果、術後の尿失禁の頻度や程度が軽減される傾向にあります。
ただし、ロボット支援手術を用いても、術後の尿もれを完全にゼロにすることはできません。患者さん個々の括約筋機能の潜在能力も、術後の尿失禁に影響を与えると考えられています。
まとめ
前立腺がん治療後の排尿トラブルは、多くの患者さんが経験する症状です。
手術後の尿失禁は時間とともに改善することが多く、適切なリハビリテーションや治療によって症状の軽減が期待できます。放射線療法後の症状についても、急性期症状は一過性であることが多く、晩期症状についても適切な対応が可能です。
最も重要なのは、症状を我慢せず、医療チームと相談しながら適切な対処法を見つけていくことです。骨盤底筋体操などのリハビリテーションを継続し、必要に応じて薬物療法や外科的治療を検討することで、QOL(生活の質)の改善が可能です。
排尿トラブルは生活に大きな影響を与えますが、適切な対応によって改善できる症状です。担当医や看護師、理学療法士などの医療チームと協力しながら、前向きに治療に取り組んでいきましょう。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター東病院「ロボット手術で精度向上 術後QOLの改善も」
SURVIVORSHIP.JP「がん放射線治療の副作用と対策」